「いったい何考えてるのよ、少しはちゃんと考えなさいよ! バカなの?
私がこんなに何度も繰り返して言ってるのに、どうしてわかんないの?
話きいてくれたっていいでしょう?」
あいこは怒鳴り続けていた。それも、ベッドに置いた巨大なクマのぬいぐるみに向かって。
「何やってんの?」
隣の部屋にいた姉の理恵が入ってきて、呆れた顔で見た。
「…その…無駄だと思ったからよ。つまりね、無駄。
どんな言葉を書いても、どんなに私が本当の事を言っても
きっと、テディベアに向かって叫んでるのとかわらないんじゃないかって」
「どういう事?」
「ブログですよ。こんなのどうして誰が発明しちゃったのかなって事」
ベッドの脇にノートパソコンがある。なるほどね、と思う。
「荒らされたとか?」
「あらしってよくわかんない。どこまでどう許せなかったらそうなのか…
だから、こんなもの無かったらって。
だって、私がどんなに一生懸命になってみたところで、途方も無く無駄って気がしてきた。
他の人のブログへの誘導とか、オナニーがどうのっていうコメントしかつかないし」
「ブログの女王めざしたきゃ、自分の写真のせたり、もっと日常さらけだしたり
トラックバックつけまくるとかしなきゃね」
「だって、今日何食べたとか、今日服を買ったとか、そういう事は私にはどうでもいいんだよ」
「何、日記じゃないの?」
「うん、詩を書いてた」
理恵はひょいと、クマの横に腰掛けた。
「他の人にはどうでもよくはないのかもね」
「どういう事?」
理恵は冷静に言った。
「うん、他の人は、アンタと違って平凡の中に生きたがるのよ。
平凡の中に生きたがる、ってどういう事だと思う?
そういう人が欲しがるものは、かわいい猫の情報だったり
おいしいラーメンの事だったり、それこそセックスに関する事だったり。
そうして、平凡な人は食べたり、オシャレしたり、エッチしたりして日々暮らしているわけよ」
「じゃあ、私はなんで…そういうのどうでもいいって思っちゃうんだろう?」
「それは…とても不幸かもしれないね。不幸に生まれついたんだよ。
でもね…詩人というのはそういうものじゃないかな。
必死に伝えたがるけれど、どこか皆とは遠くにいる。
自分を救う幻想が必要で、闇に向かって私はここにいるってことを叫びたがって。
本当の言葉というのは、そういう所にしかないのかも。
でも、誰でも書けて、誰でも見るという事はね…
多数のためのものになっちゃうわけよ。
いつも叫ばれたらウザいなって思っちゃうのよ。
癒されたいけど、どうにもならない意見ならいらない。
アンタが昔っから好きだった…何人かの詩人や文学者なら、
救われない魂を救ってくれたかもしれなかったけれど。
Webで言葉の消費される時代ではちょっとね」
「クマに話してた方がいいのかな?」
「うーん」
メガネのずれを指で修正しながら、理恵は言った。
「めげずにもうちょっと続けてみたら?
エロコメント見るの嫌なら、私がやってやるよ。
本来、書かれなくちゃいけない事ばかりが消えていくってのはなんだかね。
クマに言うよりは…まだ可能性まで死んだわけじゃないでしょ」
「でも…」
「書いた人にしか、現状は創れないよ」
姉の言い方、なんでそうも自信あり気かなとあいこは思う。
目指したものは、なんでこんなに困難なのさ。
(そーかなあ、そーかも?
まあいい、仕方なくあいこさんは今日も、叫んでも仕方ない詩を
世界の中心でクマと共に叫びますよ)
+++END+++
私がこんなに何度も繰り返して言ってるのに、どうしてわかんないの?
話きいてくれたっていいでしょう?」
あいこは怒鳴り続けていた。それも、ベッドに置いた巨大なクマのぬいぐるみに向かって。
「何やってんの?」
隣の部屋にいた姉の理恵が入ってきて、呆れた顔で見た。
「…その…無駄だと思ったからよ。つまりね、無駄。
どんな言葉を書いても、どんなに私が本当の事を言っても
きっと、テディベアに向かって叫んでるのとかわらないんじゃないかって」
「どういう事?」
「ブログですよ。こんなのどうして誰が発明しちゃったのかなって事」
ベッドの脇にノートパソコンがある。なるほどね、と思う。
「荒らされたとか?」
「あらしってよくわかんない。どこまでどう許せなかったらそうなのか…
だから、こんなもの無かったらって。
だって、私がどんなに一生懸命になってみたところで、途方も無く無駄って気がしてきた。
他の人のブログへの誘導とか、オナニーがどうのっていうコメントしかつかないし」
「ブログの女王めざしたきゃ、自分の写真のせたり、もっと日常さらけだしたり
トラックバックつけまくるとかしなきゃね」
「だって、今日何食べたとか、今日服を買ったとか、そういう事は私にはどうでもいいんだよ」
「何、日記じゃないの?」
「うん、詩を書いてた」
理恵はひょいと、クマの横に腰掛けた。
「他の人にはどうでもよくはないのかもね」
「どういう事?」
理恵は冷静に言った。
「うん、他の人は、アンタと違って平凡の中に生きたがるのよ。
平凡の中に生きたがる、ってどういう事だと思う?
そういう人が欲しがるものは、かわいい猫の情報だったり
おいしいラーメンの事だったり、それこそセックスに関する事だったり。
そうして、平凡な人は食べたり、オシャレしたり、エッチしたりして日々暮らしているわけよ」
「じゃあ、私はなんで…そういうのどうでもいいって思っちゃうんだろう?」
「それは…とても不幸かもしれないね。不幸に生まれついたんだよ。
でもね…詩人というのはそういうものじゃないかな。
必死に伝えたがるけれど、どこか皆とは遠くにいる。
自分を救う幻想が必要で、闇に向かって私はここにいるってことを叫びたがって。
本当の言葉というのは、そういう所にしかないのかも。
でも、誰でも書けて、誰でも見るという事はね…
多数のためのものになっちゃうわけよ。
いつも叫ばれたらウザいなって思っちゃうのよ。
癒されたいけど、どうにもならない意見ならいらない。
アンタが昔っから好きだった…何人かの詩人や文学者なら、
救われない魂を救ってくれたかもしれなかったけれど。
Webで言葉の消費される時代ではちょっとね」
「クマに話してた方がいいのかな?」
「うーん」
メガネのずれを指で修正しながら、理恵は言った。
「めげずにもうちょっと続けてみたら?
エロコメント見るの嫌なら、私がやってやるよ。
本来、書かれなくちゃいけない事ばかりが消えていくってのはなんだかね。
クマに言うよりは…まだ可能性まで死んだわけじゃないでしょ」
「でも…」
「書いた人にしか、現状は創れないよ」
姉の言い方、なんでそうも自信あり気かなとあいこは思う。
目指したものは、なんでこんなに困難なのさ。
(そーかなあ、そーかも?
まあいい、仕方なくあいこさんは今日も、叫んでも仕方ない詩を
世界の中心でクマと共に叫びますよ)
+++END+++