*** june typhoon tokyo ***

彼女のサーブ&レシーブあおぎ Birthday Live@渋谷CIRCUS Tokyo




 連日、報道番組やワイドショーなどでライヴハウスからコロナウィルス感染者が発覚した等々のニュースを報じ、スポーツやエンタテインメント系の興行の自粛が続くが、出来る限りの対策をもって開催している公演もある。渋谷CIRCUS Tokyoで行なわれた当公演もその一つ。アルコール消毒をしてから入場を許可され、マスク着用を励行。ギュウギュウ詰めにならない集客も(幸か不幸か)感染対策としてはプラスに働いた模様。しばらくは予防策を講じてエンタテインメントを楽しむという構図が続きそうだ。

 気温が20度近くになったかと思えば、一気に寒の戻りか冷え込んだりと寒暖の差が激しい日々が続くなかで行なわれた〈彼女のサーブ&レシーブあおぎ Birthday Live〉は、彼女のサーブこと安達葵袖(あだち・あおぎ)の21歳(1999年3月4日生まれ)の生誕祭を兼ねたイヴェント。親交や共演歴のある963(くるみ)、加納エミリ、O'CHAWANZ(オチャワンズ)を招いた計4組でのアットホームなバースデイ・イヴェントとなった。


 前説を終え、トップバッターとして登場したのは963(くるみ)。2013年に福岡県久留米市のくーみんテレビの番組内企画「久留米恋日和」から生まれたご当地ローカル・アイドルに端を発し、彼女のサーブも安達葵袖としてメンバーだった。現在は2015年に結成した2代目で、メンバーチェンジを経て、2018年4月以降は、ぴーぴる、れーゆるの2名で活動中。昨年は『週刊プレイボーイ』『ヤングマガジン』などのグラビアでも話題に。2代目オリジナルメンバーのぴーぴるは、4月より大学へ進学するため、JK(女子高生)シーズンラストの春。笑った顔が“まいんちゃん”こと福原遥を彷彿とさせる感じも。
 963というユニット名は、久留米からのもじりや、マネージャーがファンだった元アイドリング!!!の遠藤舞の愛犬「くるみ」が由来だとか。なお、遠藤は963や彼女のサーブのヴォイストレーナーを務めているとのこと。

 963のライヴを観賞したのは、2017年7月に中目黒solfaで行なわれた主催イヴェント〈今日も963と…〉以来か。その時は校庭カメラギャル目当てだったこともあり(記事はこちら→「校庭カメラギャル@中目黒solfa」)、それほど強い印象はなかった気がする。制服でのパフォーマンスは変わらず。

 ガールズ・ラップ特有の“ゆる系ラップ”で展開。スマートなルックスにロングヘア、制服コーデとJKラップ・ユニット意外に強烈な“クセ”がある訳ではないが、ほのぼのし過ぎて退屈するということもない。ロックに尖ってみたり、ナイーヴに語ってみたりすることもない自然体ゆえ、リスナーに身構えさせないところがいい。全部を聴いてはいないが、音源よりもステージの方がラップアクト寄り。気兼ねはなさそうだが、といっても少しは気を遣うような二人の関係性を薄っすらと感じるマイクリレーが微笑ましい。




 二番手は“NEOエレポップ・ガール”こと加納エミリ。詞曲、編曲を自ら手掛けるセルフプロデュースのアイドルというコンセプトが音楽的な好事家も含めて好奇心を生んでいる。昨年11月発表の1stアルバム『GREENPOP』はアナログ(LP/ジャケット違い4種)にカセットテープもリリースするなど、マニア心をくすぐるアプローチ。個人的にルックスは橋本愛の道産子ヴァージョンと思っているが(年齢も近い)、その件についての賛同者は皆無な模様。

 迎えられた3組のなかでは、963と後述のO'CHAWANZがラップ・ユニットゆえ、やや異色感もあったか。それでも“エミリー協会員”なるエミリ親衛隊(表現が昭和)がフロア前方を埋めて、その一挙手一投足を目を注ぎながら、加納エミリのジョイフルなエレポップ・サウンドに揺られていく。指で“L”の文字を作った腕を高く伸ばして揺らすダンスが印象的な「Just A Feeling」や、まつもと泉原作アニメ『きまぐれ☆オレンジロード』を意識したような画風のミュージックヴィデオも話題の「恋せよ乙女」、代表曲で彼女のエポックメイキングとなるエミリ・クラシックスの筆頭「ごめんね」まで、短尺ながらも王道楽曲を凝縮したセットリストで構成。観客の前方が座して加納エミリにケチャを捧げるシーンや、一緒に振付を踊るなど、場所や規模は違えど“エミリーワールド”は全開。

 彼女を語る上で「ごめんね」は外せないのだが、それに“おんぶにだっこ”というのは将来性という意味では脆さを抱えているし、かといって矢継ぎ早に新曲を放っても各方面へ浸透するまでの“認知の滞在時間“を失ってしまう。そのアピールのバランスが難しいところだが、その意味でこの日の構成はなかなか良かったのではないかと。
 特に、“カッカッカカッ”というヤオヤ(リズムマシンTR-808)的な乾いたドラム音から風見慎吾「涙のTake A Chance」を想起させる「Just A Feeling」は、ブレイクダンスやディスコに(あくまでも音楽的興味として)通った身としてはなかなかのツボ。さらにそこからアフリカ・バンバータ「プラネット・ロック」やハービー・ハンコック「ロック・イット」などのエレクトロ・ファンク・マナーな楽曲やストリート・ヒップホップカルチャーへと音楽的欲求を誘ってくれる……とはやや大袈裟か。そんなこちらの身勝手に携えた感情などを全く意にも介さず、宇宙人フェイスを胸前に施したケミカルな衣装でキャッチーに歌い踊る姿もまた愉しい。




 3組目は“文化系アイドルヒップホップユニット”ことO'CHAWANZ(オチャワンズ)。メンバーはしゅがーしゅらら、いちこにこの2MCに、DJ兼任MCのりるはかせによる3名で、2017年1月解散の校庭カメラガールツヴァイのメンバーであったしゅがーしゅらら(しゅがしゅ らら)を中心に結成。一頓挫あって2018年に再始動し、2019年3月より現3名体制で活動しているとのこと。初めての観賞となる。

 いわゆるサブカル的な要素を持つガールズラップで、Rhymeberryやlyrical schoolあたりのマナーにも近い感じがするものの、美少女な外見からは想像しづらい素っ頓狂(すみません)なハイトーンと小指を立てたマイク使いのしゅがーしゅらら、橋本絵莉子などガールズバンドのフロントマンにいそうな容姿のいちこにこ、奥華子かと思わせる丸顔でDJブースとステージを往来するりるはかせ(名前からも理系女子的な感じが漂う)という個性が強く一見バラバラなような3名が、囚人服を思わせる横ボーダーTシャツに赤のベレー帽といういで立ちで統一感をはかっているところがなかなか面白い。ラップスキルやステージ度胸も感じられる。

 トラックもガッチリと〈ネイティヴ・タン〉サウンド風味とは言えないかもしれないが、デ・ラ・ソウルやノーティ・バイ・ネイチャーのメロディアスで陽性フレイヴァを感じるものや、新曲として最後に披露した「ハルカゼ」などはケロ・ワンあたりの流麗な鍵盤使いによるジャジィ・ヒップホップ作風だったりと、音楽的振幅も広め。タイトに攻めるタイプのいちこにこ、とにかく当たりはソフトだが独特なハイトーンが耳に残るしゅがーしゅらら、その二人のスペースを埋めるかの如くチアフルに紡ぐりるはかせという、それぞれタイプがだいぶ異なる組み合わせが、オリジナリティを高めているようだ。ステージを所狭しと往来するステージングもスムーズ。音源も耳にしていなかった全くの初見だったが、音源ともども再度聴いてみたいと思った。




 トリはもちろん、この日の主役の彼女のサーブ(あおぎ/安達葵袖)とレシーブ(えり)による“カノサレ”こと彼女のサーブ&レシーブのステージ。あおぎのみの彼女のサーブ単独としては、昨年3月の北参道ストロボカフェでの矢舟テツローのブッキングによるイヴェント〈LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD!〉(記事はこちら→「LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ」)以来か。そのイヴェントでは加納エミリも出演している。
 “フューチャーテニスアイコン”がコンセプトのアイドル・ユニットとして登場し、当時はテニスラケットを手に歌っていたのだが、そのコンセプトは終わってしまったようで、テニスルックも封印(?)。だが、楽曲性や歌唱には変化がなく、なんとなくサバービアを感じる清爽なポップ・サウンドをゆるい歌唱で展開するという肩肘張らない“ゆるヘタ”なスタイルがファンの心を捉えている模様。

 恥じらいながらの緩めのパフォーマンスのあおぎだが、一つ下ながら明朗快活なえりの存在もあって、シャイな姉としっかりものの妹という構図がバランス良く、さらなる微笑ましさをプラス。モデルとしても活躍するスレンダーなあおぎと対照的にミニでキュートなえりという外見に目がいきがちだが、バックでDJを務めるKING3LDKが流すトラックに耳をそばだててみると、「色づく季節」の大濠マッドチェスターミックスや、二人が背中合わせでキメポーズを作るなど振付がついたという「恋心、赤い熱気球」などは、ラヴリーなポップネスとエッジの効いたビートが琴線をくすぐるキラーチューン。歌唱の緩さとのギャップを帯びたマッチングが、かえってポップ・サウンド・ファンを喜ばせるような作りに。フォトジェニックなユニットゆえ、音源とは違った印象を与えるのもライヴでの醍醐味。その意外性も“ウケ”の要因の一つなのかもしれない。

 最後は出演者全員が登壇しての“ハッピーバースデー”で、「21」の文字が立てられたケーキも登場。共演者、観客ともども、フロアに集った人たちが微笑ましい視線であおぎを見つめるなか、ハッピーオーラに覆われたなかでのラヴリーなエンディング。それぞれがMCで語っていたコロナウィルス不安を忘却の彼方へと追いやった、ハッピーヴァイブスのままで幕を閉じた。




◇◇◇

<SET LIST>
OPENING TALK~前説~ by 彼女のサーブ&レシーブ
≪963≫
01 lumen
02 すけるとんがーる
03 SEED
04 starget
05 NEW
06 再逢い
07 信号機の赤(New Song)

≪加納エミリ≫
01 Just A Feeling
02 1988
03 恋せよ乙女
04 Next Town
05 ごめんね

≪O'CHAWANZ≫
01 Rolling Hill
02 After Five(仮)
03 Apple Pie(仮)
04 MARCH FORCE
05 Question?
06 DADA
07 イイタビユメキブン
08 オチャファンク
09 ハルカゼ(New Song)

≪彼女のサーブ&レシーブ≫
01 Racket Love
02 色づく季節(大濠マッドチェスターミックス)
03 恋心、赤い熱気球
04 泣き虫レインドロップス
05 Cheerio!
06 One
07 Dance Floor

<MEMBER>
彼女のサーブ&レシーブ
963
加納エミリ
O'CHAWANZ

KING3LDK(DJ)


◇◇◇

 


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