● 菅義偉・官房長官が「企業版ふるさと納税制度」の導入を検討しているのだそうです。2015年6月29日付けの各紙は、同長官が講演会で明らかにしたと報道しています。企業の剰余資金を地方活性化に活用したいのだとか。その趣旨は理解できます。しかし、地域経済や地方財政への影響という点ではどうでしょうか。
● わが国では、国税と地方税を合計した、いわゆる法人実効税率の引き下げが進められています。数年前まで40%を超えていましたが、現在は34.6%まで低下しました。これを主要国並みの「20%台」にすることが当面の目標とされています。このうち法人税(国税)分は23.8%まで引き下げられています。問題は10.8%の地方税分です。
※ 法人関係の主な地方税として、都道府県の法人住民税と法人事業税(2013年度の税収は計3.5兆円、都道府県税収入の23.8%)、市町村の法人住民税(2.2兆円、市町村税収入の10.5%)があります。このほか法人事業税の一部を国税化して、地方に再分配する地方法人特別税・地方法人特別譲与税が2兆円あります。2013年度の法人税収入は10.5兆円ですので、国税・地方税を合計すると、少なくとも18兆円が法人関係です。これは所得税(国税)収入の15.5兆円、消費税・地方消費税収入の13.4兆円を上回る規模です(これら以外にも、政令指定都市などが設置している事業所税収入が0.3兆円、東日本大震災復興のための復興特別法人税が1.2兆円)。
● 法人関係税のうち地方税分を引き下げるためには、法人住民税や法人事業税の税率を引き下げて、代わりに地方消費税の税率を引き上げるという選択が現実的と思われます。よく「企業はもっと税負担をすべき」という意見が聞かれます。これは心情的には理解できるのですが、法人関係税を負担するのは、最終的には被用者あるいは消費者です。企業に税と社会保険料の負担を求めすぎて、雇用と所得の機会が失われてしまっては元も子もありません。むしろ地方税については、現在でも企業に負担を強いている面があります。標準税率を超えて課税する超過課税は、地方自治体が最も特徴を発揮できる租税のひとつです。2013年度の場合、都道府県・市町村合計で5.3兆円の超過課税収入があるのですが、このうち4.7兆円は法人関係です。いわば「取りやすいところから取る」といわれても仕方なさそうです。
● そこで、地方の法人関係税(少なくとも合計で7.7兆円)の半分を地方消費税に移行させるとすれば、消費税率1.5%に相当します。これを消費者と企業とが薄く広く負担することになります。消費税は、法人関係税に比較して地域間の格差が小さく、景気変動に相対的に左右されにくいという特徴を持っています。これらは地方にとって有利といえます。
● 「企業版ふるさと納税制度」というのは、このような動きにどうも逆行するのではないか。しかも「個人版ふるさと納税制度」と同じく、寄附をした企業に対して法人住民税の軽減措置が検討されているようです。これは、地方自治体間での不毛な競争を招くおそれがあります。地方法人課税の最ももっともらしい課税根拠である「応益負担」にも抵触しそうです。寄附をした企業については、「法人税(国税)を軽減すれば、地方税収入に影響しないのではないか」という考えもあるのでしょうが、法人税(国税)は地方に再配分される地方交付税の重要な原資です。それが減ることは望ましくありません。
● そんなわけで、企業の剰余資金を地方活性化に活用したいというのが本来の趣旨であれば、「企業版ふるさと納税制度」をつくるより、国内外の企業が投資を拡大したいと考えるような魅力ある条件整備に努めるのが正論のように思えます。