みんなの碁盤の公開から約一か月が経ちました。利用・運用経験から見えてきた、効果的な利用法のヒントなどを、少しずつまとめていこうと思います。
今回は、ひとりで行う検討にみんなの碁盤を使うメリットについて述べます。自分の打ち碁の敗因を検討したり、観戦していて気になった局面の変化を調べたり、AlphaGo Teachで示された局面のその先を探ったり、ひとりで囲碁の変化手順の検討を行いたいことはしばしばあります。その目的で使いやすい碁盤は、木製の物理的な碁盤であったり、囲碁ソフトであったり、人によってさまざまであることと思います。ここでお勧めするのは、そういう碁盤をみんなの碁盤で置き換えようということではなく、使いやすい碁盤で検討した変化の主なものを、みんなの碁盤で記録することです。そうすることには、次のような三つのメリットがあります。
1.検討が体系化されること。さまざまな変化を検討した結果得られる、出発点の局面や、変化の途中の局面についての現在の結論(暫定評価)をみんなの碁盤は示してくれます。変化を登録する際に、すべての局面について正確な評価をする必要はありません。変化途中の局面はすべて「互角」として登録してしまって構わないのです。その代わり、変化の終端の局面についてはできるだけ正確な評価をするように心がけます。別の見方をすると、黒勝か白勝かがある程度はっきりするような変化図がみつかったときに、その変化を記録するようにします。
さて、変化の途中の「互角」として登録された局面の暫定評価が「黒勝」であったとしましょう。これは、調べた変化のなかで、黒と白が最善の選択をしていった場合の結果が黒勝であることを意味しています。その暫定評価に違和感を感じる、例えばむしろ白が優勢に思える、というような場合は、変化図のどこかで白の良い手を見逃している可能性があります。つまり、暫定評価と直観を突き合わせることにより、次に何を調べたらよいかというヒントが得られます。
2.検討データが後々まで残ること。結論がでるでないにかかわらず、いったん打ち切った検討にいつでも戻ってくることができます。また、将来別の局面を出発とする検討をしているときに、過去におこなった検討の変化と接点が生じて、ああそうだったと思い出すことがあるかもしれません。さらに一歩進めると、検討結果の作戦を実戦で試してみて、その結果にもとづいてさらに検討を進展させるというループが生じるかもしれません。これは、みんなの碁盤なしでも可能なことですが、暫定評価のしくみは、そのような活動の大きな支援になります。
3.個人の検討データがみんなで共有されること。序盤の変化であれば、それぞれが個人で検討しているつもりでも、みんなの碁盤上で自然に接点が生じ、変化図は混ざり合います。ここでも、他者の視点を取り入れて消化する(あるいは他者の見解に反論する)上で暫定評価のしくみは大きな助けになります。みんなの碁盤上の暫定評価が自分の検討結果と異なる場合に、変化をたどって行くことにより、自分が(あるいは他者が)何を見逃しているかが明らかになって来るからです。もっとも、この時点では、みんなの碁盤の利用形態は今回のテーマであった個人検討から離脱していることになります。
個人検討の結果は、ほっておくとみんなの碁盤上の囲碁の木の奥深くに静かに眠ったままになる可能性があります。もし、積極的に他の人の意見を聞きたい場合には、該当の局面へのリンクをSNSやメールなどに添付して送ることができます。下はその一例です。