歯科医物語

歯科医、現在 休養中、「木偶庵」庵主、メインサイト http://www.jiro-taniguchi-fan.com/

「ある 重度うつ病患者、Bさん」(H病院)

2021-03-31 00:17:43 | ☆歯科医物語

いつも、「歯科」には、車椅子で、お母さんに
押してもらって、来た。


お母さんといっても、もう70歳はいっている。
その女性の患者も、40半ば。
でも歳の割には、若く見える。
色白、ほそ面で、明眸。美人である。




でも、うつ病で、「外科入院」?なぜ。


理由は、食事ができない、食べることが出来ないため、
「胃ろう」を作って・・・・・、
つまり、お腹から、直接、胃まで、チューブをいれ、
食事を、胃に流しこんで、いたのである。
それだけのための入院であった。




お母さんは、こちらが、訊いたわけではないが、
「いろいろな事情」を、話してくれた。


「この子はねえ、
ひどい男につかまってねえ・・・・・。」


つまり、
結婚して、子供が1人あったが、
主人(男)が、愛人を、作り、
しかも、自宅に連れ込み、
この女性Bさんは、主人とその愛人の
食事も作ったり、世話をさせられていたというのである。
もちろん、子供の世話も。


断ると、主人から、
なぐられ、けられの、暴行を受けていたというのである。


結局、その子供さんが、
お母さん(おばあちゃん)のところに、
「おかあさんが、殺される~!」
と駆け込んだらしい。


このお母さんは、
男(主人)と、交渉し、
離婚させ、別のアパートに、
孫と、住まわせた。


それらにかかったお金は、全部、
お母さんが、出したというのである。




わたしは、聞きながら、
こんなことが、今でもあるんだ、
驚きと、悲しみで、いっぱいになった。




口の中は、虫歯だらけであった。
とくに、上の前歯が、1本だけである。


わたしは、どうしても、前歯が気になった。
いくらなんでも、女性である。
とりあえず、根だけになった歯を、
土台をたて、(仮の)白い前歯を入れてやった。




本当は、入れ歯を入れて噛める様に、、
して欲しかったかもしれない。
こういう場合が多い。
食べれないと、入れ歯さえ入れれば、
食べれると思うひとが多い。


しかし、こういう人は、
入れ歯さえ入れられない。
いれても、使えないのが、ほとんどである。




治療中は、普通の患者のように、
必死に、話しかけた。
しかし、Bさんは返事すらなかった。


こういう治療は、とても、つらい。
痛いか、痛くないか、
何を希望しているかも、わからない。


でも、何か、治療には、必死に
なってしまった。


結局、治療を、終えて、お母さんに
治療内容を、説明する。
毎回、その、繰り返しであった。






何回か、治療を終えたとき、
他の患者の、往診治療のため、
病棟へ行った。


目的の患者の大部屋へ行くと、
その、うつ病の女性、Bさんもいた。
お母さんは、いなかった。


わたしが、気がついて、
「アッ、こんにちは!」
と、声をかけると、


なんと!、ニコっと、微笑んだ。


それを、見ていた、看護士さんが、
「あれ~~!? 歯医者さん、わかるんだねえ!
このひとが、笑ったの
わたし、初めて見たよ~!」






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