マイ ポエム

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タイ旅行から 2

2009-08-03 22:31:40 | Weblog
無言のアユタヤ遺跡
               河 本 澄 一



巨大な仏塔をめぐって
ここかしこ散在する
石仏たちの群れ
数百余年の歴史を超越して
ただ 無言の行
目礼して 私も無言で通り過ぎる

 古の王都 アユタヤ
 かのクメール大帝国 アンコール王朝を
 壊滅させ 領土を拡張し
 築き上げられた繁栄は
 ロンドンなどははや片田舎と驚かせた
 その力の跡を訪ねたくて来た旅である
 だが この静寂に流れる
 無言の出迎えは何なんだろう

突如 迫ってくる
首から上 頭部を欠いた石仏
あすこにも
向こうにも
完全に言葉を剥奪された
無念の石仏たち
異民族に侵され倒されたのだという
その異様さに
私たちも言葉を失ってしまう
弱者への
異文化への憎悪は
いつの世にも激しく荒れる

 そんなに遠くない昔
 ある大国の革命運動の中で
 命令なのか 余波を恐れてか
 多くの仏像が 土深く
 埋められたという
 だが理不尽なことは 時長く
 埋められるものではない
 掘り起こされた仏像たちは
 不動の無言
 だが その地中での無言が
 私たちの鼓動に響いてくるようだった*

度重なる異国軍の侵寇を凌ぎながら
四百年余 揺れながらも繁栄を守ってきた
楽園と慕われる古の王都 アユタヤ
その長い夢も 十四か月の攻防の末 
一七六七年四月七日から八日にかけて
打ち砕かれてしまった
事後  廃墟のまま  眠るように
無言に沈んでいるのだ
が 眼鼻を失い 耳も失い 口も失った
彼らの無言こそ
殺戮と破壊との証言

 一瞬 私は映像を見る
 轟音の炎の中に繰り広げられる
 凄まじい鏖殺と壊滅
 一瞬 私は聞く
 辺り一面に立ち昇り
 響き渡る阿鼻叫喚のこだま
 
鳴きわたる鳥の声に
瞬時 幻は掻き消えて
史跡公園は元通り 果てしない
静寂の中に包まれている
  悲哀を語るのは易しい
  彼らの無言を 私は聞かねばならない  
ここは 南国タイ 「微笑みの国」
今は 世界遺産
どの石仏も無言を楽しんでいる

行を続ける石仏も
行を中断された石仏も
彼らの無言は
語ることなく 私たちの前に
広げているようだ
言葉をのみこんでしまった
彼らの想いの
大きくて 深い
平和への思念を


タイ旅行から 1

2009-08-03 22:26:53 | Weblog
夢よ立ち昇れ
     アユタヤ遺跡ワットープラーマハタート追想



樹の根が絡んで締め付けている
異民族に侵され倒された
石仏の頭部
何百年もの昔から
時間を駈けて締め付けている

いや締め付けているのではない
樹はいくつもの根で
抱きしめているのだ
よく見てみると
抱きかかえているではないか

 締め付けられていたのは
 恐ろしくて後ずさりしていた
 その場の私
 その一瞥だけで 暖かく見極めることなく
 今もなお 縛り付けられているのではないか

お顔を見てみるがいい
苦しみ色のない
少年のようなお顔を
樹は少年の夢を静かに
育んでいるのだ

締め付けの様に囚われず
よく見てみよう
幹の上に広がる枝々
枝々に茂るたくさんの葉から
立ち昇り
大空に広がり行く
少年の夢を

さあ祈りを捧げよう
旅の思い出にシンクロしてきた
仏頭の
畏怖の自縛を解いてくれた
少年の夢の        
憎悪も復讐もない     
平和の夢         
私たちの祈りで      
空高く昇らせよう     
もっと高く        
もっと広く        
この地球のすべての空に  
夢よ 立ち昇れ