会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

資金繰りに詰まって手を出した“融通手形”という麻薬(ダイヤモンド・オンラインより)

資金繰りに詰まって手を出した“融通手形”という麻薬

ワコール創業者の伝記の第32回。資金繰りのために融通手形を使った話が出てきます。昭和20年代が舞台で、半世紀以上前の昔話です。

融通手形とは...

「手形というものは、本来商取引を前提としており、支払いをしないといけない方が現金で一度に支払う代わりに何ヵ月後かの支払期日を定めた手形を振り出すわけである。

ところが融通手形の場合、商取引がないにもかかわらず手形を振り出してもらって、それを銀行で割り引いてもらう

商取引がない架空の手形である。“空手形を切る”という言葉はここからきている。

当然、先方に事情を話しておかないとそんなことをしてくれるはずもないし、自ら資金繰りが厳しいことを告白することになる。加えて、決済日までには資金を工面して相手に利息をつけて渡すことが前提だ。個人で言えば高利のサラ金に近いものなのである。

融通手形は麻薬に似ている。一度はじめるとまた同じことを繰り返すことになりがちだ。

特に恐ろしいのは、資金繰りの苦しい会社が互いに手形を振りあい、一社が倒産すると手形を振り合っていた企業が軒並み倒産する“連鎖倒産”の引き金になることだ。」

当時の高島屋にも協力を求めたのだそうです。

「一番期待が大きかったのが高島屋だ。信用度は申し分ないし、最大の取引先になっていたから金額の大きな手形でも怪しまれない。何より和江商事につぶれてほしくないはずだから秘密を守って協力してくれるはずだ。」

「だが奥にいくら交渉力があっても、高島屋が融通手形など振り出してくれるはずがない。最初はけんもほろろだった。」

「ここで高島屋は案を出してくれた。高島屋に春物をいったん納品し、それを和江商事が春先まであずかるという形で手形を切ってくれたのだ。実際には品物はできていない。だが資金が出来れば生産も出来、春には売れそうな見込みもある。これなら良心の呵責も少ない。奥は高島屋の担当者に拝むようにしながら手を合わせた。」

高島屋側の会計処理としては、「(借方)前渡金(貸方)支払手形」でしょうか。品物が入っていないのに仕入(在庫)にしたら、まずいでしょう。

有望企業でもなかなか銀行から借りられず、融通手形に頼るという状況は、日本型金融排除のルーツといえそうです。

この会社の場合は、その後銀行からの正規の融資によって「負の連鎖を断ち切ることが出来た」そうですが、ずるずる融通手形を続ける(あるいは倒産してしまう)企業も少なくなかったでしょう。さすがに、21世紀になってまで、やっている会社はないと思いたいところですが。
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