私の父は、私が物心ついた時からずっと、自分の血を吸っている蚊さえも殺さない様な人です。この間も食事中に、名前も分からない様な小さな虫が、父の前にうるさく飛んでいて、それを父は「おー、よしよし。何でも好きな物を食べろ。」と言い、手乗り文鳥の様に手にとまらせたり、肩にとまらせたりした後、そーっとつまんで外に逃がしていました。網戸を開けている時間が長くて、他の虫達がいっぱい入って来ていたけれど。 この間、地元のとある店に入ろうとした時、入り口の所で、地面にバタバタしている白い物体を見つけました。２ｍくらい近づいた時、それが私の一番苦手な虫…蛾!!で、しかも５ｃｍくらいの大きな蛾だと気付き、足がすくんだ様になって動けなくなりました。少しした時、「蛾だねぇー！」と、中年の女の人の声が聞こえ、顔を上げて見たら、その人は、なんのためらいも無くツカツカとその蛾に近寄り、その蛾を踏み潰しました。…私は悲鳴を上げてその場を逃げました。でもね、私の苦手な虫でも、別に害を加えられた訳じゃないし、少しも死んで欲しいなんて思っていなかったんです。命に尊卑は無い!!…でもきっとあのおばさんも、私が困っていると思ってやったのかも。と思うと、おばさんを責める気にはなれないけれど。