昨年、MISIAのライヴには4公演参加した。今年のライヴ初めもMISIAから。
自分が何故、MISIAのライヴに数多く行くのかというと(ファンのなかにはツアーを一緒に周るツワモノもいますが、そういうコアなファンとしてではなく、さまざまなアーティストのライヴに参加するなかでも多いという意味)、それはMISIAのライヴがジャンルを問わずに日本の最高峰のライヴの一つだと感じているから。歌唱力はもちろん、ステージ構成力としても疑う余地はないところだろう。一体感という意味では小さな箱でのライヴにも観るべきものが多分にある。だが、アリーナ・クラスの会場を一つに染め上げるパワーとエネルギーは、その一体感をも凌ぐ。それがトップ・レヴェルのライヴ・アーティストたるゆえんだ。
テクニックや表現方法としては、それに長けたアーティストは多くいるだろう。だが、日本の音楽シーン(特にR&Bと言われるジャンル)においては、楽曲の訴求力が素晴らしいと言えるアーティストがどれだけいるだろうか。個人的には、その訴求力の核となるところはヴォーカル、つまり歌唱力だと考えている。しかも、生で勝負出来る歌唱力。これがなければ、トップ・レヴェルのライヴも完成しない。まず、歌が巧くなければならない。そして、声量、声質、表現力。それらの総合的な演出力。これらの要素をしっかりと携えてこそ、なのだ。
では、たとえば声量がないヴォーカリストのライヴは評価されないのか、というとそういう訳でもない。声量がない代わりに、類まれなる表現技術、演出力、そしてオリジナリティ。これらが研ぎ澄まされていれば、そのライヴはトップ・レヴェルを擁することが出来る。つまり、観客のハートをいかに吸引できるか、ここに掛かっているのだ。
身震いさせるような迫力を持った伝達力と圧倒的に心を揺さぶらせる吸引力、これらを生で披露出来るアーティストといえば、全てのアーティストのライヴに足を運んだ訳ではないので絶対とは言えないが、現時点での最高峰は、女性ではMISIAとAI、男性では久保田利伸くらいだろう。
その日本トップ・レヴェルと信じて疑わないMISIAのライヴ。だから、かえって評価も厳しくなることが多い。実際、アルバムの出来も思ったほどでなかった数年前のライヴでは、もうツアー連続参戦もストップさせようかと考えたほど。だが、やはり彼女はしっかりと修正、成長してきた。だから、今回のツアーも当然、参加するのだ。
彼女のライヴの特長としてもう一つ注目すべき点は、アルバム・タイトルを冠したツアーでありながら、殆どの公演がアルバムのリリース前に行なわれるということ。シングル曲や配信もあるので、全く楽曲を知らないという訳ではないが、おそらく多くの人が未聴であろう新譜収録の楽曲をセット・リストの軸に持ってきても、観客と“勝負出来る”ところにある。つまり、その場で観客の心を掴む吸引力がないと、ライヴの質を下げてしまうことになりかねないからだ。総演奏曲数の約半分が新譜からの楽曲であっても、高いパフォーマンスで魅せるというのは、並大抵のことではない。
今回のライヴで、彼女がチャレンジしたと思ったことは、冒頭にハウス・メドレーを配さなかったこと。ライヴでは恒例のステージ構成だったが、あっさりと取り払った。その代わりに、「以心伝心」というパワフルなナンバーと「Royal Chocolate Flush」というダンサブルなナンバーを持ってきた。また、ダンサーを配する率も多かったのではないか。さすがに「星の降る丘」などのバラード中のバラードではそれもないが、結構ゆるやかな曲でもフィーチャーさせていた。
ステージは、アルバム『EIGHTH WORLD』に掛けてか、地球を示すと思われる球体風の格子組みオブジェが、ステージ前方を除く3方を囲むように設置されている。背後の曲面がスクリーンの役目をし、高台となる中央ステージは、MISIAとダンサーを強調する形。球体外側両サイドにバンドが配され、前方に一段下がった感じでもう一つのステージが左右横に伸びている。
DJ TA-SHIのDJプレイとバンドとのセッション開けの「君は草原に寝ころんで」では、上空で心地良く気球船のようなゴンドラに乗って歌ったり、「星の降る丘」では、満天の星空と流れ星をバックに熱唱したりと、従来よりセットは派手ではないけれど、その分楽曲イメージに即した演出で飽きさせない。
本編ラストは、色彩鮮やかなステンドグラスをバックにした「Everything」のリミックス・ヴァージョンから、七色のラインが縦横無尽に走るのを背にしての「Color of Life」、そしてイントロ後の“あの”タイミングで金色テープが会場内に舞った「INTO THE LIGHT」で締めとなった。欲を言えば、そろそろ「INTO THE LIGHT」に代わるナンバーで締めて欲しいと思うのだが、『水戸黄門』の印籠というか、解かってはいる展開なんだけれども、盛り上がってしまうから厄介だ。(苦笑)
アンコールは、タオルぐるぐる回しの「TYO」から「Fly Away」、「太陽の地図」まで一気に。MCを挟んで、「太陽のマライカ」。バックには、アフリカの子供たちの映像が。実は個人的には、このような演出はあまり好きじゃない。飢餓、貧困=アフリカというステレオタイプはどうかと思うので。意識付けを与えることには異論はないが…。それと一番に思うのは、映像がなかったとしても、楽曲だけで充分訴求力のあるものだと思えるからだ。
オーラスは、「2008年だし~、新年だし~…もう一曲歌ってもいいですかー!」ということで「つつみ込むように…」を。彼女自身も満足したライヴだったらしく、いつも以上に弾けた躍動感と(「太陽の地図」の終わりには、ステージ上でコロンと転んだくらい勢いがあったし…笑)、彼女が何度も口にした「みんなが2008年も幸せになりますように~!」という言葉通りの、幸せに満ちた笑顔が印象的だった。
まだリリースされていないアルバムを核とするチャレンジに加え、従来配してきたハウス・メドレーを廃しての構成という斬新さは、かなりレヴェルの高いものであったと思う。しかし、何度も言うようだが、欲としては、「INTO THE LIGHT」終わりでなければ、より良かったか。「TYO」での盛り上がりは凄かったし、「Fly away」も定着しているように、締めとしての楽曲がない訳ではない。ただ、未聴者の多い楽曲を軸にしてる以上、ある程度は“定番”で締めるというのは、仕方がないところなのかもしれない。年齢層も広く、さまざまなジャンルを聴いている人たちが集まるのだから。
バラードでは座る人も多いのだが、今回は「MISSING AUTUMN」でドッと着席する人が多かった気がした。マイナー調だったからかもしれないが、個人的にはマイナー調でもベースが効いたグルーヴィなソウル・チューンは好きなのでそのままスタンディング・ノリで行けたのだが……明らかなダンス・チューンでないと座ってしまう客層が多いのかもしれない=どちらかというと、R&B/ソウル好きというよりも、ポップス好きが多いのか。
その他気づいたことと言えば、「sweetness」がハウス・アレンジでなくオリジナルだったのが久々という感じだったのと、「めくばせのブルース」がオリジナルというよりも、ロック・ブギー・スタイルといったアレンジで面白かった。
次はさいたまでの公演。そこでは新譜リリース後の公演となる。そこでどう変化が起きるか、自分自身がどう感じるか、それが楽しみになってきたことは、確かだ。
◇◇◇
<SET LIST>
01 以心伝心
02 Royal Chocolate Flush
03 Dance Dance
04 MISSING AUTUMN
05 sweetness
06 la la la
07 めくばせのブルース
~DJ TA-SHI&BAND SECTION~ including “Hybrid Breaks -interlude-”
08 君は草原に寝ころんで
09 ANY LOVE
10 そばにいて...
11 星の降る丘
12 To Be In Love
13 ~MEDLEY~
Everything(Club Extended Mix)
Color of Life
INTO THE LIGHT
≪ENCORE≫
14 TYO
15 Fly away
16 太陽の地図
17 太陽のマライカ
18 つつみ込むように…
≪MEMBER≫
青山純 (Ds)
重実徹 (Key)
鈴木健治 (G)
種子田健 (B)
DJ TA-SHI (DJ)
須藤豪(Mani)
AKKO (Dancer)
HIRO (Dancer)
HYROSSI (Dancer)
MICHIE (Dancer)
MEDUSA (Dancer)
SUTEZO (Dancer)
TAKUYA (Dancer)
TATSUO (Dancer)
U-GE (Dancer)
YOSHIE (Dancer)
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