戯言

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わすれられない。

2008-04-30 23:33:40 | 書庫(アングラ本編)
記憶が、めぐる。
忘れようにも忘れられない、あいつ。
その長い髪が、強気な瞳が、いつまでも住みついて。

「ねぇリカルド、神様って信じる?」

ある日の唐突な問い。ゆっくりと夏を迎えた少し攻撃的な日差しが部屋に差し込み、僅かに空いた窓からは爽やかな風がぱたぱたと書類をはためかせる。
仕事机に行儀悪く腰掛けて、興味なさ気に一枚の書類を手に取りながら少し濃いレッドブラウンの髪を右手で掻きあげる。
質問したと言うのにその目は全く俺を見ていなくて、だから俺も手元の書類を見ながら口を開く。

「信じてないな。特定の宗教には興味がないし・・・、神よりは人間を信じている。」
「リカルドらしい答え。」

くすくすと笑いながら彼女が書類を文鎮の下へと戻す。
そのまま机に手を疲れて上から覗き込まれ、ペンに軽く髪が絡んでそれを払った。

「私はね、信じてるわよ。神様。」
「・・・そうなのか?そういう風には見えないぞ。」
「あら失礼ね、これでも信心深いのよ?」

そう告げながら彼女は邪魔するようにペンの先に指を走らせてきて、しばらくはやめさせようとしたが降参してペンを置く。銃を突きつけられたかのように両手を軽く肩の辺りまで上げれば、またくすくすと微笑まれた。

「だって、私の神様はリカルドだもの。貴方が私の全て。」
「・・・、」
「リカルドが死ねって言ったら死ぬかもね?」
「そういう冗談は止めろ。」

本気のような口調に半ば慌てながら顔をしかめて却下する。けれどそれでもロクサーナはくすくすと笑っていて、笑いながら距離を詰めてくる。
折角のドレスだというのに汚してしまいそうで、下りろと言っても聞かない態度に軽く息を吐き出してから実力行使で下ろさせる。
すると、そのまま倒れるように俺にもたれかかってきて、ちゃっかりと膝の上に座っていた。

「ねぇ、リカルド。」
「何だ。」
「貴方は、神様を信じる?」

まるで悪戯をしかけた幼子のように覗き込まれて。
先ほどの答えがある以上、まさかその通りには答えられず。
ずるい問いかけだな、と笑って告げて、頬に口付けた。




死んだのよ、ときっぱり告げられた。強い口調で、無慈悲な瞳で。

「神は死んだわ。」
「ロクサーナ・・・。」

少し前までは、隅々まで手入れの行き届いていた、小さいけれどそれなりにきちんとした家。
けれどそれが今では床に埃が溜まり、空気は淀み、人の気配すら殆どしない。
それもその筈で、雇われていた者は全て解雇され、今この家には目の前の彼女と彼女の母親が残るのみ。
俺に似ている、と笑って気に入っていたらしい色をした長髪は艶が失われ、ドレスも質素なものになり、けれどそれでも尚彼女自身は尊く気高い。
相変わらずの強気な笑みで、まるで何かの勝利宣言であるかのように勝ち誇って告げる。

「神は死んだ。確か、洪水前の哲学者の言葉よ。洪水前はキリスト教信者が殆どだったっていうから、それから考えると随分な言葉よね。」

あくまで笑いながら、遠くを見ているような彼女の瞳に俺を写そうと名を呼ぶ。けれどそれはあっさりと無視されて、どこか楽しそうに彼女は告げる。

「私にとっても、神は死んだのよ。」
「ロクサーナ。」
「神は死んだのよ。」

繰り返しきっぱりと告げられて、その拒否の姿に眉をしかめる。
彼女の家をここまで追い込んだのはどうしようもないことで。俺にそれを止められるはずも無かった。けれど、お前の所為だと責められれば、否とは言えない。
あくまで強いその瞳がそれでも尚美しくて、黙ったまま見ていると彼女はふっと笑うのを止めて、近付いてくる。背伸びをして服を引っ張られて、いつもの合図に屈むと口付けられる。
そのまま抱き締めようとすると、ぎりっと唇を噛まれて痛みが走った。

「愛してるわ、リカルド。」

最後まで、その瞳は強く。尚も、愛しく。




ふ、と目を覚まして瞳を開く。最初に目に入ってきたのは見慣れた金の髪で、それから白い肌、そして顔に視線をゆっくりと落とす。
未だ眠っているらしいその姿に安堵のようなものが湧き上がり、そっと頭を撫でる。
アリスを愛している。その気持ちに嘘はない。多分これ以上、どうしようもない程に愛している。
けれど、いつまでも忘れられず俺の中にロクサーナが住み着いていることもどうしようもない事実で。
いつか、話したほうがいいのだろうか。
いずれ、夜会なり何なりでその噂は耳に入るだろう。アリスがそれを、気にしない筈が無い。
けれど未だ、話す決心がつかないのもれっきとした事実で。

『愛してるわ、リカルド。』

耳に残るその声を追い払うことも出来ず、黙ってアリスの身体を抱き締める。
こんなにも、愛しいのは事実だというのに。

+++
リカアリ+リカルド×ロクサーナ(追想)。
昔の恋人の存在って、聞かれない限り隠しておきたいよなあ、って。
アリスが愛しいのも本当。ロクサーナさんが愛しかったのも本当。
どちらにしろ兄ちゃんはヤンデレが好きだね!

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寂しがらせてはいけません。

2008-04-29 04:06:41 | 書庫(アングラ本編)
レイエスは基本的に素直で尽くすタイプだから、相手に本気になればなるほど傍らから見てて面白い。けれど言葉が少ないからか誤解が生じて別れることが多くって、長続きした人で確か2年くらい。
元からその目付きの悪さで近寄ってくるような人もいないし、だから新しく恋人が出来たって聞いた時はちょっと驚いた。それも、年下の男の子。
どうして付き合ってるのかとかどこが好きなのかなんて聞かないけど、多分聞いたらあっさりと答えそうな気はする。
まあとにかく、新しく恋人になったジオラルドくんとはそれなりに上手くやってるらしくって、相変わらず尽くしてる。
その中でも、なかなか見てて面白い光景が、これ。

「今6区。明日帰る。」

そう言ってレイエスはメダルを閉じてコートのポケットにしまい、ベッドに腰掛ける。そのまま寝そうになってるのを見てコートくらい脱ぎなさいとかせめて風呂入りなさいとか一応言ってみるけど、小さくうるせぇ、といういつもながらの文句が帰ってきただけだった。
親父が生きていた頃から全く変わらないその悪癖に小さく溜息をつきながらジオくんに嫌われるわよ、と付け足してみる。すると、そのまま寝入りそうだったのが起き上がり面倒臭そうにコートを脱いだ。

(本当に、骨抜きなんだから・・・)

呆れながら心の中で呟いて、宿についていたタオルで髪を乾かす。レイエスは私を見て、チッと短く舌打ちしてからそれでも素直に浴室へと向かった。
その姿に軽く肩をすくめて見送ってからぽんぽんとタオルで叩いて髪を乾かして、最終的に法術で乾かす。
そろそろ伸びてきたし切ろうかと考えながら時計を見ると、既に深夜3時を回っていた。
回収が終わって後処理が終わって、あとは事務所で書類の整理だけ、ということになって。色々終わったのが夜の1時半過ぎ。レイエスが無理矢理帰ろうとしてるのを引き止めて、ホテルに入っていつもの通り同じ部屋を取って。
これで明日は10時くらいに起きて帰ると思うと、なかなかに面倒だった。
小さく溜息をついてタオルを部屋の隅にある小さなラックにかけていると、レイエスが戻ってくる。本当にカラスの行水、なんて呆れてると長髪の先からぽたぽたと水滴が垂れていることに気がついた。

「レイエス、髪拭きなさいよ。」
「・・・。」
「風邪引くわよ。それに、いつもジオくんにも言われてるんじゃないの?」
「・・・。」

そうやって聞いてみるけどレイエスはこちらをちらりと見てくるだけで何も言わず、ただ黙って寝転がる。
ホテルの部屋の付属品だったらしい寝巻きがサイズがあって無くて少しばかり丈が短いのが可笑しく思えて小さく笑いながら、ふと問いかける。

「ねぇレイエス。アンタいっつも通信してるけど、何で?」
「・・・?」
「ほら、さっきの。場所と予定告げてるやつよ。今までの相手にはそんなことしなかったじゃない。」
「・・・あいつが言って来たから。」
「?」

その答えに一瞬目を丸くする。もとから尽くすタイプで、相手の言うことは結構何でも聞くほうなのは知ってるけど、こんなに従順だったとは思わなかった。
それにしたって、そう言うだけでそうするなんて。

「それだけで?」
「・・・・・・あいつは・・・、」

ベッドに寝転がって、濡れた髪をわしわしと強い力で拭きながらレイエスが言葉に詰まる。
綺麗にメイキングされているベッドから布団と毛布を引っ張り出しながら答えを待っていると、小さくやっと告げられた。

「あいつは・・・、兎だからな。」
「ウサギ?」

出てきた言葉にきょとんとする。確かに一部でジオくんが黒兎って呼ばれてるのは知ってるし、ジャックによくからかわれていたりもするし、レイエスが兎のぬいぐるみをプレゼントしたなんてことも話には聞いてるけど。
でもそれは内面とは関係ないと思っていたんだけど。少なくとも私が話をした限りではそう思えたし。
兎の特徴っていうと、あんまり鳴かないのと寂しいと死んじゃう――まあこれは本当はストレスで、っていうことらしいけど――だったかしら。
じゃあ、あの通信は寂しがらせないように?その割には。

「ならレイエス、もっと何か言ってあげればいいじゃない。」
「・・・。」
「何でもいいのよ、明日何時くらいに帰るからお土産は、とか今日そっちはどうしてたの、とか。」
「・・・。」
「たったあれだけの情報じゃ、心細いとは思うわよ?」

そう告げてみると、レイエスは手を止めてしばらく考えていて。悩んでいる様子はそれはそれで面白かったんだけど、いい加減眠気が襲ってきて布団にもぐりこむ。
お休み、と声をかけると一応小さくあぁ、って返事が返ってきて。
これで7区に帰ったら私が言ったのと全く同じ内容の事をジオくんに言うんだろうな、と簡単に予測がついて、素直な弟と不器用なその恋人に苦笑を漏らした。

+++
レイエス+サキ。零女前提。
何かどうしても姉と弟って感じだな。
くっろっうっさっぎー。

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旧友と酒と恋人。

2008-04-28 05:18:05 | 書庫(アングラ学園パロ)
先生、と呼ばれる仕事に就いてはいるが、未だ自分が先生と呼ばれるに値するほど相応しい人物になっているとは到底思えない。そもそも私のような未熟な人間がこれからの未来を担う子ども達にものを教えること、それ自体がおこがましくて仕方ないように思える。
けれど実際多くの生徒達に先生、と呼ばれていて。時折外部の人にもそう呼ばれたりして、先生なのだということをうっかりと実感する。
ならば、先生らしく行動しろというのは至極真っ当なことで。けれど私はそれに、真っ向から逆らっている。

「熱燗2本。」

正式には、私たちと言うべきか。向かいの席に座る幼馴染兼同僚の彼も私と同じように、所謂教師としての倫理から大きく外れている。
その道を踏み外す決心をさせたのは、多分私なのだろうけれど。

「テスト問題はもう出来ました?」
「大体はな。お前こそどうだ?」
「一応のところ。皆さんにいい点数は取ってもらいたいんですけど、レベルを下げるわけにも行かないのが悩みどころですね。」
「お前のテストは成績優秀者と赤点ぎりぎりっていう奴の差が激しいからな・・・。」
「そうなんですよね。いつも授業で予告はしてるんですけど・・・。」

そう告げると苦笑されて、彼は箸を持ってお通しを口にする。学校から少し離れたところにあるこの店は学園の教師や用務員なんかの利用率が高いけれど、値段もそれなりにする為か給料日前といった今日のような日には人が少なく、今日も店にいるのは私とリカルドの他には、学園関係者ではない一般客が数名いるのみだった。

「アリスが言ってたぞ、お前の授業は眠くて聞いてられないと。」
「はぁ・・・。まあ、皆さん寝てしまうんですよね、何故か。」
「起きてるのが確かラブレスと、デュウだけ、のようなことも言っていたな。」
「そうですね、アリスのクラスですとその二人でしょうか。」

ジオラルド・エイド・ラブレス。ティキ=デュウ。
どちらも幼稚舎からの持ち上がり組みで、特殊科の生徒。ジオラルドの方はどうやらミシェルと仲がいいという噂は聞いているが、如何せんミシェルがいつも教室にいない為一緒にいる姿を見たことが無い。
ティキの方は中等部からの知り合いで、常に無表情な少女で確かナントカの君、といったような通り名が付いているらしい。けれど本人は淡々としていて気にする様子は無く、また中等部の頃からあった自殺願望は一応の収まりを見せている。
私は、そのティキ=デュウとただの学校の先生と生徒と言う枠を越えた付き合いを、今、している。

「そういえばアリスは最近どうです?大分大人しくなったとは聞いたんですけれど。」
「ん・・・まあ、落ち着いたな。誰彼構わず、ということもなくなったようだし。」
「そうですか。それは一安心です。・・・よかったですね、リカルド。」
「お前は・・・。」

ふとその二人を思い返しているともう一人の生徒が浮かんできて、多分彼と一番親しい関係にあるだろうリカルドに聞いてみる。リカルドも私と同じく、生徒と一線を越えた関係を持っている。
その様子が気になって尋ねてから、主に祝福のつもりで告げてみればリカルドは苦いが顔をしながら困ったように笑っていた。

「彼女は最近どうなんだ?めっきり大人しいと評判は聞いているが。」
「多分噂と寸分違いないでしょうね。自傷行為も減りましたし、回復しているといっていいんじゃないでしょうか。」
「お前に依存して?」
「・・・意地が悪いですよ、リカルド。」

からかうような挑戦的な目付きで見てくる幼馴染をたしなめればくっくっと喉を鳴らして笑われて、けれど特に悪意があると言うわけでもないのも分かっているのでただ黙って肩を竦める。
そうこうしている内に熱燗が運ばれてきて、同時に小さなお猪口も置かれる。私が手を伸ばすよりも早くリカルドがそれに注いでいて、注がれたそれを有難く受け取る。
二人で軽く乾杯をして酒を飲んで、それから顔を見合わせて笑う。
昔と比べて随分と立場は変わったと思うけれど、それでもこうして二人で酒を酌み交わせると言うのは紛れもない幸運だろう。
互いに苦労するだろう道を選んだ。互いに苦しむだろう道を選んだ。
けれどそれでも、互いに後悔してはいない。

「期末試験が終わったら長期休暇ですけど・・・、どこか行くんですか?」
「まあ、実家の手伝い・・・だろうな。あぁ、でもアリスがどこか行きたいっていうなら行こうかと思うが・・・。」
「パスポート持ってるんですか?」
「さあな。お前はどうするんだ?」
「そうですねぇ・・・、まだ特に考えてませんけど。夏ですし海にでも、って思うんですがめぼしいビーチは人が多いんですよね。人ごみは嫌いでしょうし・・・。」
「すっかり彼女に合わせてるな。」
「リカルドこそ。」

またそう言って笑って、空になったお猪口に互いが互いの酒を注いで。恋人の話を肴に、二人で酒を酌み交わす。
いつまでも、こういった日が続けばいいと願いながら。

+++
リカルド+雪。学園パロ。
男二人が居酒屋で飲んでるのって萌えませんか・・・!
学生じゃ駄目なんです、ある程度年を経た、おっさん!そうおっさんになってから!
あーあーあー。兄ちゃんがあと10年くらいしたらダンディズムな感じの色気が出そうだなー。ていうか雪のが年下なんだけど、この二人並べると雪のが爺臭いー←

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貴方の一挙手一投足に反応するんです。

2008-04-27 23:38:38 | 書庫(アングラ本編)
仕事人間、そう評される人々がいる。仕事一徹で家族も振り返らずひたすら仕事のみに打ち込む、と。
それはそれである意味立派だと思うし、私は自分がそうではないかとも思うのだがどうやらそれは母や姉妹から言わせると違うらしい。曰く、お前の仕事は仕事と呼べない、だとか。
確かに収入は安定しないし変に危険は付きまとう、勿論命の保証はない。
けれど自分としてはこれが天職だと思っているし今更他の仕事に就く気になんかなれない。
だから、という訳でもないがこれまで所謂好きな人、と言うのはなかなか存在しなかった。仮にいたとして、なかなか付き合うことまで漕ぎつけず運よく漕ぎついたとしても、私の不安定な仕事ぶりに大抵愛想を付かされていた。
そういった理由でなかなか今までは人生の伴侶となるような人が見つからなかったのだが。

「サキ。」
「あら、ハミド。」

最近開店したばかりと言う、第7区にしては珍しいオープンカフェ形態の店でなにやら書類を読んでいた彼女に声をかける。彼女は私に気付いて微笑みかけてくれて、一言断ってから向かいに座った。
一言で言うならば凛、とした、そこらの男よりも男らしいかもしれない彼女は見た目からは想像も出来ないような職業に就いていて、その所為かなかなか男を寄せ付けない。
男友達といった類の知り合いは多いようだが、親密に付き合っているのは彼女とは兄弟のように育ったと言うレイエス・ヴァレンティノだけだろう。
彼女は書類を一度テーブルにおいて、その上に文鎮を置く。それからコーヒーを一口啜り、足を組み替えていて、そこでふと気付く。

「今日は、スカートなんですね。」
「え?あぁ、そうそう。今日は一応休みってことでね。ちょっとすーすーして落ち着かないんだけど。」
「いつもパンツばかりですからね。」

今日の彼女の格好は、腰のベルトで絞った括れを強調するようなデザインのシンプルなモノクロのワンピースで、胸元も開いていてミニスカートで足も見えているのに不思議と下品さを感じない、質のいいものを着ていた。
普段はシンプルなTシャツやカットソーにパンツ、というスタイルが多い彼女にしては珍しく思えたし、いつも化粧もせず無造作にポニーテールにしている髪形も今日は違って、薄化粧をしてストレートの黒髪をそのまま流していた。
何となく新鮮味を覚えながら可愛いですよ、と誉めると困ったようにはにかんでありがと、と素っ気無く告げられる。けれどそれが照れくさいのだろうということが分かってとても可愛らしく思えて、笑みを浮かべた。

先程も言ったとおり、サキはそこらへんの男よりも男勝りな凛、とした美人だ。実際に借金の取立ての時は女とは思えないほどに容赦が無くプライベートでも触らなば切れんっていう感じの雰囲気を漂わせていて、邪な目的があればおいそれとは近づけない。
自分にも他人にも厳しくプライドが高く向上心も強く、かっこいい女性、というのは体現したような感じの人だ。
彼女にとって恋愛がどういう位置づけなのかはよく分からないが、それでも私は彼女に惚れている。片思い、というもの。
ただし、これはまだ妹にしか言ったことはないけれど。

ウエイトレスにコーヒーを頼んでから改めて辺りを見回し、立地条件を確認する。以前ここに入っていた店が経営難でつぶれてから、ここをどんな風に活用していくのかと考えているとサキから声を掛けられた。

「ハミドは今日どうしたの?お休み?」
「いいえ、仕事ですよ?ネタを集めに来たんです。」
「あら、仕事の割にあの変な口調じゃないのね。にしても、ちゃんと休んでるの?いっつもいつも仕事じゃない。」
「口調はまあ、サキが好きならそちらにしますけど?休みは必要ないんですよ、仕事の方が楽しいですから。」
「ハミドらしい。」

くすりと微笑んで、彼女がアイスコーヒーを口にする。清涼感の為かミントの葉っぱの浮かんだアイスコーヒーはやたら涼しげで、彼女が飲むのがやたら綺麗に見える。
その間にコーヒーが運ばれてきて、新人らしいウエイトレスがあたふたと零さないようにテーブルに置く。それに礼を告げてからカップを手に取ると、再びサキが口を開いた。

「でも、ハミドならソースはいくらでもあるでしょう?誰かから聞いたほうが早いんじゃない?」
「ネタ集めですか?まあ、確かにそうですけど・・・そうすると、どうしても伝聞になりますからね。それよりは、きちんと生の声を聞いて記事を書きたいんですよ。」
「非効率的ね。」

さっくりと切られて苦笑しながらコーヒーを啜る。苦味の後にまろやかな甘みがあって、充分美味しいと呼べるレベルのものだった。
それに満足していると、不意打ちのように笑って告げられる。

「でも、そういう奴は嫌いじゃないわ。」

耳に掛かる髪を掻き上げながら告げられて、思わず一瞬言葉を失って。
動悸が早まっているのが悟られないようにゆっくりとカップを戻しながら、ありがとうございますと平然を装って告げたのだった。

+++
ハミド→サキ。
えー、「ちいさないもうとの~」でちらっと書いたんだけど、ハミドさんの好きな人はサキさんです。でも完全片思い状態です。
サキさんは多分気付いてない。うっすら疑ってる程度。

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少しはこっちを見て欲しい。

2008-04-26 03:43:27 | 書庫(アングラ海賊パロ)
メーフィは妹がいる。といっても、本当の妹じゃなくて妹のように可愛がってる、って言ったほうが正解だと思うけど。
メーフィと、リィガと霧夜。それとあっちの船の船長の4人に可愛がられてるのが、航海士の紗沙。ごくごく一部しか知らないことだけど紗沙は本当は女で、普段は男装しているらしい。船は男のものだから、とか俺にはよく分かんないけど。
男勝りっていうか、並大抵の男は多分タイマン張っても負けるんじゃないかと思う。酒もべらぼうに強いし。
そんな紗沙の恋人がうちの船のチルカだったりして、そうすると小姑が4人いるらしい。こっそりチルカが不機嫌になってるのを時々見かけたりした。
今まで何があったかはよく分かんないけど、とにかく紗沙は大事にされてきたらしくって呆れるくらいに過保護だったりする。特に霧夜。
まあ紗沙が嫌がらない程度に収まってはいるけど、とりあえずそんな訳でその4人(船長はそうでもない、ような?)とチルカは仲が悪い。

「あぁもう全くっ、何で紗沙はあんな男を選ぶのかな!」

で、ついさっきも舌戦を繰り広げて(チルカの口八丁についていけるのはメーフィくらいだ)、大体引き分けくらいで喧嘩別れしてきて。
気分転換にっていうことで散歩に出る、って言うから着いてきたんだけど、どうやらメーフィは先ほどの言い争いにまだ怒ってるらしくって口々に不満を昇らせながらずんずんと歩いていく。
普段なら多少はこっちを向いたりとか気にかけたりしてくれるんだけどそういう様子はちっとも無くってただ怒りに任せてすたすたと進んでいってしまう。
ぎゅうぎゅう、という程でもないけどそれなりに人が多い通りだから下手すると見失いそうで、必死に追いかけた。

「生意気だし口ばっかりだしまあ料理の腕は認めてやらなくも無いけどそれならうちのフィオネの方が断然美味しいし大体あの作り方は何なのさ。それに、羊!羊だってさ、あぁもう腹の立つ、何であんな男がいいんだか!」
「え・・・っと・・・。」
「別にね、紗沙が選んだんだからそうそう悪くないだろうことは分かってるしね、祝福してるつもりだよこれでも。たださ、目の前でいちゃつかれたら面白くないに決まってるだろうにどうしてあいつはそんなことも分からないかな、船員のしつけくらいきっちり付ければいいんだよあの青二才の船長もさ。」
「メーフィ、」
「あぁそれを思うとミシェルちゃんも可哀想に思えてくるよ、そんな男達に囲まれてさ、でもそれはそれで置いといてあの料理人だよ料理人!何であんな生意気な口が叩けるかな、思い出すだけで苛々する!」

えーと。
うちの船員の悪口を言われてて保護っていうか庇ってやりたい気持ちは山々だしいくらメーフィでも船長を馬鹿にされるのはさすがに言い返したい気持ちも存分にあるんだけど。
メーフィの口から出てくる不平不満は散弾銃のように尽きることなく勢いよく溢れていて、口を挟む余裕が無い。
困った。
そう思って下を向いて溜息を吐いてから再びメーフィを追いかけようと顔を上げる。けれど、気付けばメーフィの姿はどこにもなく。

「メーフィ!?」

名前を呼ぶけど答える声はなくて、慌てて辺りを見回す。それから大通りを辺りを見回しながら少し足早に進んでいこうとするけれど人の波に阻まれてそれも敵わない。
別にメーフィなら危険な目に合うとかそういうことはない。もし、そうやって絡んだ奴がいた場合、今の状況ならそいつらの方が危ない。
必死に探して進んでいって、すると細い路地があってそっちに向かうと、メーフィがいた。しかも予想通り数人のガラの悪そうな男に囲まれていると言うオプション付き。
ここからじゃ何を言われてるのかよく分からないけど、ありきたりな文句としてはセックスの相手をしろ、とかそういう類のだろう。何で分かるって、そう言ってきた男達は星の数ほど見てきたからだ。
普段ならいざ知らず、メーフィがこんなに苛々している今だと、しかも複数だとそれはあまり、というかとてもよくない。
囲んでる男のうちの一人がメーフィに手を伸ばして、瞬間メーフィが鉄扇を取り出す。

「メーフィ・・・!」

俺が名前を叫ぶと同時に鋼糸が男達の首に幾重にも絡み付いて、けれどそれが解かれる。鋼糸はいわば糸状のナイフだ。そんなもので首を絞められかけて、自分達の危機を察したのか男達はほうほうのていで逃げ出していった。
それを見ながらメーフィに近付く。メーフィはつまらなさそうに鋼糸をしまって、それから何、と短く呟いた。

「何っていうか・・・、八つ当たりはやめとけって。」
「僕の勝手でしょ。僕が苛々してる時に声をかけてくるのが悪いんだよ。」
「はいはい・・・。」

半ば呆れながら頷いて、メーフィを抱き締めようとするけどいつも通りというか予想通りぱしっと手を払われてその事にも溜息を吐く。
それからすっとメーフィは俺の横を通り抜けて歩き出して、再びその後を追う。黙って苛々してる様子が伝わってきて、その事に溜息をつきながら今度は見失わないように。
なるべく今度は距離が開かないように後ろを歩いていきながら。
普段離れてる時は、これくらい俺のことを考えてくれたらいいのに、とこっそり溜息を零した。

+++
猿羊。海賊パロ。
メーくんシスコンのお話(違)
まあ、妹っていうか娘みたいな存在なんですよ紗沙ちゃんは。小姑というか舅としては婿が気に入らない、ということですね。

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いとしいひとの、こいしいひとよ。

2008-04-25 23:22:45 | 書庫(アングラ本編)
一番最初の始まりは、どこだったのか、何だったのかなんて分からない。
でも、それでも俺はジオが大事で。とてもとても、大好きだった。今も好きなのは変わらない。けれどあの時とはちょっと違う。
多分、今までの人生で一番初めに愛しい、って思ったのはジオだったと思う。
でも俺は、ジオに甘えて、利用して、それから捨てた。他の誰にも言わないけど、事実としてそう思ってるし糾弾されても仕方ないと思ってる。
そうやって、ジオを一人ぼっちにして。自分勝手にもそれが見ていられなくて、レイエスを紹介した。実際どうなるかと思ったけど、俺が考えていたよりは現実は好転しているらしく、何だか微笑ましい風景を見られるようにもなった。
レイエスはいい奴だと思う。目付きとか表情がちょっと険しいけど、でも結構素直だしそれに何よりジオに尽くしてる。サキが前、案外尽くすタイプなのよ、って言ってた意味がようやく分かった。
ただ、惜しむらくは言葉がないこと。
レイエスはもともと無口で、必要以上のことは話そうとしない性格だけど、それはどうやらジオ相手にも変わらないらしい。

「・・ぁ・おい、レ・・・ッ!」

珍しくジオが慌てた様子でメダルの向こうに呼びかけて、けれど相手から通信が断ち切られたのか途中で言葉を切る。
髪を拭いていた手を止めてその様子を見ていると、ジオは苦々しい表情でメダルを見つめ、それからぱたんとそれを閉じた。それから軽く唇を噛んでそれをいつもの所定の場所において深く溜息を吐く。
通信の相手は、レイエス。今現在レイエスはちょっとばかし取立てで第7区から離れてそれどころかフランにもいなくて、シュルツ地区へと向かっている。まあ、債権者が逃げるんだからそりゃあ治安のいいところになんかいる筈もなくて、ついでに言えばつい数時間前、シュルツ地区において大爆発が起きた。
ディザック社傘下の研究所の地熱エネルギー蓄積用装置が人工的に破壊されてたっていうので、俺のとこにも連絡が来た。ジオも別のソースから同じ情報を仕入れたらしくって、店の営業中は何でもない風を装ってたけど気になるは気になるらしく、閉店してからすぐメダルを取っていた。
でも、それでもなかなか連絡が取れないらしくって苛々してて、それでもやっと連絡が来たらしくってジオが慌ててメダルを取って。
そして、さっきのジオの発言にいたる。
俺も実際聞いたことがある訳じゃないけど、レイエスからの連絡って言うのはかなり一方的で本当に必要最低限のことしか話さないらしい。
だから多分さっきも、今どこどこにいる、とかいつくらいに帰る、とか、それくらいの内容。
悪戯に、不安を煽るだけの。

「・・・ジオ。」
「・・・何だよ。」
「何、っていうかー・・・。」

見ていられなくて声をかけるけど、ジオはいつも通りででもそれがどうしたって何か押し留めているのが分かって、痛々しい。
こういう顔をさせたくないから、俺はレイエスを紹介したのに。
わしゃわしゃと髪を拭き終わって、一度タオルを置きに部屋を出て行く。戻って来るとジオは目覚まし時計をセットしてて、後ろからもう一度名前を呼んだ。

「だから、何だ。」
「・・・大丈夫だよ。」
「・・・。」
「レイエスなら、大丈夫だって。」

なるべく落ち着いた声で、ゆっくりと。
ジオは俺を見て一瞬何か言いかけて、でもそれから寝るぞ、って告げてくる。うん、って頷いてベッドにもぐりこんで、ジオが電気を消して、二人でベッドに横たわる。
暗くて、ジオの顔は見えない。

俺は、ジオがとても好きで。
でもこういう時に特効薬にはなれない存在で。
ただ傍にいることしか出来ないけど。
それでも、大切で。大事で。
愛しくて。

そっと手を伸ばして、抱き締める。ジオの雰囲気が訝しげになったけど、何も言わずに抱き締め続けた。
俺は傍にいることしか出来ないから。
昔ジオが俺に優しくしてくれたように。
ジオも俺に甘えていいから。
甘えて、利用していいから。
声に出さずに抱き締めて。ほんの少しでも、ジオの不安をやわらげられればいいのに。
決して口には出さないけれど、自分の恋人が危ない場所にいて、気にならない訳がない。

「・・・。」

名前も呼ばれず、何も言葉をかけられない。けれど、ふいにジオが動く気配がして何だろうと思ったら、頭の上、ちょうど額の上あたりに何かが触れる感覚がした。
少しして、それがジオの額だって分かる。
ジオは、何も言わなかった。
俺も、何も言わない。何を言っても、結局のところレイエスが帰ってこないとジオの不安は治まらない。
だから俺に出来るのは、こうやって一緒にいること。

目を閉じて、ジオを抱き締めて。
始まりはいつだったんだろう、と思う。
俺は一人で生きてきて。ジオはアリスと生きてきて。本来なら、交わることが無かったのに。
それでもジオを愛しいと思うのは本当で。
早くレイエスが帰ってくればいいと、切に願った。

+++
ユージン+ジオ。零女前提。
ちょっとシリアスな友情話。
愛しい愛しい言ってるけど恋愛の意味じゃないよ!そんな、浮気みたいな真似しないよ!
ただ、この状態が続けば分からんと言うのがこの二人の危うさです←

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馬鹿馬鹿しくも愛おしき日常。4

2008-04-24 23:08:00 | 書庫(アングラ現代・怪盗パロ)
男二人暮らし、とは言っても俺もジオも料理は出来るし、時間に追われているわけでもないし、世間一般で言われてるような「一人暮らしは栄養が偏る」みたいな事態は起こらない筈、だ。
俺はそうでもないけどジオは結構栄養面も計算に入れて作ってくれるし、時間があると何かテレビで紹介されてるような凝った料理が出てきたりもする。まあ、時間がない時は店屋物や外食で済ませたりもするんだけど。
ジオは自覚してるのかしてないのか分かんないけど、どうやら料理は好きらしくってキッチンに立っているときのジオは何となく嬉しそうだ。
実際ジオの料理は味付けが濃すぎるとか薄すぎるとかそういうこともなくって、美味しくて言うことなし。むしろそこらの女の子より上手な気がする。
ただ、一つ文句を付けるとすれば。

「じーおー・・・。」
「何だ。」
「なーんで今日野菜のオンパレードなんだよー・・・。」

太陽も沈んで二人でテーブルについて。何となく取り皿や水を出したりとか手伝ってる間に嫌な予感はしてたんだけど、今日は野菜のオンパレード。
春キャベツのパリパリサラダ、ベトナム風生春巻き、生野菜と刺身のビビンバ。
別に、食べれるけどさ。

「最近新歓とかで外食が多かっただろ。だからだ。」
「だからってー、何もわざわざ生野菜にすることないだろー・・・。」
「スープもあるだろ。」

不満たらたらに尋ねるけどジオはしれっとした顔でスープを示して、それから手を合わせていただきますと告げる。
スープにまでも野菜が入っててその徹底振りに小さく溜息をつきながら俺も手を合わせた。いただきます、と告げて箸を持つまではいいんだけれども、なかなかどれも箸をつける気にならない。
仕方なく箸を置いてスープを飲むと、ジオは平然と食べ続けていた。
俺の視線に気付いたのか、一度手を止めて喰わないのか、って聞いてくる。

「ジオー・・・それ、嫌味ー・・・?」
「別に。」
「嫌いって知ってるくせにー。」
「ガキじゃないんだから、野菜くらい食え。」
「いーやーだー。ガキでいいー。」

俺がそう告げるとジオが呆れたように溜息を零しているのが聞こえて、でも敢えてジオを見ずにもう一度食卓に視線を戻す。
色とりどりの野菜が踊っていて、気が進まないなぁ、なんて思いながら適当に箸を彷徨わせていると行儀が悪いと怒られた。

「だーって、食べたいーっていうのないしー。お肉とかさー。」
「お前肉ばっかだろ。偏食が激しいんだからちょっとは食え。」
「偏食なんてしてないしー。」
「嘘つけ。」

ジオが呆れたように断言して、生春巻きを口に運ぶ。それを見ながら食べようかな、って思って生春巻きを見やるけど、薄皮の下に何重にも巻かれた野菜を見るととてもじゃないけどそんな気になれなかった。
野菜は別に、嫌いなわけじゃない。食べろって言われたら食べれるし、アレルギーとかがある訳でもない。ただ、好んで食べたくないのは本当。苦いし堅いし水っぽいし。それだったら一度熱を通したものの方が美味しいと思う。
一度サンドイッチ作って温めて、レタスも一緒に温めて食べてたら俺としては美味しかったと思うんだけど、見てたジオには凄く微妙な顔された。美味しいのに。
迷い箸をしてるとまた怒られて、ジオに名前を呼ばれる。何ー、って言いながらジオを見やると本気で呆れたように問いかけられた。

「お前、野菜食えるんだろ。何で食わないんだ。」
「えー、だって美味しくないしー。一食くらい抜いても死なないしー。」
「・・・・・・。」

あ、また溜息。
そんな呆れるようなこと言ったつもりはないんだけど。

「・・・どうしたら食うんだ?」
「えー?」
「どうしたら食うんだ、って聞いたんだ。」

真剣に見つめられて、その問いにくすくす笑ってしまう。俺は今一応保育士とか教員とか子ども相手の職業目指してる訳だけど、何かジオのがそうっぽいよなあ。

「ジオが、はいあーん、ってしてくれたらー?」

そうやって真剣に見つめられるのが面白くて首を傾げて告げてみる。予想通りジオははぁ?!って大声を出して俺を見てきたけど、にこにこと笑ってるとしばらくしてから再び溜息が聞こえてきた。
まあ、ジオがしてくれる筈もないし食べようかな、と思っているとふいにジオの箸が野菜を摘んで。普通にジオの口へと運ばれるかと思いきや、そのまま俺の前に差し出される。

「・・・え、と・・・・・・。ジオ?」
「こうすれば食うんだろ。」
「・・・。」

何ていうか。

(こういうとこがジオって可愛いんだよなあ・・・。)

口には出さずに心の中で呟いてからくすくすと笑ってぱく、とそれを食べる。一口だけかと思いきやジオは雛の相手をする親鳥のように再びもう一口差し出してきて、また食べる。

「ジオってー・・・。」
「何だよ。」
「・・・・・・・・・何でも無い。」

言ったらこれもやってくれなくなるんだろうな、って考えると何だか勿体無くて。
言わないまま、差し出された箸に再びぱくりと食いついた。

+++
ユージン+ジオ。現代パロ。
何ていうか、ジオがどんどん可愛くなってる気がする・・・。
ユージンくんは確信犯です。基本的にあの子はあくどい(何)

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ぬくもりに抱かれて。

2008-04-23 23:03:07 | 書庫(アングラ研究所パロ)
ミシェルはよく寝る。もともとの基礎体力がないせいか、やることがないせいかはよく分からないが、気付くと寝ているといったことがしょっちゅうある。
元からこんな風に一日の大半を寝て過ごしていたのかもしれないが、そればかりは俺には分からないし、ミシェルに聞いても多分定かな答えは返ってこないだろう。
とりあえず分かっているのは、例えば勉強の最中や二人でのんびりしている時だけに限らず、何かしらあって暴れている時や風呂の最中でさえまるで電源が切れたかのようにぱったりと眠ってしまうということがある、ということだ。
俺が家にいる時ならまだいいんだが、例えば俺が留守にしていて、その間風呂に入っていたとして、そのまま眠っていたとすれば溺死とまではいかないまでも、生命の危機に瀕していたっておかしくはない。だから風呂で寝るなとは言い聞かせているが、果たしてどれだけ効果があるか。
そして、風呂に限らず身体が冷えるから寝る時はベッドで寝ろ、とも言い聞かせているんだがこちらの言いつけは滅多に守られない。
現に今も、ソファに横たわってすやすやと小さな寝息を立てている。

「・・・。」

その姿に溜息をついてからそっとしゃがんで抱きあげる。髪の毛がまだ僅かに湿っていて、きちんと拭いていないことも分かった。けれど一応拭こうとは心がけていたらしく、力なく手にタオルが握られている。
それに笑みを覚えながらタオルを離させ、膝と背中に腕を通して抱き上げてそのまま寝室に運ぶ。
人肌が分かるのか温もりを求めるように顔を摺り寄せてきて、動物めいたその行為に小さく笑みを浮かべる。
抱き上げた身体が非常に軽く、その不安定さを如実に表わしていた。けれどこれでも、逃げ出してきた当初よりは重くなった方だ。
そんなことを考えながらそっと寝室のベッドに仰向けに横たえる。そして離れようとすると、きゅ、と小さくシャツを掴まれた。
苦笑しながら手を離させようとそっと指に触れて、けれどそこでゆるゆると力なく翠の瞳が開かれているのに気付いた。

「じお・・・・・・?」
「あぁ。眠いなら寝てていいぞ。」
「んー・・・、」

ふぁあ、と寝転がったまま一度大きく欠伸をしてから手を思い切り伸ばして伸びをして、再び欠伸をしてから俺の方に一度身体を傾け、そこから手をベッドに付いてもたもたゆっくりと起き上がる。
急かさずただじっと待って、身体を起こしてからも眠そうなミシェルに苦笑しながら口を開きかけたとき、じっと見上げられた。
それから手を伸ばしてぺた、と俺の頬へ触れてくる。左頬を右手で、右頬を左手で包むように触れられ、それから左手が慈しむように撫でる。その後手は下へと降りていき、首や胸、背中、腕、足、指、手なんかを確かめてからようやくミシェルはこくりと頷いた。

「ジオ・・・。」
「あぁ。」

確かめるように呟いて、俺だとようやく認識したのかにこりと笑みを浮かべる。

「おか、えり・・・な、さい・・・。」
「あぁ、ただいま。」

一音一音確かめるようにたどたどしい口調で告げられて、その事に笑みを漏らす。最初は、たったこの程度の言葉さえ口にせず、言葉と言うものを忘れた生き物であるかのようだった。
けれどそれが、俺と生活するようになって少しずつ改善され、今ではほんの僅かながらも会話をするようになってきている。
頭を撫でてやれば嬉しそうにミシェルが笑うのと同時に、髪がまだ湿ったままで結局拭いていないのを思い出し、同時に気付いたのか一気に慌てふためきながら何か口にしようとぱくぱくと口を開いているミシェルに落ち着くように声をかける。
そのことである程度は落ち着いたものの、それでも俺を不安そうに見上げてくる目は変わらなかった。

「髪、拭いてないのか?」
「・・・。」
「でも、拭こうとはしてたんだよな?」
「・・・。」

俺の問いかけに不安げな瞳のままこくりと頷いてミシェルは返す。特に二回目の問いかけの後には首が千切れんばかりの勢いで酷刻々と必死に肯定を示していた。
結果として拭かずに眠ってしまったのは事実だが、その必死な様子を見ていればそこまで責める気にもなれず。
多少湿ってるとは言えもう乾いてしまったその髪に苦笑しながら撫でてやると恐る恐るといった様子で見上げてきた。
それに笑いかけると、ほっとしたように笑い返してくる。素直な様子にまたどうしようもなく笑みが浮かんで、愛しく感じた。

「もう、寝るか?」
「・・・・・・、ジオ・・・?」
「俺は・・・、」

ジオは、と言うように首を傾げられて少し悩む。けれどここで俺が風呂に入ると言えば脱衣所まで付いてくることは必死で、多分この様子だと待っている間に脱衣所で寝るだろう。
それが簡単に予測出来て俺も寝る、と告げれば嬉しそうに表情を綻ばせた。
そのままベッドに入って身体を横たえるとミシェルが手を伸ばして抱きついてくる。腕を回してそれを抱き締めてやりながらおやすみ、と告げれば素直にこくりと頷いて。
お休みなさい、とまたたどたどしい発音で返してから目を閉じたミシェルが再び寝息を立てるのには、10秒もかからなかった。

+++
女優。研究所パロ。
何か最近やたらめったら眠い・・・。春眠暁を覚えず。
多分ミシェルちゃんは春眠も冬眠もあったもんじゃありませんが。

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いじっぱりなこいびと。

2008-04-22 23:44:39 | 書庫(アングラ本編)
こう言うとジオは絶対否定するし不機嫌になるし怒って殴られかねないけど、ジオは可愛い。きっぱりと断言出来る。
そりゃあ、背は高いし身体付きもしっかりしてるし、優男っていうよりは恐いほうの顔立ちをしてるしぱっと見の外見じゃあそんなこと分からない。
でも、ちょっとばかし付き合って話してみれば、結構可愛い。
例えば好物が苺とオレンジなんて女の子めいたものだとか。結構本人でも気付いてないけど天然なところとか。美味しいもの食べると見えないしっぽがぱたぱた振ってるみたいに雰囲気が柔らかくなるところとか。意地っ張りなところとか。
例えば、こんな風に。

「サキー、それ何ー?」
「あぁ、これ?家のアルバム整理してたら出てきたのよ。」

場所はいつものジオの店、時は昼間の営業時間、昼下がり。
今日は珍しくサキがやってきてて、それにジオはちょっと戸惑いながらも普通に対応してた。
初対面じゃないとはいえ、やっぱりサキに対してどう対応していいのか分からないみたいだ。普通でいいと思うんだけど、レイエスとサキの関係性を考えると、ジオの気持ちも分からないではない。
俺はいつもならカウンターでジオとだべったりしてるんだけど、今日はサキと一緒にテーブル席で話している。
そんなサキの胸ポケットから出てきた小さな写真に興味を示せば、サキはくすくす笑いながらはい、と表面を見せてくれた。
写っていたのは、おかっぱより少し長いくらいの黒髪をした少年。

「ぅ・・・・・っ、わぁー・・・・・・。」

あまりにも信じがたいそれに思わずまじまじと見入ってしまう。
穏やか、とは言いがたいけどちょっとそれに似た和やかな感じで笑っていて、今では想像付かない写真の人物にただ感嘆の声を漏らす。

「これ・・・、」
「レイエスよ。今から・・・そうね、13年くらい前かしら?」
「13年前・・・てことは15歳くらい?」
「だと思うわ。」

あっさりと名前を告げられて、感嘆しながら再び眺める。黒髪黒目、黒尽くめ、泣く子も黙るとさえ言われる黒鮫レイエス・ヴァレンティノ。
それが、いくら十数年前とは言えまさか笑ってるなんて。しかも、こんな素直に。
何だか信じられない。

「なージオー。」
「あ?何だよ。」

たまたま給仕にテーブル席のほうに来ていたジオにちょいちょいと手招きをする。ジオは不審そうに眉をしかめながらもこちらに近付いてきて、はい、と写真を手渡すとますます眉がしかめられて。
けれどそれが、数秒する内に困惑から驚愕へと変わる。

「それー、レイエスの少年時代の写真なんだってー。ねー、信じられるー?」
「・・・・・・。」

問いかけてみるとジオは無言でただ黙ってじっと写真を見つめていて、言葉も出ないようだった。あの写真は色々と破壊力抜群だと思う、うん。

「どう?ジオくん、感想は?」
「え・・・あ、あー・・・・・・。意外、ですね・・・。」
「そうよぉ、ちっちゃい頃は可愛かったんだから。今は全っっ然、そんな面影もありゃしないけど。」

全然、の部分に思い切り力を込めてサキが断言してからくすくすと笑い、ジオがそれに困ったようにしながら写真に目を戻す。どうやら随分と驚いているらしくって、凄くまじまじと眺めていた。珍しい。

「よかったら、あげるわよ。うちにあっても何の意味もないし。」
「ぇ・・・。」
「ま、欲しかったら、でいいんだけど。」
「えー、サキいらないのー?」

その言葉にぴくりと反応して聞き返す。サキはいらないわ、ときっぱり断言してくれてその言葉に笑みが浮かんだ。

「ねージオ、欲しいー?」
「いや・・・別に、欲しくはない。」
「じゃーさー、俺に頂戴ー?」

言いながらジオの手にある写真に手を伸ばす。すると、すっとそれを引かれて肩の上にやられた。当然届かなくて、立ち上がって手を伸ばす。けれどそうすると今度は手を高く上げられて、また届かない位置にやられる。
何となくむっとして再び手を伸ばすけれど、その度に手の届かない場所にやられる。右腕を伸ばせば左に、後ろに手を回せば前に、上から取ろうとすれば更に高く。
ひょいひょいひょい、とまるで弄ばれるように避けられ続けて結局その写真はジオの胸ポケットに納まった。

「ジーオー・・・。」
「何だ。」
「何だ、ってー、ジオいらないって言ったじゃんー。」
「別に、いらないとは言ってない。」
「でも、欲しくないんでしょー。だったら俺にくれたっていいじゃんかー。」

むぅっとしながら訴えるとしれっとジオは涼しい顔で答えて、それにますますむっとしながら見上げているとくすくすと笑い声が聞こえてきた。
その声の主は座ったままのサキからのもので、俺達二人を見ながら再びもう一枚写真を取り出す。多分さっきとそうそう変わらないだろう年頃の、やっぱり笑ってるレイエス。ちなみに犬と一緒。

「こっちもあるけど?ジャック、いる?」
「んー、じゃあそっちでいいー。もら」

貰う、と告げかけたところですっと俺より先に手を伸ばされて写真を奪われる。ぱっとその手の主を見れば相変わらず涼しい顔で、俺が睨んでいるのにも関わらずしゃあしゃあと追加するか、と聞いてきた。

「ジオずるい!」
「何がだ。」
「だってそれ、俺がもらうもんだったのにー!」
「別に関係ねぇだろ。」
「大有り!ずるいずるいずるいー!」
「うるさい。」

食って掛かるけどジオは全然反省する様子も無くていつも通りの態度でカウンターに戻っていく。
欲しいなら欲しいって言えばいいのにー、と背中に呟いてみるけどあっさり無視された。

別にレイエスの写真がそこまで欲しかったわけじゃないけど。もうちょっと素直になればいいのに、って考えて素直なジオを想像すると思わず噴き出して。
サキにどうしたの、って聞かれるのにふるふる首を振って笑いを堪えながら烏龍茶を口に含んだ。

+++
サキ+ユージン+ジオ。零女前提。
久しぶりに馬鹿っぽい感じの。
ちなみにジオはその写真を引き出しに保管しておいてくれるらしい。

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おなかすいたな。

2008-04-22 20:18:11 | 日常
帰りの電車。音楽聞きながら反省する。
自分から誘っといてドタキャンするとか最悪だ。
予定があるのは分かる、就活中だから仕方ないかもしれない。
でもそれはやっちゃ駄目だろ。
わざわざ時間あけてくれてたんだぜ?しかもこっちの都合であちこち振り回して。
何か、駄目だよ色々。
我儘ばっかり。甘えすぎ。
何でも許してくれるとか思っちゃ駄目だ。馬鹿。
相手の立場ならどうよ自分。嫌だろ?気にしないとか言っても多少は嫌だろ人としてさ。

とりあえず、ごめんなさい。
本当に、ごめん。ごめんなさい。

わたしだけのあなた。

2008-04-21 02:36:26 | 書庫(アングラ本編)
愛しいあなた、全てを見て欲しいの。全てを感じて欲しいの。四六時中、私のことだけ考えて欲しいの。
声を聞いて、名前を呼んで、優しく抱いて、全て全て。
貴方の眼球を刳り貫いてしまいたい、他の誰も見ないように。
貴方の声帯を抉り取ってしまいたい、他の誰も呼ばぬように。
貴方の腕を削ぎ落としてしまいたい、他の誰も抱かぬように。
貴方の鼓膜を打ち破ってしまいたい、他の何も聞かぬように。
貴方の腱を切り落としてしまいたい、何処にも行けぬように。
貴方の指を引っこ抜いてしまいたい、他の何も取れぬように。
貴方の肌を剥ぎ落としてしまいたい、他の何も触れぬように。
貴方の鼻腔を捥ぎ取ってしまいたい、他の何も嗅がぬように。
貴方の臓を握りつぶしてしまいたい、何も消化しないように。
貴方の脳漿をぶちまけてしまいたい、他の何も考えぬように。
貴方を縛って拘束して喉を潰し目を潰し他の何も出来ないようにしてしまいたい。
私だけを考えるように。

ねぇ、世界に二人きりでいられるとしたって私は満足なんて出来ないの。
世界に二人きりでも、建物があれば、草が生えていれば、他の生き物があれば、貴方はほかの事を考えられるでしょう?それじゃ嫌なの、それじゃ駄目。
貴方の目には私だけの姿、貴方の耳には私だけの声、貴方の指には私だけの肌、貴方には私だけ。
私の事だけ見て、聞いて、触れて、抱いて、考えて欲しいの。
愛しい貴方、貴方、私はもうとっくに貴方の色に染まっているの。だからだから、どうか貴方も私色に染まってほしい。
私一色に染まって、本能さえ押し殺して潰してしまって。
渇きは私の唾が、飢えは私の肉が満たしてあげる。眠るときは一緒に、抱くのは私だけ。
愛しいあなた、貴方には私だけ。

「・・・どうした?」
「ん・・・、ちょっと、考え事よ。」

朝の眩しい光の中、隣の彼が問いかけてくる。二人で白いシーツに埋もれて、昨夜は一緒にシーツを泳いだ。
証拠のように彼の胸には紅い跡、髪の色と同じ証が残っている。
指先でそれをなぞっていると、もう一度聞かれて何でもないわ、と笑いながら答えた。
そっと彼が背中に回していた手を頭に昇らせて、優しく頭を撫でられる。そのまま身を任せて目を閉じて、その温もりに浸る。
この時間は、誰にも邪魔をされない二人きりだけのもの。彼が私だけを見てくれる、大事な時間。

「何か、嫌な夢でも見たか?」
「あら、どうして?」
「・・・恐がってる。」

そのまます、と指の甲が頬に触れて心配そうに覗き込まれる。その目を真っ直ぐ見返して、それからふるふると首を横に振った。
恐いものなんて、貴方がいれば何もない。貴方が私だけを想ってくれるなら。
あるとしたら、それは。

「そんなことないわよ。リカルドこそどうなの?どんな夢を見たのかしら。」
「俺か?」

問いが意外だったのか目を丸くする彼にくすくす笑いながらそう、あなた、と返す。いつもは問いかければ大抵鈴が鳴るようにすぐにぽんと返してくるのに、今日は違って彼は一度目を逸らした。
逸らされた視線にほんの少し腹が立ってけれどそれを表に出さず、ただそっと身体を傍に寄せる。
あぁ、夢さえも貴方を奪うと言うのかしら。
そう考えて待っていると、意外にも普段余裕綽々で勝気な彼にしては珍しく頬が僅かに赤く染まっていった。何かしら、と考えているとこれまた珍しくぼそぼそと聞き取れないような小さい声でごにょごにょと告げられる。

「聞こえないわ、はっきり言ってよ。」
「ぁー・・・、だからだな、その・・・。」
「?」
「・・・お前の、夢だ。」

ぽつりと小声で告げられて、一瞬ぽかんとする。
彼は恥ずかしいのか赤くなっていて、それが普段と違って妙に可愛らしい。すぐにそれは愛しさに変わり、普段より愛しさがこみ上がってきてきつく抱きついた。

「ロクサーナっ、」
「嬉しい、嬉しいリカルドっ。嬉しいわ。」
「な・・・べ、別にそこまで喜ぶことじゃないだろ!」
「喜ぶことよ、だって寝てる間すら私のこと考えてくれていたってことでしょう?そんなの、嬉しくてたまらないわ!」

正直に告げて彼の頬に口付けてそれから唇にも口付ける。ぺろりと唇を舐め取って離れれば呆気に取られたリカルドがいて、それにくすくすと笑いがこみ上げてきた。
あぁもう、こんなに愛しい。
笑いながらばさりとシーツを剥ぎとってリカルドに馬乗りになる。驚くリカルドの頬をそっと撫でながらそのまま彼の上に横たわり、口付けをして耳たぶを優しく食む。

「ロクサーナ?」
「ねぇリカルド、もう一度しましょう?」
「お前・・・、」
「いいじゃない、嬉しいんだもの。リカルドともっと一緒になりたいのよ。」

そう告げながら口付けると、リカルドは小さく息を吐き出してから笑って。どうするのかと思いきや、急に腕を引っ張られて体勢が反対になる。
押し倒された形になって、二人で目を合わせて、それからくすくす笑いあって。

「愛してるわ、リカルド。」
「あぁ。愛してる。」

愛の告白を交わして、口付けて、熱を溶かしあった。
愛しい人、愛しい人、愛しいあなた。
こんな風に、いつまでも。

+++
リカルド×ロクサーナ。
・・・何でこんなエロいの?!(待て)
え、えーと・・・うん。まあ、あの二人の幸せだった時代、とでも申しましょうか。そんな感じ。
個人的には兄ちゃんがまだ若いので可愛くていいなあ、と思っている。

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愛しいこども。

2008-04-20 23:39:25 | 書庫(アングラ海賊パロ)
子どもというのは無邪気なものだ。何にでも興味を持ち、はしゃぎ、まるで自分が王であるかのように振舞い、周りも甘やかしそれを増長させる。
天使のように猫と戯れていたかと思えば、その好奇心を以て悪魔のように残虐に猫を殺す。無邪気に、笑いながら。

「フィオネ、まだやってるの?」
「下拵えだ。眠いなら先に寝ていろ。」
「そうじゃなくて、さ。」

厨房で明日の朝食の下拵えの最中、後ろのテーブルに座ったフィルが呆れたように問いかけてくる。
半ばいつも通りのやり取りに呆れて答えながら手を休ませることなく続けていると、ふいに後ろで気配が動くのが分かった。こつこつとゆっくり足音がして、フィルが私の後ろに立つ。

「いっつも料理のことばっかでさ。もうちょっと俺のこと構ってくれてもいいんじゃない?」
「散々相手をしてやってる筈だ。まだ足りないのか。」
「足りない。全然、足りないよ。」

きっぱりと断言されて小さく溜息を吐くと、手が伸びてくるのが分かる。多分抱き寄せようと伸ばしてきて、けれどそれが途中で止まって下ろされた。
それを意に介することなく作業を続けていく。小皿を取って味を確かめ、少し考えてから塩を取った。

「俺は、フィオネのことばっか考えてるのにさ。フィオネはちっとも考えてくれないように見える。」
「言いがかりだ。お前のことはきちんと考えている。」
「そうじゃなくて・・・、違うんだよ。」

後ろから告げてくる声があからさまなほどに不安を帯びている。何かあったのか、と振り向くと同時に抱き締められて塩の瓶が手から落ちた。そしてそのまま床に押し倒される。
間近で見たフィルの顔は、いっそ悲しげな程に不安が漂っていた。

「俺は、フィオネが好きだよ。」
「・・・知っている。」
「他の生き物全てが死に絶えたって、殺し尽くしたっていいくらい、フィオネが好きだよ。フィオネがいれば、何にもいらない。フィオネだけだ。」
「分かっている。」
「分かってないよ。フィオネは、いっつも俺を見てくれない・・・他の奴ばっかり見てる。フィオネ、もっと俺を見てよ。もっともっと、俺を見て・・・俺だけを見て。」
「フィル・・・?」

悲しげな顔が苦しげに歪められて、切なげに訴えられる。最近ではとんと見なくなった、今にも涙を零しそうな顔をしていて、それに不審を覚えて眉根が寄った。
押し倒されて、手を上から押さえつけられる。そのまま口付けられて、昔のように近い距離で見つめられる。

「フィオネ。フィオネにとって、俺は、何?」

まっすぐ真剣な目で見つめられて、まるで殺さんばかりの勢いで射抜かれて、けれどただ呆れて目を閉じため息を零す。
再び目を開くと今度は不安そうな顔で見つめられていて、再び溜息が漏れた。
本当に、こいつは。

「・・・何だと言って欲しい。」
「え・・・?」
「何だ、と答えたら満足する。恋人か?幼馴染か?血縁か?同じ船の船員?頼りになる船医?何がいい。」
「何が、って言うんじゃなくて・・・、俺は、フィオネが俺をどう思っているか知りたいんだよ。」
「好きだ。」

私の答えに呆気に取られていたのが、段々と焦れていく様子を見ながら淡々と告げていく。これ以上もこれ以下もない。
最後にきっぱりと告げてやれば、フィルはますますきょとんとした顔をした。けれどそれは一瞬だけで、再びすぐに先ほどの焦れたような顔になって真剣に迫ってくる。

「違う・・・、フィオネは誰にでも優しいから。フィオネの優しさは、誰にでも分け隔てないから。俺に向ける優しさも、他の奴らに向ける優しさも一緒だ。好きのベクトルが全部一緒だ。それじゃ嫌だ。俺は、フィオネの中で特別でいたい。特別の好きでいたい。いてほしいんだ。」
「・・・阿呆か、お前は。」

意識的にかそれとも無意識にか、ぎりぎりと手を押さえつける力が強くなってきていて、痛みに僅かに顔をしかめながら平然と口にする。
私の言葉に面食らっているらしいフィルに痛い、と告げてやれば慌てたように手から力が抜けた。押し倒されたまま、見返して口を開く。

「お前は、私を好きだと言ったな。それが誰にでも向くものではない、特別な執着心を持つものだというのは分かっている。」
「・・・。」
「私は、それを分かっていてお前と付き合う、と言った。それが、嘘だと思うのか。」
「嘘・・・じゃなくて、フィオネは、誰にでも優しいから・・・。」

再び深い溜息を吐く。正直、殴りたくなってきた。
拘束されているとは言え本気で抵抗すれば逃げ出せるのだから、不可能ではないのだが敢えてそのまま話し続ける。

「私はお前が好きで、お前が特別で、だから付き合っている。お前の事をいつも、というわけにはいかないが考えているし、愛しいと思っている。」
「フィオネ・・・。」
「分かったら離れろ。下拵えが終わっていない。」

呆然として名前を呼ぶフィルに命じると、おずおずと離れて解放される。弱々しいこいつの様子を見て、誰が緑の医者殺し<グリーン・ドクトルリッパー>などと思うものか。
拘束されていた手を軽く押さえて握って開いてを繰り返し、それから未だ呆然として床に座り込んでいるフィルの名前を小さく呼ぶ。
ぴくりと敏感に反応して見上げてきたフィルの目を見もせずにただこう告げた。

「終わったら、一緒に寝る。それでいいだろう?」
「・・・・・・、・・、うん。」

唖然として目を見開いて口を半開きにして、けれどそれでも少しすればたちまち嬉しそうな笑顔になるフィルを見て。あぁ、こいつは本当にまだまだ子どもなのだと思って、苦い笑みが漏れた。

+++
フィル×フィオネ。海賊パロ。
何ていうか、精神的には絶対フィオネさんのが上。実際年上だし。
フィルくんはー子どもですよー。あの、子どもゆえの残虐性?みたいな。

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やさしいひとと、こわいひと。

2008-04-19 03:15:39 | 書庫(アングラ海賊パロ)
この船の人は、みんな優しい。
今考えると、アリスはいっぱい迷惑をかけてた筈なのにみんな追い出そうとしたりしなくって、いっつも優しくしてくれた。
その中でも、一番優しいのはフィオネさんだと思う。
アリスがごはん食べなくても、たくさん工夫してくれて、たくさん考えてくれたって、後から聞いた。
だから、っていう訳でもないけど、フィオネさんは好き。紗沙やメーフィさんも優しいけど、やっぱり、ちょっと違う。

「・・・。」
「どうした。」
「お手伝い、する・・・。」

お昼過ぎ。
いつもは船長さんと一緒にいたり繕い物してたりするんだけど、今日は船長さんは紗沙やメーフィさんと何か話し合ってて、繕い物も無くて、だから厨房に来た。
夕飯の準備中だったのか何だかいい匂いが漂ってて、部屋の端っこではリクトがじゃがいもの皮剥きをしていた。
フィオネさんはそうか、って言ってからアリスに小さなナイフを渡してくれて、リクトを手伝うように、って言ってくる。
こくりと頷いてリクトの隣に行くと、リクトはちらっとこっちを見てから怪我すんなよ、って言ってきた。それにも頷いて、そっとじゃがいもを手に取る。
ぼこぼこの、大きかったり小さかったりするじゃがいも。綺麗に皮を剥いて、芽を取っていく。
それをやってる間はずっと静かで、リクトもフィオネさんも何も言わなかった。
ふわふわと、何かの匂いが漂ってる。牛乳みたいな、でもちょっと甘みのある感じの匂い。

フィオネさんの作るごはんは、とっても美味しい。
アリスも時々ごはんやおやつを作ったりするけど、フィオネさんの方が上手。どうして、って聞いたら困ったような顔をして、好きこそ物の上手なれだ、って答えてくれた。
その後、アリスもやり続けたら上手になる、って言ってくれて、頭を撫でてくれた。
フィオネさんは、ちょっと恐そうに見えるけど本当はとってもいい人なんだと思う。
フィオネさんはあんまり厨房から出ないのにそれでもみんなに慕われてて、それに、ミシェルのいる船の人とも仲がいい。だから、本当に、いい人。
フィオネさんの傍にいるのは落ち着く。船長さんと一緒にいる時と、ちょっと似てる。
でも、違う時がある。

「フィオネ、夕飯の準備中?」
「あぁ。どうした、フィル。」

無遠慮に扉が開かれて、開いた状態のまま手の甲でこん、と扉を叩かれる。その音に入り口の方を見ると、フィルさんがいて手が止まった。
フィルさんはアリスを見つけて、何だか凄く甚振るような目で舐めるように見つめられて、それが恐くてじゃがいもに視線を落とす。それでもまだ視線を感じてきゅ、と唇を噛むとフィオネさんがフィル、って名前を呼んだ。

「何だい?フィオネ。」
「大概にしろ。で、何か用か。」
「用って程でもないけど。顔が見たかっただけだよ?」
「いつも飽きるほど見てるだろう。」
「恋人の顔を見たいのに、理由がいるの?」

顔を伏せているから音だけしか分からないけど、フィルさんがくすくすと笑っていてフィオネさんが溜息をついているのが聞こえた。それから足音がフィオネさんに近付いていって、その後ろ一歩前で止まる。
隣でリクトも溜息をついていて、でも文句を言う様子は無くて慣れてるんだって分かった。

フィルさんは、苦手。優しいんだけど、フィオネさんと違って、恐い。みんなと同じように優しいし、アリスに何かしたり言ったりする訳じゃないし、アリスが病気だったら看病してくれたり怪我したら治療してくれたりするけど、でも、恐い。
みんなも優しいし、フィルさんもそうなんだけど、フィルさんは違う。
だから、恐い。一緒にいたくない。
フィルさんに対して船の何人かもそうやって苦手っぽい雰囲気がしてて、フィオネさんみたいに全員に好かれてる訳じゃないのに、フィオネさんは、フィルさんを受け容れてる。
前に、紗沙が苦虫を噛み潰したような顔で恋人なんだって教えてくれた。
分からない。フィオネさんは、もっともっといい人がいそうなのに。

「どけ、フィル。後で相手してやるから大人しくしてろ。」
「はーいはい。何それ、おやつ?」
「お前のじゃない。」

その会話を聞きながらなるべくフィルさんを見ないようにじゃがいもにじっと視線を下ろす。その間にゆっくりと足音がこちらに近付いてきていて、何だろうと思って視線をあげるとフィオネさんがお皿を持っていた。
そのまま見上げているとおやつだ、って短い言葉と一緒にテーブルにお皿を置かれて、食べろって示される。

「レモンのマドレーヌだ。きちんと分け合って食べろ。」

それだけ告げると、フィオネさんはまた作業に戻るかと思いきや、別のお皿に似たようなお菓子を載せて、フィルさんに渡す。形は同じっぽいけど、色がちょっと黒っぽいから・・・チョコレート?
フィルさんは嬉しそうに受け取ってて、それを見ているとふとフィオネさんと目が合った。どうした、って言うように見つめられて視線を逸らしてマドレーヌを手に取る。
食べてみると、やっぱり美味しくて。甘酸っぱいそれが口の中に広がって、ゆっくりとそれを飲み込む。そうしているうちに再び靴音がして、顔を上げるとフィオネさんが水の入ったコップを置いてくれた。
それからアリスの頭を撫でて、フィオネさんは作業に戻る。
やっぱり、優しい。
その後ろからフィルさんが話しかけていて、でもそれを冷たくあしらうことも泣くフィオネさんは会話を続けていて。
何であの二人が恋人なんだろう、と思いながら新しい一口を口に含んだ。

+++
フィル×フィオネ+アリス。
何かフィオネさんが凄く常識人だ、ということに今更気付いて書いてみる。
フィオネさんって一歩間違えればジオだとふと今思った。

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甘いチョコレートと、甘やかしてくれる人。

2008-04-18 11:35:23 | 書庫(アングラ現代・怪盗パロ)
俺には両親がいない。代わり、っていう訳でもないけどエイドがいたし、同じように両親がいない子も傍にはいたから、あんまりそのことをどう、とか思ったことはない。
よく同情されるけど、同情される意味もよく分からなかった。
だから、親っていうのがどういうものなのか、家族ってどういうものなのかが分からない。
分からないけど、何となく、父親がいたらこうなのかなあ、って思う人はいて。

「ランフォードパパー、いるー?」

久しぶりに行った雪さんのお屋敷で、もう何回も行って覚えた部屋にノックをしてから顔を覗かせる。
部屋の主は俺に気付いて、けれど電話の途中らしくって受話器を耳に当てていて俺に困ったような笑みを向けてきた。その笑みが雪さんと似てて、やっぱり親子なんだなあとか思いながら大人しく椅子に座って電話が終わるのを待つ。

「Il y avait l'et comprenait.. ...S'il vous plaît faites-le pour référence dans ce qui pense qu'il y avait le document dans la bibliothèque de l'université définie.Paraître.. est une prochaine société.」

すらすらと出てくる滑らかな発音に何語だろう、なんて考えながらパパを見ていると、電話が終わったのかそっと受話器が置かれた。
何か手元のメモに書き付けてからようやくこっちに顔を向けたパパが、雪さんと同じように柔らかく微笑む。

「こんにちは、アリス君。今日はどうしたんだい?」
「今日は。えっと、どうしたっていうか・・・。」

特に用があった訳でもないのにそう聞かれると答えられなくて、唇をつぐんで少し目線を落とす。するとパパは穏やかに笑いながらさっき書いたメモを栞代わりのように広げていたページに挟んで、机に置いてあった分厚い本を閉じた。
お茶でも飲むかい、と聞かれてこくんと頷くとパパは笑いながらじゃあ客間へ、と誘ってくれた。二人で部屋を出てちょこちょこと付いていくと、昔からの顔なじみのメイドさんたちが声をかけてくる。それに挨拶を返しながら客間へ改めて通されて、柔らかいソファに腰を下ろした。ふかふか。

「今日ティッキーと雪さんはー?」
「エドワードは仕事で出掛けているよ。ティキちゃんは、それについていったんじゃないかな。最近忙しいようだから。」
「ふーん・・・、ランフォードパパも忙しかった?」
「いや、特に忙しくは無いよ。先日大仕事を片付けたばかりだしね。」
「大仕事って、何したの?」
「論文を2本書き上げて、1本翻訳して、それとちょっと法制史の依頼があってね。それくらいかな。」
「ふーん・・・、大変そう・・・。」
「まあ、好きでやってることだからねぇ。」

ゆったりと穏やかに笑うパパを見ながら落ち着いてるなあ、って思って何となく心がほやんとなる。
幼稚園くらいの頃からパパとはお付き合いさせてもらってるけど、パパはいっつも穏やかで優しくて、俺を可愛がってくれてる。雪さんがもうちょっと大きくなったらパパみたいになるんだろうなあ。
その内にメイドさんがお茶を運んできてくれて、一緒にチョコレートも運んできてくれた。銘柄がどうとかはよく分かんないけど、多分高級なやつなんだと思う。
チョコレートを一粒摘んで口に入れると、甘くって苦くってでも美味しくて、エイドにもお土産、っていうとこまで考えてはっと思考が止まる。
わざわざここに来てるのに、考えなくてもいいのに。
パパは気付いているのかいないのか、俺を見て穏やかに微笑んでるだけだった。
ふいにアリス君、って名前を呼ばれてきょとんとすると手招きされて、ソファを立って対面上に座ってたパパの傍に行く。隣に腰掛けると、ぽんぽん、と頭を撫でられた。

「・・・ランフォードパパ?」
「何だい?」
「何・・・っていうか・・・どうしたの・・・?」
「アリス君が拗ねたような顔をしていたからね。ジオラルド君と喧嘩でもしたのかい?」
「・・・・・・俺悪くない・・・。」

見透かしたような発言にも、パパだとちっとも腹が立たない。エイドだと最近ちょっとむってするんだけど。
パパはそう、って言ってから相変わらずよしよしって頭を撫でてくれて何だかがすがすしてた気持ちも和らいでいく。パパは何かきっと天然の癒しオーラか何かを持ってるんだと思う、うん。
もう一個チョコレートを食べると美味しい?って聞かれて、それに頷くとパパは嬉しそうに目を細めた。

「ねーランフォードパパ、今日泊まっていっていい?」
「あぁ、いいよ。ただ、明日はちゃんと帰ろうね?」
「・・・・・・うん・・・。」

渋々頷くとまたパパが撫でてくれて、見上げると微笑みかけられた。
パパはいっつもこうで、いっつも優しい。
父親って、こういう感じなのかなあ、なんて思いながら、口の中で溶けたチョコレートを飲み込んだ。

+++
アリス+ランフォード。現代パロ。
ランフォードさんは雪の父です。アリスはちっちゃい頃から懐いてます。パパは懐いてくれるアリスが可愛いです。アリスは反抗期なのでジオとちょっと仲こじれてます。
そんな感じのお話。

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あんしんできるばしょ。

2008-04-17 03:10:47 | 書庫(アングラ海賊パロ)
男慣れ、という意味でなら同年代の他の女の子よりもかなりしていると思う。何故って周りは男ばかりの男所帯で小さい頃から過ごしていて、自らも男の振りをしていて、その為に男らしい仕草、表情、口調を真似るために随分と研究した。
胸もさらしで潰したし、酒にも強くなった。並大抵の男には負けない程度の腕力も手に入れた。
だから、という訳でもないだろうけど。
昔から私を知っていて、女だと知っているのに男扱いしてくれる彼らはとても有難くて、とても好き。船の中で、彼らと一緒にいる時が一番安心出来る。

「紗沙。こんな夜更けにどうしたの?」
「んーと・・・誰でもいいんだけど、一緒に寝かせて?」
「それは構わないけど・・・。」

夜、3人の部屋を訪れる。自分の部屋は自分の部屋であるんだけれども、今日はちょっと使えない。
3人の部屋に来てみれば、ちょうど寝るところだったのかきょとんと首を傾げられた。
あっさりといい、と言ってくれるメーフィとは裏腹にリィガ兄さんが制止をかける。どうしたんだ、と聞かれてドアにもたれかかりながら髪を解いて口を開いた。

「アリスちゃんが風邪引いちゃって。それで、一応フィルが移らないように、別の部屋でって。」
「・・・そうか。」

船医の名前を口に出して理由を説明すれば、3人とも納得したように頷く。フィルは人格としては破綻してるけど、船医としての腕は確かによかった。
いつもならアリスちゃんと一緒に寝てるんだけど、風邪を引いてるとなればそうはいかない。どうせ昔はこの内の誰かか船長と寝ていたんだからいいだろうと思ってきたけれど、リィガ兄さんや霧夜兄さんは納得いってないようだった。
手で髪を適当にとかしながら首を傾げていると、メーフィが苦笑しながらじゃあおいで、と手を伸ばしてくれる。
そのままメーフィのベッドに入ろうとすると後ろから慌てたように紗沙、と呼び止められた。

「・・・何?どうかした?」
「お前・・・、その、何と言うか・・・女扱いされたくないのは分かるんだが・・・。」

振り返るとリィガ兄さんがこちらを見て苦虫を噛み潰したような顔で重々しく口を開く。けれど論点が定まらず声も小さくて何を言っているのかよく分からなくて、首を傾げていると今度は珍しく霧夜兄さんから名前を呼ばれた。

「紗沙・・・、女扱いどうこうじゃなく、お前は女だ。もう少し考えるべきだ。」
「?何で?」
「・・・。」
「だって、メーフィもそうだけど霧夜兄さんもリィガ兄さんも襲ったりしてこないでしょ?」

あっさりと告げれば霧夜兄さんとリィガ兄さんの二人が呆れたように私を見る。けれども裏腹に、私のちょうど背中の辺りにいるメーフィがくすくすと笑っている声が聞こえてきて、振り返ればそのまま頭を撫でられた。

「全く・・・可愛いね、紗沙。」
「・・・?メーフィ?」
「リィガも霧夜も、言いたいことは分かるけど。もう少し、僕を信用してくれないかな?」

メーフィが相変わらずくすくす笑いながらそう告げれば二人は苦々しく、あるいは重々しく頷いてリィガ兄さんは渋々といった様子で自分のベッドにもぐる。
霧夜兄さんはじっとメーフィを見つめていて、言葉はなかったけれど何となく威圧感を感じ取った。
それが分かってるのか分かってないのか、メーフィは相変わらずくすくす笑ったまま寝るよ、と声をかけてきた。大人しく返事をして隣に寝転べば、そっと腕枕を差し出される。

「別に、いらない。」
「いいでしょう、久しぶりなんだし。ほら、離れてると落ちるからもっとこっちにおいで。」
「いらないって言ってるのに・・・。」

ぶつぶつとそう呟きながらも大人しく忠告に従ってメーフィの傍へ寄る。すると背中に腕を回されて、ぎゅっと抱き締められた。
何となく、その温もりが懐かしくてふぅっと息を吐き出す。
やっぱり、ここは落ち着く場所。

「それにしても・・・あの料理人が見たら何て言うんだろうね。」
「・・・チルカ?何、って・・・。」
「色々とね。面白そうだから今度会ったときにでも言ってみようかな。」
「そしたら、チルカよりも九耀が怒るんじゃない?」
「いいんだよ、あの馬鹿猿は。」
「馬鹿猿って・・・。」

メーフィの言い様に思わずくすくすと笑いを漏らして、それからメーフィと顔を見合わせて笑う。
こんなにくっついて寝ることなんて随分と久しぶりで、それがとても暖かい。
ただの人肌の温もりとは違う。これは多分メーフィだからで、霧夜兄さんやリィガ兄さんだったとしても、多分同じものを感じるんだと思う。
その中で、腕枕をされて、抱き締められて、まるで幼い頃のように額にお休みのキスをされて。
背中をぽんぽんと、一定のリズムで叩かれてるうちに、その安らかな温もりに誘われて、眠りの世界へと落ちていった。

+++
紗沙+メーフィ+リィガ+霧夜。海賊パロ。
古株3人衆+妹。彼らはある種の義兄妹ですよ。何でメーフィだけ兄さんがつかないかっていうのも多分理由がある・・・筈←

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