先日のこと、国立演芸場で、入船亭の「兄弟盃の会」という落語会が開催されると聞き、出かけてきた。表題のように扇遊・扇好・扇辰の三人の師匠と今秋真打に昇進する小辰の会だ。
落語通の方には今更だが、入船亭といってもなじみのない方も少なくないかと。一門としては大きなものではないが、故九代目扇橋の下、現在入船亭を名乗る噺家は13人とか。
個人的な評価であるが、九代目扇橋は正統派にして淡麗な芸風であり、マスコミに売れたわけではないが、落語界でも指折りの実力者だった。
昭和の大名人の圓生が高く評価していたことも有名だが、その弟子の代表格である扇遊・扇好・扇辰三名もいずれ劣らぬ正統派の実力者である。
ということで、個人的には入船亭に好感を持っていたのだが、さらに個人的に小辰をひいきしていることもあり、この会は必見と・・・
まずは前座を立てず、小辰が登場。始めたのが「鮑のし」、この日は九代目扇橋トリビュートという仕立ての様子。
悪くはないんだが、小辰の甚兵衛さんはちょっとまだ磨ききれていないかなと・・・もうちょいピンぼけな感じが出るといいんだが・・・と。
そして小辰の師匠の扇辰が登場。始めたのが「田能久」だ・・・結論から言うと、人物の表現、しぐさの巧みさ、ともに素晴らしいの一言で、こんなレベルの田能久はめったに聞けないと・・・特に暗闇の中で火を起こすシーンなどは火が起こるのが見えた。
さすがは扇辰だ・・・と思いつつ、ここで座談会に移行。
三名の真打と小辰が揃って、九代目の扇橋の思い出などで盛り上がる。特に小辰は、この秋に十代目扇橋を名乗るので、一躍時の人なわけで。
特に小辰にとってみれば、偉大な大師匠の名前を直弟子が継がず、孫弟子である自分に継がせてくれたことについて師匠たちへの感謝が深く感じられた。
その点でいえば、一門の惣領弟子である扇遊の懐の深さと、そうした名跡に固執しない人柄も感じさせてくれるのが素敵だ。
また小辰が、入船亭の師匠たちは「実は大変なことをいともサラリとこなすのがすごい」と。これを聞いた時は、「そうそうそこなんだよ・・・」と。
ということで中入り。再開後は扇好が「麻のれん」を始めた。これもクセのない、素直なものだが、しぐさもきれいだし、まことに教科書に載るような・・・
座談会の小辰の言葉がしみこんできた。そして最後が扇遊の登場だ。何を始めるかと思っていたら「藁人形」だった。
めったに聞けない噺で、生では数十年ぶりかと・・・というのも、面白い噺でもなく、人情噺というわけでもない。
やりようによっては後味が悪くなる・・・ネタバレしない程度に書くとどんな噺かわからないか・・・(汗)
この噺を、見事の一言にまとめるのはもったいないくらい見事に演じきった。登場人物が、それぞれ姿とともに見えてくるのだ。
同行者は小生よりはるかに落語通の方だったが、その方をして、こんな藁人形は初めてだというほど、素晴らしいものだった。
終わってみれば三師匠が熱演を通じて小辰にエールを送ってくれたのだろうなあと・・・改めて、入船亭は素晴らしいと・・・
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