物語の中で、
牢獄に閉じ込められてしまった主人公は、
一日が過ぎる度、
壁に印をつけ、暦を見失わないようにする。
僕の部屋には、カレンダーも時計もある。
でも、生活の大半を、家の中で過ごしていると、
たとえ、インターネットで日付を確認できたとしても、
時間の感覚はだんだん鈍くなってくる。
発作と、忘却と、浅い眠り、
そして、薬のせいもあると思う。
いい意味でも、悪い意味でも、
現在進行形の生活だ。
たった数日、家の中に居ただけで、
もう、何ヶ月も、1Kのアパートに
閉じ込められていたような気持ちになる。
外に出るのが怖くなる。
明日は、通院の日だ。
電車に乗って、病院へ向かう。
明後日の火曜日の10:00には、
アルバイト先の端末に、
数字を入力しているはずだ。
その事実が、
僕には、よく理解できない。
熱した金属が、工場で、
薄く板状に加工される過程を想像する。
“熱した金属が”?
以前にも、一字一句同じ表現をしたように感じる。
これは事実なのか、錯覚なのか。
延び切った時間は、次第に冷えて硬くなる。
金属板は、手で曲げられるほど薄くもなく、
かといって、鋼鉄の弾丸を撥ね返すほどの厚さもない。
中途半端に丸みを帯びて
工場のローラーの上に横たわっている。
隅に、まだ、熱を持ち、
わずかに赤い部分がある。
きっと、そこが、今の僕だ。