学習テキスト
第四節 意思表示の効力発生時期(A)
※意思表示は、意思を外部に表白した時点で完了するのが原則である(97条2項)。
1 到達主義の原則
(1)到達主義
1、民法においては、97条により「到達」の時点において効力が発生する。
⇒「了知」までは不要。
※したがって、相手方に到達したが、相手方が受領を拒否した場合は、相手方はその内容を了知していない可能性はあるが、到達の事実により意思表示は成立することになる。
2、また、到達時における受領者は、相手方本人又はその法的な代理人である必要はないとされ、一般に正当に受領すべき者で足りるとされる。
⇒例えば、会社の住所と代表者の住所が一致している場合は、代表者宛の意思表示文書を、会社と無関係な代表者の家族が受け取っていたとしても、代表者の認印を使用するなどの事実があれば、到達したものと認められうる
(最判昭和36年04月20日)。
3、なお、了知の可能性で問題となる相手方が意思能力を欠く場合は、到達先の選択の問題とされている。
(民法第98条の2)
(参考条文)
・・・・・
97条 隔地者に対する意思表示
1項 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその
効力を生ずる。
2項 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は
行為能力を喪失した時であっても、そのためにその効力を妨げられない。
・・・・・
98条の2(意思表示の受領能力)
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人
であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができ
ない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りで
はない。
・・・・・
※対話者間の意思表示の効力発生時期
1、意思表示は、意思が表白(言葉に表す)されることによって完了する。
⇒特定の相手方のいない意思表示の場合には、原則として、意思表示は成立と同時に効力を発生する。
※しかし、契約における申込のように相手方のある意思表示、特に隔地者間の意思表示については、その効力発生時期をいつにするかという問題が生じることになる。
※隔地者間の意思表示の効力発生時期についての原則
(復習も兼ねて)
① 原則として到達主義
1、民法は原則としては、契約や単独行為(解約申入・催告等)のことを念頭におき、表意者と相手方との利益の調整の結果として、到達主義を採用。
※「到達」とは、一般取引上の通念に照らし、相手方が了知するようにその勢力範囲に入ることを意味し、相手方が現実に了知することを要しない。
※到達が到達としての効力を生ずるには、相手方の受領能力が必要である。
⇒そうでないと、実質的に了知しうべき状態を生じたといえない。
※この点から、未成年者と成年被後見人とは受領能力を有しないが、その法定代理人が受領を知った後は、表意者は意思表示があったことを主張することができる。
※意思表示の発信後、表意者が死亡し、又は制限行為能力者となったとしても、意思表示はなんら影響をうけない。
② 例外としての発信主義
1、1に対して、契約の承諾や制限行為能力者の催告に対する確答のような特殊な単独行為については発信主義を採用している。
※これは気をつけるべきこと。
2、契約の承諾において発信主義をとる意味は、迅速を尊ぶ取引において、承諾者がただちに履行に着手しうるようにするためである。
⇒また、制限行為能力者の催告に対する確答について発信主義をとる意味は、到達主義だと制限行為能力者側に不測の結果を生じさせるおそれがあるからである。
※到達の時期
・いつをもって「到達」とするか。
到達とは、社会通念上、意思表示を相手方が了知しうる客観的状態に置くことを意味する。
⇒判例では、
到達の意義を「相手方によって直接受領され又は了知されることを要するものではなく、意思表示または通知を記載した書面が相手方のいわゆる支配圏内に置かれることを持って足りる」としている
(最判昭43.12.7)
※たとえば以下の例では「到達した」と認められている。
・通知を同居の親族が手にした場合
・通知を内縁の妻が受け取った場合(大判昭11.2.14)
・会社の代表取締役A宛の通知を、会社に遊びに来たAの娘が手にした場合
(Aの娘に受領権限がない場合も含める)(最判昭36.4.20)
※意思表示の撤回
1、意思表示は、発信後、到達までは撤回ができる。
⇒これが到達主義の長所である。通知を発信後、表意者が死亡または能力を喪失した場合はでも、通知に記載された意思表示に影響はない
(97条2項)
※例外;発信主義
1、意思表示を発信したときにその効力が生じるとする考え方を発信主義という。
⇒債権の契約の承諾は発信主義であり、また制限能力者に対する相手方の催告への確答や、株主総会の通知なども発信主義とされる。
※公示による意思表示
1、相手が行方不明の場合、到達主義のもとでは、意思表示の効力を生じさせることが困難になる。
⇒この場合、民法は公示による意思表示の到達を用意している(98条)。
※手続きは98条や公示送達に関する民事訴訟法に記されている。
(参考条文)
・・・・・
第98条(公示による意思表示)
1、意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、
公示の方法によってすることができる。
2、前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)の規定に従い、
裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。
ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又は
これらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
3、公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から
二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。
ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないこと