

感謝と充実に満ちた笑顔と安堵のカーテンコール。
オーディエンスとのシンガロングでフロアにパッと花が咲くような「Colorful」や櫃田良輔の高速ドラムンベースが繰り出される「stand alone」、数々のライヴで熱度を高めた「スタイン」も、スリリングでドラマティックな展開が胸を揺るがす「one」もない。代官山SPACE ODDで行なわれたCICADAの最後のライヴ〈CICADA Last LIVE "Thankful"〉はアンコールを加えても“たった”12曲。バンド名がセミ(=“CICADA”)だからって、舞台に出て僅かな時間でファンの前から去ることもなかろうに。本音を言えば、圧倒的に足りない、最後を締めるには短過ぎるほどのステージだ。「最後だからって、湿っぽく終わりたくない。笑って終わりたい」「〈今日で解散するんですが〉ばっかり言ってるけど、“解散”って今日しか言えないから」と城戸あき子は幾度も言葉を重ねた。楽曲のクオリティはもちろん、バンドとしての完成度や一体感は何らこれまでに劣ることはなく、寧ろ楽曲の表現力にはさらなる進化も感じた。余力は十分。それでも解散。ただ、それがCICADAらしい、前向きな区切りなのだろう。才知が富む個性的な5人だからこそのエンディングは、風に揺られるかのごとく自らが音に酔いしれ、ステージから去るまで涙もなかった。
メンバー登場前には、及川創介が人懐っこい声でメンバーの名を挙げていくナレーション。若林ともの時だけ“36(?)歳”と年齢を加えて弄ると、会場には笑みがこぼれる。悲壮感はないラストライヴの開演。とはいえ、「Naughty Boy」では若干オーディエンスの反応にぎこちなさも感じた。「いつものように楽しいライヴに」という城戸の言葉に頷きながらも、終幕へと確実に時を刻むカウントダウンが始まったというなんともいえない感情が、ステージを見つめる個々の胸に少なからず宿っていたからかもしれない。
ただ、それも「Harvest」を経て、“あとは さあ ほら ただ飛ぶだけでいい”と彼らの未来への意志を綴った「YES」を披露する頃には、純粋に彼らが繰り出す音や歌、グルーヴの波に寄りそうオーディエンスに満ちていた。ア・カペラ導入による静寂から“We're gonna go, you don't stop”のコーラスを伴っての躍動への展開で、どこかに感じていたぎこちなさも完全に払拭。身体をくねらせながら音の波を呼び起こすように鍵盤を叩く及川、飄々とした表情ながら瞬間熱が垣間見える眼光を放つ若林という対照的な隣同士のコンビが琴線に触れる上モノを鳴らし、ラフな佇まいとここぞという時に漆黒のボトムを響かせる越智俊介が絶妙なメリハリで支え、何度も朗らかな笑顔をこぼしながらテクニカルなドラミングを遂行する櫃田がグルーヴィなビートを構築。そして、内なる機微を露わにするようなパッションと艶を帯びた城戸が、自身とメンバーの想いをも請け負って歌を届けていく。二度とはない瞬間ではあるが、その想いやメッセージはこれからも聴き継がれ、それぞれの胸に鳴り続けていく。そう感じさせるほどのインパクトが、彼らの演奏には確実に存在していた。
CICADAとして最初に手掛けたという「eclectic」に続くのは「解散するのに新曲を出すという(笑)」前フリからの「u got my love」。この日の来場者全員にラスト・シングルとして配られた曲だが、会場に来られなかった人たちのために別ヴァージョンがライヴ後の深夜0時より配信されるとのアナウンスも。チキチキ鳴るビートとクールなエレクトロニック色で彩られたアーバンなミディアムながら、ステージでは導入部にアース・ウィンド&ファイア風(「キャンド・ハイド・ラヴ」あたり?)と思わせるアレンジが耳を惹く。アレンジという意味では、このステージではどの曲の繋ぎも良く練られていて、一聴し瞬時に次の演奏曲が分かるイントロではなく、バンドとしての引き出しや手合いの多さが窺えるアンサンブルの妙が際立っていた。
旧と新とを結ぶという構成は、2012年の結成から7年目となる今に至るまでが“あっという間”だったという想いが無意識に働いた……というのは邪推か。最も旧い曲から最も新しい曲を繋げた後は、「前向きに、楽しく終わりたい」という意思を示したかのようなタイトルの「party out」で本編は幕を迎える。振り返ってみれば、1stアルバム『BED ROOM』から最新EP『ESCAPE』まで、そこへ「eclectic」と「u got my love」の新旧楽曲をプラスした曲構成で、それぞれから万遍なく選曲されていることに気づいた。限られた時間、限られた演奏曲数のなかで「自分たちが好きだという曲を持ってきた」とのことだから、バンドとして自らに終止符を打つ集大成としてはベストの選曲と受け取るのが賢明と言えそうだ。オーディエンスやファンたちが耳にしたかった、惜しむらく選に漏れた楽曲は、それぞれの耳や胸、五感にこれから鳴り響かせていけばいい。
アンコール明けは、珍しく若林が登場。「これから加入順にメンバーが入ってきますので」と伝えると、おもむろにギターを爪弾き始まったのは「夜明けの街」のイントロ。まずはヴォーカルの城戸がステージへ戻り、櫃田の登場後は若林のギターとシンセの音に櫃田のドラムが加わるという人と音を重ねていく演出。これに及川、越智が続いてメンバー5名が揃ったところで「夜明けの街」へと流れていく。CICADAというバンドは、夜が更けひとつひとつ消えていく窓明かりのようにその灯を落とすことになったが、彼らが遺した曲やファンの心を動かした熱は星月夜の星たちのようにこれからも輝き続けるはずだ。最後に“6番目のメンバー”松永マネージャーを呼び込んで、ゆるやかな感謝の一礼でピリオド。それでもフロアに鳴り響き続ける再アンコールを促すクラップ。やおら耳に届く公演終了のアナウンス。だが、思ったほど無情に思わなかったのは、彼らの楽曲だけでなく、根拠はないがどこかで彼らに未来を感じたからかもしれない。
物足りなさも感慨も覚えたフェアウェルなステージ。ただ、それもやり切り擦り切れる終わり方を是としない、音楽はまだ続けていくからという余力なら、それも彼ららしさとして納得が出来る。CICADAとして際立つ刻印を音楽シーンに残すことは出来なかったかもしれないが、初めて体感した時の彼らへの期待や希望、高揚は忘れられないものとなった。その酔いしれた音やパフォーマンスの数々に感謝を。そして、これからそれぞれが辿る未来へエールを。元メンバーの木村朝教の安定感あるベースも忘れられない存在だ。彼らから放たれた進取に富んだ楽曲に新たな可能性を実感した、まさに“No Border New Sound from CICADA”な瞬間はこれからも続いていくだろう。彼らの楽曲が流れるたびにそれはとどまることがないのだから。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION(narration by Sosuke Oikawa)
01 Naughty Boy (*B)
02 Harvest (*H)
03 YES (*L)
04 door (*B)
05 escape (*E)
06 ふれてほしい (*E)
07 閃光 (*L)
08 ポートレート (*f)
09 eclectic
10 u got my love(New Song)
11 party out (*H)
≪ENCORE≫
12 夜明けの街 (*B)
(*B): song from album『BED ROOM』
(*L): song from EP『Loud Colors』
(*f): song from album『formula』
(*H): song from Digital Single「Harvest / party out」
(*E): song from EP『ESCAPE』
<MEMBER>
CICADA are:
城戸あき子(vo)
若林とも(g,syn)
及川創介(key)
越智俊介(b)
櫃田良輔(ds)

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CICADA ラストライヴ @代官山SPACE ODD
— *june typhoon tokyo* (@junetyphoontyo) 2019年3月26日
本音を言えば、もっと楽曲を体感したかったけれど、それぞれこの瞬間で燃え尽きて終わる訳ではなさそうだから、それで良かったのかも。
「eclectic」聴けて良かった。#cicada #シケイダ #若林とも #城戸あき子 #櫃田良輔 #及川創介 #越智俊介 pic.twitter.com/RQkrFZzxvF
ラストライヴ、最後の挨拶もCICADAらしく。#CICADA #シケイダ pic.twitter.com/lFF8cHaV7n
— *june typhoon tokyo* (@junetyphoontyo) 2019年3月26日
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