一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

ふるさと納税制度に降参

2015-01-06 23:00:00 | トピック

● 地方創生の一環として、新年度から「ふるさと納税制度」(ふるさと寄附金制度)が拡充されるようです。たしかに、やりようによってはおもしろい仕組みだとは思います。とはいうものの、地方創生につながるかどうかは分かりません。同制度の趣旨のひとつは、大都市圏から地方圏へのお金の流れを促進することとされています。では、実際にはどうか。

● 総務省は、ふるさと納税による寄附金額と控除額を居住地ベースで集計して発表しています。あくまで参考値なのですが、人口1人あたり寄附金額を計算してみました(ふるさと納税の寄附金額は2013年、人口は2013年3月31日現在、税収は2012年度)。すると、東京、大阪、神奈川、滋賀、京都、千葉、愛知という大都市圏とその周辺の都府県が上位に並んでいます。その一方で、富山、北海道、宮城がトップ10に入っています。また、都道府県と市町村を合計した個人住民税収入に対する控除額の割合 ── これは自治体の側からみれば「租税流出率」といえます ── が高いのは、おおむね前掲と同じ都道府県ですが、滋賀と愛知が番外となり、代わりに奈良と兵庫がランクインしています。地方圏のなかではやはり北海道、宮城、富山がトップ10入り。人口1人あたり寄附金額の高い大都市圏の7都府県の寄附金額を合計すると、全体の58%を占めます。これは大都市圏から地方圏へのお金の流れを映し出しているようにもみえますが、大都市圏相互でのやりとりもあるでしょうから、これだけではなんともいえません(残念ながら、着地ベースの数字は公表されていません)

● 総務省は、寄附金に対する「対価」をめぐる「支出競争」を抑制しようとしています。ところが都道府県・市町村は、ややもすると乗らなくてもよい神輿に乗せられてしまいがちです。ふるさと納税への「対価」を支払うための広義の費用を積み上げていけば、実際に使えるお金はそんなに残らないかもしれません。寄附者がなにか「対価」をもらったからといって、次回からそれを買ってくれるリピーターになるかどうかは不透明です。都道府県と市町村を合計した「租税流出率」は、現在のところ高くても0.05~0.06%ですので、大勢に影響はないのでしょうが、一部の都道府県・市町村の騒ぎと相まって消費者も神輿に乗せられてしまえば、貴重な居住地の地方税収入がさらに減ることになりかねません。

● もっと気がかりなのは、ふるさと納税制度の拡充に伴って、確定申告が必要ではなくなることです。現行制度のもとでは、A地域の住民がB地域に寄附をした場合、確定申告をすれば当該年度の所得税が還付されるとともに、寄附金額に応じてA地域の翌年度の住民税が控除されます。これが確定申告をしなくて済むというのは、つまりは中央政府の懐を痛めないということ。地方政府間でやりとりをするだけですので、全体でみればよくてゼロサム、へたをすればマイナスサムに陥るおそれがあります。

● 都道府県・市町村の本来の仕事は、地方税収入を獲得して必要な行政サービスを供給すること、それを次の税収につなげていくことのはず。人口減少と高齢化、産業構造変化などに伴って、ただでさえ税源が衰退するなか、余計な「支出競争」に気を取られて、希少な行政資源を費消するのは望ましいこととは思えません。確定申告をしなくてもよいという今回の変更を提案した官僚たちは、地方政府間のあまり意味のない競争をみてほくそ笑んでいるのではないかと疑りたくもなるという意味で、今回の制度の拡充にはとにかく感服、降参。