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残念な、傑作…澤井信一郎監督『17才 旅立ちのふたり』

2007-06-13 02:13:09 | 映画
 映画が映画を飛び出すような映画。ある人の人生が、たまたま映画になってしまった映画。
 この映画に描かれているのは、生きている人間だ。残念なことに、なかなか見当たらない傑作が、澤井信一郎監督『17才 旅立ちのふたり』だ。

 主人公の一人は、里親に養われ、数年ぶりに実の父に会うのだが、再び里親の下で暮らすことを決意する。いま一人の主人公は、母親が若い男に金を貢ぎ捨てられ、町を出る羽目となる。

 育ててくれた里親に義理立てするわけでもなく、父親に失望するわけでもない。だらしない母親と町を出る少女は、「母親だから、私が支えなければいけない」などという気持ちを持っているわけではない。
 「わけではない」ことで人生を選んだ二人の描かれ方に、最近の映画には珍しく決定的に欠けているのは、ありがちなヒューマニズム。道徳的な感性。切っても切れない血の繋がりや、切っても切れない関係性を大事にする、といった感性である。
 この二人は、自分の人生を、自分の考えで決する。「超個人的な人生を歩む」映画なのだ。

 この映画は、世界を救うわけでなし、社会に警笛を鳴らすわけでもない。テーマを探し出すことは、難しい。
 どんな映画か言えば、監督本人が言うところの「人生の、17才というある時期を描いた映画です」ということが全て。主人公二人の17才の、ひとときが描かれるばかりで、それぞれの超個人的な記録だ。

 この映画を見ずに、他の映画を見れば見るほど、この映画が見たくなる。この映画が稀なことを確信する。
 そして、主人公の二人が、そこいらを歩いているように思う。人ごみの中、そのあたりの家の中、公開から数年が経っているので、子どもを生んで、その子の手を取って遊んでいるかもしれない。

 映画が映画を飛び出すような映画。ある人の人生が、たまたま映画になってしまった映画。
 この映画に描かれているのは、生きている人間だ。残念なことに、なかなか見当たらない傑作が、澤井信一郎監督『17才 旅立ちのふたり』だ。