一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

地方交付税の原資がない

2014-07-29 23:19:00 | トピック

● いわゆる「平成の大合併」は1999年度に始まりました。本格化したのは2004年度からです。それから10年が経過しました。合併を経験した市町村では、今後、合併に伴う特例措置が否応なしに剥がされていきます。合併を経験した市町村は、もともと厳しい条件に置かれていました。たとえば2002~09年度における人口の変化についてみると、非合併の367都市では0.4%減にとどまったのに対し、合併した419都市では3.3%減でした。09年度の人口1人あたり地方税収入も141千円対123千円の格差があります。他方、この間の地方債現在高は、非合併都市では5.2%減であったのに対し、合併都市では逆に4.9%増。その結果、09年度における人口1人あたり地方債現在高は375千円対506千円、さらに人口1人あたり普通交付税は67千円対114千円と、合併都市が大きく上回っています。

● 合併市町村に対しては、地方債の発行と普通交付税の算定に関する特例措置が認められました。そのせいで、合併市町村の歳入はいびつな「水ぶくれ」状態といえます。入れば当然、出ずることとなります。東日本大震災の発生を機会に合併特例債発行の期間が延長されたこともあって、いまなお新庁舎の建設などを進めようとしている市町村も少なくありません。特例措置の期限切れが迫るなか、合併市町村の救いとなったのは、普通交付税を通常の水準に引き戻す「一本算定」が緩和されたこと。2014年度から3ヵ年の間、支所の経費が基準財政需要額に加算されることになりました。2015年以降はさらに人口密度や面積も考慮され、普通交付税は当初予定されていたほどには減額されない見通しです。

● 合併市町村はもともと厳しい条件に置かれていたことは理解できます。しかし、今回のような事後的なルールの変更、いわば「ソフトな予算制約問題」には複雑な思いにならざるをえません。合併市町村のせっかくの努力や危機意識を水泡と化し、規律を有名無実化してしまいかねないからです。

● 少し前にご紹介したように、人口構成の変化から基準財政需要額・収入額を推定してみました。消費税率10%という前提条件であっても、15~64歳人口の減少に伴って、2025年には1,592市町村(東北3県を除く)のうち1,479市町村で基準財政収入額が減少、うち174市町村ではゼロになることが見込まれます。これに対し、65歳以上人口の増加により、1,280市町村では基準財政需要額が増大します。その結果、「基準財政需要額-基準財政収入額」で計算した普通交付税対象額は2010年の6.2兆円(注)、2025年には12.0兆円にほぼ倍増するとみられます。普通交付税の純増6兆円というのは、約20兆円程度の国税原資を新たに必要とする規模です。その一方、財政的に余裕のある普通交付税の不交付団体は60市町村から10市町村に減少する見込みです。つまり、ほぼすべての市町村で需要額が収入額をはるかに凌駕しても、それを補填する仕組みはもはやない ── という状況があと10年くらいで現実化するかもしれないのです。

[注]合併市町村に対する普通交付税の算定替などが加算され、1,592市町村に対する2010年度の普通交付税交付金は、実際には7.0兆円に達しています。


ぶつからずに歩く

2014-07-04 23:23:23 | トピック

● 渋谷のスクランブル交差点のような仕組みは、東京以外の主要都市でもみられます。日本人にとっては珍しくないのですが、慣れない外国人にとっては無事に横断するのに骨が折れるようです。私たち日本人は、意識するかどうかにかかわらず、向こうから近づく歩行者の動きを自然に読み取り、相手もこちらがそのように行動していることを自然に読み取っているのだろうと思います。「他人は自分がどうすることが期待されていると期待しているか、各人のその期待の焦点」、いわゆる“シェリング・ポイント”または“フォーカル・ポイント”が共有されていると考えられます。

● ところが、この均衡をゆがめる行動が増えているような気がします。たとえば、スマホを見ながらの歩行がそうです。あるいは紫外線防止のためでしょうか、顔を覆う大きなサンバイザーを付けて自転車に乗っている人もそうです(なぜかほぼ間違いなく女性なのですが)。いずれも本人は周囲に気を付けているつもりなのでしょうが、すれ違う相手にしてみれば、相手の目線などが見えないだけに、ぶつかりそうな不安を覚えます。


地域振興商品券を売りさばく

2014-07-01 23:09:00 | トピック

● 競艇や競輪の還元率は 75% です。つまり、10,000 円払って 13,333 円の金券を購入していることになります。これと対照的なのが地域振興商品券。地元購買を促進するため、たとえば 11,000 円分の金券を 10,000 円で売り出します。

● 2014 年 6 月 20 日の「中国新聞」に、地域振興商品券に関する記事が出ていました。ある地方都市の商工団体が 7%のプレミアム付き商品券を売り出したところ、売れ行きが芳しくないとのこと。前回2009年には 15%のプレミアム付き商品券の販売が好調であったのに対し、今回は不振。その理由として、プレミアムが低下していること、有効期間を約 160 日から約 100 日に短縮したこと、前回の 1 人 3 部の販売から今回は 1 人 1 部に限定したことがあげられていました。

● このケースの場合、10,000 円での販売価格は前回の 8,696 円から今回は 9,346 円へ約 7.5%の上昇。しかも有効期間が 40%近く短くなっていますので、「体感的な上昇率」はもっと高いと想像されます。さらに、消費者の「学習効果」も考えられそうです。実質的に値上がりしたうえ、「期待したほどでもなかった」という前回の体験が重なっているとすれば、今回の地域振興商品券を円滑に売りさばくのは難しいかもしれません。