目を覚ますとそこにはすでに都会の喧騒はなく、ただ無機質な岩肌や雪に覆われた土地しかなかった。こんな最果ての地までつれてこられるとは私は何かしてしまったのではないかと思うぐらいだ。
「今頃あの人たちはなにをしているのか」
そんな疑問を持っても、もう無駄だ。あの日から私は死んでいるのだから。こうして息をし、心臓が鼓動し、普通に生きている人間となんら変わらない私でも死んでいるのだ。
あの日、私は何人かの男につけられていた。そしてそれに気付いた瞬間にはもう遅かった。
意識を取り戻したそこには数十人の男たちが私のベッドを囲んでいた。そしてそこで自分がどういう立場の人間かということを知らされた。どうやら私は今まで計画的に生かされていたようだ。
自分の能力も知らずに
「艦長、まもなく択捉島です」
「そうですか、そこに私のこれからの故郷があるのですね」
副官にしては若い、年にして15かそこらの少女。私と並べば親子と間違われても仕方ないくらい幼い少女だった。名はリサと名乗っていた。まだ出合って何日もたっていないのに私を艦長と慕う女性だ。
私が浮かない表情をしているのに気付いた彼女は私から帽子をとり話しかける
「まだ未練が残っているの?現世に。」
「あぁ。まだやり残したことがたくさんあったからな。でもこうなっては仕方がない。今の目の前の事をこなすだけだ。まずはそれが先だよ。そのあともう一回ゆっくり考える。」
「みっともない。そんな弱気では他の兵の士気にも影響するんだから。さっさとそんな過去の事をこの極寒の海に捨ててくださいね。それと風邪引きますから早く船内に戻ってくださいね。」
彼女は再び帽子を私の頭に載せた。帽子を取っていたときのようなフランクな彼女はそこにはなく、キリッとした海軍魂を感じさせる副官がそこにはいた。
「2100に択捉島根拠地第一ドックに入渠いたします。その後例の新造戦艦へ乗艦していただきます。それまでに着替えと準備を」
そう言い残すと彼女は暖かい船内に消えていった。
「冷え性らしいのに良く頑張るな…」
第一航海 択捉にて
択捉島―
第二次世界大戦時代、かの南雲忠一率いる第二航空機動艦隊が真珠湾攻撃に出航した土地でも知られる。終戦間際ソ連軍に占領されており、現在も北方領土として返還を求められている土地だ。
―しかしそれは表の歴史。裏の歴史ではソ連との巧妙な外交により、すでに北方のこの四島は返還されているのだった。そして防衛省直属の即応攻略部隊…通称第零特殊遊撃艦隊の根拠地となっていた。衛星からの画像ではわからないように巧妙に隠された各砲台。近未来を髣髴させる地下造船所、及びドック。偽装された兵員宿舎郡はとてもここが秘密基地とは誰も想像できないだろう。
私もそれを聞かされるまではただの北方めぐりかと思っていた。そしてこの地で島流しの一生を終えるのかと想像していた。それがまさか、新しく建造された艦の艦長、いや、それどころか艦隊指令を任命されるとは。
船内に戻り、廊下を歩いているときに数人の兵士とすれ違う。その都度敬礼されることに、私はまだなれていない。
なぜ私が?
困惑を払いきれないまま艦長室に入ると、真新しい制服と制帽、それに黒い鞄が目にはいった。もうすぐ到着なので急いで着替えねばならない。それまで着ていた私服を脱ぎ捨て、制服に袖を通す。いつ測ったのかわからないが、体に吸い付くようにサイズはぴったりだ。同じくズボンも。帽子を被り、鏡の前に立った。そこにはそれまで遊びほうけて毎日パソコンばかりいじっていた当時の自分の面影はなく、一海軍軍人の姿があった。
「ふふ…もう戻れない…か。ならば受けた指名を全力でこなすまで。それが俺の生きる道だ。」
自分でも思うが最近独り言が多くなった。それくらい自分が追い込まれているのか、それとも考えがまとまらないのかわからない。ただ確実にいえることは、やり残したことがあまりにも多すぎてそれが負担になっているのかもしれない。
ビーッビーッ!
備え付けの艦内電話が鳴った。たぶんあまりに遅い私に対してリサが怒っているのだろう。半ば予想はできていたが私は受話器をとった。
「艦長、入港予定時刻です!早く操舵室に上がってきてください!残り5分です!」
そういうなり彼女は受話器をたたきつけた。私はというと彼女のせっかちさが好きになってきたようだ。願わくばこんな嫁がほしいものだ。
操舵室にあがると目の前に択捉島の姿があった。根拠地第一ドッグといってもそこには寂れた漁港のようなものしかなかった。だがこれはカモフラージュに過ぎない。そこから地下にもぐり、秘密ドッグがある。まだ私はそこまでしか知らされていない。
港に着くと小さな建物に案内された。役所のような建物だが、内部には偽装された大型エレベーターしか存在しない。暗証番号を打ち、指紋、静脈、網膜スキャン。相当厳重な警備だが、それほどまでにして隠さなければならない代物が眠っているからな。
-地下約70メートル…。
下っていくときにもはや覚悟を決めるしかないと悟った。そこにある物を見る前までに。
目を瞑り、時が経つのを待った。
そして再び目が光の刺激を受けたとき、そこには想像以上の物がが眠っていた
続く
日記@BlogRanking
「今頃あの人たちはなにをしているのか」
そんな疑問を持っても、もう無駄だ。あの日から私は死んでいるのだから。こうして息をし、心臓が鼓動し、普通に生きている人間となんら変わらない私でも死んでいるのだ。
あの日、私は何人かの男につけられていた。そしてそれに気付いた瞬間にはもう遅かった。
意識を取り戻したそこには数十人の男たちが私のベッドを囲んでいた。そしてそこで自分がどういう立場の人間かということを知らされた。どうやら私は今まで計画的に生かされていたようだ。
自分の能力も知らずに
「艦長、まもなく択捉島です」
「そうですか、そこに私のこれからの故郷があるのですね」
副官にしては若い、年にして15かそこらの少女。私と並べば親子と間違われても仕方ないくらい幼い少女だった。名はリサと名乗っていた。まだ出合って何日もたっていないのに私を艦長と慕う女性だ。
私が浮かない表情をしているのに気付いた彼女は私から帽子をとり話しかける
「まだ未練が残っているの?現世に。」
「あぁ。まだやり残したことがたくさんあったからな。でもこうなっては仕方がない。今の目の前の事をこなすだけだ。まずはそれが先だよ。そのあともう一回ゆっくり考える。」
「みっともない。そんな弱気では他の兵の士気にも影響するんだから。さっさとそんな過去の事をこの極寒の海に捨ててくださいね。それと風邪引きますから早く船内に戻ってくださいね。」
彼女は再び帽子を私の頭に載せた。帽子を取っていたときのようなフランクな彼女はそこにはなく、キリッとした海軍魂を感じさせる副官がそこにはいた。
「2100に択捉島根拠地第一ドックに入渠いたします。その後例の新造戦艦へ乗艦していただきます。それまでに着替えと準備を」
そう言い残すと彼女は暖かい船内に消えていった。
「冷え性らしいのに良く頑張るな…」
第一航海 択捉にて
択捉島―
第二次世界大戦時代、かの南雲忠一率いる第二航空機動艦隊が真珠湾攻撃に出航した土地でも知られる。終戦間際ソ連軍に占領されており、現在も北方領土として返還を求められている土地だ。
―しかしそれは表の歴史。裏の歴史ではソ連との巧妙な外交により、すでに北方のこの四島は返還されているのだった。そして防衛省直属の即応攻略部隊…通称第零特殊遊撃艦隊の根拠地となっていた。衛星からの画像ではわからないように巧妙に隠された各砲台。近未来を髣髴させる地下造船所、及びドック。偽装された兵員宿舎郡はとてもここが秘密基地とは誰も想像できないだろう。
私もそれを聞かされるまではただの北方めぐりかと思っていた。そしてこの地で島流しの一生を終えるのかと想像していた。それがまさか、新しく建造された艦の艦長、いや、それどころか艦隊指令を任命されるとは。
船内に戻り、廊下を歩いているときに数人の兵士とすれ違う。その都度敬礼されることに、私はまだなれていない。
なぜ私が?
困惑を払いきれないまま艦長室に入ると、真新しい制服と制帽、それに黒い鞄が目にはいった。もうすぐ到着なので急いで着替えねばならない。それまで着ていた私服を脱ぎ捨て、制服に袖を通す。いつ測ったのかわからないが、体に吸い付くようにサイズはぴったりだ。同じくズボンも。帽子を被り、鏡の前に立った。そこにはそれまで遊びほうけて毎日パソコンばかりいじっていた当時の自分の面影はなく、一海軍軍人の姿があった。
「ふふ…もう戻れない…か。ならば受けた指名を全力でこなすまで。それが俺の生きる道だ。」
自分でも思うが最近独り言が多くなった。それくらい自分が追い込まれているのか、それとも考えがまとまらないのかわからない。ただ確実にいえることは、やり残したことがあまりにも多すぎてそれが負担になっているのかもしれない。
ビーッビーッ!
備え付けの艦内電話が鳴った。たぶんあまりに遅い私に対してリサが怒っているのだろう。半ば予想はできていたが私は受話器をとった。
「艦長、入港予定時刻です!早く操舵室に上がってきてください!残り5分です!」
そういうなり彼女は受話器をたたきつけた。私はというと彼女のせっかちさが好きになってきたようだ。願わくばこんな嫁がほしいものだ。
操舵室にあがると目の前に択捉島の姿があった。根拠地第一ドッグといってもそこには寂れた漁港のようなものしかなかった。だがこれはカモフラージュに過ぎない。そこから地下にもぐり、秘密ドッグがある。まだ私はそこまでしか知らされていない。
港に着くと小さな建物に案内された。役所のような建物だが、内部には偽装された大型エレベーターしか存在しない。暗証番号を打ち、指紋、静脈、網膜スキャン。相当厳重な警備だが、それほどまでにして隠さなければならない代物が眠っているからな。
-地下約70メートル…。
下っていくときにもはや覚悟を決めるしかないと悟った。そこにある物を見る前までに。
目を瞑り、時が経つのを待った。
そして再び目が光の刺激を受けたとき、そこには想像以上の物がが眠っていた
続く
日記@BlogRanking