● 続けて私事ながら、母がショートステイを利用して7日目のことです。救急車で搬送されたとの連絡をうけて、あわてて病院に駆けつけました。血液凝固に伴って血栓のおそれがあるとのことでしたが、おかげさまでその後の容態は安定しています。この病院の医師、看護師たちは、明るく熱心で献身的です(これは、介護施設のスタッフの方たちも同様です)。母を担当している若い医師に至っては、私たちが付き添いに行っている土・日にも病室を訪れて状況説明をしてくれました。ほんとうに頭の下がる思いがします。
● 2週間連続して週末を病院の中で過ごして気がついたのは、方言が飛び交っているということ。もともと患者の大多数は地元のお年寄りです。医師以外の医療スタッフの多くも地元生まれだと思われます。患者たちと医療スタッフの方言だらけのやりとりを聞いて懐かしく、ほほえましい思いがしました(九州生まれの私の配偶者には、理解困難な言葉や表現が少なくないようですが)。
● 医師と患者のあいだの情報は非対称的です。患者の側からは、医療に対する信頼を媒介にして専門的知識にかかわるギャップの問題を解消しえます(いいかえれば、詳細が分からなくても困るわけではありません)。ところが医師の側は、不完全な情報のままでは治療を進めることができません。本人や家族から可能なかぎり情報収集に努める必要があります。このとき患者にしてみれば、慣れ親しんだ言葉のほうが症状を説明しやすいでしょうし、同じ方言で医師や看護師から対応してもらったほうが安らぐであろうことは想像にかたくありません。実際、初めての土地に勤務する医師は、病状に関する当該地域固有の表現をまずは学ぶという話を聞いたことがあります。たとえば中国地方西部には「はしる」という独特の言い回しがあります。これなどは「鋭く刺すように痛む」という表現に置き換えられない含みが感じられます。