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特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ(レーサム)

特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ(PDFファイル)

レーサム(東証スタンダード)のプレスリリース(2023年5月12日)。

元従業員によるキックバック疑惑を調べていた特別調査委員会より調査報告書を受領したとのことです。

調査には、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーが加わっています。

結構大きな金額の不正ですが、過年度遡及修正は行わないそうです。

「特別調査委員会による調査の結果、本件キックバックとして認定された 176 百万円については、監査法人と 協議のうえ、すべて当期(2023 年 3 月期)の決算に反映させております。 当社では過年度連結財務諸表に与える影響は軽微と判断し、過年度の有価証券報告書及び四半期報告書、並 びに 2023 年 3 月期の各四半期報告書の訂正は行わないこととします。」

税務調査で発覚したそうです。

「株式会社レーサム(以下「レーサム」という。)は、2023 年 1 月以降に実施された税務調査 の過程で、同社の元従業員が同社の委託先からキックバックを受けていた可能性がある旨 の指摘を受けた。具体的には、同社の元従業員である A 氏が、2017 年 11 月から 2021 年 12 月頃にかけて、甲社及び乙社に対してレーサムから工事を発注する際、本来よりも高額の 水増しされた価格にて工事代金をレーサムに請求させ、かかる水増し請求を受けてレーサ ムが甲社及び乙社に支払った工事代金の一部について、A 氏が両社からキックバックを受 けていたというものである(以下「本件キックバック」という。)。」(報告書1ページ)

不正の中心人物A氏には、1回のヒアリングの後、逃げられてしまったようです。

「本件キックバックの当事者である A 氏については、1 回目のヒアリング調査実施後に連絡がつかなくなり、再度のヒアリング調査は実施していない。」(報告書2ページ)

土木・建築工事等を取り扱う複数の会社での業務経験があったA氏は、2016年にレーサムに入社し、プロパティエンジニアリング部に配属されました。最初は補助的な業務を行っていましたが、2017 年半ば頃には、主担当者として物件を任され、自ら工事業者を選定するようになります。乙社(代表者C氏)は前職時代につきあっていた業者で、甲社(代表者B氏)は乙社の紹介でした(報告書10~11ページ)。

水増し請求をB氏とC氏に依頼した際には、「レーサムの業務として通常行っていることであり、必要なことであると 説明していた」とのことです(報告書11ページ)。

A氏は調査に対し、「当該工事に必要となる図面の作成等を、甲社及び乙社が 担当することができなかったため、A 氏が代わりに実施することとし、当該業務の対価相 当分を見積書に上乗せし、甲社及び乙社に支払ってもらっていた」と説明しました(つまりA氏自身の業務の対価だという主張なのでしょう)が、そのような説明は信用性が乏しいとされています(報告書11ページ)。

振込先として指定されていた会社は、A氏が唯一の取締役でした。

「A 氏が B 氏及び C 氏に対して振込先として指定した丙社は、2017 年 12 月、ビルメンテナ ンス事業及びコンストラクションマネジメントに関する事業を目的として設立された。丙 社の登記上、A 氏のみが取締役として記載されている。」(報告書12ページ)

キックバックが行われた物件の一覧表が示されていますが(報告書15~16ページ)、それによると、2018年3月期 72百万円(3物件)、2019年3月期 33百万円(6物件)、2020年3月期 51百万円(9物件)などと、最初から大きな金額のキックバックが行われていたようです。

2021年にはSNS上でキックバックの指摘がありましたが、詳細な調査は行われませんでした(報告書16ページ)。

(会社の正式な通報ルートはなかったのでしょうか。)

他方、A氏が担当していた物件でトラブルがあり、関係者に対するヒアリングなどが行われ、その中で、A氏がB氏から、「罰金」と称して、約 2000 万円もの多額の金銭を受け取っていたことなどが発覚し、A 氏は、2022 年 2 月に退職します。

報告書では「2021 年 12 月から 2022 年 2 月にかけ てのレーサムの対応は、現時点から振り返ってみれば必ずしも十分なものではなかったか もしれないが、当時の状況に照らせば不合理とまでは言えないもの」としています(18ページ)。

会計処理についても述べています。

「当委員会は、レーサムから、本件キックバックに関する事実関係を踏まえて会計監査人 と協議した結果、以下の会計処理を行う予定であるとの報告を受けた。

・ 本件キックバックのために、レーサムが甲社および乙社へ過大に支払った金額につい ては、2023 年 3 月期の決算において、売上原価から特別損失に振り替えるととも に、A 氏に対する損害賠償請求権として資産計上する一方で、回収可能性に鑑み、全額貸倒引当金を計上する。なお、特別損失は損害賠償請求権を認識した際に生じた収益と相殺する。

・ オーナーが工事費用を負担し、レーサムが甲社又は乙社に代行発注していた販売用不動産 1 件については、オーナーが過大に支払うこととなった金額を、当該オーナーに返金することとし、2023 年 3 月期の決算において、オーナーに対する未払金として負債計上するとともに、雑損失を計上する

・ 上記会計処理を行った結果、2023 年 3 月期における連結財務諸表への影響額は、当期 純利益において、△76 百万円となる。

当委員会としては、本件調査の結果に照らして、レーサムの各会計処理は適切であると 判断した。」

キックバックは売上原価から特別損失に振り替えるだけなので、たぶん、純利益への影響額=顧客への返金額なのでしょう。不正が発覚しなければ、顧客は大損するところだったのでしょう。

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