● いわゆる「平成の大合併」は1999年度に始まりました。本格化したのは2004年度からです。それから10年が経過しました。合併を経験した市町村では、今後、合併に伴う特例措置が否応なしに剥がされていきます。合併を経験した市町村は、もともと厳しい条件に置かれていました。たとえば2002~09年度における人口の変化についてみると、非合併の367都市では0.4%減にとどまったのに対し、合併した419都市では3.3%減でした。09年度の人口1人あたり地方税収入も141千円対123千円の格差があります。他方、この間の地方債現在高は、非合併都市では5.2%減であったのに対し、合併都市では逆に4.9%増。その結果、09年度における人口1人あたり地方債現在高は375千円対506千円、さらに人口1人あたり普通交付税は67千円対114千円と、合併都市が大きく上回っています。
● 合併市町村に対しては、地方債の発行と普通交付税の算定に関する特例措置が認められました。そのせいで、合併市町村の歳入はいびつな「水ぶくれ」状態といえます。入れば当然、出ずることとなります。東日本大震災の発生を機会に合併特例債発行の期間が延長されたこともあって、いまなお新庁舎の建設などを進めようとしている市町村も少なくありません。特例措置の期限切れが迫るなか、合併市町村の救いとなったのは、普通交付税を通常の水準に引き戻す「一本算定」が緩和されたこと。2014年度から3ヵ年の間、支所の経費が基準財政需要額に加算されることになりました。2015年以降はさらに人口密度や面積も考慮され、普通交付税は当初予定されていたほどには減額されない見通しです。
● 合併市町村はもともと厳しい条件に置かれていたことは理解できます。しかし、今回のような事後的なルールの変更、いわば「ソフトな予算制約問題」には複雑な思いにならざるをえません。合併市町村のせっかくの努力や危機意識を水泡と化し、規律を有名無実化してしまいかねないからです。
● 少し前にご紹介したように、人口構成の変化から基準財政需要額・収入額を推定してみました。消費税率10%という前提条件であっても、15~64歳人口の減少に伴って、2025年には1,592市町村(東北3県を除く)のうち1,479市町村で基準財政収入額が減少、うち174市町村ではゼロになることが見込まれます。これに対し、65歳以上人口の増加により、1,280市町村では基準財政需要額が増大します。その結果、「基準財政需要額-基準財政収入額」で計算した普通交付税対象額は2010年の6.2兆円(注)、2025年には12.0兆円にほぼ倍増するとみられます。普通交付税の純増6兆円というのは、約20兆円程度の国税原資を新たに必要とする規模です。その一方、財政的に余裕のある普通交付税の不交付団体は60市町村から10市町村に減少する見込みです。つまり、ほぼすべての市町村で需要額が収入額をはるかに凌駕しても、それを補填する仕組みはもはやない ── という状況があと10年くらいで現実化するかもしれないのです。
[注]合併市町村に対する普通交付税の算定替などが加算され、1,592市町村に対する2010年度の普通交付税交付金は、実際には7.0兆円に達しています。