爽監査法人に対する検査結果に基づく勧告について(PDFファイル)
金融庁の公認会計士・監査審査会は、爽監査法人を検査した結果、同監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、同監査法人に対する行政処分その他の措置を講ずるよう勧告しました(2024年9月6日付)。
発表文は、いつもどおり、運営が著しく不当という結論に向かって、問題点を次から次へと繰り出していくというスタイルで書かれています。
業務管理態勢。
「統括代表社員兼品質管理担当責任者は、品質管理に関する方針及び手続を整備する必要性について十分に認識していないほか、既存の方針及び手続の運用状況について把握・検証していないなど監査品質の改善に向けた実効的な施策を講じておらず、監査品質の確保に向けた、品質管理態勢の整備・運用に係る責任者としての役割を十分に果たしていない。」
「統括代表社員兼品質管理担当責任者は、自らを含む監査実施者において、監査の基準並びに現行の監査の基準が求める品質管理及び監査手続の水準に対する理解が不足していることを認識できていない。」
「各社員は、監査調書の査閲、監査業務に係る審査、定期的な検証、品質管理レビューでの指摘事項に対する改善施策等の実施に際し、法人全体の監査品質の改善・向上に向けた、社員としての役割を十分に果たしていない。」
「今回の審査会検査で検証対象とした全ての個別監査業務において、業務執行社員及び監査補助者に監査の基準に対する理解が不足している状況並びに被監査会社の会計処理等に対する慎重な検討が不足している状況が確認され、それらに起因する重要な不備を含む広範かつ多数の不備が認められる。」
品質管理態勢。
「当監査法人においては、自ら定めた情報セキュリティに関する内部規程に反する以下の状況が認められる。
(1)法人全体の情報管理に係るセキュリティ責任者並びに監査法人の情報システム及び各監査業務に係るセキュリティ担当者を任命していない。
(2)職員が、被監査会社から入手した電子データを各人の個人 PC に保存しているほか、社員及び職員が、個人のメールアドレスに、当監査法人の業務に関連する電子メールを転送している。
(3)各社員・職員が情報セキュリティに関する内部規程等を遵守しているか否かについて、点検や内部監査を実施していない。その結果、上記のような情報セキュリティに関する内部規程の違反事例が検出・是正されていない。」
「今回の審査会検査で検証した個別監査業務において、令和3年度及び令和4年度品質管理レビューでの指摘事項と同様の不備が複数検出されており、当監査法人における当該品質管理レビューでの指摘事項に対する改善は、不十分なものとなっている。」
「当監査法人は、社員への登用基準等の社員登用に関する規程を整備していないほか、社員評価に関する方針及び手続を定めておらず、社員評価を実施していない。また、当監査法人は、社員報酬に関する方針及び手続を定めておらず、各社員の報酬額の決定に際し、各社員の監査業務の品質等に関する評価を反映させる態勢を整備していない。
さらに、当監査法人の社員会は、業務執行社員の選任に当たり、各社員の品質管理能力を考慮していない。」
「当監査法人は、審査担当社員を選任するに当たり、審査担当社員としての役割を担うために必要とされる知識、経験、能力等を保持しているかについて評価しておらず、審査担当社員としての適格性について検討していない。」
「審査担当社員は、監査チームが実施した実証手続、会計上の見積りや不正リスク対応等に係る監査手続に関し、監査チームとの討議や関連する監査調書に基づいた検討を十分に行うことなく、監査チームによる重要な判断及びその結論には問題がないものとして審査を完了させている。」
「当監査法人の品質管理態勢については、検証した範囲において、...広範かつ多数の不備が認められており、著しく不適切かつ不十分である。」
個別監査業務。
「収益認識に関する不正リスク対応及び棚卸資産の評価に係る監査手続が不適切かつ不十分並びに固定資産の減損に係る監査手続、退職給付に係る検討及び売上高に係る実証手続が不十分といった重要な不備が認められる。」
「棚卸資産の評価、固定資産の減損、監査サンプリング、棚卸資産残高の正確性、棚卸立会及び重要な構成単位に係る監査手続並びに売上原価及び買掛金に係る実証手続が不十分、さらに、子会社に対する売掛金と仮受金の相殺処理、店舗に係る資産除去債務、事業計画、繰延税金資産の回収可能性、企業作成情報の信頼性、表示及び注記、内部監査人の作業の利用並びに内部統制の評価範囲に係る検討が不十分、くわえて、経営者に対する質問、財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクへの対応、実証手続の実施、虚偽表示に対する内部統制の不備の評価及び監査役等とのコミュニケーションが不十分といった、広範かつ多数の不備が認められる。」
「監査対象企業の情報を私用のメールに転送するなど情報セキュリティーの内部管理に不備が見つかったほか、個別の監査業務でも不備が見つかった。」
情報セキュリティに関する指摘は、内部規程に反する状況であるというものであり、金融庁が想定している情報セキュリティがどういうものなのかは、金融庁の発表を読んでもよくわかりません。(内部規程があるだけましという感じもしますが)