囲碁の果樹園(囲碁の木がすくすく育つユートピアを目指して)

人間とAIが集い囲碁の真理を探究する場の構築をめざして、皆様とともにその在り方を探っていきます。

「今研究会」vs「AQ」三番碁

2018-02-25 07:51:06 | 実験

先日は、今研究会の若手棋士三人と囲碁ソフトAQの真剣勝負というすばらしいイベントがありました。日本棋院ツィッター 「今研」vs「AQ」から、ユーチューブ中継のリンクがあります。

何がすばらしかったかというと、まずは碁の内容です。芝野虎丸七段、本木克弥八段、許家元七段という若手にしてすでにトッププロという面々と、強豪囲碁ソフトの対戦は白熱の戦いで見どころ満載でした。人間側から見て2勝1敗という結果も、やはり人間の一人としてはうれしいものでした。

次にAQです。山口祐氏により開発されている囲碁ソフトで、オープンソースであることが大きな特徴です。少し技術力が必要ですが、だれでも自由に自分のPCにインストールして使用することができます。そのようなフリーソフトが、トッププロのレベルに達したことを実証した今回のイベントは、囲碁史(特に囲碁の研究史)において革命的な意味を持っています。このことについては、また回を改めて述べます。

最後に、今研メンバーによる検討がユーチューブで中継されたことです。このように、トッププロによる生の検討が公開されることは、囲碁ファンにとって福音であるだけでなく、その場の検討に参加できない棋士やプロの卵たちにとっても大きな勉強の材料となることでしょう。このような企画を実行された関係者の皆様に甚大なる敬意を表するとともに、今後もこのような試みが増えるよう願っています。

さて、検討中に面白い図があったので、その先をみんなの碁盤でも検討してみました。下の図は芝野七段の黒番で、白星に対する黒の三々入りから発生した形です。

ここで、AQの選んだのが白1から3の手厚いツギ、以下下図のように進んで、左辺のキリも許し、隅も取られますが、白H18から締め付けが利いて評判がよかったようです。

白が左辺をカケツイでさらに締め付けを狙う進行を検討でやっていました。検討は、下図の4手前で終わっていたのですが、ここから面白い手順がありました。

下図、黒1から3とツゲば、白4のキリは黒5で両当たりなので白つぶれに見えますが..。

白6から8という手がありました。

下図、黒9のコウトリに白10で黒2目の種石が落ちます。黒も外側の1目と2目をポン抜いて厚くなりますが、左上の黒石の取りと右辺を見合いにして白勝勢でしょう。

みんなの碁盤での、このあたりの検討の様子は次のリンクから見ることができます。

http://igokaju.com/index.php?sequence=ppdppcdcdececfcddggccqdqcpcnbnbmcodndoeoeperfpfogogngqhogp


みんなの碁盤の使用法

2018-02-18 06:35:25 | 実験

みんなの碁盤 http://igokaju.com のサイトにある「使用法」の説明ページが、サイト開設当初のもののままで放置されていました。ようやく、その後のユーザインターフェイス改善を反映したものに変更しました。そのことをお知らせするとともに、このブログでも使用法を改めてご紹介します。

上の図は、みんなの碁盤の画面の例を示しています。表示されている局面は、すでに登録されているものです。この局面から派生する変化局面が306個登録されており、そのうちで変化手順がもっとも長いものが現在局面から83手であることが、木の重みと高さという欄から読み取れます。

まず、画面をみただけだは気がつきにくいかもしれないのは、盤面をクリックして自由に石が置けることです。これによって、登録されてみんなで共有されている局面を閲覧することも、自分で新しい変化局面を作りだすこともできます。その局面が登録されているかは、碁盤の外枠の色でわかるようになっています。図のようなウグイス色は登録局面を表します。紺色と水色は登録されていない局面を表します。

次に、「黒勝」「白勝」「互角」のボタンの意味が分かりにくいかもしれません。上の例では、現在の局面が登録されているので、これらのボタンは局面評価を投票するためのボタンになっています。当面、評価の投票は無視して構いません。それよりも、盤面をクリックして変化をたどりましょう。

一手後の局面でどれが登録されているかは、「次手表示」のモードを「すべて」にすれば表示することができます。登録局面に対応する手は、盤面に小さい丸で示されます。図の例では、白のハイに対して黒の三つの応手が登録されていることがわかります。丸印のついた手をクリックしていけば、登録された変化をたどることができます。

丸印のない手をクリックすると、下の図のように、外枠が紺色の局面になります。

この状態では、「黒勝」「白勝」「互角」のボタンが局面の登録ボタンになっています。この局面をみんなと共有したい場合には、このどれかのボタンを使います。序盤では、ほとんどの場合形勢判断は難しいので「互角」で登録してしまいましょう。変化をたどって行くうちに、形勢がある程度明らかな局面にたどり着いたら、そこで初めて「黒勝」や「白勝」ボタンを使えばよいのです。

最初のうちは、自分で登録せずに、登録済みの変化をたどるだけでも楽しめるでしょう。そのときに、「暫定評価」とは何かを理解していると、よりいっそう楽しめます。これは、登録されている局面のなかだけで先読みした結果の評価値で、葉の局面(それより先が登録されていないような局面)の評価値に基づいています。詳しくは過去の記事「みんなの碁盤で育つ囲碁の木」で説明しているので御覧ください。

登録済みの変化をたどって行くと、暫定評価に納得できない局面に遭遇することでしょう。上の最初の図をよく見ると、暫定評価が黒勝になっています。「そんなバカな」と思われる方も多いことでしょう。これは、この局面の後の検討に不備があるために違いありません。どの変化がおかしいかを突き止めるには、「次手表示」のモードを「暫定評価根拠のみ」に設定します。その設定で、丸印の手をたどって行くと、黒勝の評価を持った葉の局面にたどり着きます。この局面の評価が間違っているのか、あるいは変化の途中で白の良い手を見逃しているのか? 何か気が付いたら、そのときには、ぜひ投票または局面の登録によって発信してください。

 

 


みんなの碁盤の利用形態その3:対局?

2018-02-11 06:34:06 | 実験

みんなの碁盤は碁盤ですから、対局に使用することも可能なはずですが、普通の意味の対局には向いていません。しかし、その代わり、という話をします。

AさんとBさんが、みんなの碁盤を使って遠隔対局をすることにしました。約束の時間に、あらかじめ決めておいた先番のAさんが初手を打ちます。Bさんは、みんなの碁盤の「次手表示」のモードを「すべて」にして、空の盤面で待ち受けています。しかし、待てど暮らせど何もおきません。Aさんの打った手が、すでに登録されている星打ちだったから、次の手のリストに変化がないのでした。

AさんとBさんもこれはわかっていましたから、スカイプでつながり話せるようにしていました。「打ったよ、右上隅星」。Bさんは、言われた通りに黒の手を右上隅の星に打ち、白の手を打ちます。しばらく、お互いに着手を正確に言葉で伝えなければいけない状態が続きますが、ほどなく碁盤は未知の世界に突入します。そうなると、スカイプの連絡は「打ったよ」だけで足りるようになります。相手が次手表示を更新すれば、ただ一つの手が表示されるからです。一手一手局面の登録をしなければいけないのはちょっと面倒ですが、無料なのでがまんします。

中盤の戦いでAさんがポイントを挙げ、勝利を確信したので登録時に「黒勝」の評価をしました。それまでは、お互いに「互角」の評価をしてきたのです。Bさんも、劣勢は承知なので「黒勝」の評価をしながらも、まだまだ投了はしません。

ここまでは、曲がりなりにも普通の碁盤として使えているようですが、普通の碁盤にはあり得ないことも起こり得ます。Cさんは、みんなの碁盤サーフィンをしていて、AさんとBさんの対局が独自の手順をたどる入口の局面にたどり着きました。暫定評価が「黒勝」であることに疑問を持って、その手順をたどっていきます。たどるだけの方が、対局者よりもはるかに速いので追いついて、Bさんが考慮中の局面にたどり着きました。Cさんは白の良い手をみつけたので、その手を登録します。対局中の局面であることなど、知るべくもありません。やがて、Bさんが着手して「打ったよ」。Aさんが次手表示を更新するとあら不思議、二つの手が現れます。「どっちなの?」「えっ、ちょっと待って」。Bさんが確認すると、たしかに二つの手があり、自分が考えた手でないほうが良さそうです。Aさんにはどちらが本当の自分の手だかはわからないはずだから…。

このように、みんなの碁盤は、対局に使おうとすると助言自由の碁盤になってしまいます。

それならいっそ、とここで飛躍します。みんなの碁盤上で対局するときには、ルールを変えてしまったらどうでしょうか? 助言自由、待った自由。待ったは何手遡ってもよいことにします。待った自由にすると勝負がつかなくなるので、ポイント制にします。黒番のAさんにとっては、自分の登録した局面(黒の着手後の局面です)で暫定評価が黒勝になっているものの個数がポイントです。白番のBさんについても同様です。現在のみんなの碁盤には残念ながらポイント管理の機能はない(個人を特定しない現在の方式では不可能です)ので、別に記録・管理する必要があります。

このようなポイント制にすると、形勢不利で粘ることが不利になります。一手打つごとに相手にポイントを与える可能性が高いからです。早く待ったをして、互角あるいは形勢不明の局面まで戻る方が得策です。

そうです。これは全く別のゲームです。「検討ゲーム」とでも呼ぶべきでしょうか? 対局では、形勢不利の時に、いかに局面を難しくするかに醍醐味があります。検討ゲームの目的は高いポイントを挙げることなので、非勢の局面に見切りをつけるこが重要になります。

囲碁の果樹園では、まったく未開発の分野である検討ゲームの娯楽性についても追及して行きます。あらゆる棋力レベルの打ち手に検討の楽しさを知ってもらうことによって、囲碁界全体の底上げに貢献したいと考えています。

いずれ時期が熟せば、みんなの碁盤の参加者のうち、希望者に対してユーザー登録とポイントの記録ができるようにすることも検討します。

 

 


みんなの碁盤の利用形態その2:グループ検討

2018-02-04 06:03:39 | 実験
前回は、ひとりで行う検討の主な内容をみんなの碁盤に記録するメリットとして次の三つを挙げました。

1.暫定評価の仕組みによって検討が体系化されること。
2.検討データが後々まで残り、検討の再開がいつでも可能であること。
3.検討データがみんなで共有されること。
 
グループ検討の場合、これらのメリットはすべて当てはまるだけでなく、さらに大きい意味を持ってきます。ひとつひとつ述べて行きます。
 
1.グループ検討では、特に人数が多い場合、強い人や発言に積極的な人を中心に検討が進行し、残りの参加者が発言をほとんどせずに見ているだけになることが往々にしてあります。もちろん、見ているだけでもその参加者にとって十分に価値があるのですが、そのような参加者がみんなの碁盤への記録係をするようにしてはいかがでしょうか? 記録係は複数でも、その人数分のPCがあれば全く支障がありません。記録係は暫定評価の仕組みによって検討の全体を見渡しやすくなり、検討の方向に影響を与えることができるかもしれません。「この局面は白持ちの意見が多いけど、実際に検討した変化からは黒勝の結論になってるよ。これこれの手の先をもう少しやって見る必要があるのでは?」のように。
 
2.検討が終わって帰宅する電車のなかや布団にもぐって眠りにつく瞬間に、ある局面についての結論を覆すかもしれない好手がひらめくことはよくあることでしょう。よほどの妙手であれば、後日検討メンバーの一部の人に伝えることもあるでしょうが、多くの場合個人で結論を出して(あるいははっきりした結論が出ないまま)終わりになってしまうのではないでしょうか? 検討記録がみんなの碁盤上にあれば、その手を追加して、みんなに問うことができます。その手についての知らせを受けた他の検討メンバーは、その先の変化を個別に入力することができます。もし、その手についての検討がみんなの碁盤上で盛り上がれば、次の検討会で再び取り上げることも考えられます。このように、リアルの検討会とみんなの碁盤上での検討を組み合わせることにより、グループとしての検討の精度が上がるだけでなく、個人が検討内容について考え続けるモチベーションも上がります。
 
3.タイトル戦のような重要棋戦に対しては、現地、棋院、対局者所属本部等の各地でリアルタイムのグループ検討が進められます。現在でも、検討結果の一部がグループ間で共有されることはあるでしょうが、すべてのグループがみんなの碁盤に主な変化を記録するようにすれば、全体でひとつのグループとしてまとまった検討が可能になります。これに囲碁AIたちが参加すれば、検討の精度は非常に高いものになることでしょう。さらに、終局後に対局者がその読みをみんなの碁盤上で披露するならば、その対局についてますます深い理解が得られ、検討に参加するすべてのメンバーにとってはかり知れない利益となることでしょう。
 
最後に、ファンサービスの一面について述べます。現在、プロ棋士の間で行われている検討内容のほとんどは、囲碁ファンの目に触れることなく消えて行きます。もったいないとしか言いようがありません。それが、みんなの碁盤に記録されて公開されることになれば、ファンにとってこれほどうれしいことはありません。もちろん、膨大な生の検討内容を消化・理解することはアマチュアにとって容易ではありませんが、ここでもリアルや他のメディアでの解説とのコラボレーションが考えられます。解説会やネット解説で示すことのできる変化図には限りがありますが、「この先はみんなの碁盤にあります」と言う形で示すことにより、深く知りたいファンの興味に応えることができます。
 
果樹園園丁も一ファンとして、プロ棋士の皆様にぜひご検討いただくようお願い申し上げます。