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「収益認識に関する会計基準」等の公表(企業会計基準委員会)

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表

企業会計基準委員会は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」と企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」を、2018年3月30日付で公表しました。

基準が約30ページ(全161項)、適用指針が約150ページ(全189項+設例)というボリュームのものです。

概要は以下のとおり。

1.適用範囲(3項)

○顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用。

○ただし、金融商品に係る取引(金融商品会計基準の範囲のもの)、リース取引(リース会計基準の範囲のもの)、保険契約、同業他社との交換取引(その一部)、金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料、「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産の譲渡は除かれる。

2.基本となる原則

○次の1)から5)のステップを適用(17項)。

1) 顧客との契約を識別

2) 契約における履行義務を識別
(所定の要件を満たす場合には別個のものとして区分)

3) 取引価格を算定
(変動対価又は現金以外の対価の存在を考慮。金利相当分の影響及び顧客に支払われる対価について調整。)

4) 契約における履行義務に取引価格を配分
(独立販売価格の比率に基づき配分。独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積る。)

5) 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識

(「履行義務」とは、顧客との契約において、財又はサービスを顧客に移転する約束をいう。(正確には「用語の定義」7項参照))

○本会計基準の定めは、顧客との個々の契約を対象として適用するが、複数の特性の類似した契約又は履行義務から構成されるグループ全体を対象として適用することができる(個々の契約又は履行義務を対象として適用するのと比較して重要性のある差異を生じさせないことが合理的に見込まれる場合)(18項)。

3.収益の認識基準

(1)契約の識別(ステップ 1)

○次の要件のすべてを満たす顧客との契約を識別(19項)。

・当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束している
・移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できる
・移転される財又はサービスの支払条件を識別できる
・契約に経済的実質がある
・顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高い(対価の支払期限到来時における顧客が支払う意思と能力を考慮)

○ 同一の顧客(又は顧客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約については、一定の場合、当該複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理(27項)。

契約変更の処理としては、当該契約変更を独立した契約として処理する場合、既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する場合、収益の額を累積的な影響に基づき修正する場合などがある(28~31項)。

(2)履行義務の識別(ステップ 2)

○契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別(32項)。

・別個の財又はサービス
・一連の別個の財又はサービス

(3)履行義務の充足による収益の認識(ステップ 5)

約束した財又はサービス(「資産」とも記載)を顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、又は獲得するにつれてである(35項)。

○一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を認識(41項)。進捗度は、各決算日に見直し、変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理(43項)。

○履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、回収することが見込まれる費用の額で収益を認識(45項)。

4.収益の額の算定

(1)取引価格に基づく収益の額の算定(ステップ 3 及び 4)

○履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、取引価格のうち、当該履行義務に配分した額について収益を認識(46項)。

(2)取引価格の算定(ステップ 3)

取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額第三者のために回収する額を除く)をいう(47項)。取引価格を算定する際には、次のすべての影響を考慮する(48項)。

・変動対価
・契約における重要な金融要素
・現金以外の対価
・顧客に支払われる対価

(50~64項で詳細を規定)

(3)履行義務への取引価格の配分(ステップ 4)

○それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、独立販売価格の比率に基づき、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行う(65項)。

(独立販売価格に基づく配分(68~69項)、値引きの配分(70~71項)、変動対価の配分(72~73項)、取引価格の変動(74~76項))について詳細を規定)

5.特定の状況又は取引における取扱い

○適用指針で、次のような特定の状況又は取引について適用される指針を定めている。

・財又はサービスに対する保証
・本人と代理人の区分
・追加の財又はサービスを取得するオプションの付与
・顧客により行使されない権利(非行使部分)
・返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払
・ライセンスの供与
・買戻契約
・委託販売契約
・請求済未出荷契約
・顧客による検収
・返品権付きの販売

6.重要性等に関する代替的な取扱い

○適用指針で、一部の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めている。

7.開示

(1)表示

○企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示。契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合はそれぞれの残高を注記(79項)。

( 「契約資産」(10項):企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、債権を除く)。「契約負債」(11項):財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているもの。「債権」(12項):企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権))

(2)注記事項

○企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記(重要な会計方針ではなく、個別の注記)(80項)。

(3)その他

○収益の表示科目と注記事項については、本会計基準等が適用される時までに検討予定(155項・156項)。

8.適用時期・経過措置

○2021年(平成 33 年) 4 月 1 日以後開始する年度の期首から適用(81項)。

○早期適用の定めあり(82~83項)。

○原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用。ただし、遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができる(84項)。これらの方法の緩和措置も定められている(85~89項)。

「「収益認識に関する会計基準」等の公表」という資料の別紙2で、現行基準・実務との比較がなされています。

例えば、次のような現行基準・実務の取扱いが認められなくなるとのことです。

・顧客に付与するポイントについての引当金処理(ポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合)
・返品調整引当金の計上
・割賦販売における割賦基準に基づく収益計上

なお、従来の出荷基準・引渡基準については「国内の販売において、出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合、出荷時点等に収益を認識することができる代替的な取扱いを定めている(適用指針第98 項)」。

適用指針の設例は、設例30まであります(枝番がついているのも数えると件数はそれ以上)。「我が国に特有な取引等についての設例」として、消費税、小売業における消化仕入、他社ポイントの付与、工事損失引当金などを取り上げています。

「収益認識に関する会計基準」等のポイント(新日本監査法人)
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