神奈川絵美の「えみごのみ」

後ろの正面

さて、夏塩沢を着て麹町で一件取材をすませ、
帰りがけにサントリー美術館へ寄った。


お能と狂言の面や衣裳がたくさん展示されており、
加賀藩ゆかりのものなど、
今なお金糸がまぶしく光る豪華さにうっとり。

運良く、能楽師の方のミニレクチャーを聴くことができた。
春に国立能楽堂へ観に行った、観世流梅若会の
川口さんという方だ。
なんと数日前まで、アクロポリスで公演だったそう。

「もともと演劇はギリシャ発祥で、神に捧げるものだったそうです」
パルテノン神殿の前で繰り広げられたお能。
さぞ荘厳だったことだろう。
もっとも、
「能楽堂と違い180度客席なので、今どこを向いているのか
わからなくなりました」とも。

そういえば… と、川口さんが話すには、
能楽堂の背景にある松も、神が宿るとされており、
お能も奉納のような意味があったそう。
「でも、おかしいと思いませんか?」
だって松は私たちの“後ろ”にあるんです。
神にお尻を向けていることになりますよね…?

確かに、確かに。

「ところがですね」と川口さん。
「この背景は、お能の専門用語では【鏡板】と呼ばれているんです。」
つまり、
背景に描かれているように見える松は、実は鏡に映し出されたもので、
本当の松は、演者の前にある、という見立てなのだそうだ。

このことは、お能に詳しい方なら既にご存知なのかも知れないが、
レクチャー会場にいた100名ほどの人々のあちこちから
「ほぉー」「なるほど」という声が上がっていた。

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ここまでは前ふりのようなもので、メインテーマは「面(おもて)」について。
いくつか興味深い話を聞かせてくださったが、
とりわけ面白かったのは、「寿ぎと鎮魂」。
どのお能の演目にも共通しているコンセプトだそうだ。
「中心人物(たいてい霊)は、登場するときに思いを掲げた顔で
橋がかりを歩いてくる。
でも去るときには思いを遂げて穏やかな顔になる。
「だから、面は左右対称ではないんです。右側(向かって左)は苦しみの、
左側は安らぎの顔なんですよ」
そうなんだ…。

こういうことを少しでも知っていると、
またお能を観る楽しみが増える。
短い時間だったけれど、伝統芸能の伝統たる奥深さに、触れたような気がした。


※この記事はレクチャー時にとったメモをもとに書いています。
用語や言い回しが多少至らないかも知れません。もし明らかな間違いがあれば
ご指摘ください。

コメント一覧

神奈川絵美
はつきさんへ☆
こんにちは 私、知識はないのですがお能の形式美って結構好きなんですよねー。機会があれば、ぜひ

今回のレクチャーは面だけでしたので、衣裳についてもいろいろ聴きたいなあと思っています。
はつき
能は未見
http://blog.goo.ne.jp/asochan0930
歌舞伎好きですが、残念ながらお能は見たことないのですよね。でも能衣装は見るのは大好きです。単に「きれい」「凄い技術」というだけなんですが。ちゃんと能についてのレクチャーを聴くと、衣装への見方も変わるんでしょうね。
神奈川絵美
運動会の足袋さんへ☆
こんにちは そうそう、言ってみるものですよね。お能関係の団体としても、固定のお客さんはありがたい存在ですしね。

薪能、私まだ観たことがないのですが、とても幻想的な感じがして、いいなあって思っています。いつか観てみたいです。
10月からのご予定、楽しみですね
神奈川絵美
Medalogさんへ♪
こんにちは わぁMedalogさんも同じ展示に!(ブログまだ拝読しておらずごめんんなさい)なかなか充実していましたよねー。面もあれだけ並んでいると迫力です。
左右、私も対称に見えるんですけどね…。微妙な職人技なのでしょうか。
運動会の足袋
OH! 能!
http://blogs.yahoo.co.jp/tanbishugi
こんにちは♪

大昔、「能面」の本を買い込んで
ジィ~~~ッと眺めているのが好きでした!

でも、本物のお能の舞台を見たのは
昨秋の「薪能」が初めて。 (゜o゜)

野外だし、舞台は遠いし、
面をつけているから
声はくぐもっているし・・・でしたが、
それなりに楽しめましたヨ♪

地元に能楽堂があるのですが、
10月からはキモノを着て
セッセと通いたいと思っています!!

公演スケジュールを教えてもらえる
メルマガが無いのは不便だと訴えたら、
毎月郵送してもらえることになりました♪

何でも言ってみるモンですニャ。(笑)
Medalog
こんばんは!
私も日曜日の午前中にサントリー美術館へ行ったんです!
しかし同じ展示を見たのに、私のブログ記事は幼稚でお恥ずかしいですが(汗)…

>「だから、面は左右対称ではないんです。右側(向かって左)は苦しみの、
>左側は安らぎの顔なんですよ」
そうなんですか!面は完璧な左右対称なのだと思っていました。
美術館で能面を見るとき、これを知っていたらもっと違った見方が出来たかも~。次に見る機会があったら、参考にさせていただきますね。
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