1. はじめに
1.3 代謝と循環のための駆動力
緑の地球は水を循環させ、炭素、酸素、窒素、リンを循環させ、地球上に多様な生命を育み、更には生物の体内を代謝している。この地球の水や炭素や酸素や窒素やリンが、循環するには、それぞれの工程に於いて、エントロピー逆走のためのエンジン(駆動力)が存在している。すなわち、地球上での元素の循環や体内での代謝は、エントロピーの増大に任せていては、成立し得ない。
代謝は、体がエントロピーの法則によって、無秩序への混乱が生ずる前に先回りして、血液が体内を循環しなから、体細胞を再生している。さらには、生命体は種として進化し多様化する生物の駆動力すなわちエントロピー逆走エンジンは何であろうか。
生命の世界を観察すると、花は昆虫に花蜜や花粉を供給し、昆虫は花粉を雌しべに運び、更なる花蜜を植物に要求する。菌類と樹木の根の関係では、菌類は窒素とリンを植物が吸収出来る形で与え、樹木は光合成した糖分を菌類に与える。菌類は、植物に対して糖分を要求し、樹木は窒素分とリンを菌類に要求する。
動物の食欲は、細胞内のミトコンドリアが、ATPを生産するために、糖分を要求する。さらに腸内の大腸菌や乳酸菌が、食物を要求することによって、生命の駆動力である食欲が生じていると考える。
又動物の雄と雌の関係に於いて、精子と卵子の要求が、交尾への駆動力となっていると考える。個体と精子、卵子の関係は、生成される時点で、その個体とは、半分以上が他者であり、その個体に対して、食欲や交尾を要求していると考える。これらのことから、生命は共生する生命相互の作用が、生命のエントロピー逆走エンジンと仮定される。
代謝(metabolism)とは、生命維持のために有機体が行う一連の化学反応のことである。代謝は、大きく異化(catabolism)と同化(anabobolism)の2つに区分される。異化とは、有機物を分解することによってエネルギーを得る過程であり、同化とは、この逆で、エネルギーを使って有機物質を合成する過程であり、例えばタンパク質と核酸の合成である。 (第3回)
1. はじめに
1.2 エントロピーとは何か
エントロピー(S:entropy)
乱雑さ、無秩序、混沌、使用不可能なエネルギー量であり、ある系に於いて、自発変化(Spontaneous change)外部から何ら仕事を加えなくても起こる変化。
たとえば、ビーカーに入った水に水溶性のインクを1滴たらすと、インクは全体に広がり薄まる。しかし、その反対に薄まったインクが集まって1滴のインクになることはない。
又別の例として、白い米1Lと赤い米1Lを仕切りのある箱に、それぞれを左右に入れて、仕切りをゆっくりと引き上げると左に白い米1Lと右に赤い米1Lとして存在する。これをゆっくりと揺するとしだいに、ピンクの米2Lとなり、白い米粒と赤い米粒は混ざり合う。いくらゆすっても元の白い米と赤い米が左右に分かれることはない。
S=KbInW 微視的状態の数(確率)Wの自然対数に比例する
Kbは、ボルッマン定数 1.381*10‐23JK
ΔS=KbIn(P2(状態2の確率)/P1(状態1の確率))
すなわち、稀な確率P1から、より大きな確率P2へすなわちエントロピーΔSは不可逆的に増大する。
一方熱力学的なエントロピーの定義は
ΔS=dQ/Trev >= dQ/T 系に出入りした熱QをTrev(可逆) 融解や蒸発の絶対温度で割る
エントロピーは、本来は乱雑な、無秩序な方向に向かい、太陽からの光エネルギーを受けても、単に温度があがるだけで、秩序ある方向へは向かわないというのが、エントロピー増大の法則であるが、地球は、水と生物と太陽によって、熱力学の第二法則が存在しているにもかかわらず、エントロピーに逆走しているように見える。
このエントロピーに逆走しているエンジン(駆動力)を探って行きます。エントロピーを考える時、温度について定義する必要がある。温度は、気体分子の並進運動エネルギーに比例し、分子が静止した状態を絶対温度0K(ー273度C)とする。すなわち、温度は絶対零度以下になることはない。(第2回)
1. はじめに
1.1 シュレデンガーの考察
宇宙全体や物質の基本的な運動が、大局的にはエントロピーの増大に向かっているのは良く知られている。 どんな物質も放っておけば無秩序な状態に向かい、周囲の環境と区別がつかなくなっていく。
ところが地球上の生命活動は、これとまったく逆の現象が起こっているように見える。 生命は生物体として熱力学の原理に逆走するかのように秩序をつくり、これを維持させたり、代謝させているのだから、無秩序すなわちエントロピーの増大を拒否しているようなのだ。
生物もやがては死ぬのだから、大きくいえば熱死を迎えることになる。しかし、生命体は個体として、生命活動をしている間、ずっとエントロピーを減らし、なんとか秩序を維持しようとしているようなのである。これをいいかえれば、生命はエントロピーに逆走しているということである。そればかりか、たいていの生物は独特の生殖活動をして次の世代にその大半の仕組みを継続させている。
個体は次々に、熱死を迎えても、たとえば種や属というくくりでみると、多くの種や属は、時空間をまたいで、エントロピーに逆走している。これはやはり、生命はエントロピーに逆走しているといわざるをえない。
たったこれだけのことだが、この指摘は生物というシステムの本質を突いていた。そしてエルウィン・シュレディンガーという才能が恐るべき洞察力の持ち主である。本書は、シュレディンガーの連続講演の主旨「生きている生物体の空間的境界の内部でおこる時空間的な現象は、物理学と化学によってどのように説明できるか」というものだった。
シュレディンガーがこの主旨に挑戦した理由はあきらかである。それまで生命活動の秘密を物理学が言及できたことは、ただの一度もなかった。生物が物質で構成されていることは、解っているにもかかわらず、構成要素も物質だし、遺伝子も物質であるにもかかわらず、その物質のふるまいを記述すべき物理学は、生命の秘密にはまったく言及できないままだった。(松岡正剛 シュレディンガー「生命とは何か」の読書日記より)
一個体の生命体がエントロピーに逆走し、生物の種としてエントロピーに逆走し、地球上の生命体の食物連鎖と共生によってエントロピーに逆走して、熱帯雨林やサンゴ礁による生物多様性の世界を形成している。地球上の水、土壌、すべての生命体を、炭素や窒素、水素、酸素は循環しながら、エントロピーに逆走している。(第1回)