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部落差別はなぜなくならないのか―宮城教育大学での講義より - 西田 秀秋(神戸新聞総合出版センター)


部落差別はなぜなくならないのか―宮城教育大学での講義より
西田 秀秋
神戸新聞総合出版センター

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2002年11月20日 第1刷発行 神戸新聞総合出版センター

著者は西田 秀秋。1937年神戸生まれ。中学卒業後、職を転々とし1963年湊川高校を卒業。立命館大学へ進学。31歳で湊川高校の教員となる。全国同和教育研究協議会委員、兵庫県同和教育研究協議会役員、神戸地区県立学校同和教育研究協議会幹事長などを務める。1998年神戸甲北高校長を退職。神戸地区県立学校同和教育研究協議会会長などを務める。

この本は自費出版だった「日本における部落差別の謂れ」を表題をかえて神戸新聞総合出版センターから刊行したもの。

読んでいてあまり釈然としない。思想の実現のための運動。運動のための被差別、活動のための被差別になってないか。

著者はこの本の中でくりかえしケガレ、汚れる、という言葉を使うのだが、私は同和関係は怖いという思いの方が強い、いや、それしかないのだが・・・。

明治4年7月16日の大政奉還のおり、穢多非人等解放令が出たことで被差別民の問題は一応の政治的解決をみるが、実体としては解決できておらず、後の混合教育の開始、水平社の発足等の運動が続くことになる。行政的な対策・解決策として、同和対策事業特別措置法(それまで自治体独自の同和対策事業があったものを、国策として1969年に国会で成立。当初は10年間の時限立法だったが、2002年に終結するまで33年間で約15兆円が費やされた。)を利用して行政闘争(※そう表現してある)を行うことにより、著しく悪かった住環境等の改善がはかられる。

しかし、このことが新たな問題をもたらすことになり、解決できないまま未来に継続する同和問題を残すことになった。つまり、本来は人が対象である救済措置であるはずのものが、行政的には「被差別民」ではなく「被差別地域」ととらえてしまった。これは新たな対象地域を発見して、行政に認めさせた場合は追加できる、増えていくということであり、またその土地がそこに存在する以上は継続する問題になってしまった。

2008年大阪府の橋下知事は、子供のころ生活苦のため、補助金目当てに「同和地区」と指定されている地域に移り住んだということを、自身の経歴で明らかにしている。そういうことは珍しいことでもなく、昔からあったことではあるが、知事という公の人間がそのことを言うのは珍しいのではないか。被差別とは関係ない人間が生活に困窮したから、その地域に住みつき補助金をもらう。これは一見詐欺にもみえる。何か釈然としない。あれやこれやのお手盛りの手助けは、その地域にの住人に与えられるものであり、遠い過去に差別を被ったかどうかは関係ないのだから問題ない行為なのだろう。ちなみに橋下知事は解消しなければいけない問題として、この同和対策事業をあげている。

著者は行政的な運動を積極的に行ってきた人のようだが、その著者もこの本の中で運動に行き詰まりを感じていることを素直に書いている。間違ったとは言わないが、方向違いではある。明らかに同和事業は利権の温床となってしまった。権利になってしまっているのだ。

ところで、被差別部落のある都道府県と無い都道府県があるのだが、これはどういう理由かというと、政府が都道府県にそういう地域があるかと問うた時、無いと答えた都道府県は今でも部落は無かった、つまり被差別地域はなかったということになっているとのこと。神戸市のように全く被差別とは関係な地域を対象としているところもある。そして今も新たな指定をうけるべく活動は続けられているらしい。


以下メモ

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P172 総理府 4年~5年ごとに被差別部落を調査。その調査内容が24年~25年前に関西を中心に20000円で売りに出される。部落地名総鑑。

明治4年7月16日 大政奉還 穢多非人等解放令 ⇒ 政治的解決
大正2年     混合教育
大正11年3月3日 全国水平社

同和対策事業特別措置法を利用して行政闘争を行い、住環境の改善を勝ち取る

P140 解放運動を弱体化する負のベクトルは発生。同和事業は利権の温床となる
   

<新平民について Wikipedia20090426より>

1872年(明治5年式戸籍)
「戸籍法」明治4年4月4日大政官布告第170号・明治5年2月1日施行
前年制定の戸籍法に基づいて、日本で初めての本格的な戸籍制度が開始された。
この年の干支が壬申(みずのえさる)であることから、この制度によってできた戸籍を壬申戸籍(じんしんこせき)と呼ぶ。
戸籍の編成単位は「戸」、本籍は住所地であり、身分とともに住所の登録を行ったことから、現在の住民票の役割も担っていた。
この戸籍は「新平民」や「元えた」などの同和関係の旧身分(エタ、非人)や、病歴、犯罪歴などの記載があることから、現在は各地方法務局の倉庫で一般の目に触れないように厳重に保管されている。ただし、法務省の公式発表では壬申戸籍は廃棄したことになっている。



被差別民 > 部落 なのに部落だけ問題になっている。分かりやすいからか・・・。







P182 さまざまな形の部落
P184 部落の成立史は一様ではない

神戸新川 人口30000人 明治維新以降にあらたに作られた。町が発展する際に出来上がったスラム

P188 行政が指定した土地に知らずに引っ越して来た学生。本人は部落民ではないと主張するも、まわりは著者自身も含めて「おまえは部落民」部落民が受けられる制度を受けるべきだと説得する



同和対策事業の対象地域が被差別とはなんら関係ないところもあるという事例。







P197 礼儀作法、立ち居振る舞い、敬語を否定する



著者の考えには全く同意できない。







P173 部落地名総鑑を見てはじめて自分が部落出身者であることを知った宝石会社の常務取締役の話がある。



被差別者が自身の出自に気付かず差別する側に回っている。現代の「部落」という問題を的確にとらえた、とても皮肉な話。著者はこの例を出して、その宝石会社の常務に「自身の出自を省みて」そのようなことをしたことに反省を促したかったように読めたが、被差別者は差別する側に簡単になるということに著者は気付いたのだろうか。

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(2008年春 西図書館)
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