ハニカム薔薇ノ神殿

西南戦争の現地記者の歴史漫画を描いてます。歴史、美術史、ゲーム、特撮、同人誌の話他

「アホか~考えろよ」ってクマたんに言う私…orz

2007年11月18日 | こばなし(超短編小説)
「いったい何考えてるのよ、少しはちゃんと考えなさいよ! バカなの?
私がこんなに何度も繰り返して言ってるのに、どうしてわかんないの?
話きいてくれたっていいでしょう?」

あいこは怒鳴り続けていた。それも、ベッドに置いた巨大なクマのぬいぐるみに向かって。
「何やってんの?」
隣の部屋にいた姉の理恵が入ってきて、呆れた顔で見た。
「…その…無駄だと思ったからよ。つまりね、無駄。
どんな言葉を書いても、どんなに私が本当の事を言っても
きっと、テディベアに向かって叫んでるのとかわらないんじゃないかって」
「どういう事?」
「ブログですよ。こんなのどうして誰が発明しちゃったのかなって事」
ベッドの脇にノートパソコンがある。なるほどね、と思う。
「荒らされたとか?」
「あらしってよくわかんない。どこまでどう許せなかったらそうなのか…
だから、こんなもの無かったらって。
だって、私がどんなに一生懸命になってみたところで、途方も無く無駄って気がしてきた。
他の人のブログへの誘導とか、オナニーがどうのっていうコメントしかつかないし」
「ブログの女王めざしたきゃ、自分の写真のせたり、もっと日常さらけだしたり
トラックバックつけまくるとかしなきゃね」

「だって、今日何食べたとか、今日服を買ったとか、そういう事は私にはどうでもいいんだよ」
「何、日記じゃないの?」
「うん、詩を書いてた」
理恵はひょいと、クマの横に腰掛けた。

「他の人にはどうでもよくはないのかもね」
「どういう事?」
理恵は冷静に言った。
「うん、他の人は、アンタと違って平凡の中に生きたがるのよ。
平凡の中に生きたがる、ってどういう事だと思う?
そういう人が欲しがるものは、かわいい猫の情報だったり
おいしいラーメンの事だったり、それこそセックスに関する事だったり。
そうして、平凡な人は食べたり、オシャレしたり、エッチしたりして日々暮らしているわけよ」
「じゃあ、私はなんで…そういうのどうでもいいって思っちゃうんだろう?」
「それは…とても不幸かもしれないね。不幸に生まれついたんだよ。
でもね…詩人というのはそういうものじゃないかな。
必死に伝えたがるけれど、どこか皆とは遠くにいる。
自分を救う幻想が必要で、闇に向かって私はここにいるってことを叫びたがって。

本当の言葉というのは、そういう所にしかないのかも。
でも、誰でも書けて、誰でも見るという事はね…
多数のためのものになっちゃうわけよ。
いつも叫ばれたらウザいなって思っちゃうのよ。
癒されたいけど、どうにもならない意見ならいらない。

アンタが昔っから好きだった…何人かの詩人や文学者なら、
救われない魂を救ってくれたかもしれなかったけれど。
Webで言葉の消費される時代ではちょっとね」

「クマに話してた方がいいのかな?」
「うーん」
メガネのずれを指で修正しながら、理恵は言った。
「めげずにもうちょっと続けてみたら?
エロコメント見るの嫌なら、私がやってやるよ。
本来、書かれなくちゃいけない事ばかりが消えていくってのはなんだかね。
クマに言うよりは…まだ可能性まで死んだわけじゃないでしょ」
「でも…」
「書いた人にしか、現状は創れないよ」
姉の言い方、なんでそうも自信あり気かなとあいこは思う。
目指したものは、なんでこんなに困難なのさ。

(そーかなあ、そーかも?
まあいい、仕方なくあいこさんは今日も、叫んでも仕方ない詩を
世界の中心でクマと共に叫びますよ)

+++END+++
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藤堂平助と三浦常次郎

2007年11月12日 | こばなし(超短編小説)
これだけカテゴリのある所に来たのに、「歴史」のカテゴリが無かった。
どういう事だろう…。

ところで、ヨーロッパの美術史を読んでましたが、そろそろ龍馬・中岡・高台寺党の諸先生方の命日
龍馬さんはハピバスデーvという事で、しばし幕末にも戻ってみたりします。

坂本龍馬の所に「新選組がねらってるから気をつけて」と言いに行った直後
命を落とす事になる伊東甲子太郎と藤堂平助。新選組から離党した彼らが本拠地としたのは高台寺月真院でした。

高台寺月真院は以前は宿坊やってたのですが、ホテルじゃないから座禅だの掃除だのしないとダメなんですよね…
(それはちとパス)
泊まるどころか、いつも前通るだけです。

------
すでに、新選組の屯所を去り、高台寺月真院に移った伊東ら一派。
東山は紅葉で朱を散らしたように染まるも、遠景は尚、浅葱色にけぶっている。

藤堂平助は前庭の池の前にたたずんでいた。

(古くからの仲間にたとい裏切り者と呼ばれようと
伊東先生について来た事…それは私が見つけた士道なのだ
一人の志士として、私はそれに背く事はできないんです、わかって、土方さん…)

どこまでも伊東についていく。
私は小さな新選組という組織のためなんかじゃない、国のために在り、尊王攘夷を貫く。
そう誓った。

(ひとつだけ、気がかりといえば、新入隊士の三浦君だ)

三浦常次郎は見ていて妙にあぶなっかしかった。気合いだけは一人前。
「いつか見てろ 俺をバカにするな! 」
石灯籠に寄っかかってそう叫んでいたのを見たのが最初だった。
側を嘲笑いながら、大石鍬次郎らが去って行った。
新選組で、藤堂平助は八番隊を率いていた。後輩らの面倒をみる責任がある。
懐紙を出して口元の血を拭いてやろうとすると、三浦はつい、と突っぱねた。
「惨めになるだけです! …チクショウ、強くなりたい…強くなりてぇよ!」
その顔は、悔し涙でぐしゃぐしゃだ。

そんな風に何にでもつっかかり、逸るあの姿は…自分が京に来た頃と重なった。
背が低いの色白だの、さんざん馬鹿にされては、いつか見返してやる、そんな事ばかり考えていたな
と、思うとなんだか気恥ずかしくもあり、笑えてくる。
あれ以来、三浦には稽古をつけたり、土方に内緒で五文貸したり、相談にのったりと色々面倒みてやっていた。
藤堂は随分、大人びた顔をするようになっていた。

十八日、夕七つ。
裏山でやけに鴉が騒ぐ。ずっと遠くで幽かに「エエジャナイカ」の騒ぎが聞こえてる。

胸騒ぎ。
…伊東先生、大丈夫だろうか?
いいや、絶対にそんな事は無い、近藤先生や土方さんは、そんな事はしやしない…きっと。
だけど何故だ、こんなにも紅葉葉が血の色に映えるのは…
いいや、夕焼けのせい。
そうだ、先生は仰ったではないか、笑って…
「なあに、大丈夫だよ、ちょっとお金の話をしに行くだけだから」
私はそれを信じないつもりなのか?

ーーーーーー
その日、暮れ六ツ。
月真院に衝撃が走った。伊東が斬られ、屍体は油小路に放置してあると伝令が来たのだ。
高台寺の一派七名は、伊東の亡骸を引き取りに冷たい夜の京に出た。
予測した通り、それは伊東一派をおびき出すため、新選組が仕掛けた罠だった。
敵は旧知の顔も含めて三十人はいる。
すぐさま斬り合いになった。

仲間であった永倉は「行け」とばかり刀を下ろし、藤堂を逃がそうとした。
かたじけない、と通ろうとしたその一瞬の隙、藤堂の背中に一太刀、斬りつけた若者がいた。
彼がずっと気にかけていた隊士、三浦常次郎であった。

振り返り、刀を握りしめる。三浦は震えながら正眼に構え、立っている。
永倉が藤堂の名を呼んだ。

三浦を斬る…気なのか? 何をしている…んだろう?

いつだったか…あの沖田総司を見て思ったものだ。
私は池田屋で額を斬られたが、きっと自分には、小さな組織の闘争のために仲間の首をはねることなど出来ぬのではなかろうか…。自分は仲間を斬るためにいるのではない。男なら、命がけで成すべき事は他にもあるはず。
その、芹沢の時から積もり積もった疑問に答をつきつけてくれたのが伊東先生だった。

藤堂は冷たい道の上に、刀を握りしめたまま倒れた。
いつか三浦に言ったのだ。

「ほんとうに強いとは、己の志を貫く事ですよ」
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