囲碁の果樹園(囲碁の木がすくすく育つユートピアを目指して)

人間とAIが集い囲碁の真理を探究する場の構築をめざして、皆様とともにその在り方を探っていきます。

みんなの碁盤の利用形態その1:個人検討

2018-01-28 08:59:36 | 実験

みんなの碁盤の公開から約一か月が経ちました。利用・運用経験から見えてきた、効果的な利用法のヒントなどを、少しずつまとめていこうと思います。

今回は、ひとりで行う検討にみんなの碁盤を使うメリットについて述べます。自分の打ち碁の敗因を検討したり、観戦していて気になった局面の変化を調べたり、AlphaGo Teachで示された局面のその先を探ったり、ひとりで囲碁の変化手順の検討を行いたいことはしばしばあります。その目的で使いやすい碁盤は、木製の物理的な碁盤であったり、囲碁ソフトであったり、人によってさまざまであることと思います。ここでお勧めするのは、そういう碁盤をみんなの碁盤で置き換えようということではなく、使いやすい碁盤で検討した変化の主なものを、みんなの碁盤で記録することです。そうすることには、次のような三つのメリットがあります。

1.検討が体系化されること。さまざまな変化を検討した結果得られる、出発点の局面や、変化の途中の局面についての現在の結論(暫定評価)をみんなの碁盤は示してくれます。変化を登録する際に、すべての局面について正確な評価をする必要はありません。変化途中の局面はすべて「互角」として登録してしまって構わないのです。その代わり、変化の終端の局面についてはできるだけ正確な評価をするように心がけます。別の見方をすると、黒勝か白勝かがある程度はっきりするような変化図がみつかったときに、その変化を記録するようにします。

さて、変化の途中の「互角」として登録された局面の暫定評価が「黒勝」であったとしましょう。これは、調べた変化のなかで、黒と白が最善の選択をしていった場合の結果が黒勝であることを意味しています。その暫定評価に違和感を感じる、例えばむしろ白が優勢に思える、というような場合は、変化図のどこかで白の良い手を見逃している可能性があります。つまり、暫定評価と直観を突き合わせることにより、次に何を調べたらよいかというヒントが得られます。

2.検討データが後々まで残ること。結論がでるでないにかかわらず、いったん打ち切った検討にいつでも戻ってくることができます。また、将来別の局面を出発とする検討をしているときに、過去におこなった検討の変化と接点が生じて、ああそうだったと思い出すことがあるかもしれません。さらに一歩進めると、検討結果の作戦を実戦で試してみて、その結果にもとづいてさらに検討を進展させるというループが生じるかもしれません。これは、みんなの碁盤なしでも可能なことですが、暫定評価のしくみは、そのような活動の大きな支援になります。

3.個人の検討データがみんなで共有されること。序盤の変化であれば、それぞれが個人で検討しているつもりでも、みんなの碁盤上で自然に接点が生じ、変化図は混ざり合います。ここでも、他者の視点を取り入れて消化する(あるいは他者の見解に反論する)上で暫定評価のしくみは大きな助けになります。みんなの碁盤上の暫定評価が自分の検討結果と異なる場合に、変化をたどって行くことにより、自分が(あるいは他者が)何を見逃しているかが明らかになって来るからです。もっとも、この時点では、みんなの碁盤の利用形態は今回のテーマであった個人検討から離脱していることになります。

個人検討の結果は、ほっておくとみんなの碁盤上の囲碁の木の奥深くに静かに眠ったままになる可能性があります。もし、積極的に他の人の意見を聞きたい場合には、該当の局面へのリンクをSNSやメールなどに添付して送ることができます。下はその一例です。

6手目三々入り 

 


定石

2018-01-21 08:04:35 | 構想

囲碁AIの出現は、人間が長い年月を費やして築き上げてきた囲碁理論の再構築を促しています。今回は、そのなかでも定石の再構築について考えたいと思います。

図1は、定石の再構築の必要性を示す象徴的な局面です。AlphaGo Teach(以下AGT)の評価値は(黒からみた勝率で)、白1が47.7パーセント、白Aが53.7パーセントと大きな差があります。つまり、AGTは左上の局地戦を継続する白Aよりも、白1への転戦がはるかに優ると主張しています。

白Aを選択した場合のAGTの示す進行の一例は、図2のようになり、黒から見た勝率60.5パーセントで、AlphaGoは黒の勝勢とみていると言ってよいでしょう。

図1で白1を選択した場合に、黒がすぐに左上に手をかけた場合の進行の一例が図3で、AGTによる黒の勝率は45.0パーセントで、白優勢という見解とみられます。

白1に対してハサんで、左上をそのままに戦う進行はAGTにはありませんが、いろいろやってみると、どちらかというと、黒の方が戦い方が難しく感じられます。というのは、左上は白の立場から言うと図4のように最強に戦いたいところだが、しかしすぐには無理という場所です。それに対して黒から一手かける手はそれほどぴったりした手はないように見えます。だとしたら、他で戦いながら図4が成立する状況を狙うのが戦い巧者というものでしょう。

AlphaGoが図1の白1を白Aより高く評価するのは、もちろん全局的な膨大な読みからであって、上のような理屈に基づいたものではありません。この知見を、同じ量の読みが不可能である人間が利用するためには、部分戦についての処方箋である定石を再構築する必要があります。上の例は、定石の再構築について、次の2点が特に重要であることを示しています。

  1. いろいろな変化の優劣を比較する際に、手抜きも比較対象に含める。
  2. 周囲に石がない状態では成立しない最強手段について、それが成立する条件について整理する。

1、2ともに、従来の定石書で全く無視されていたわけではありませんが(特に2についてはシチョウ関係は十分考慮されてきました。)、どちらかというと部分のみで最善の手順を追及することに重きが置かれて来ました。今後の定石研究による進展が期待されます。囲碁AIはその重要なツールになるでしょうが、定石という形の理論的体系化は少なくとも現在のAIには無理で、囲碁の研究における人間、特にプロ棋士の役割はますます大きくなると考えられます。


みんなの碁盤(補足)

2018-01-14 07:17:12 | 実験

前回、みんなの碁盤において暫定的な局面評価がどのように決まるか、またそのしくみに基づいて検討がどのように進展して行くかというお話をしました。検討に参加する人の棋力を問わないという方針のために検討結果の質が保証されないのではないかという疑問について、もう少し議論します。

図1が、問題になり得る状況の一例を示しています。局面Sは客観的に見ると白が大優勢で、白勝はまず間違いないと仮定します。しかし、この局面を登録したAさんにとっては黒勝に見えましたのでAさんの1票は黒勝です。この局面を見たBさんは、白の一手を示して「いや白勝だよ」という主張をします。それに対してAさんがさらに反論をし、これを数手繰り返したのが図1の状況です。この時点ではAさんの登録した黒勝1票の局面が葉になっているため、この手順中の局面の暫定評価はすべて黒勝です。

この状況は、あたかもAさんBさんの個人対局の様相を呈し始めており、しかも、強い人から見ると、Aさんが負け碁を粘っているように見えるかもしれません。対局であれば、相手は1勝の喜びのためにそういう粘りに付き合うこともそれほど苦ではないかもしれませんが、検討の場合には辛抱して付き合うだけの動機は少ないでしょう。特に、Bさんの棋力がAさんの棋力よりもだいぶ上の場合にはなおさらでしょう。というわけで、図1の状況でBさんがAさんを説得することをあきらめることは十分に考えられます。そうすると、局面Sに対する黒勝という誤った評価が生き残ってしまうことになります。そして、その誤った評価は、Sからさらに遡った局面の評価を誤らせる可能性があります。

しかし、実際にはこの心配は要りません。BさんはAさんを説得するために、一筋の手順を追って行く必要はないからです。図2のように、局面Sにおける白の着手の別案を示すことができます。さらに、説得をBさんがひとりで行う必要もありません。同じ図にあるように、CさんやDさんがさらに別の手で説得に加わることができます。Aさんが局面Sは黒勝という説を擁護するためには、これらのすべての人を説得する必要があります。もし、局面Sが本当に白勝の局面であり、間違った評価を放置できないような重要な局面であれば、これはほとんど不可能と考えてよいでしょう。図2の左の方には誤った評価の局面が残っていますが、その誤りは局面Sによって「ブロック」されて上方には伝搬されないので、放置しても構いません。

参加者の棋力を限定することによって、局面評価の質を保証するという考え方もあるかもしれませんが、囲碁の果樹園ではその立場はとりません。むしろすべてのレベルの参加者を受け入れることによって、質を保証することを目指します。図2においてAさんを説得する役割には、最高の棋力の参加者よりもむしろ、Aさんよりちょっと棋力が上という程度の参加者たちが興味を持って当たることができるでしょう。

みんなの碁盤に育つ木のあちこちで、局面評価のための手談が行われている。その多くは、対局サーバにおけるものと同じように棋力の近いものどうしであるが、その手談の結果の局面評価はみなで共有され、時には棋力の差を飛び越えて影響を与え合う。そんな文化を育てていきたいと考えます。


みんなの碁盤で育つ囲碁の木

2018-01-07 06:53:18 | 実験

みんなの碁盤を公開して1週間、おかげさまでだいぶ不具合もとれ、ユーザインターフェイスも改良されて使いやすくなってきました。ここに根付いた囲碁の木も、当初の果樹園構想とは少し違った形ではありますが、徐々に育ちつつあります。

参加は自由で、特に囲碁の木の閲覧だけならば、ごく気軽にすることができます。

現在の囲碁の木の重み(木に含まれる局面数)は約400で、囲碁の膨大な変化の数に比べるとあきれるほど微々たるものですが、今後1万、10万、百万、千万と育っていったときに何が見えてくるか、想像するだけでも楽しくなります。

初心者を含めたすべての囲碁愛好家を歓迎することから、木の質に疑問を持たれる方もいることでしょう。この疑問に答えるためには、みんなの碁盤における局面評価の仕組みを説明する必要があるのですが、まずひとこと、短い答えは、「囲碁とは(将棋やチェスと同じように)正しい手が生き残ることを、悪い手が邪魔することができないゲームである。」です。

みんなの碁盤における局面評価のしくみについては、そちらのサイトに説明がありますが、議論の必要上ここでも少し詳しく説明します。検討への参加者が行う操作は、主に次の二つです。

  • 登録済みの(すでに木の中にある)局面に対して、黒勝、白勝、互角のいずれかを投票する。
  • 登録済みの局面の子の局面で未登録のものを新たに登録する。このとき、三段階の評価のいずれかを選択する(最初の一票)。

局面に対する評価の票数は、参考にはなりますがあまり重要ではなく、特に子を持つ局面に対する評価は、検討の結論に全く影響を与えません。葉の(子を持たない)局面に対する評価が重要で、これに基づいて、すべての(子を持つものを含む)局面に対して暫定評価が定義されます。暫定評価は、基本的には現在の木をゲームの木としてみなしたときの標準的な木探索による評価です。つまり、子を持つ局面の評価は、現在の局面の手番のプレイヤーにとって最も有利な評価を持つ子の評価に等しいと定義されます。ただし、葉の局面の評価をどう考えるかが問題で、これについては下で述べます。こうして定義される評価は、木が発展途上であるために「暫定」です。

葉の局面の評価値は、すべての投票が一致していれば、もちろんその評価です。特に、登録時点では登録者の評価が採用されます。その後の投票で評価が割れた場合は、手番のプレイヤーにとって最も不利な評価を用います。これは、「評価が割れた場合、手番のプレイヤーにとって有利な判断をする評価者がその根拠を着手で示す責任を持つ」という考え方に基づいています。その局面が葉である限り、すなわち上記の責任が果たされていない限り、手番のプレイヤーにとって不利な評価を有効とします。

検討のプロセスのなかで、このしくみがどう働くかを例で見てみましょう。

囲碁の木を閲覧していて、暫定評価が白勝になっているが、納得が行かないという局面に出会ったとします。四つの可能性があります。

  1. この局面が葉ではなく、白番である。白勝の根拠となる子、すなわち暫定評価が白勝である子、があるはずなので、その子へとたどる。
  2. この局面が葉ではなく、黒番である。どの子の暫定評価も白勝であるので、そのうち白勝が信じられない子へとたどるか、あるいは登録されたどの子よりも黒有利と思う子を作り互角あるいは黒勝で登録する。後者の場合は、もとの黒番の局面の暫定評価は互角あるいは黒勝に変化する。
  3. この局面が葉であり、白番である。互角あるいは黒勝に投票する。この局面の暫定評価は互角あるいは黒勝ちに変化する。
  4. この局面が葉であり、黒番である。互角あるいは黒勝と信じる子を作り、その評価で登録する。黒番の局面の暫定評価は互角あるいは黒勝に変化する。

1、2で子をたどっていった場合、いつかは子にたどり着きます。2の後者の場合や、3、4の場合には、白勝を信じている参加者へ反論したことになります。そして、白勝支持の参加者にとって、納得できない暫定評価の局面が生じて、同様なプロセスによるさらなる反論をうながすことになります。もちろん、子をたどっていく過程で、白勝の評価に納得して登録や投票のアクションを全くとらないことも当然あり得ます。

このようなプロセスによって、誤った局面評価は正すことが可能です。実際に正されずに誤った局面評価が生き続ける可能性については、次回もう少し考えてみようと思います。

 

 


三々入り布石

2018-01-02 08:30:43 | 実験

 みんなの碁盤を使って、検討をはじめています。

まずは、気になるアルファ碁流の三々入り布石から。下図、白が早速三々入りした局面です。従来は問題なく黒よしとされていたものが、最近では白を取るプロ棋士も増えてきているようです。実際はどうなのか、じっくり検討したいと思います。天頂の囲碁7が心強い味方です。

ごく自然な、白1の割り打ちからの進行の一例です。黒4から白のハネツギを強要するのが気持ちよいですが、白9の軽い進出で急な攻めはありそうもありません。いったん右辺に構えて右辺白をにらみますが、白19のノゾキから白21とじっくり開いて、右方の黒もそれほどいばれない気もしてきます。右下を黒22と広げたとき、白23がうるさい様子見です。

いい勝負のようですが、この先右下がどうなるのか、また右辺白と右上黒の強弱関係が今後の進行のなかでどのように現れてくるのか、もう少しこの先も調べたいところです。

検討の様子は「みんなの碁盤」で見ることができます。最初の図の局面へのリンクは次の通りです。

http://igokaju.com/index.php?sequence=ppdpqddcncqqqppqoqornqnrmq

検討への参加ももちろん歓迎いたします。