ハニカム薔薇ノ神殿

西南戦争の現地記者の歴史漫画を描いてます。歴史、美術史、ゲーム、特撮、同人誌の話他

未だに解せない記憶とマグリットの絵

2018年06月04日 | 文学・歴史・美術および書評
もう何十年も前の話、いい加減、過去の記憶はどうでもいい。
「今」が大事であって、考えても仕方ない…
と、思いつつもふと、自分の体験にリダイレクトしてしまうもの、てある。
特に、「美術」においては。そういうものまで想起させる力があるから

これだから、美術は怖い。まるで悪魔召喚の魔方陣だ。


ルネ・マグリットの絵画にはこんな風な
「覆面」の人物が描かれる。



研究者は、この「覆面」はマグリットの幼少期の体験に基づいているのではないか、と読み解く。

マグリットが1898年生まれだが
14歳の時、母親を入水自殺で亡くしている。
その時の母親の顔には白い布が絡まっていて、結局死に顔は見れなかったらしい。

この話、不思議と私の記憶とどっかでつながる。
まず、母親を亡くした年齢が同じだ。

そしてもう1つ、母親の死に顔を見ていない。
私の場合は、父が「お前は来るな」と言ったので、とうとう病室に入れてもらえなかった。
理由はなぜか聞いたけど「お前は頭がおかしいから、きっと病室で騒ぐだろうから、迷惑」
というような答えだった。
そのまま数日後、葬儀となった。

私は決して騒ぐまい、おとなしくしなければと気をはっていたのだけど
今度は、親戚から
「あの子、鬼だね。母親が死んだのに泣きもしないよ?」
て言われるのを聞いてしまった。

もうそうなると、14歳の私はどうしたらいいのかわからない。
結局、自分も母親がどう死んだのかは知らない。

ただそれ以降の自分は「死」というどうしても解せないものと
どうしても解せない、「大人」「世間」と、嫌が応でも向き合わねばならなくなった。
何にせよ、すべて謎しかない。
そんな謎に挑む暇なんか、常識的な社会の学生時代では期待されてはいないのだから厄介だ。
苦しんだ、と言って誰が理解などしてくれようか。


ルネ・マグリットはその後、破天荒でもなんでもなく
グラフィックの仕事をしながらあくまで小市民として真面目だったらしい。

でも、アートなんかに傾倒する者が本気で真面目なわけがない。
マグリットの作品の本質はパロディだ。
隠しながらナチスも批判している。

なぜ唯物的なのか?
コラージュ的であり、物質的だ。
アメリカのサブライム抽象と、ヨーロッパ1930年頃のものの決定的な差は
「死」と「象徴」があるか無いかだ。

そこにあるのは「自己」の有無を問い直す姿勢なのだと私は思う。
つまり、れっきとした「主体」サブジェクトを大声でアピールし誇れる存在は
元より、何も自分の主体を疑う必要がなかった、ある意味幸せな存在だなと思う。


マグリットは、ダダ・シュルレアリスムの画家とされている。
近年は「ダダ」と「シュル」は地続きということで、この2つは別物として分類せずに
時代と共になだらかにシュルへ変遷して行った、という見方が強い。
が、あえてマグリットを、
「シュルレアリスム宣言」した本人であり、生粋のシュルレアリストの詩人ブルトンと比較するならどこが違うか。


決定的に、マグリットは「宣言」などしない。ブルトンは宣言する。
なるほど、2人はウマが合わなかったらしいが、もしそれを今らかに例えるなら
マグリットはTwitter的であり、ブルトンはフェイスブック的なのだろう。
実際、ブルトンは洒落た格好で写真撮りまくっているが
マグリットの方は顔を隠した写真を撮ってるのだから、外れてはいまい。


ダダほどに虚無感は無いにせよ。
ダダイストには共通点がある。
(それを概して、精神医学で何障害と名付けるのかは知らないが)

要するに、「死」をどこかで垣間見てしまった。
あるいは自己の無意味さに興味を持つほどに、周囲に否定された。
おそらく、最も人々が「健全な社会生活」を営むために
隠したい、忘却しておかねばならないとする「自己」と「死」の謎の扉を開けてしまっている。
しかも自分で閉じれない。



その、マグリットを理解する思想家にミッシェル・フーコーがいる。
管理システムや、「表面」的な社会と「自己」
このフーコーの思想には私もずいぶんと惹かれた。


主体は最初からあった。
感じてる自己も、喚きたい自己も。
ただ、厳しい「社会規範」がそれを許さない。


むしろ、顔、自己を隠している恋人同士の方が上手くいく…

「本当の自分」と仮面をつけた自己
理解してもらえない本音
人を取り巻き、押し流していく時代や社会に同調する考え。




マグリットもフーコーも、ただ私の過去の解せぬ謎を蒸し返すだけ、なわけではないのだろう。
おかげで出会える文化というのも、この世にあったというわけ。


一文の得にもなりはしないが
それは、死と社会と自己という
時空を超えて「解せない謎」で結ばれている。




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