戯言

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記憶喪失5つのお題。

2007-08-19 02:59:36 | 書庫(アングラ本編)
何もかもが、初めて見た場所で。
何もかもが、初めて知る世界で。
でも不思議と、音だけは分かった。
鈴の音。水の音。風の音。床の軋む音。扉の回る音。グラスが触れる音。
貴方の、声。

「ティキ。」

私を呼ぶ声。
その声だけが、私の中で、唯一。

+++

目を覚まして、隣に居たのは雪。
雪だけが、傍にいて。
雪が、私の名前と、何故ここにいるのかを教えてくれて。他の人たちも教えてくれた。
でも、この人は知らない。
お人形のように綺麗な顔立ちの、白衣を着た女の人。

「・・・あなたは?」

首を傾げたら、彼女は僅かに目を見開いて、それからすぐ笑みを浮かべ。

「ラファエルだ。初めまして。」

そう告げてくれたけれど。
あの一瞬の彼女の目の奥。
そこに、確かに傷があった。

もう一人、小さな男の子。赤毛で、とても勢いのいい。
同じように聞くと、一瞬酷く怒って口を大きく開いたのを女の人が止めてくれた。
彼はとてもきつくまるで殺されるのではないかと思うくらい激しい眼差し私を見て、舌打ちをしてから口を開いた。

「・・・ミカエル。」
「ラファエルさんと、ミカエルさん・・・よろしくお願いします。」

笑って挨拶をすると、ラファエルさんは笑ってミカエルさんは舌打ちをして顔を逸らした。
後ろにいる雪ですら、笑ってはいるのにどこか痛々しそうで。
だって。
わたしは、しらない。

+++

知ってる。
貴方が、私に隠していること。
ひた隠しにしていること。
知ってる。
私が、人ではなかったこと。

「ティキ。」

それでも貴方は、私を呼んで、それに応える私の笑みに嬉しそうに笑うから。
だから知らない振りをする。
この虚偽がいつか露見しないように祈りながら。

+++

赤い海。
私の服も、手も、真っ赤で、気がつけば、周りは屍体の山で。
その身体から、夥しいほどの量の血が流れていて、血が地を染めて。
屍体の中心にいるのは、私。
屍体達が口を開く。

『人殺し。』

違う、違う、私は何もしていない。
何もしてない、人なんか殺してない、私は、私は。

『人殺し。』

そんな、違う、私は。
けれど必死に否定する一方で、馴染んだ感触だと何かが告げる。

私は、これを知っている。

+++

分かった。
もう、知ってしまった。
私が人外の存在であったこと。雪を苦しめていたこと。
でも。

「雪。」
「何ですか、ティキ。」

それでも、私は。

「貴方が、好きです。」



+++
ティキ。
蒼月理求様の≪記憶喪失5つのお題≫コンプリート。
上から
1覚えているのは。
2しらないひと。
3記憶の欠片
4浮かんだ記憶。
5そうして君は歩いていく。
短いのは仕様。気が向いたら長く書きます。

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