財務省から、6月4日に、「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」が公表されました。
中央官庁が自らの不祥事について、ウェブサイト上で調査報告書を公表するというのは、それなりに評価できると思いますが、いくつか気になる点もあります(内容というより主として形式面で)。(以下、読み取りソフトを使っているので、引用部分は誤字があるかもしれません。)
・誰が調査を実施し、誰の責任で報告書をまとめたのかが、明示されていない(「財務省」としか書いていない)。これでは、調査報告書の内容に関して、責任の所在が不明確です。最近は、民間の中小上場会社の不祥事でも、調査報告書が公表されることがよくありますが、そのような場合でも、調査の責任者は誰か、どのような調査方法だったのかは、きちんと書かれており、それに基づいて、報告書の読者は、その信頼性を判断することができます。財務省の報告書は、そういう情報がほとんどないので、報告書が本当に信頼できるものなのかどうかはわかりません。財務省の中の誰も、この調査については責任を取りたくないということなのでしょう。
・「財務省として、このような事態が生じたことを真摯に反省し、二度とこうしたことが起こらないよう、全省を挙げて取り組んでいく所存である」とはいっていますが、そういう宣言をしたこの報告書自体は、あまり拡散したくないのか、コピペできないようになっています(したがって報告書中のリンクも手で打ち直さないと使えない)。また、調査報告書のタイトルには「森友学園案件に係る」という文言が含まれていますが、ウェブサイトのページタイトルからは、外しています。細かく忖度しているようです。
・そもそも、調査対象が、すでに改ざんを認めた19件の文書にほぼ限定されており、肝心の国有財産売却価格の妥当性については、以下のように対象から外しています。
「森友学園案件をめぐっては、 国会審議等において、地下理設物の撤去費用の算定を含めた価格算定手続の妥当性等について議論がなされているが、 財務省としては、 森友学園に対する国有地の売払い処分は、 小学校開枝に向けて枝솜の建設工事が進む中で新たな地下理設物が発見され、相手方からの損害賠償請求のおそれがあるなど切追した状況の中で行われたものであり、将来にわたって一切の国の責任を免除するよう特約条項を付すことも含めて、ぎりぎりの対応であったと考えている旨を答弁している。 本報告書は、平成29 年2 月以降の森友学国案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査の結果をとりまとめたものであり、上記の価格算定手続の妥当性等を含め、平成28 年6 月20 日(月) の事案終了前の状況について調査を行ったものではない。」(脚注より)
・報告書本文では、責任者・担当者の固有名詞は記載されておらず、脚注でこっそりふれています。
「平成29 年2 月から4 月に本省理財局の関係部局に在藉していた主な職員は、佐川宣寿理財局長、中尾睦理財局次長、中村稔総務課長、冨安泰一郎国有財産企画課長、田村嘉啓国有財産審理室長である。」(脚注より)
「平成29 年2 月から4 月に近畿財務局の関係部局に在籍していた主な職員は、美並義人近畿財務局長、楠敏志管財部長、小西眞管財部次長、池田靖統括国有財産管理官である。」(同上)
・理財局総務課長が理財局長の考えを忖度した場面(2017年2月の話です)。
「本省理財局の総務課長は、その後速やかに、国有財産審理室長に対して政治家関係者からの照会状況に絞り込んだリストを作成するよう指示をした上で、当該リストにより理財局長に報告した。 その際、理財局長は、応接録の取扱いは文書管理のルールに従って適切に行われるものであるとの考えであったことから、総務課長は、政治家関係者との応接録を廃棄するよう指示されたものと受け止め、その旨を国有財産審理室長、さらに近畿財務局の管財部長に伝達した。こうした状況は、理財局次長や国有財産企画課長にも共有された。」
「近畿財務局においては、本省理財局からの指示を受けて、政治家関係者との応接録として存在が確認されたものを紙媒体及び電子ファイルともに廃棄した。 本省理財局内においても、保存されていた政治家関係者との応接録の廃棄を進めたが、サーバ上の共有フォルダに保存されていた電子ファイルについては、 廃棄されず残されたものも存在した。」
・理財局長国会答弁(2017年2月24日)後の忖度の様子。表向きは、文書適正管理という指示でしたが、裏の意味として廃棄指示だったようです。
「さらに、上記の本省理財局長の答弁の後には、同局長から総務課長に対して、国会において 「財務省行政文書管理規則」 どおり対応している旨を答弁したことを踏まえ、文書管理の徹底について念押しがあり、総務課長は、残っている応接録があるならば適切に廃棄するよう指示されたものと受け止めた。」
「文書管理を徹底すべきとの趣旨は、速やかに、本省理財局の総務課長から近畿財務局の管財部長に伝達された。 管財部長は、部内の職員に対して、森友学園案件に係る応接録を廃棄せよ、といった具体的な指示までは行わなかったが、適切な文書管理を行うべき旨を繰り返し周知した。 これを受け、保存期間が終了した応接録について、 紙媒体で保存されていたもののほか、 サーバ上に電子ファイルの形で保存されていたものについても廃棄が進められた。 他方、個々の職員の判断により、廃棄せずに当該職員の手控えとして手元に残された応接録も引き続き存在した。」
・会計検査院の文書提示要求にも、いい加減な対応をしていたようです。
「平成29 年3 月以降、森友学園案件に関する会計検査院の会計検査が実施に移され、会計検査院から、廃棄していない応接録等を提示するよう繰り返し求めがあったが、本省理財局においては、国会審議等において存在を認めていない文書の提出に応じることは妥当ではないと考え、 存在しない旨の回答を続けた。 さらに会計検査院からは、行政文書と位置付けているかどうかにかかわらず、個々の職員が手控えとして残している資料や、 サーバ及び職員のコンピュータ上に電子ファイルとして残されて.いる資料を提出するよう重ねて求めがあり、同年10 月から11 月にかけて、本省理財局の総務課長の判断により、近畿財務局のサーバ上の電子ファイルの構成に関する資料を提示することとした。 ただし、当該資料では、廃棄されず残されていた応接録等の電子ファイルの存在には触れなかった。」
・文書改ざんに関する忖度の場面。
「平成29 年2 月21 日(火) の国会議員団との面会を受けて、対応者の間では、「文書4 (特例申請)」「文書5 (特例承認)」等における政治家関係者に関する記載の取扱いが問題となり得ることが認識された。」
「その後、 本省理財局の国有財産審理室長から総務課長に対して、本省理財局が作成した「文書5 (特例承認)」の中にも政治家関係者からの照会状況に関する記載がある旨の問題提起があり、両者から理財局長に対して速やかに報告された。 理財局長は、当該文書の位置づけ等を十分に把握しないまま、そうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した。 理財局長からはそれ以上具体的な指示はなかったものの、 総務課長及び国有財産審理室長としては、理財局長の上記反応を受けて、将来的に当該決裁文書の公表を求められる場合に備えて、 記載を直す必要があると認識した。 こうした認識は、国有財産企画課長にも共有された。」
・出先である近畿財務局側では、改ざん指示に反発もあったそうです。といっても、結局、本省側と手打ちをしています。
「近畿財務局の統括国有財産管理官の配下職員は、そもそも改ざんを行うことへの強い抵抗感があったこともあり、本省理財局からの度重なる指示に強く反発し、平成29 年3 月8 日(水) までに管財部長に相談をした。 また、本省理財局の総務課長と近畿財務局の管財部長との間でも相談がなされた。 結論として、近畿財務局においては、統括国有財産管理官の配下職員はこれ以上作業に関与させないこととしつつ、 本省理財局が国会対応の観点から作業を行うならば、一定の協力は行うものと整理された。」
全体として、総務課長らが理財局長の考えを忖度して、不正を行ったというストーリーですが、理財局長が誰を忖度していたのかは、調べていないようです。
財務省、文書改ざん問題で職員20人を処分へ(東洋経済)(ロイター配信)
理財局長以外では、理財局長の考えを忖度して、いろいろと工作していた総務課長が、重い処分を受けています。
「財務省の調査結果によると、佐川氏は「応接録の廃棄や決裁文書の改ざんの方向性を決定付けた」ことから、停職3カ月相当の処分とした。佐川氏には退職金4999万円から513万円を差し引いた金額を支払う。
中核的な役割を担っていた理財局の総務課長は停職1カ月相当、当時の国有財産企画課長は減給20%・3カ月、当時の事務次官を減給10%・1カ月とした。」
麻生財務相、「返納わずか170万円」の"軽さ"
財務省の隠蔽体質は、まだまだ根が深い(東洋経済)
こちらは、今回の報告書の対象から外されている、森友学園との交渉に関する記事。
↓
森友問題で財務省が一線を越える腹を決めた「空白の4日間」(DOL)
「国会に提出されたこれまでの文書を眺めると、むしろ取引の大きなターニングポイントは、主導権が森友側に移る以前、売却の前段階となる「貸し付け」までの過程にあることが見えてくる。
財務省として“一線を越える”腹を決めたとみられるのが、2015年4月14日。この日、近畿財務局は森友側に土地の貸付料について、「下がる見込み」と電話で伝えている。
森友側が3月末、独自に実施した土地のボーリング調査で軟弱地盤だと判明したため、貸付料を値引きしろと主張してきたことに対し、財務局がほぼ丸のみした格好だ。」
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検察は財務省背任容疑にどう迫ったか、なぜ不起訴にしたか(朝日)
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