マイ ポエム

私の詩と写真を載せています

タイ旅行から 4

2009-08-04 12:58:29 | Weblog
スコータイの遺跡公園にて 3、4 (/1~4)

   3


「ちょっと待ってください
史跡公園はとても広いのです
まだまだこれからです」
と 案内の女性に促されて車に乗るが
見渡すのは廃れた荒野ではないか
「城壁の中へ入りますよ」
促す言葉の先に やがて
ここかしこ仏像が見えて来る
あれは アユタヤで見かけた
細く聳えるような髪形の仏像たち
ここスコータイ様式に栄えていたものらしい

王宮や寺院の壁面に彫りこまれた
たくさんの小さな仏様や
ここかしこに林立する大きな仏像たち
半ば崩れつつも
スコータイ文化の素晴らしさが息づいている
たとえば 遊歩する仏像
天上から降り立ち 地上を歩む姿の
優美な女性のようなその足の運びは
まさに生きた仏像である
仏様の多くは恥じらうように伏し目がちで
夢を見られているようだ
日本のように佛張面ではなく
威厳的に人に教えを垂れるという
お高くとまった相貌でもない
吉祥坐像のどのお姿もみな
左の掌を上に向けて優しく膝に置き
右手は指を下向きに静かに膝頭に当てて
くつろいで憩う ごく自然な姿勢
素朴なその面差しには
ほんのり心の中の笑みが伝わってくる
中には アニメから飛び出してきたような
クリクリしたお目目の
色白のしなやかな肌の
大きな仏像もいらっしゃる

仏教嫌いの私が
タイに魅かれて幾度も訪れるのは
これらの仏さまの導きかもしれない
細面の仏像たちの
今流行りのかわいい小顔のせいかもしれない
ああ そしてこの
天に向かって聳えるような
火炎の髪形の仏像たち
少し変わっているが異様ではない
仏たちの天への祈りが
そのまま伝わってくるようで
私は魅せられている

   
   4


「この塔は先住民のクメール様式です
 トウモロコシに似ていませんか」
「向こうに見える釣鐘を伏せた形は
スリランカ様式です」
あちらに そしてこちらにと
異なる民族の 異なる様式の
栄華と誇りに満ちて聳える建造物
それは時代を重ね 立ち並ぶ異景風だ
その不思議さの迷路に
私の眼は長く閉ざされていたが
今ようやく 熱く感じる
ここは異文化が
見事に共存している世界ではないか
多様さが創り出した一つの世界なのだ

「そしてこちらの塔の先端に咲く蓮の蕾が
 スコータイに生まれたタイ様式です」
競い合い 学び合いして
創造を高めたスコータイ文化は
タイ芸術の源流となり発展したのであろう
そして 今世紀
風化と修復とのせめぎ合いの中に生きつぐ
スコータイ 「幸福の夜明け」
やはり喜びの発見があったようだ

たぶん と私は想像する
先住のクメールやモン族の人たちの中に
新しく侵入したタイの人々
多少の小競り合いはあっただろうが
タイは未開拓の広大な大地
村々は 国々は 共存の道を歩んだのだろう
きっとそうだと 確信が満ちてくる
そこにポークンの温情政治があったのだ
そこへと各民族の崇拝する寺院が導いたのだ
その日その日の人々の安らぎは
素朴な人間の顔の仏像が見守っていたのだ

前を眺めれば また遊歩の仏像
ふりかえれば 天を目指す頭髪の仏像たち

幾つもの時代を眠っていたこれらの夢の跡
思い出されたのはごく近年のこと とか
私はその近年の幸せに抱かれるように
再び 空の人となった

案内してくれたお嬢さん
ありがとう
「コップン・クラップ」
また来るからね
「サワディ・クラップ」

タイ旅行から 3

2009-08-04 12:50:17 | Weblog
スコータイの遺跡公園にて 1,2 (/1~4)


    1

バンコクからは空路一時間あまり
そよ風に乗ったような
その短さにふさわしい小さな空港
案内の出迎えは若い女性
「サワディ・カー こんにちは」
大学で習得したという日本語に
車中 親しみを覚えながら
古のスコータイ王朝の
眠れる遺跡群へと走る

漢民族の圧迫を逃れて雲南を脱出
辿り着いた南の新天地は
クメール帝国アンコール王朝の支配地
タイ族はたかだか幾つかの小部族の国
雌伏して生きつなぐほかなかった が
一二三八年 隙を見て 独立を達成
「幸福の夜明け」スコータイ王朝を宣言
タイ人による最初の統一国家である
それはどんなに歓喜であったことか
その大いなる幻を 私は見たい

王の称号ポークンは父君のこと
子供を労わる父親の施政がポークン政治
名ポークン第三代ラームカムヘーン大王は
近隣部族国と友好関係を結んで
勢力範囲を拡大しつつ
庶民の直訴にも耳を傾ける善政だったという
大王碑文に「田には米あり水に魚あり」と
彼が考案したタイ文字で刻まれている
日本の愛陶家たちの夢「宋胡録」は
この頃生まれたスワンカローク焼の訛り
後世からは楽園と慕われるスコータイの
ポークン的温情政治の ゆったりとした
繁栄の花が偲ばれる

しかしその花は 開くことわずか百余年
王の死とともに
温情的同盟の絆はたちまちほどけて
一小国へと凋みつつ
小さな花園を守り続けていた
がやがて 同族のアユタヤ王朝に
王位を摘み取られて終息する

車に揺られながら 暢気にも
盛衰の悲喜を聞いていたが
初めに訪れたワット・プラパーイ・ルアン
風さえ天に逃げてしまった炎天の
そこは今 広大な廃墟
驚愕の遺跡だった



   2

見えない時の流れが
見えない爪をたてて壊した
風化の果ての
ここは異世界
面影だけを残した列柱や壁面
仏像も宮殿や寺院も
半ば崩れていて
全身の皮を剥がれた人間の
血肉の色そのままに
赤茶けた煉瓦の色をむき出しにした
痛々しい残骸だ

風化のむごさに震えてしまって
私の皮膚は汗をかくのも忘れている
代わりに心の中に
空しさがあふれてきた

国が滅びるとはこういうことなのか
国破れて山河ありと言うが
それはどこのことか
眼前一面の寥落 この異世界を
なんと語ればいいのか

王を失えば人々も寄り付かず
王地も荒廃するばかり
自律がまだつちかわれていない社会
われわれの生きてきた過去の時代とは
そういうものだったのかと
胸が詰まってくる

時の流れに溶解して
一面の瓦礫野と化した廃墟
ここには人は住めない
これが本当の 悲しみの色かもしれない
これが空しさの 本当の形なのかも知れない
ここには 私も居られない
私が期待した往時の
人々の喜びにも巡り合えず
これ以上私の旅は 進められそうにない
一刻も早くここからワープしたい
人々の行き交う 話し声の聞こえる世界へ
瞬時にも タイムスリツプしたい


タイ旅行から 2

2009-08-03 22:31:40 | Weblog
無言のアユタヤ遺跡
               河 本 澄 一



巨大な仏塔をめぐって
ここかしこ散在する
石仏たちの群れ
数百余年の歴史を超越して
ただ 無言の行
目礼して 私も無言で通り過ぎる

 古の王都 アユタヤ
 かのクメール大帝国 アンコール王朝を
 壊滅させ 領土を拡張し
 築き上げられた繁栄は
 ロンドンなどははや片田舎と驚かせた
 その力の跡を訪ねたくて来た旅である
 だが この静寂に流れる
 無言の出迎えは何なんだろう

突如 迫ってくる
首から上 頭部を欠いた石仏
あすこにも
向こうにも
完全に言葉を剥奪された
無念の石仏たち
異民族に侵され倒されたのだという
その異様さに
私たちも言葉を失ってしまう
弱者への
異文化への憎悪は
いつの世にも激しく荒れる

 そんなに遠くない昔
 ある大国の革命運動の中で
 命令なのか 余波を恐れてか
 多くの仏像が 土深く
 埋められたという
 だが理不尽なことは 時長く
 埋められるものではない
 掘り起こされた仏像たちは
 不動の無言
 だが その地中での無言が
 私たちの鼓動に響いてくるようだった*

度重なる異国軍の侵寇を凌ぎながら
四百年余 揺れながらも繁栄を守ってきた
楽園と慕われる古の王都 アユタヤ
その長い夢も 十四か月の攻防の末 
一七六七年四月七日から八日にかけて
打ち砕かれてしまった
事後  廃墟のまま  眠るように
無言に沈んでいるのだ
が 眼鼻を失い 耳も失い 口も失った
彼らの無言こそ
殺戮と破壊との証言

 一瞬 私は映像を見る
 轟音の炎の中に繰り広げられる
 凄まじい鏖殺と壊滅
 一瞬 私は聞く
 辺り一面に立ち昇り
 響き渡る阿鼻叫喚のこだま
 
鳴きわたる鳥の声に
瞬時 幻は掻き消えて
史跡公園は元通り 果てしない
静寂の中に包まれている
  悲哀を語るのは易しい
  彼らの無言を 私は聞かねばならない  
ここは 南国タイ 「微笑みの国」
今は 世界遺産
どの石仏も無言を楽しんでいる

行を続ける石仏も
行を中断された石仏も
彼らの無言は
語ることなく 私たちの前に
広げているようだ
言葉をのみこんでしまった
彼らの想いの
大きくて 深い
平和への思念を


タイ旅行から 1

2009-08-03 22:26:53 | Weblog
夢よ立ち昇れ
     アユタヤ遺跡ワットープラーマハタート追想



樹の根が絡んで締め付けている
異民族に侵され倒された
石仏の頭部
何百年もの昔から
時間を駈けて締め付けている

いや締め付けているのではない
樹はいくつもの根で
抱きしめているのだ
よく見てみると
抱きかかえているではないか

 締め付けられていたのは
 恐ろしくて後ずさりしていた
 その場の私
 その一瞥だけで 暖かく見極めることなく
 今もなお 縛り付けられているのではないか

お顔を見てみるがいい
苦しみ色のない
少年のようなお顔を
樹は少年の夢を静かに
育んでいるのだ

締め付けの様に囚われず
よく見てみよう
幹の上に広がる枝々
枝々に茂るたくさんの葉から
立ち昇り
大空に広がり行く
少年の夢を

さあ祈りを捧げよう
旅の思い出にシンクロしてきた
仏頭の
畏怖の自縛を解いてくれた
少年の夢の        
憎悪も復讐もない     
平和の夢         
私たちの祈りで      
空高く昇らせよう     
もっと高く        
もっと広く        
この地球のすべての空に  
夢よ 立ち昇れ