投錨備忘録 - 暇つぶしに借りた本のメモを残すブログ

赤い闇 スターリンの冷たい大地で(オレンジ) - 映画に出てくる食事の場面(47)

2019年公開のポーランド、ウクライナ、イギリス制作のサスペンス映画。監督はアグニェシュカ・ホランド。出演はジェームズ・ノートン、ヴァネッサ・カービー、ピーター・サースガード、他。

時代は1933年。ソビエト連邦のホロドモールを扱った映画。同じ時代を描いたものでは「チャイルド44 森に消えた子供たち」がある。映画の出来としては「チャイルド44」の方が好きだ。

ホロドモールとは1932年から1933年にかけてウクライナでおきた人工的な大飢饉。ウクライナ社会主義ソビエト共和国の成立が1919年、他の社会主義共和国とソビエト連邦を構成したのが1922年。ソビエト連邦にとってウクライナの小麦は貴重な外貨獲得手段であったが、ここに計画農業を持ち込んだため飢饉が発生した。課せられた目標値が高すぎた。飢餓が発生してもウクライナの小麦は徴発されつづけ生産者には残されることはなかった。農民は農奴と化し落穂拾いさへ刑罰の対象となる。党は家々をまわり監視を強化し家族や隣人による密告を奨励するという苛烈な政策。結果、ウクライナの人々はあらゆるものを食料にして糊口をしのぐが町や村には行き倒れた死体が溢れた。犠牲者数は数百万人。1450万人という数字もある。ソビエト連邦は1928年からの5ヵ年計画によって世界恐慌を乗り切ったが、それは自国民の命を踏み台にしたものだった。


物語は大物政治家ロイド・ジョージの元外交顧問だったガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)がフリーランスの記者としてソ連経済の実態を確かめるべく単身モスクワに向かうところこら始まる。ガレス・ジョーンズは単独でヒットラーにインタビューを行った人物。ソ連の好調な経済政策に疑問を持つ。スターリンに会い直接インタビューを取りたいのだと。それをロイド・ジョージに説くのだが相手にされない。相手にされないどころかイギリスも大不況の真っただ中。予算削減でガレス・ジョーンズは外交顧問の職を失ってしまう。列車を乗り継ぎ単身モスクワに乗り込んだが監視の目がきつく全く自由が無い。ガレス・ジョーンズと同じ疑問を抱いてモスクワで取材をしていた知人の記者はモスクワ到着直前に強盗に合い死んでいた。ニューヨーク・タイムズの大物記者であるウォルター・デュランティや他の記者たちは完全にソ連政府のコントロール下に置かれプロパガンダを垂れ流すライターとなり果てていた。



選んだ食事の場面はガレス・ジョーンズが単独で母の故郷であるウクライナ行きの列車に紛れ込んだ場面。時は冬。大地は雪で覆われスクリーンはモノクロかと見えるモノトーンの世界になる。まだここではガレス・ジョーンズは想像を絶する飢饉が起こっていることを知らない。監視の目を欺いて乗り込んだ列車は客席もない有蓋貨車。そこで肩を寄せ合うように座る人たちに交じってガレス・ジョーンズはザックからオレンジを一つ取り出し食べる。食べ物だという言葉が他の客から出る。床に投げ捨てたオレンジの皮に人が群がる。

別の場面はもっと象徴的。ガレス・ジョーンズがウクライナ時代の若い母の写真に写りこんだ建物を見つけてそこで寝ていた時、幼い姉弟が薪拾いに現れる。一緒に姉弟の自宅についていき彼らのまだ幼い姉から鍋で煮た小さな肉片をふるまわれる場面は人肉食の描き方としては洗練されていて好感が持てる。この肉はという問いに姉は兄の名前を言う。お兄さんは猟師なのかという問いに無言の姉弟、、、彼らの目線を頼りに家の裏に出てみると、、、。

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