ジョンの黒革手帳の1ページ

joyの日々の様子を書いています。このページは常に最大にしてください!文が切れちゃうよ!投票ヨロです!コメントもw

中編 鋼鉄の城

2008年01月16日 | 小説
中編  鋼鉄の城


「艦長、お待ちしておりました。」
中年太りだが、がっちりとした、たくましい肉体がまず目に付く色黒の男。艦長と男の太い声で言われるのはこれが初めてだ。一発で私の事を艦長と呼ぶからには間違いなく彼もこの件に関している能力を持った男だろう。
「私がこの艦の主任設計師ならびにこの艦の技術部長を務める平賀健吾と申します。以降よろしくお願いします。まぁ、技師長とでも気軽に呼んでください。」
平賀…かつての長門級戦艦を設計し、造船界の基礎を作った男の名前。その名を受けた男がこうしてこの巨大戦艦を作るとはまさに宿命としかいえないだろう。
しかしそこに艦の姿は見えなかった。ただ赤黒い壁が目の前に聳え立っているだけだった。男は背後に聳え立つその黒い壁を指差し、語りだした。
「戦艦…それも超超弩級戦艦といってもいいでしょう。私が設計したこの艦 「天照」全長372メートル、全幅58メートル。満載排水量11万トン。主砲に3連装51糎磁気火力複合砲を3基計9門、対空迎撃に関して155粍高角速射砲、並びに35粍高性能対空機銃郡。多目的3連装20糎副砲6基、VLS内には対空・対地・対艦誘導弾を装備。対空だけではなく、対潜にも気遣っております。魚雷攻撃に対しては二式魚雷爆破爆雷を装備し、魚雷からの防御も万全です。」
その壁は私が暮らす故郷だった。それまでゲームや資料などで戦艦ついての知識は持っていた。しかし目の前のそれは、その知識を超越していた。例えるならば黒い城とでも言おう。それほど巨大で想像以上の代物だった。
先の超弩級戦艦大和は武運にも恵まれず、艦載機の攻撃を受け沈んだ。間違いなくその教訓を生かされているに違いないこの戦艦。先ほどの話を聞くだけでもはやすでにハリネズミ以上の対空迎撃能力を持っていると理解できる。いや、それ以上の能力だ。
ミサイルや弾道弾が飛び交う現代の戦闘ではこれでも少ないくらいなのだろう。フォークランド戦争ではイギリスの駆逐艦がミサイルを受け沈んでいる。過去の魚雷や爆弾しかない海戦と違い、現代の戦闘はほとんど全てが誘導兵器によるものだ。それらの飽和攻撃を受けた場合の命中率は限りなく100に近づくだろう。ソ連はこの飽和攻撃戦法を採用していると聞いた。その前ではこの装備では足りないのではないだろうか。
CIWS、米国のファランクスを例にとってみよう。駆逐艦などに装備されているこれは1発のミサイルを迎撃するまで他の目標を迎撃できないという欠点がある。2発以上高速で接近するミサイルに対しては張子の虎でしかないのだ。現代のフリゲート艦ではこのCIWSが二つしか着いていない。もっともそのほかにもミサイルや艦砲で迎撃すればいいと思うが飽和攻撃を受けた場合を考えるとその考えは幼稚なものだ。

だが、この艦の真の能力はこれからだった。上に上げた問題点を克服するが為にこの艦にはある特殊な装備がなされているのだった。

「特筆すべき点はやはりデュアルイージスシステムでしょう。通常のイージスシステムに比べ、二重化したことにより同時追尾可能数と同時攻撃可能数の上昇が可能になりました。また艦橋ごとに別々に稼動させることも可能にし、ダメージコントロール性や指揮能力の向上に成功しました。他にもまだありますが…まぁそれはここでは話せないような内容なので、後ほど艦橋で話しましょう。」
そういうと平賀はタラップに向け歩き出した。いや、タラップに向け歩き出したというよりも近くにあった作業車に乗り込んだ。
「流石に200メートルほど歩くのもおっくうですからこれで行きましょう。」


タラップに着き登る。まず最初にこの造船所の2階部分とも言える場所までエレベーターで昇る。先ほどまで見ていたものは艦底部と喫水線の少し上までだったのだ。リサ、平賀、そして私は無言でエレベーターに乗り込んだ。
艦底部にいたときと違い、上に上がれば上がるほど騒がしくなってきた。どうやらまだ最終偽装が完了していない模様だ。今日という日に合わせ完成させると彼は意気込んでいたのだろう。たぶん作業員たちは1週間ほど徹夜に違いない。
長いエレベーター内での時間がすぎ、2階部分についた。


「こ…これは…。」
旧日本海軍の大和のようだが大和ではない。しかしどこか似ている雰囲気がある。強化された艦橋レーダー群、大幅に増設された高各砲や副砲。東京駅よりも長いその全長。
美しい、鋼鉄の城とはまさにこのことだろう。

「驚いたでしょう。設計当初から大和に似せようとは思っていたのですが、残念ながら近代兵器を乗せたら不恰好になってしまったので少々調節しました。でも艦橋の美しさは大和らしさを残しました。そのためイージスシステムに必要なSPYレーダーは後艦橋と第一艦橋中部に小型化して配置しました。苦肉の策ですね、あはははは」
船は男の浪漫だというが、この男はそれで艦を設計したのだろう。仕事と私事を一致させるのはあまり好きではないが、この男の初老を迎えるが無邪気な笑顔を見ているとそんな気持ちも薄れてきた。
「まぁ先代の願いでもあるでしょう。日本人なら日本人らしい戦艦を作れ。日本の戦艦こそ世界標準であって世界最強を誇り、世界でもっとも美しい。だから美しさと実用性をあわせるのに苦労しました。もっとも能力がなければ今も考えているところでしょう。」
やはり彼も能力者だった。前世の人間の能力を受け継いだパターンだろう。これは能力者の中で一番多い継承式。私のように計画的に突発的に出されたものとは違う。彼は先代の後悔や強い意思からこの能力を継承したに違いない。
「-まぁそんな感じです。この艦について他に質問は?」
「特にないですね。むしろ艦長室がどうなっているのか気になります。」
「ふふふ、では後ほどご案内しましょう。とりあえず艦橋へどうぞ。」
そういうと彼はタラップを上りだした。高所恐怖症でもある私は、リサにケツをつつかれながら、なるべく下を見ないようにタラップを上った。


登り終えたそこには20糎副砲、そして35粍機銃、155粍高角速射砲が郡が目入った。もっともも今はこれらについて聞いてる暇はない急いで平賀のあとを着いていかねばならない。彼はああみえて早歩きが得意なのであった。

「甲板が木で覆われている理由を知っていますか?」
突然平賀が聞いてきた。そう、部分的に近代的であるこの艦だが、甲板のほとんどが木で覆われていた。燃えやすい木をなぜ甲板に敷き詰めるのか私は理由がわからなかった。
「ははは、その顔じゃわからないって感じですね。木で覆う理由のひとつは足が疲れないためですよ。鉄の上を何度も300メートルほど全力疾走すれば足ががたがたになりますよ、それと艦内に極力熱を伝えないためです。太平洋上でこれは効果を発揮すると思いますね。もっとも木の下にさらに海水で冷却するように配管をしてあります。それにこの艦は全艦冷房付ですから兵の士気も高まるでしょう。」
笑みを浮かべながら話すその姿は子供が親の知らないことを説明しているかのようだった。
老けているがどこか幼い印象を受ける。これもまた能力者の特徴だ。
突き抜けている能力があれば、反対に人間はどこかが弱くなる。これは私の持論だが、どんなに優れている人間でも全てが優れているとはいえない。よく、勉強はできても体力がない人もいる、精神が強くても肉体が弱い人もいるだろう。そしてどんなに完璧な人間でも、内面で弱い人間もいる。私は人の能力はすべて100と考えている。その100を振り分け、おのおのの人間性や人格を形成しているのだと思う。とすると彼は設計や技術的な方面に振り分けられているのだろう。
話しているうちに艦内に到着した。真新しい艦内は塗装のシンナーの臭いで充満していた。リサはその臭いに耐えられないのかマスクを着用していた。
「換気システムの調整がまだ終わっていないのだろう。それさえ起動すれば一発でこの臭いともおさらばだ。じゃなきゃこの臭いで敵と戦う前に参ってしまう。」
「艦長、なぜ換気システムが備わっているとわかったのですか?」
平賀の突然の問いかけに私は自分でも驚いた。
「確かに私は天照の主要性能は説明しましたが、末端のそんな情報は話していません。」
「いや、たぶん僕の直感ですね。これだけ大型になると換気しないと艦内の二酸化炭素濃度が上がりますからね。もっとも船という箱の中で換気させるには人為的設計が必要。そう考えると換気システムがあるのかどうかわかりますよ。」
「そうですか…ならいいのですが。」
艦橋に上るエレベーター内部で私は一昔前に聞いたあの話を思い出した。

<能力融解>
能力者同士が過度に惹かれあうと、両者の能力が融解し、結合する。その後両者はそれぞれ今まで以上の能力を発揮するが、同時に理性と本能、感情を失い、ただの能力を発揮する肉の塊に成り下がる。
もっともそんな状態で能力を発揮することは不可能である。研究者が過去にこの能力融解をした被験者の延命、回復実験を行ったが全て失敗に終わったとも聞いた。そのため能力者同士の過度の交際は禁止されている。もっとも男同士ならばそんなことは起こらないだろう。
ちなみに能力者同士では共鳴反応というものも起きる。これはどちらか一方の能力者が相手の思考や記憶に触れてしまうというものだ。だから能力者同士で嘘や隠し事はできない。便利なのか不便なのかわからない。それがこの能力だ。総じてそれは同時に死ぬまで背負わねばならない宿命でもあるのだ。
エレベーターの数字が右に進む。そして〝1橋〟の文字で止まった。たぶんそれは第一艦橋を表しているものだろう。


ドアが開くとそこには開放的な空間が広がっていた。
操舵関係、主砲射撃管制系、通信系、策敵系、艦内損傷管理系の座席、そして中央には艦長席と思われる席があった。各所に2名ずつ配置されるのか、席はそれぞれ二つ。中央にはモニター郡が存在していた。外観からは近代的とはいえないがこの艦橋はそうではなかった。
「CICもありますが滅多に使わないでしょう。ここでも十分指揮ができます。もっともこれから艦隊戦などを行うときは嫌でもCICに赴くことになるでしょうがね。」
平賀は彼の席へ座っていた。そこには艦内の詳細な状況が表示されていた。バウソナーから艦尾操舵関係の図面。損傷を受けたときにすぐに把握できるような仕組みなのだろう。ダメージコントロール性能は高そうだ。もっとも私がうまく指示を出して被弾させなければいいことなのだがね。
「このくらいです。あとは艦内視察でゆっくり全体を理解してください。それと艦長室にこの艦の詳細なデータを置いてあるので目を通して置いてください。それでは私は最終偽装の指示があるので…。」
平賀はそういい、私に敬礼するとエレベーターで降りていった。艦橋には私とリサだけが取り残されていた。

「あーもぅ、私あの人苦手なんですよ!どうも人を小ばかにしているみたいで!」
半分空気化していたリサが突然叫んだ。それも誰もいない、ここぞというばかりの大声で。
「どうした…いきなり…。しかもまだ仕事中だ。私語は慎むんじゃないのか?」
「し…失礼いたしました艦長。」
職務を忘れるまでに嫌いなのだろうか。彼はいったい彼女になにをしたのだろうか…。少々気になってしまった。そんな一面を見せる彼女がどこか可愛く思えてしまう。いかん、私は艦長で彼女は副官。一線を越えてはいけない。

そうは思うが彼女は美しい。長い髪は歩くたびに美しく靡き、すらっとした体はどこか神秘的な印象を受ける。それほどの女性が私の副官になっている今の状況では職場上の立場を利用してあんなことやこんなことをしたいんだが。それこそ彼女のモーゼルで私の一億総息子が破壊されてしまうだろう。
「艦長?まさかと思いますが変なこと考えていないですよね?」
「も…もちろんさぁ!さて、では艦長室に行こうではないか」
「あ、艦長!あーもぅ!」
リサは不服な表情を浮かべていたが、私はそれを無視してエレベーターに乗り込んだ。
向かうは艦長室。これから私が暮らすところだ。


日記@BlogRanking
日記@BlogRanking


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お帰りなさいまし!! (typeR)
2008-01-23 21:43:15
ども。KJ高等学校放送部現部長の「TAKI」です。自分のブログの関係上「typeR」と名乗らせていただきます。

お久しぶりです!!お待ちしておりました!!早速の長文更新お疲れ様です!!

これからは、妥協なき「エースの生き様」を見せてくださいね(笑)
返信する