スコータイの遺跡公園にて 3、4 (/1~4)
3
「ちょっと待ってください
史跡公園はとても広いのです
まだまだこれからです」
と 案内の女性に促されて車に乗るが
見渡すのは廃れた荒野ではないか
「城壁の中へ入りますよ」
促す言葉の先に やがて
ここかしこ仏像が見えて来る
あれは アユタヤで見かけた
細く聳えるような髪形の仏像たち
ここスコータイ様式に栄えていたものらしい
王宮や寺院の壁面に彫りこまれた
たくさんの小さな仏様や
ここかしこに林立する大きな仏像たち
半ば崩れつつも
スコータイ文化の素晴らしさが息づいている
たとえば 遊歩する仏像
天上から降り立ち 地上を歩む姿の
優美な女性のようなその足の運びは
まさに生きた仏像である
仏様の多くは恥じらうように伏し目がちで
夢を見られているようだ
日本のように佛張面ではなく
威厳的に人に教えを垂れるという
お高くとまった相貌でもない
吉祥坐像のどのお姿もみな
左の掌を上に向けて優しく膝に置き
右手は指を下向きに静かに膝頭に当てて
くつろいで憩う ごく自然な姿勢
素朴なその面差しには
ほんのり心の中の笑みが伝わってくる
中には アニメから飛び出してきたような
クリクリしたお目目の
色白のしなやかな肌の
大きな仏像もいらっしゃる
仏教嫌いの私が
タイに魅かれて幾度も訪れるのは
これらの仏さまの導きかもしれない
細面の仏像たちの
今流行りのかわいい小顔のせいかもしれない
ああ そしてこの
天に向かって聳えるような
火炎の髪形の仏像たち
少し変わっているが異様ではない
仏たちの天への祈りが
そのまま伝わってくるようで
私は魅せられている
4
「この塔は先住民のクメール様式です
トウモロコシに似ていませんか」
「向こうに見える釣鐘を伏せた形は
スリランカ様式です」
あちらに そしてこちらにと
異なる民族の 異なる様式の
栄華と誇りに満ちて聳える建造物
それは時代を重ね 立ち並ぶ異景風だ
その不思議さの迷路に
私の眼は長く閉ざされていたが
今ようやく 熱く感じる
ここは異文化が
見事に共存している世界ではないか
多様さが創り出した一つの世界なのだ
「そしてこちらの塔の先端に咲く蓮の蕾が
スコータイに生まれたタイ様式です」
競い合い 学び合いして
創造を高めたスコータイ文化は
タイ芸術の源流となり発展したのであろう
そして 今世紀
風化と修復とのせめぎ合いの中に生きつぐ
スコータイ 「幸福の夜明け」
やはり喜びの発見があったようだ
たぶん と私は想像する
先住のクメールやモン族の人たちの中に
新しく侵入したタイの人々
多少の小競り合いはあっただろうが
タイは未開拓の広大な大地
村々は 国々は 共存の道を歩んだのだろう
きっとそうだと 確信が満ちてくる
そこにポークンの温情政治があったのだ
そこへと各民族の崇拝する寺院が導いたのだ
その日その日の人々の安らぎは
素朴な人間の顔の仏像が見守っていたのだ
前を眺めれば また遊歩の仏像
ふりかえれば 天を目指す頭髪の仏像たち
幾つもの時代を眠っていたこれらの夢の跡
思い出されたのはごく近年のこと とか
私はその近年の幸せに抱かれるように
再び 空の人となった
案内してくれたお嬢さん
ありがとう
「コップン・クラップ」
また来るからね
「サワディ・クラップ」
3
「ちょっと待ってください
史跡公園はとても広いのです
まだまだこれからです」
と 案内の女性に促されて車に乗るが
見渡すのは廃れた荒野ではないか
「城壁の中へ入りますよ」
促す言葉の先に やがて
ここかしこ仏像が見えて来る
あれは アユタヤで見かけた
細く聳えるような髪形の仏像たち
ここスコータイ様式に栄えていたものらしい
王宮や寺院の壁面に彫りこまれた
たくさんの小さな仏様や
ここかしこに林立する大きな仏像たち
半ば崩れつつも
スコータイ文化の素晴らしさが息づいている
たとえば 遊歩する仏像
天上から降り立ち 地上を歩む姿の
優美な女性のようなその足の運びは
まさに生きた仏像である
仏様の多くは恥じらうように伏し目がちで
夢を見られているようだ
日本のように佛張面ではなく
威厳的に人に教えを垂れるという
お高くとまった相貌でもない
吉祥坐像のどのお姿もみな
左の掌を上に向けて優しく膝に置き
右手は指を下向きに静かに膝頭に当てて
くつろいで憩う ごく自然な姿勢
素朴なその面差しには
ほんのり心の中の笑みが伝わってくる
中には アニメから飛び出してきたような
クリクリしたお目目の
色白のしなやかな肌の
大きな仏像もいらっしゃる
仏教嫌いの私が
タイに魅かれて幾度も訪れるのは
これらの仏さまの導きかもしれない
細面の仏像たちの
今流行りのかわいい小顔のせいかもしれない
ああ そしてこの
天に向かって聳えるような
火炎の髪形の仏像たち
少し変わっているが異様ではない
仏たちの天への祈りが
そのまま伝わってくるようで
私は魅せられている
4
「この塔は先住民のクメール様式です
トウモロコシに似ていませんか」
「向こうに見える釣鐘を伏せた形は
スリランカ様式です」
あちらに そしてこちらにと
異なる民族の 異なる様式の
栄華と誇りに満ちて聳える建造物
それは時代を重ね 立ち並ぶ異景風だ
その不思議さの迷路に
私の眼は長く閉ざされていたが
今ようやく 熱く感じる
ここは異文化が
見事に共存している世界ではないか
多様さが創り出した一つの世界なのだ
「そしてこちらの塔の先端に咲く蓮の蕾が
スコータイに生まれたタイ様式です」
競い合い 学び合いして
創造を高めたスコータイ文化は
タイ芸術の源流となり発展したのであろう
そして 今世紀
風化と修復とのせめぎ合いの中に生きつぐ
スコータイ 「幸福の夜明け」
やはり喜びの発見があったようだ
たぶん と私は想像する
先住のクメールやモン族の人たちの中に
新しく侵入したタイの人々
多少の小競り合いはあっただろうが
タイは未開拓の広大な大地
村々は 国々は 共存の道を歩んだのだろう
きっとそうだと 確信が満ちてくる
そこにポークンの温情政治があったのだ
そこへと各民族の崇拝する寺院が導いたのだ
その日その日の人々の安らぎは
素朴な人間の顔の仏像が見守っていたのだ
前を眺めれば また遊歩の仏像
ふりかえれば 天を目指す頭髪の仏像たち
幾つもの時代を眠っていたこれらの夢の跡
思い出されたのはごく近年のこと とか
私はその近年の幸せに抱かれるように
再び 空の人となった
案内してくれたお嬢さん
ありがとう
「コップン・クラップ」
また来るからね
「サワディ・クラップ」