かなぶち鍼灸調体堂の「先ずは只管打歩」なほぼ毎日譚

基盤を追求すると、ついに「歩く」迄遡ってきました。

筋神経系の連携とランニング障害の予防

2014年06月28日 | ケア/故障
…という、"Competitor Running"誌の記事です。

結論だけ簡単に述べると、「バランスディスク等を使い、不安定面でバランスをとる能力を高めるのが大切である」、です。

そうは言っても、その理論的背景も知ると、必要性がきちんと理解出来ます。

明日から、バランスディスク上で腰割りをしようっと。

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筋神経系の連携とランニング障害の予防の関係
by Thomas C. Michaud, D.C.


 過去30年間に渡り研究者達は、ランニング障害の発生の予想につながる特殊なリスク要因を模索してきた。ランニング障害の発生率は50%以上なので、そのようなリスク要因が分かれば、ランナーにとっては時間の節約と(トレーニングをセーブすることに伴う)欲求不満の解消に役立つ。

 これまで注目されていたのは、内足弓の高さ/身体の柔軟性/筋力/骨格の配列(O脚/X脚等)であった。しかし残念ながら、幾つかの解剖学的要因はランニング障害の発生と何らかの関連があることが分かったものの、その関連度は余り高く無かった。その一つがストレッチングである。確かに筋肉の柔軟性が低ければ、高強度のトレーニングで故障が発生する可能性は高くなるが、ストレッチングをすることとランニング障害の発生率との間には余り関係が無かった。

 最近発表された複数の研究結果では、筋神経系の連携を修正/改善することが、ランニング障害の予防において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。個々の筋肉の筋力が弱くとも、それらが適切に協働していれば、関節の動作はスムーズに減速することが可能となるので、筋肉の協働に影響を及ぼしている問題の特定→修正は極めて重要である。

 筋神経系の協調がおかしくなる最大の原因は、過去の受傷歴である。つまり、あるランニング障害が発生すると、その障害がさらに悪化する=受傷した柔組織がストレスに曝されるのを予防する為に、中枢神経系では筋肉の動員パターンを決定している神経回路が再編成される。これは運動神経のエングラム(脳内の神経組織の物理的/化学的変化)と称されているが、このエングラムで決定された神経回路は、元々のランニング障害が治癒した後も維持される。

 この好例が、足関節の捻挫である。足関節が捻挫すると、脚の外側の筋肉は着地する前に緊張が増大するようになる。これは、当該筋肉の緊張を増大させることで、着地時に踵部が安定し、受傷した靭帯が保護される為である。

 エングラムは有用な場合もあれば、結果として悪影響を及ぼす事になる場合もある。例えば、足関節の捻挫に伴って脚の外側の筋肉の緊張が増大することは、足関節の保護に有用であるが、一方で足関節の捻挫に伴い、臀部の筋肉群が不適切な形で動員されるようになる例も見られる。具体的には、足関節の捻挫に伴って下腿の安定性が低下し、その結果として臀部の筋肉群の活性が低下する。そしてその為に、膝関節を過剰に内側に捻る(=回内する)ような歩き方になる。この膝関節を過剰に内側に捻る歩き方は、ランニング障害の後遺症としてよく見られる。

 筆者が見た例を述べる。あるマラソン選手(五輪予選に出場するレベル)は大腿二頭筋(ハムストリング外側)を損傷していたが、その為に損傷している側の脚では踵着地から前足部着地に変えていた。また、損傷している側の脚の爪先は35°外側に回外していた。他人から指摘される迄彼女は、靴底の減り具合の違い(前足部:外側が削れている、踵部:内側が削れている)に気付いていなかった。このような走り方の変化は、受傷した側の脚で歩幅を短くするエングラムに伴うものである。つまり、歩幅を短くすることで、大腿二頭筋(ハムストリング)に掛かるストレスを低減させようとする狙いがあったと思われる(歩幅が大きくなると、脚を前に運ぶ大腿四頭筋の拮抗筋である大腿二頭筋に掛かるストレスが大きくなる)。また、爪先を回外させるのは、脚を前に運ぶ動作に於いてそのスピードをコントロールする役割を股関節外転筋群に代替させることで、ハムストリングに掛かるストレスを軽減させる為である。ここで問題になるのは、ハムストリングの故障が癒えた後に於いても、彼女はそのような「誤った」フォームで走り続けていた、ということである。

 誤ったエングラムを同定する目的で、筋肉群をスムースに協働させる能力を測定する試験方法が開発された。その中で最も有用なのは「Yバランステスト」である。

 Yバランステストの方法は以下の通り。
(1)床にテープを貼る。
(2)テープのスタート地点に片脚で立つ。その際、矢状面(身体を前後に貫く面)に対しテープが後方斜め45°に走向するように立つ。
(3)バランスを崩さないよう注意しながら、遊脚の爪先をテープに沿って出来る限り後方に移動させる。
(4)立脚と遊脚の爪先の距離を測定する。
(5)反対側の脚についても同様に(2)~(4)を行う。
(6)(4)を左右両方の脚について比較する。

 最近の研究結果によると、(4)が左右の脚で4cm以上差がある場合、ランニング障害の発生率は約2.5倍になる。

 左右の脚に於ける(4)の差を解消するには、バランスディスク等不安定面上でのシングルレッグ・スクワット&タッチ等によって膝関節/股関節周囲の筋肉を強化するのが最適である。

 また、バランスディスクを用いたスプリット・スクワットも有効である。バランス維持能力に不安がある間は、必要な時にすぐに何かに掴まれるようにしておくのが望ましい。このトレーニングを始めた当初、筋肉の連携に少しでも問題があれば、膝関節/股関節が前後に揺れることになる。前足部で踏むことになるバランスディスクは不安定なので、全身を安定させるには股関節外転筋/回旋筋群の筋力を高める必要があることはすぐに学習するだろう。経験を重ねるに連れ、動作はよりスムーズになり、ランニングフォームもより安定したものとなるだろう。

 ある研究では、不安定面上でバランスをとる経験を積む事で、無意識の内に動作が適正化されると共に、反射神経の修正はより長期間定着することが明らかとされている。

 誤ったランニングフォームを修正するには、特殊な手法を用い、誤った運動神経のエングラムを永久的に修正する必要もある。そう聞くとややこしいと考えられがちであるが、実際はそれ程でもない。鏡の前にあるトレッドミルで走り、自らのランニングフォームを見ながらおかしな点を修正すれば良い。

 修正が必要なランニングフォームの問題点で最も普遍的なのは、膝関節が過度に内側に入り込むことである。ランニング時には、膝関節が進行方向と並行して前後に動いているかどうかに注意を向けたい。特定の動作パターンを改善することに意識を集中することは、筋肉を適切に協働させるのを筋肉に教えこむことであると共に、動作パターンを神経系に記憶させることでもある。

 アスリートにおける膝関節の故障を予防する方法を評価した論文において、Tim Hewett博士は、バランス能力を高めるトレーニング/アジリティードリル/筋力トレーニング/視覚的フィードバックを組み合わせるのが最適だと指摘した。また彼は、知識/経験が豊富な知人にランニングフォームを見てもらい、問題点があれば早期に指摘してもらうことが、故障の発生率を下げるのに有効であると強調している。



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