戯言

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2011-08-01 11:38:14 | 書庫(アングラ本編)
下町の雪という言い方がツボだったので、何かそれ関連でもしゃもしゃ考えてたら、いつの間にかアラビアンになったよっていう不思議なパロ設定だけ投下していくw

雪→下町のはずれの住人。訳ありの女の子と同居中。実は王子様。
ティキ→雪と同居してる女の子。訳あり。
リィ→ティキを連れ戻しにくる青年。ティキと浅からぬ関連があるらしい。

ユージン→下町とお城を自由に出入りする不思議な青年。町医者と同居中。
ミシェル→巫女さん的な。後宮的な女の園にいる。ユージンとは双子。
ちなみに双子共雪に構ってもらった経験あり。
ミシェルは幼少(少女時代?)時、ユージンは下町暮らし始めたばっかの頃。

ラジュ→ユージンと暮らす町医者。腕もいいしお値段も良心的なので商売は繁盛している。

アリス→遠くの異国からやってきた歌姫。砂漠の暑さに辟易している。
シオン→アリスの護衛。

アリス(アキラ)→双子だった為捨てられたアリスの双子の片割れ。ひょんなことから妹と再会。
ジオ→王国騎士団所属。アリス(アキラ)と一緒に育った。
ローズ→ミシェルと同じく巫女さん的な?

レイエス→下町の高利貸し。債権者がミシェルとローズの暮らす女の園(男性出入り不可)へ逃げたのを躊躇もせず追いつめ、その際にローズと会う。ちなみにその後ジオに追い出されるw

師匠→高級娼婦(?)

リカルド→財務大臣。視察という名目でよく下町に遊びにくる。

リズ→女の園の女官。
エリック→王国騎士団所属。

字面だけだとあんま変わらないな…とりあえずアラビアンな服装を着てるのに萌えただけだったりするw
ちなみにリィはティキの、エリックっていうのはリズちゃんの男性化wwリィは何事にも冷めて見下してる感じ、エリックは気障っぽい感じの残念なイケメンww
何かジオとユージンくんとアリスの女体化も一緒に出そう→じゃあティッキーとリズちゃんの男性化も出してみるかwって感じww

雪はこんな自分が王位継承権なんかある訳ないって置手紙で継承権捨てますよ、って言って家出したww
今のとこ見つかってないけど、その内見つかって強制送還される予定ww

ちなみに下町って言ってるけどアグラバーみたいなのを想像してるからあんま下町っぽくないかもなあ…w


設定考えるのは楽しいwww

aequinoctium

2010-08-05 01:43:22 | 書庫(アングラ本編)
アンダーグラウンドと呼ばれる、どこもかしこも根を張り巡らされたような街で、無派閥なんてことはあり得ないに等しかった。フラン第7区と名付けられたこの地域の中で、大の大人たちは派閥を組み、何処が誰のものだどうだと、まるで子どもの遊戯にも似たことを永遠と続けている。
けれどそんな派閥争いに巻き込まれることなくのんびりと人々が暮らしていられるのは、この国の闇を支配している組織、サン・ノワールに名を連ねる組織のトップがこの街にいるからだろう。この街で小競り合いを続けている派閥はほぼその組織の傘下に入っていたし、入っていないとしてもその組織力を恐れるマトモな人間は無益な争いを避けた。
だから、街の外れにどうやら無派閥の最強のハンターが居座っているらしいという噂を聞いた時にリカルドは大層驚いた。この街で無派閥でいられるなんて、自分のように特殊な事情を抱える者か、それに似た例外だけだったからだ。
そしてリカルドが街を歩いている最中、ふと気付けばその限りなく特殊なもう一人の例外が、目の前でひらひらとこちらに手を振っていた。

「だーんな、久しぶりー。元気だったー?」
「ああ、お陰様で。久しぶりだな、クラウン。」

クラウンと呼ばれた青年は軽い同意を示してからするりとリカルドの横へと回ってきた。まるで商売女を思わせるような身体の動きだが、その動きに彼女達特有の色香は全く含まれていない。どこか楽しそうに笑いを浮かべている青年は、そのままリカルドの隣に立って歩き出した。
緩いウェーブを描く金の髪に、翡翠にも似た翠の瞳。身体付きはごく平均的なもので、測ったことはないが体力的には恐らく一般男性と似たようなものだろう。そんな相手がまさかこのアンダーグラウンドどころかこの国の奥深くまで入りこんでいる情報屋だとは誰が想像出来るだろう。リカルドとて、一番最初に出会った時はとてもそうは思えなかった。
けれど知り合って暫くすれば、その評判に嘘はないと嫌でも知ることになり、時々こうして言葉を交わすようになった。どうやらクラウンからもマイナスの感情は抱かれていないようで、彼もリカルドと会えば笑顔を向けてくれている。それがどこまで商売上のものなのかは知る由もないが、それでもいいとリカルドは考えていた。
現に今も彼は笑顔を浮かべていて、そのままふとリカルドを見上げてくる。それを悪くないと感じていると、どうしたのと問うように軽く首を傾げて見せた。

「いや、何でもない。それより、俺に付いてきてどうするんだ?」
「えー、次の取引までちょっと時間あったからさー。暇潰し?」
「ったく…。今から行くのは換金所だ。お前が行っても特に面白いことはないと思うぞ。」

悪びれることなくあっさりと告げる相手に苦笑しながら行き先を告げると、クラウンは非難めいた声をあげた後そっかあ、と言って考え込んでしまった。
それもその筈、これからリカルドが向かうのはハンターが異形の情報を集め、捌き、狩ってきた異形を換金する場所。本来なら行政の一部として地域の中心にある筈の施設だが、この街の非公式ハンターが多いことから、必要性に狩られて戒のリウタウラス家が特別措置として設置したものだ。
当然、ハンター以外はそこに用はない。それはこの青年も変わらないようで、小さく嘆息しているのが聞こえてきた。
些か子どもらしいその反応に一つ笑みを零していると、気が変わったのか明るい声でねーねー、と呼びかけられた。

「ん、何だ。」
「旦那ってさー、何だかんだよくこの街にいるよねー?仕事はいいのー?」
「仕事はある程度区切りをつけてる。あくまでこれは副業だしな。」
「ふーん…、でもさあ、ちょーっと来過ぎじゃない?当主様なのにさー。何か目的でもあるのー?」

その言葉にリカルドは即座に答えられず、曖昧な表情を作ってから一つ息を吐き出す。
クラウンの言う通り、リカルドはとある貴族の当主だ。それも、商のボルジア家と称される大貴族の。
勿論やることは山積みだし、貴族としての仕事以外に、この国の商業の全ての元締めとも言えるヴェレーノ商会の会長としての仕事もある。
けれど、それすら差し置いてでもやりたいことが今のリカルドにはあった。
それを素直にこの青年に言うべきかどうか悩んでリカルドは隣の彼を見下ろす。
一見無力で無害そうにも見えるこの青年は、いざとなればこの国に大きな混乱を招くことが出来るだろう恐るべき情報屋だ。その彼に事情を話すとなれば、この街どころか下手をすればこの国全体に秘密が知れるようなもの。
さてどうしたものか、と考えながらリカルドは隣の青年をじっと見下ろした。応えるように見上げられて、同じ緑の瞳が互いに映る。自分も同じ色彩の瞳である筈だが、隣の青年とは全く色が違うようにリカルドには思われた。
クラウンの翠には、悪意の類は一切浮かんでいない。好奇心や探究心といった何かを期待するような輝きだけだ。元より、彼が悪意を見せたことなどリカルドは見たことがない。
それに諦めにも似た心地を感じて、一つ区切りをつけるように息を吐き出してからリカルドは口を開くことにする。クラウンは敵にすれば確かに恐ろしいが、味方にすればこれほど頼もしい友はなかった。
敵にしない為には、口止め料を払えばいいだけのこと。差し当たっては、自分より多くの金を積める相手は貴族にも裏社会にもいないだろう。

「…人探しだ。」
「人探しー?誰?」
「失踪した、某貴族の跡取り息子だな。この街にいるらしいと噂を聞いた。」
「へーえ。誰、有名人ー?」
「法と繁栄の守護者、だな。」

そう告げて反応を伺えば、それだけで誰か分かったのかクラウンは楽しそうに目を輝かせる。

「へーえ、その人かあ。俺、てっきりどっかに隔離されて閉じ込められてんのかと思ってたー。自殺したとか気が狂ったとか、沢山噂あったしさー。」
「俺も一時期はそう疑ったけどな。家人に聞いたから間違いないだろ。」
「そうなんだー、この街にねえ、へーえー。」

まるで新しい玩具を手に入れた子どものように楽しそうに笑い続けるクラウンに、心当たりはあるかと聞けば首を傾げられた。曰く、心当たりがあることにはあるが、数が膨大すぎるとのこと。

「だーってさ、失踪してからもう5年でしょー?その間にこの街に入ってきたのなんかいーっぱいいるし、5年もあれば人の顔とかなりとか性格とか、変わっちゃうからさー。」
「…。」
「それに、俺会ったこともないしねー。」

確かにそれは事実なので、どうしようもない。それを分かって敢えて、何でもいいから情報が入ったら連絡が欲しいと頼むと、クラウンは不思議そうに首を傾げた。

「別に、それはいいけどさー…。何でそこまで必死なのー?ってか、会ってどうしたいのー、5年もいなかったらもう死んでるも同然だしー、もしこの街にいたとしても、旦那のこと好きでいてくれないと思うよー?」

そう告げるクラウンの瞳に悪意はなく、あくまでただの事実を述べている。それが分かっているだけに、リカルドも軽く眉根を寄せて力なく嘆息した。
そう、クラウンが語っていることは事実だ。5年前、突然いなくなったリカルドの親友。彼は今生きているかどうかすら保障はないし、よしんば生きていたとして失踪する前と同じような性格でいられるとはとても思えない。ましてや、リカルドに対してまだ好意を持っているなんてことは奇跡に近い確率だろう。こんな街で生きていたとしたら、余計に。
この街は、底辺だ。誰もが目をそむけたくなるような、ゴミの掃き溜まり。行政の福祉はぎりぎり行き届いているが、それでも貧しさに死んでいく者は後を絶たない。この街で生まれ育った者なら、特有のコミュニティの中で助け合って生きていけるかもしれないが、余所者がここにやってきたらとてもではないが生きていけない。裏社会に身を投じない限りは、確実に。
もし身を投じてしまえば、もう光のあたる場所へは戻れない。どんなに懸命に努力したところでそれが顧みられることはないし、あったとしてもますます深い闇へと堕ちていくだけだ。
親友の性格から考えて裏社会に身を投じることはないだろうし、もし万が一そうしたとしても拾った奴が彼を利用しない筈がない。
失踪する前のように穏やかに生きている確率なんて、限りなくゼロに近いのだ。
それでも、とリカルドは願う。

「…ただ、生きていて欲しいだけだ。」
「へーえ…。どうしてー?やっぱ、連れ戻したいのー?」
「いや?お前の言う通り、もう5年も経ってるしそんなことは今更無理だってことくらいは理解してる。」
「ふーん…じゃあ、お貴族様の体面ってやつー?」
「いや…、俺個人の願いだ。」

そう告げて、ぽんぽんとクラウンの頭を撫でる。その意図が分からないのか不思議そうにクラウンはリカルドを見上げてきたが、特に言葉は掛けずにそのまま手を離した。
リカルドは、多くを背負う身だ。この国を支える大貴族の当主であるし、この国の商業を支える存在でもある。そして、親友も同じ大貴族の跡取り息子だったし、この国の未来をますます発展させていくだろう存在だった。
けれど、そんなことはリカルドにとってどうでもよかった。優しく穏やかであった彼は、貴族云々である前にリカルドの親友だったのだ。
親友に生きていてほしいと願う。ただ、それだけだった。

「…まあ、時間あったら探してみるよー。報酬はたっぷりもらうけどねー?」
「ああ、頼んだ。」

何か悪戯を思いついたかのように少し意地悪い色を覗かせて笑う青年に素直に頼み込めば、反応が意外だったのかクラウンはきょとんと目を丸くさせた。その反応に小さく笑みを零してからリカルドがクラウンから目線を外し、前を向けば不思議そうにしながらもクラウンはついてくる。
換金所に彼は用はない筈だが、暫くは暇潰しがてらついてくるつもりなのだろう。
別段彼を追い払う用事もないので、特に気にすることもなくリカルドは目的の場所へと足を進めながら世間話に例の噂を口にした。

「そういえば、この街のどこかに無派閥のハンターが住み着いたらしいな。」
「ああ、トリプルエスの『最強(ル・フォール)』でしょー?何か、どこの組織にも入ってないんだってねー。」
「らしいな。『最強』なんて、どの組織も喉から手が出るくらい欲しいだろうに、よく無派閥でいられるもんだ。」

リカルドの半ば呆れを含んだ言葉にあっさりと同意を示しながら、隣でクラウンは組んだ手を思い切り上にあげて伸びをする。その手を下ろす際にぶつかりそうになった擦れ違い様の男が、クラウンを見て文句をつけようとしていた口を慌てて閉じていた。
それを横目で見ながら肩を竦めていると、クラウンがそれより、と目を輝かせながら新しい話題を投じてくる。どこの組織のボスが実は小動物が好きだとか、数年前からこの街で活動している仮面と呼ばれる殺人犯の話だとか、挙げてくる話は枚挙に暇がない。けれどどれも噂話や世間話の延長線上にあるもので、さしたる重要性はないものばかりだった。
よくそれだけ情報を集められるものだ、と内心舌を巻きながらリカルドが適当に相槌を打って聞き流している間にも次々とクラウンは話題の種を差し出してくる。その膨大な情報量に押し流されるようにして、リカルドが気にとめていた無派閥のハンターについても彼の中から零れ落ちていってしまったが、彼自身それに気付くことはなかった。


+++
リカルド+ユージン。
久しぶりに書いたらやたら長くなってしまった…。
本編の約1年前くらいのお話。忘れられがちだけど、兄ちゃんはずっと雪を探してたんだよ。ユージンくんは知ってて黙ってる。だってこれでも情報屋さん。
ちなみに「法と繁栄の守護者」でルイーズ家のエドワードさんを指します。法=ルイーズ、繁栄の守護者=エドワードの語源(古英語)なので。
色恋が絡んでないものを書くのはどれくらいぶりだろう…ww

店主と情報屋の戯れ。

2010-01-30 00:24:37 | 書庫(アングラ本編)
「ジオ。」

ふいに呼びかけられて何だ、と返す。けれどユージンは何も返さずに、また嬉しそうに俺の名前を呼んだ。

「ジオ。」
「…だから、何だ。」
「じーお。ジオラルド。」
「…。」

一体何なのかと思ってユージンへ呆れた目線をやれば、カウンターで奴は嬉しそうに笑っている。

「ね、ジオ。」
「…何だ。」
「俺、ジオの名前、好きー。」

力の抜けた笑みと共に告げられて、呆れながら手元のグラスへ目線を戻す。それを磨いて棚へと戻せば、反応しないことに騒ぎ出すかと思いきやただにこにこ笑いながらこちらを見て、もう一度名前を呼んだだけだった。
何か裏があるのかとも一瞬考えたが、それならそれでいいと思いながら俺も口を開く。

「ユージン。」
「何、ジオー。」
「…呼んだだけだ。」

そう答えながらグラスの数を確認し、棚の扉を閉める。規定数には一つ満ちていない。
足りない最後の一つのグラスは、ユージンの手元にあるそれ。烏龍茶に身を浸しているその中の氷が、夕陽を反射しながら溶けて僅かな音を立てた。

時間…。

2010-01-05 02:34:01 | 書庫(アングラ本編)

最近色々あって時間がなさすぎる…。
明日こそは…明日こそは…!ってのばっかりだな。


書きたいよう~何か書きたい。
UGでも別のオリジでも二次創作でも…何でもいいから文章書きたい。


あーあーあー…精神と時の部屋欲しい…(5、6年前から言ってる)

カッとなってやった、その3。

2008-11-21 05:44:01 | 書庫(アングラ本編)
今度は吸血鬼ユージンくん。


+++


世界で一番のご主人様
そういう扱い心得てるよ

その一
そういえばコート変えたの?こっちのが好きだな
その二
食器も全部変えてくれたんだ ありがと
その三
何か前より家が住みやすくなったな
俺の為?なんて自惚れてもいいのかな

いつも我侭ばっか言ってるのにさ
それでも何だかんだで聞いてくれてるよね ありがとう

世界で一番のご主人様
いつも傍にいるよ
寂しい思いはさせない
俺を誰だと思ってるの?
この世界にもうたった二人しかいない
最強の吸血鬼だよ

仕事だ任務だって忙しいね いつもお疲れ様
でもねだからって放っておかないでよ ちょっとぉ・・・
あ、全く!怪我してるじゃん、俺がやるって言ったのに
狩り終わったら早く帰って一緒に暖まろうよ

いつも気を張って使ってばっかりなんだから
たまにはゆっくり休みなよ 仕事はもういいからさ

世界で君だけの吸血鬼
昔は全く想像もしなかったな
不器用で可愛いご主人様
おねだりしてもいい?って何で背向けるの!

君だけは大事だから 全部飲んだりなんかしないよ?

いちごの乗ったショートケーキ こだわりたまごのとろけるプリン
みんな全部絶品だよ 君の為に作ったんだ
俺だってやれば出来るよ 後で後悔しないで

当然だ! だってこの俺は

世界で君だけの吸血鬼
ちゃんと見ててね 余所見なんかさせない
ふいに抱き締められた 急に そんな えっ?
「疲れた ここにいろ」そう言って隣で寝る君

やっぱ可愛いって 物凄く

+++

・・・可愛いしか言って無くないか?;;



あとはさっきふと思いついた王国のリィガさんとジオちゃんの会話。

※前提。
ジオちゃんとミシェルちゃんは何だかんだで結婚します。
リズちゃんはミシェルちゃん付きという形で通いでお世話します。
リズちゃんはリィガさんと結婚します。


+++

リィガさんとジオちゃんがお仕事関連の話をしているらしいです。

「・・・(何か連絡事項)・・・ということだ。何か質問はあるか?」
「いえ、大丈夫です。こちらからは・・・(何か連絡事項)・・・、以上です。何かありますか?」
「いや。」
「はい、ではこれで。」
「うん・・・あぁ、ジオラルド。」
「はい?何か?」
「仕事とは直接関連ないんだが・・・、ユージン様にお大事にと。」
「・・・え?」
「うん?風邪を引いてるんだろう?女房がそう言っていたが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・あ、あぁ・・・女官長のことですね。分かりました、伝えておきます。」
「あぁ、よろしくな。」

+++

オチなんてないよ!
ただリィガさんにリズちゃんを女房と言わせたかっただけです。

あなたのしあわせ。

2008-09-22 03:14:37 | 書庫(アングラ本編)
フラン第7区。アンダーグラウンドと呼ばれるこの街で、一人の少女が走っていた。
この街では珍しくきちんと身なりは整えられ、纏う服も上等なものだ。
その腕には彼女の腕には持ちきれないほどの花束が抱えられていて、それによって前を見ることすら困難なように見える。
けれどそれでも彼女は歩みを止めることはなく、むしろどこか嬉しそうな笑みを浮かべながらぱたぱたと一生懸命走っていた。
彼女が思い浮かべるのは、愛しい彼のこと。今までの事を全く覚えていない彼女に全てを与え、慈しみ、全てを教えてくれた人のこと。
それが恋愛だと気付いたのはかなり前のことで、今は二人穏やかに同じ道を歩んでいる。それを友人に話したら、とある1つのエピソードと共にこの花束をくれたのだ。
逸る気持ちを抑えきれずに花束を抱えて彼の待つ家へと向かう。

「雪、ただいま!」
「・・・お帰りなさい、ティキ。・・・そのはな」

花束は、と問おうとした彼の口が動くより先に彼に駆け寄って、彼女は抱えていた花束を押し付けるようにして彼に渡す。驚く彼にプレゼントです、と告げてそのまま抱きつくと、バランスを崩しそうになりながらも彼は受け止めて彼女を抱き締めた。
彼女が抱えてきた花束は随分と大きなもので、何かと彼がその花を見れば、全て鈴蘭だった。彼がどう反応していいのか分からず彼女を見下ろすと、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら告げる。

「リズに、鈴蘭は愛しい人に送るんだって聞いたんです。」
「愛しい人・・・ですか。」
「はい。そうすると、その人にも幸福が訪れるんですって。」

無邪気に告げる彼女の笑みを見て、ようやく彼もいつもの笑みを取り戻して有難う御座いますといつもの調子で告げる。すると彼女は更に嬉しそうに、それこそ輝くように微笑んではい、ともう一度頷いた。
それからそっと花束を置いて、彼は改めて彼女を抱き締める。頭1つ分低い彼女はちょうど彼の腕の中にすっぽりと収まってしまう大きさで、それがまた愛おしく思えた。
彼女の方はと言えば、全て包み込まれるようなその温もりが愛おしく、抵抗などせずに自分から抱き締めるように背中に腕を回す。
そんな彼女の髪を彼はそっと撫でて、ティキ、と柔らかく名を呼んだ。素直に彼女は顔を上げ、彼と目が合う。二人の青の瞳が重なり合って、濃度の違うお互いの青に彼女が頬を緩めた、その瞬間。
彼はそっと屈むと、何の前触れもなくふっと彼女の唇と自分の唇を重ね合わせた。つまりは、キス。
一瞬あまりに突然の事に反応できなかった彼女もすぐに何をされているか察し、かぁっとその白い頬を一気に朱に染める。
その様子を目を細めて見やりながら彼は離れ、赤くなった彼女の頬をそっと指の甲でなぞるように撫でて、残酷な言葉を口にした。

「生憎と、私にはその花の効果はありませんよ?」

いつものように穏やかに微笑んで、柔らかく目元を緩め、愛おしそうに彼女を見つめながら、それとは正反対の言葉を口に上らせる。それを聞いた彼女が愕然と目を見開くのを楽しそうに見つめながら、そっと彼は再び彼女に口付けを落とした。
それでも未だ目を見開いて呆然としている彼女を見て、少し困ったように眉尻を垂らしながら彼は続いて告げる。

「貴方といられるだけで、私は幸せですから。私の幸せは、貴方が運んできてくれるんです・・・あの、花ではなくて、ね?」

緩やかに微笑んで告げられて、あまりの衝撃の、そしてストレートな告白に彼女の動きがぴたりと止まる。
5,4,3,2,1。
ぴったり5秒経ってからようやく彼女がはっとして何か告げようとして、それからかぁぁぁぁっと一気に顔を真っ赤に染める。
その様子をまた可愛らしいと笑みを浮かべて見つめながら彼女の背中に腕を回し、優しく抱き締める。
しばらく何か言おうとしていた彼女もやがて観念したのか顔を隠すようにして彼の胸に顔を埋め、ぎゅっと先程よりきつく抱きついた。
この人は、本当に何もかも敵わない、と改めて感じながら――。

+++
雪ティキ。
何か書きたかった。
鈴蘭はティッキーのイメージフラワーです。

Good night , baby.

2008-08-03 23:10:40 | 書庫(アングラ本編)
目の前で眠っているのは、金の毛並みを持つ子猫。
男にしては柔らかい髪質で、それはゆるやかなウェーブを描き肩に届くか届かないかのところで終わっている。どうやらわざと伸ばしているらしいが、きちんと乾かせと言ってもどこか手を抜いて乾かしきれてなかったりする。
それで風邪を引けばまた面倒なことになるのだが、その様子すら可愛いと思っているのだからこれはもう大層惚れこんでいるのだろう。
しかしまあ、欲目を抜きにしても男にしては可愛らしい顔立ちをしているんだと思う。実際子どもの頃は女と間違えられたことも多いと言うし、女装を強制的にさせられていた時もあったが、その時もそこまで酷い違和感はなかった。
その癖に、この街で最も恐れられている人物の一人なのだから、そのギャップに初対面の奴なら誰もが驚くだろう。実際、俺も驚いた。
初めて出会ったのは、アララッカから急患と言われてコイツが運ばれてきた時で。その時は思いっきり左手をぐっさりと刺していて、顔から血の気が失せていた。
もし今そんな状態になったら、と想像するだけでひやりと肝を冷やす。
幸いなことに神経にも何も異常はなくめでたく回復した訳だが、厄介なことに心のケアまでもアララッカに頼まれていて。
けれど、見ていくうちにそれが変わって。黄金の林檎と呼ばれ、街で恐れられていても、まだただの子どもである事が分かって。
紆余曲折を経て結局恋人という関係になり、コイツなりに自分のトラウマに立ち向かい、ゆっくりと遅い成長を重ねていってはいる。
それを微笑ましく思いながらも、まだ子どもでいればいいとどこかそれを惜しむ気持ちもあって。

「ん・・・、」

小さな声を上げて寝返りを打つのを眺めながらそっとその金糸に触れる。柔らかいそれの感触を楽しんでいるとふいにミシェルの眉が寄せられる。苦しむように表情が歪められて、苦悶の声が僅かに漏れる。
どうしたのかと思ってみていれば、シーツを握る手に力が籠もり、ほんの微かな声でいやだ、と拒否が聞こえてきた。
すぐにそれが何を表わすかを分かって、名前を呼びかけて身体を揺する。

「ミシェル・・・ミシェル、起きろ。ミシェル・・・。」
「ぅ・・・ぁ、・・・っ、」
「ミシェル・・・。」

そうして、何回か名前を呼べばやっとうっすらとその緑の瞳が開いて。案の定その瞳の端には大粒の涙が浮かんでいて、恐々とした様子で俺を見上げる。
しばらく状況を理解していなかったのか目を見開いて俺を見つめていたが、やがてシーツを握っていた手を俺へと移し、ぺたぺたと形を確認するように胸や首、顔に触れていく。それからようやくラジュ、と名前を呼んだ。

「そうだ。どうした・・・嫌な夢でも見たか?」
「ちが・・・、な、でも・・・ない・・・。」
「ミシェル。」

あからさまな状況でまだ尚首を横に振って抱え込もうとする姿に敢えて強く名前を呼ぶ。
ミシェルはしばらく違う、と首を横に振り続けていたが抱き寄せて頭を撫でていればふいに俺にぎゅう、と抱きついてきて嗚咽を漏らした。
身体が小刻みに震えて、ぎゅうとしがみつくように抱きついてきて。それを優しく抱き締めながら、子どもをあやすように背中を撫でて、頭を撫でる。
こういうことは、別に今回が初めてじゃない。ミシェルは、生まれてから今までの瞬間を全て記憶して決して忘れないというある種障害にも似た能力を持っていて、自分の中でどんなに過去の事として精算しようと、夢という形を持って昔の記憶が蘇る、らしい。
こうするようになっただけでも、随分進歩したと思う。
初めてこうなった時は、何でもないと言い張ってベッドから出て行こうとするのを強引に引き止めた。
長い間一人で生きてきた癖はそうそう簡単に抜けるものではないらしく、極端に弱みを見せるのをミシェルは嫌う。
それを引き止めて、泣かせて、吐き出させて。少しずつ、離れようとするのは改善されて、こうやって泣くことを覚えさせた。
出来る限り泣かせたくはないが、泣くのが必要な時だってある。
腕の中で咽び泣く子どもを抱き締めながら、ただ落ち着くのを待った。

「・・・ぃ・・・、」
「ん・・・何だ・・・?」
「こ、ゎ、・・・ぃ・・・。」

小さく零れてきた素直な感情にただ優しく抱き締めて、まるで親が子にやるように額へ口付ける。その柔らかな金糸を梳きながら、そっと目を合わせる。

「ミシェル。」
「・・・。」
「大丈夫だ。ここにいるから。」
「ら、じゅ・・・。」
「俺は、お前を愛してる。」

例え世界がどんなにお前を嫌おうと、俺はお前を愛している。
そう告げれば、ミシェルが再び涙を零す。そっとそれを指先で拭いながら見つめていれば、こくりと小さく頷くのが見える。

「・・・きらわないで・・・。」
「当たり前だ。」

震える声でぽつりと漏らされた言葉を聞き逃さずに、強く告げるとまた俺の胸に顔を埋めて泣き出した。その頭を撫でながら、もう一度寝ろ、と声をかける。
俺が傍にいる。そう告げてやれば、首が微かに縦に振られるのが見えて。
その素直さに笑みを浮かべながら、次は安らかな寝顔が見られるように、と祈った。

+++
玄林檎。
そこ、また?とか言わない!
何か萌が再燃したんだよ。ユージンくんは子どもだよ!

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その全てが、私を強く抱き締めてる。

2008-07-31 23:59:43 | 書庫(アングラ本編)
雪。真っ白で、冷たくて、全てを覆い隠していく。
その真っ白さで、どんな汚いものにも降り注いで、それを隠して、綺麗にしてくれる。
とても冷たくて冷たくて。
その手が私の心臓を握りつぶすくらい冷たければいいのに。

「・・・、雪が降ってきましたね・・・。」
「・・・はい。」

雪と買出しに出た帰り。雪はたくさん物の詰まった紙袋を持っていて、私も持ちますと言ったら小さいものだけ渡された。雪の持っているものくらい持てるのに、と思うけれど雪は絶対私には軽いものしか渡さない。
二人でコートを着て、マフラーを巻いて手袋をして。雪は最初耳当てをくれようとしたけれど、音が聞こえなくなるからと断った。
雪は靴を履いていて、私はブーツを履いている。何だかよく分からない過剰な飾りのついた黒いブーツ。ミシェルが似合うから、と選んでくれたもの。
ミシェルは何故かよく分からないけれど、こういうものを私に買い与えてくれる(そのお金は雪から出ているのだけれど)。今日の服も、スカートもコートも同じもので、白いマフラーはうさぎの頭がついていた。手袋もお揃いで、うさぎの尻尾がついている。
私には何故これを選ばれたのか分からないけれど、雪に見せたら似合いますよ、って言っていたから、これを着ている。
雪は、こういうのは着ないのに。

「寒くないですか?早く、帰って温まりましょうね。」
「・・・大丈夫、です。」

雪の問いかけにそう答えながら、二人で一緒に歩いていく。二人で手を繋いでいるけれど、手袋をしているから感覚がいつもより曖昧。
雪の手袋は、焦げ茶色の革の手袋。雪にそれがとても似合っているように思える。聞かれないから言わないけれど。
滑らないように気をつけて下さいね、と優しく注意を促されて素直に頷く。ミシェルが選んでくれる靴はいつもヒールがあって、少し高いから歩きにくい。それでも、ヒールがある分雪が近くなって、顔がよく見える。
雪は、相変わらずの穏やかな笑みを称えていて。持っている袋も重いだろうけど、そんなことは微塵も感じさせない。でも、時々寒いのかぶるりと身を震わせていて。
今日は、空気がとても冷たい。ちくちく刺すようで、いつもより厳しい。この感覚が寒いと言うんだろうと予測して、そっと心に刻む。
雪は、覚えなさいって言うから。いろいろなものを覚えてくださいって。どうしてですかって聞いたら、そうしていれば、その内殺してあげますって約束を持ち出された。
だから、覚える。一つ一つ、丁寧に。
そうすれば、いつか。
街には雪が降り積もり、地面に落ちて雪が溶けて消える。けれどそれは後から後から降り積もり、ゆっくりと白い薄化粧を地面に施す。
雪を見上げれば、髪に雪が降り積もっていて、同じように少しだけ白くなっていた。

雪を見るのは初めてじゃない。今までだって何度も何度も見てきた。
雪は、全ての命を眠りへと誘った。動物も、植物も水も、全てが眠りについた。
その中で、雪はどんなものも覆っていった。私が殺した人間の死体も、その赤い血も、ピンクの肉片も、うっすら黄色い眼球も、持っていた鋼色や黒い武器も、全て全て。
全て覆い隠して、春が来る頃にはそれをどこかへ持っていった。
そうやって、雪も。雪も、私を。

「ティキ?」

考え込んでいるところで声をかけられて、呼ばれるままに顔を上げる。すると、雪が心配そうに私を伺っていて。
純粋に心配が漂うその青い目は、あまりにも綺麗で。
どうかしましたか、って問いかけられてふるふると首を横に振る。何でもありません、と言うと雪は安心したように微笑んで再び歩き始めた。
二人で並んで歩きながら、同じ足跡を雪の上に残していって。ふいにそれを振り返って、今まで歩いてきた道に全てそれが残っているのが見えて、それから雪を見上げる。
雪は、いつも、穏やかに。全てを押し隠して、雪は微笑んでいる。
過去がたくさん降り積もって、雪の中に残っているのだろう。それは決して消えることがなく、いつまでもいつまでも融けることのない雪のように。
私も、同じように雪の中に留まっていくのだろうか。何れ雪に殺されるのに、何れ雪が私を殺すのに、雪の中には融けることなく残っていくのだろうか。

「・・・、」

そんな事になる前に。そんな事になる前に、早く、私を殺して欲しい。
出来るだけ早く、早く、今すぐにでも。
そうすれば、雪の中に残らずに消えていけるから。こんな汚い私は、雪の中に残らなくていいから。
だから早く殺して。
そう言いたいのに。

「・・・ティキ?」
「・・・・・・・・・。」

もう一度声をかけてくる雪に、同じように何でもありませんと首を横に振る。
だって、こんなことは言えない。
貴方の笑顔が優しすぎて、何も言えない。

+++
雪ティキ。
季節はずれ万歳←
本編・・・かなあ。
タイトルは奥華子さんの「その手」から。

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天上天下唯我独尊な彼女。

2008-07-27 23:29:04 | 書庫(アングラ本編)
昔、師匠に問いかけたことがあった。彼女は笑って、至極あっさりと簡潔に答えを述べた。
彼女はいつもそうだ。
そうして私の悩みなど遥か超越して、高いところで笑っている。
天井天下唯我独尊、まさにそんな言葉が似合う破天荒な人。私にはいつも無茶を言うしたかってくるしお金をせびってくるが、それでも決して彼女を拒む気にはなれない。
私は、彼女に多大なる恩があるだけではない。こう見えても、あの人は尊敬出来る人だ。そう信じているからこそ、私は「師匠」と呼んでいる。

「雪ちゃーん、いるー?」
「・・・師匠。どうしたんですか、今日は。」
「ふふ、いいことあったのよー。だからお祝い。酒盛りよ、酒盛り。」
「それならエイドの店に行った方がいいと思いますが・・・。」
「ミシェルちゃんもアリスちゃんも呼び出せばいいじゃない、あぁ時間があるならリカちゃんもね。」

レイちゃんや玄ちゃんも呼んだら楽しいかしら、とくすくす笑う彼女に軽く肩を竦めながら言われたとおりにメダルを取り出して通信をかける。とりあえず真っ先にかけたのはミシェルで、えー、と不満そうに言いながらも声はどこか楽しそうだった。
彼に連絡を取っておけば今名前が挙がった程度の人々は揃えてくれるだろう。あるいは、もう少し多くなるかもしれない。
それを予想しながら適当に声をかけておいて下さい、と頼んでからメダルを閉じると、師匠が早く早く、とねだってきた。
こういうところは正に子どものようで、我侭という一言に尽きる。だが長年身を売る商売で渡り歩いている所為かそれはちっとも不快を感じさせるものではなく、どちらかと言えば可愛らしい部類だった。
この前酒を補充しておいてよかった、と実感しながら何がいいですかと聞くとまずは白、とハートマークつきで返事が返ってきた。どうやら相当に機嫌がいいらしい。
カウンターの中で微動だにしていないティキが、それでも戸惑っているのが見えて時計を見やる。時刻はまだ17時で、普段なら何事もなく営業をしている時間だ。
しかし、師匠がやってきたらもうそんなものは関係ないだろう。

「今日は終了です。部屋に戻っていて構いませんよ。」
「はい。」
「あぁ、勿論いたかったら1階にいていいですからね。」
「・・・はい。」

こくりと素直に頷く彼女に笑みを浮かべながら地下貯蔵庫の扉を開けて、中へと降りる。確か最近白を買って、ここらへんに置いたはずと適当な記憶を探りながら歩いていくときちんと棚に治められていた。
1本だけじゃ足りないだろうというのと、どうせこれからつまみになるものを作らされるのだろうと予測して最初から3本、食前酒に向いていそうなのを見繕ってそれを持って上に戻る。戻ると、師匠が楽しそうに笑いながらティキを抱き締めていた。
半ば日常茶飯事と化したそれを見やりながらワイングラスを3つ取り出し、師匠の座っている席へと向かう。

「少し新しいものですけど・・・。試飲したら、なかなか美味しかったですよ。」
「そうお?じゃ、雪ちゃんの舌を信じるわ。」

恐れ入ります、と答えながらグラスにワインを注ぐ。差し込んでくる西日がちょうど緑がかった透明な液体の色を透かしてとても綺麗だった。
注がれたグラスを取って、師匠がくるくると軽く回し、匂いを嗅いで目と鼻とでワインを楽しむ。洗練されたマナーを身に着けている彼女にさすがだな、とぼんやり考えながら自分の分にも注ぎ、ティキにも半分弱くらい注いだ。
彼女がザルなことは分かっているが(これも『天使』の能力の一つらしい)、外見年齢から考えて当然の配慮だろう。
3つのグラスに注ぎ終わると、師匠が乾杯、と軽くグラスを掲げた。何に乾杯なのかよく分からなかったが同じように軽く掲げ、それからワインを味わう。
やはり、試飲の時の印象と変わらずさっぱりとしていて飲み易い味だった。

「美味しいわ、雪ちゃんっていいソムリエになりそうねぇ。いっそ資格取っちゃえば?」
「いりませんよ、そんなもの・・・。第一、取って何になるんです。」
「あら、たくさん取って悪いことなんか一つも無いわよ?という訳で、お代わり。」
「もう飲んだんですか・・・。」

彼女の口から出てきた昔と変わらない言葉に一瞬動きが止まる。
たくさんあって悪いことなんか一つも無い。彼女の持論なのかどうかは分からないが、私が昔問いかけた時にもそう返された。
グラスをずいっと差し出して要求してくる彼女に苦笑しながら2杯目を注ぐ。
ご機嫌そうな彼女を見て、仕方ないと笑みを浮かべているとふいに回転扉が回って。そちらを見てみれば、ユージンがやっほー、とひらひらと楽しそうに手を振っていた。

「あら、ミシェルちゃん早かったのねぇ。玄ちゃんは?」
「ラジュはお仕事ー。急患なんだってー。」
「じゃあほったらかしなのね、寂しいわねぇ・・・一緒に飲みましょ?」
「んー、俺弱いしお酒は遠慮しとくー。雪兄、烏龍茶ー。」
「分かりました。」

楽しそうに会話を交わす二人を見ながら軽く肩を竦め、それから立ち上がってカウンターへと向かう。すると、まるでタイミングを計ったかのように次々と知っている人物が来店して。
ミシェルを見れば、にこっと笑いかけられてそれに返す言葉を失い、まあいいかと息を吐き出す。
師匠を見れば周りを巻き込みながらも楽しそうに会話をしていて。
普段の彼女の姿にどこか安心感を覚えながら、人数分のグラスを取り出した。

+++
雪+師匠。
何か珍しい組み合わせ。
最近師匠の影が薄かったから・・・←

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ひねくれたカミサマへの至高のプレゼント。

2008-07-15 23:51:19 | 書庫(アングラ本編)
はっきり言って、迷惑だ。
いつでも人を食ったような発言ばかりするし人間にちょっかいばかり出す、世界の理ですら超越して無視をして、その癖仕掛ける悪戯はまるで幼子のようなものばかり。
結局のところ構って欲しいだけだろうに、それを決して認めない。
だけど、どうしても。

「しゅーん。」
「・・・何しにきたの、『カミサマ』。」

ずっとずっと昔の話、洪水よりも遥か前。
いつもの通りぱんだをお供に連れながら、珍しく上機嫌で彼がやってきた。
話を聞くところによれば、彼はどの地域のどの神話にも該当しない超越的存在で、宇宙から創られ地球に送り出されたのだと言う。
最初はあまり信用していなかったのだけれども、彼の存在を傍で見ていればその言葉が嘘ではない事は嫌でも分かった。本当に宇宙から創られたのかどうかはともかく、彼は強大な力を持っている。
それでもって人間に対して何か実験をしているらしいけれど、それは僕のところでも誰のところの神でも解けない強力なガードが掛けられているらしい。
それくらい彼は強い存在で、それ故に自由奔放で、好き勝手に振舞っていた。

「舜のところのお菓子が食べたくなったから。出してよ。」
「・・・僕今忙しいんだけど。」
「なら待ってるけど?時間は無駄にあるんだし。」

にこにこと背後に何か黒いものを背負われて嫌味と共に言われれば拒めるわけも無く、溜息をつきながら取り掛かっていた案件を一時保存することにする。
少し待ってて、と言えば笑顔で送り出された。
部屋から廊下に出て、お茶の用意をしにいく。以前仙女に頼んだら、彼に舜の淹れてくれたお茶がいいんだよ、と言われてあっさりと拒まれた経緯があるだけに、時間がある時は僕がやるようにしている。
宮は無駄に広いな、なんて考えながら進んで厨房へと僕が入ればみんながびっくりした顔をする。それに断りを入れてから用意をして、お茶菓子を持って戻ると彼がぱんだと共にまるで自らの部屋のように僕の部屋で寛いでいた。

「・・・淹れてきたよ。どうぞ。」
「有難う、舜。」

くすくすとどこか棘のある笑い方をしながら礼を告げられて、別にと答えて机に置く。それぞれの前にお茶を出して中央に月餅を置くとさっそくというようにぱんだが手を伸ばしてきた。
ぱんだはぱんだで不思議な存在だよね、なんて思いながらお茶を啜る。そうしていると、ふいに視線が僕に注がれているのに気付いて彼を見やると、嬉しそうに目が細められた。
この笑い方は嫌いだ。
まるで蛇のような、捕食者の笑み。

「ねぇ舜。」
「何。」
「僕ねぇ、名前を貰ったんだ。」
「名前・・・?」

唐突に言われた言葉に思わずまじまじと相手を見つめ返す。
彼は宇宙から創られた存在で、つまるところ地球の誰とも縁が無い。それ故に彼は名前を持っていなくて、ただその超越的な力だけは確かで人間達から神様と呼ばれていた。僕らも名前が無い彼を何と呼んでいいのか分からず、それに倣って大概は神様、と呼んでいる。
その彼が名前を貰った、というのは非常に驚くべきことだった。
名前を自ら付けた、のではなく、貰った。それは、誰かからの贈り物。そんなことをするような存在がいるなんて。

「舜は、ギリシャの方とは交流があるの?」
「え・・・まあ、無くはないけど・・・。」
「そこのね、冥界の女神なんだけど。レテっていう忘却の女神は知ってる?」
「・・・あの、水色の?」
「そうそう。」

彼女の噂は聞いたことがあった。忘却の女神と言う名前に相応しく、一度眠りに付いた後は全ての記憶を忘れてしまう女神。自分が女神である事すら忘れてしまい、その癖放浪癖があり回収に向かう神は毎度毎度苦労しているとか。
彼女と目の前の彼が関わる事は特に驚くべきことではないが、彼女が彼を名付けたということだろうか。それは、何と言うか。

「『さくら』だってさ。」
「さくら・・・?」
「そう。僕が宇宙から創られたんだよ、って言ったら何だか必死に悩んでね、コスモスとか言ってたけど最終的にはさくらに落ち着いたんだよ。」

彼はそう語って月餅に手を伸ばす。
それ以上は特に語る気はないのかお茶を飲んでぱんだと何か戯れて。
けれど、今の彼は何となくいつもとは違って。

「・・・・・・さくら。」
「ん?何、舜。」

呼んでみると、いつもの笑みの奥に、どこか嬉しそうな子どものような色が見えて。
それが微笑ましく感じられて、何でもないと首を振った。
彼は、傍迷惑で苦労ばかり掛けさせられて、いつもいつも振り回されているけれど。
名前を貰って喜ぶ彼はとても可愛らしく思えて、とうとう僕もヤキが回ったかな、なんて思いながらお茶を飲んだ。

+++
舜+さくら(神ちゃん)。
何となく思いついたネタ投下。
舜ちゃんの宮(?)とか完全なる妄想です。
ツッコミ推奨←

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オレンジの海。

2008-07-12 23:58:15 | 書庫(アングラ本編)
オレンジが、世界を覆う。
その光の中、二人で波打ち際を歩いている。
彼女の濃いレッドブラウンの髪が夕陽を受けて、いつもより少し茶色っぽく見える。少し先導するような形で俺の先を歩く彼女は、足跡をつけながら楽しそうに振り返った。

「海なんて久しぶりだわ。お仕事はいいの?」
「あぁ、一応は片付けたからな。それに、お前と出かけたかったし。」
「あら、嬉しい。」

くすりとロクサーナが笑みを深めて、ますます嬉しそうに笑う。こんな風に、彼女と外出することは珍しい。
ロクサーナは滅多に外に出てこない。それこそ良家の子女なら当然だろうお茶会やら社交界にも滅多に顔を見せず、何故かと聞いたら彼女の父があまり外に出させないのだと聞いた。
別にそこまで娘に対して過保護になる必要も無いだろうに、とは思うがそれはそれで、ロクサーナを見る男共が他にいないという事だし、俺もいいと思っている。

「それに、ここボルジア家のプライベートビーチなんでしょう?人がいなくって気持ちいいわ。」
「お前は人ごみが嫌いだろ?」
「その通りよ、分かってるじゃない。」

偉い偉い、とまるで幼子にやるように誉められてそれには複雑な笑みを返しておく。別に年齢で言えば同じなのだから、特に優劣はないのだがそれでも何故か時々こうして返される。
兄貴のようだとも思うけれど、ロクサーナからそういった風に扱われるのは、別の意味で心地よかった。
目の前で長い髪を風に遊ばせながらロクサーナは歩いていき、白い砂浜に足跡が残る。一定の間隔で残るその足跡を目で追いながら、本当に楽しそうな様子に笑みを浮かべていると、くるりとロクサーナが振り返った。
どうした、と聞いてみても楽しそうに笑い返されるだけで、全く意図が読めない。
本気でどうしたのだろうと考えていると、ふいにロクサーナが靴を脱いだ。加えて、羽織っていたカーディガンも脱ぎ捨ててしまう。
それからたたっと軽快に海の方へと走り出し、彼女の着ていたカーキのワンピースの裾が水に浸る。
あまりにも唐突なその行動を呆然として見ていると、ロクサーナは更に深くまで歩いていき、突然水面にダイブした。

「・・・?!」

こちらから姿が見えなくなって、さすがに驚いて目を見開き、まさか溺れでもしたかと慌ててそちらへと掛けていく。こんな浅い場所でまさか、とは思うが足を滑らせただとかそういった可能性だって捨て置けない。
悪い予想が頭を駆け巡り、服が海水に浸るのも構わず彼女の元まで焦って走っていけば、全身を海へ浸しながら横になって浮かんでいた。
あまりの事態に言葉が出てこず、黙って見ているとロクサーナがこちらを見てくすくすと笑う。

「リカルド、凄い顔よ。そんなに焦った?」
「あ・・・焦るに決まってるだろう、お前、こんな、突然、」
「嬉しい。」

咄嗟に何を言っていいかも分からず意味のない言葉を並べ連ねようとしたところで、反対にあっさりと断言されて再び言葉を失う。
何でこんな状況でそんな言葉が出て来るんだ。
そう言いたいところではあったが、それでもとりあえず無事だったことに安堵して深く息を吐き出せば、またくすくすと笑われた。
一体何が可笑しいと言うのか。

「ねぇ、リカルド。」
「・・・何だ。」
「夕陽、綺麗ね。」
「・・・・・・あぁ。」

その言葉に西の空を見れば、水平線に沈んでいく眩しいオレンジの夕陽が見えて。普段は青い筈の海が太陽の支配を受けてオレンジに染まって、波に乗って光が揺れる。
そのままロクサーナに視線を戻せば、海にたなびく髪がゆらゆらと揺れて。

「・・・。」

綺麗だ、と思う。彼女は目を閉じて、海に身を任せて、幸せそうな表情を浮かべていて。
ワンピースは水浸しで、裾の方がが透けて足が見えているし肩紐も解けそうになってリボンが海に漂っていて、けれどそれは厭らしくは見えず、むしろ神聖なものにも感じられる。
それに惹かれて、そのまま導かれるように彼女の唇に口付けるとふっと目蓋が開かれる。間近な距離で目が合って、いつものようにロクサーナが笑みを浮かべた。

「お目覚めですか、姫。」
「えぇ、王子様。起こしてくださる?」

応えるように笑みを浮かべて、からかうようなやり取りを交わしているとロクサーナが手を差し出してくる。その手を取って彼女の背中に手を回し、まるで童話の姫と王子のようにその状態から起き上がらせて抱き寄せるとくすくすと下から笑い声が聞こえてきた。
それを見ていると自然と笑みが浮かんできて、同じように笑う。
二人ともすっかり服は濡れてしまっていて、けれどそんなことが気にならないくらい二人でいるのが心地よく。
夕陽の光を受けながら、二人で口付けを交わすと塩の味がした。

+++
リカルド×ロクサーナ。
何となく浮かんだ。ボルジア家ならプライベートビーチくらい持ってるだろう。きっとスパッティとかそんな辺り。
この後二人で別荘で待ってるメイドさんたちに怒られます←

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やさしいひと。

2008-07-11 23:02:53 | 書庫(アングラ本編)
雪は、優しいのだとみんなが言う。アリスも、ミシェルも、師匠も。
あるいは、お人よし、人がいいのだ、とも言う。でも、私は知っている。
雪は、確かに優しいのかもしれない。みんな大事にしているように見えるし、持てるだけの力を持って協力しているように見える。
けれど、違う。多分それは、違う。

「おや、レディ。お一人ですか?エドは?」
「今、少し外に出ています。5分ほどで戻る、と。」
「そうですか。では待たせていただきます。」

からんからん、と回転扉を回して来店を知らせるベルを鳴らせて入ってきたのは、雪よりも背の高いかなり長身な紅髪の男、リカルド・ド・ボルジア。
雪の幼馴染で、とても仲のいい友人らしいと、何となく本人の様子から分かった。
リカルドが雪を見る目は少し違う。アリスやミシェルが見るのと、違っている。ただその違いを何て言うのかは、分からない。少し、師匠の目に似ているかもしれない。
彼は、随分と昔から雪を知っていたらしい。
誰ですか、と以前聞いたら、幼馴染ですよと答えを返された。小さい頃から一緒によくいた、ということらしい。
年齢は、リカルドの方が年上で、だから師匠と同じ目をするのかもしれない。
彼は(彼以外も大体そうだけれど)慣れた様子で中に入ってくると、いつも雪がいる席の前へと座った。それから息を一つ吐き出して、足を組む。
雪はまだ、戻ってこない。
時計の音が、かちかちと、進む。

「・・・・・・・・・。」

雪を待つと言ったリカルドは、多分このまま動くことなく待っているのだろう。シャコウジレイ、として何か飲み物は出すべきなのだろうか。
それとも、何れ雪が帰ってきたら紅茶を出すだろうから、それまで待っていればいいのだろうか。
分からない。
分からないけれど、問いかけたい事はあった。

「・・・リカルド。」
「・・・はい。何ですか?」
「リカルドは、何で雪をいつも・・・あんな目で見るのですか。」
「あんな目、とは?」
「・・・・・・・・・師匠のような・・・・・・。・・・・・・愛し、む?・・・ような、目です。」
「愛しむ目、ですか・・・。」

私の問いかけにリカルドはこちらを向いて、けれど困ったような表情を見せる。心当たりが、ないのだろうか。
でも多分、そうではない。この人は、きっと意図的に見ている。
無意識的に見ている時もあるのだろうけれど、この人は、違う。

「・・・心配、だからでしょうね。」
「心配・・・。」
「えぇ。心配、です。」

少し考えてからあっさりとリカルドは答えてくれた。けれど、その意図がよく分からない。
心配、と言う言葉は聞いたことがある。アリスやミシェルに、雪がよく言っているのを聞いている。どういうものかと聞いたら、相手の先を案じるものだと言っていた。
心を悩ませるのだと、言っていた。
ならば、リカルドは雪の事で、心を悩ませている?

「・・・ご存知の通り、私はエド・・・雪とは幼少の頃から知り合いでして。家柄が等しいということや年が近いというのもあって、よく一緒にいたんです。そして、彼が一つ年下ということもあって、何となく・・・不安だったんですよ。」
「・・・何が、ですか。」
「・・・彼の優しさが、です。」
「・・・。」

雪が優しいのは、もうまるで当たり前のようなことで。人当たりがよくて、優しくて、誰にでも心を砕いて。

「見ていて分かるでしょうが・・・、彼は、誰にでも優しい。それは、つまりは・・・全て、同じに見ていることだと。私には、そう思えたんです。だから、このままでは将来誰か特別な一人を愛せるようになるのかと・・・そう、案じていたんです。」
「・・・同じ・・・。」
「えぇ。・・・まあ・・・貴方がいれば、違うでしょうが・・・。」
「・・・・・それは、どうい」

リカルドが、私をじっと見て優しく微笑みかけてきて。その意味を問いかけようとしたときに、からんからんと再び来店を知らせるベルが鳴る。
視線をそちらに向けてみれば、そこにいたのはちょうどさっきまで話していた雪本人。

「ただいま戻りました・・・と、リカルド、来てたんですか。」
「あぁ、少し前にな。何処へ行ってたんだ。」
「氷を取りに、ちょっと。」

そう言いながら雪は箱を見せて、リカルドが納得したように頷く。話を聞いてみると、カキ氷とやらを作ってみるつもりらしい。
そういえば、昨日師匠が食べたいと言っていた。
二人で何の話を、と尋ねられてどう答えるべきかと考える前にリカルドが他愛もない話だ、と告げて人差し指を唇に当てて見せてくる。それは多分、黙っているべきだという合図なのだと分かり。
それから二人は何か会話をしながらいつも通りの店の端の席へと移動して。
リカルドの言葉の意味を考えながら、視線をいつも通り回転扉へと向けた。

+++
ティキ+リカルド。
雪の優しさについて。
どこかで見たんですが、誰にでも優しい人っていうのは誰も彼も同列にしか見なしていない人らしいです。
何となく納得。

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どうしたって、可愛い。

2008-06-30 23:14:05 | 書庫(アングラ本編)
多かれ少なかれ、人には好き嫌いといったものがある。嫌い、とまではいかなくても苦手とするものは誰にだってあるだろう。
それと同じように、多かれ少なかれ得意なこと不得意なことというものがある。
緩く波打つ、少しばかり長い金髪の俺の恋人は先ほどから上機嫌に鼻歌を歌いながら、その得意なことに勤しんでいた。
いつもは垂らしたままの金髪も一つに括り、慣れた様子で手際よく進めていく。
何をどうしているのかはここからは見えないし特に気にはならなかったが、先ほどから甘い匂いが部屋に漂っていた。

「・・・。」

その外見からは考えられないほどに様々な呼び名を持ち、この街で恐れられている人物の筆頭陣に挙がってくるだろう彼の本名はミシェル・シェバ。
俺にとっては好都合なことに、本名はこの街の中、あるいは世界の中でもたった数人しか知らない名前で、初めて呼んだ時に泣きそうな笑顔を見せたことを覚えている。
その彼が最も得意とするのが菓子作りで、気が向いて時間があればたびたび作っている姿をよく見かける。
今日も何やら作る気になったらしく、味見してほしいからそこにいて、と頼まれダイニングに留まることになった。
作っている様子を見れば非常に楽しそうで、むしろこっちの方を本業にした方がいいんじゃないかとも思えるが本人曰くその気は全く無いらしい。
だがしかしシリウスの店にはたびたび持っていっているらしく、評判もなかなかのようだと聞いた。

「んー、出来たっ。」

そんなことを考えながら新聞をめくっていれば、ふいに明るい声があがる。その声にキッチンをみやれば、嬉しそうににこにこと笑いながら何やら白い菓子が器に乗っているのが見えた。
もう少しよく見てみれば、それは冷菓子らしく僅かな冷気が見て取れる。その横にはちょこんとブルーベリーが添えられていて、上部にはミントの葉が載せられていた。

「ラジュー出来たー。」
「・・・あぁ。」
「ねー食べてみて食べてみてー?」

嬉しそうに笑ってこちらへとぱたぱた駆けてくる彼の姿が、エプロンをしていることもあってか新妻のように感じられて、僅かに笑みが浮かぶのを自覚しながら頷く。
持ってきた冷菓子は普通のバニラアイスのようで、一体何をこらしたのかと考えながらそれにスプーンを差し入れ一口分をスプーンに載せる。
そのまま口に運んでみれば、それはバニラの味――ではなく、非常に甘ったるいものだった。

「・・・ミシェル。これは?」
「んーとね、メレンゲのジェラートー。この前メレンゲの焼き菓子作ってて、思いついたからー。」

隣の椅子に座りながらにこにこと嬉しそうに語る様子を見れば、それに続ける予定だった言葉を失い、軽く息を吐き出す。
それに対して途端に不安そうに笑みを消し、美味しくなかった?と見上げてくるのを見ればまさか肯定する訳にもいかず、曖昧な笑みを浮かべ。

「いや・・・、不味くはない。美味い、とは思う。」
「そっかー。ならよかったー。」
「ただ・・・。」
「ただ?」

一度言葉を切ってミシェルを見やれば、幼子のようにきょとりと目を丸くしながらこちらに向かって首を傾げていて。
それを見てスプーンを差し出しながら言葉を続ける。

「俺には、甘い。」
「・・・そっかー・・・。んー、そこまでじゃないと思ったんだけどなー。」

僅かに落胆の色が覗くが次の瞬間すぐにそれを消し去らせて、ミシェルが自分でジェラートを口に含む。数秒で嚥下してからんー、と唸っているのを見て小さく謝ると却って不思議そうに見上げられた。

「別にラジュが謝る事じゃないってー、甘いモン苦手なの知ってるしー。」
「・・・そうか。・・・なら、何で味見役に俺を選んだんだ?」

特に拘った様子の見られないミシェルに純粋に疑問を覚え、そのまま尋ねてみれば二口目を運ぼうとしていた手がぴたりと止まる。
どうしたのかと思ってみていれば、溶けない内に、とそれを口に含んでからスプーンを器に戻し、ミシェルはぷい、と明後日の方向を向いてしまう。
まるで子どものように拗ねる姿は慣れたもので、それを可愛らしく思いながら言葉を待っていると小さくぼそぼそと何かを呟いているのが聞こえた。

「? 何だ、聞こえないが。」
「・・・っ、もう言った!」

相変わらず向こうを向いたままそう宣言されると、多分自分からは二度と言い出さないだろうことが何となく分かり。
自分で幾つか理由を考えて、その中の一つを告げてみる。

「・・・自分の作ったものだから、一番に俺に食べて欲しかったのか?」

我ながら自惚れた言葉だとは思うが、賭けに出るようなつもりで尋ねてみれば、あちらを向いていたミシェルが一瞬ばっと振り返り。その真っ赤な顔には何で分かった、と書いてあって分かりやすい彼の行動にただ苦笑を浮かべる。
可愛い、と言えば否定されるのは既に分かりきっている。けれど、それでもやはりどうしたって可愛いものは可愛くしかなく。

「ミシェル。」
「・・・・・・・・・何ー・・・。」
「可愛い。」
「・・・可愛くないー・・・。」

そう不満そうに返す彼にくっくっと笑みを漏らしながら、既に溶け始めているジェラートに刺さったスプーンに手を伸ばした。

+++
玄林檎。
ひっさびさ!でも何か綺麗にまとまったなー。
今日渋谷でメレンゲのジェラートを私が食べてきたのです。甘かった。美味しかった。
一緒に誰か行こうよう~(じたばた)

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Kyrie eleison.

2008-06-17 23:02:29 | 書庫(アングラ本編)
毎年毎年変わらず、年月は流れていく。日々が一日一日と過ぎていく。
そして今年も、この日が来た。私の記憶の中で、最も重い日。喪服を身に着けて、ティキに声をかける。

「・・・ティキ、出かけますよ。」
「はい。どこへ?」
「墓参りです。黒い服を着てきてくださいね。」

そう告げると、ティキはこくりと素直に頷いて部屋に戻る。その足音を聞きながら目を伏せて、小さく息を吐き出す。そのまま数分待っていると、ミシェルの選んだゴシックドレスを着たティキが戻ってきた。
その手を引いて、黙って店を出る。ティキも、何も言わなかった。



表通りに出て馬車を拾い、墓地の名前を告げる。石畳の上をガラガラと音を立てて馬車が進み始めた。ゆっくりと進んでいく馬車は、不定期に揺れながらも決して大きな振動を与えない。
その中で、ティキを二人向かい合って座る。ティキはずっと黙ったままで、何も口にしなかった。
彼女の顔を見ていると、どうしたって『彼女』を思い出す。

(・・・いっそ、責めてくれればいいものを。)

思わず口端に苦笑が昇る。それでも、彼女はただじっと私を見ているだけだ。見ているだけで、その目は何も訴えない。
いつもの事とはいえ、今日は少し話して欲しかった。

「・・・ティキ。」
「何ですか。」
「・・・・・・・・・・・・何でも、ありません。」

いつも通りの返し方に、何を話せばいいか分からなくて結局会話を終わらせた。
何となしに溜息を一つ零す。そういえばティキを――他人を連れて行くのは初めてだ。
もう、6年目になるだろうか。
結局自分は進めているのだろうか。実家を呼び出し、師匠に拾われ、今の地位を築き上げたところで、ただ空回りしているだけではないのか。
ちらりと窓の外に視線を向ければ、私の気持ちとは裏腹に空は快晴だった。ここ6年、この日だけはずっと晴れ続けているように思う。彼女の為、などと思うのはおこがましいのは分かっているけれど。
馬車がガラガラと音を立てながら進んでいく。外からは、いつも通りの日常を過ごす明るい声が聞こえてきた。



やがて墓地に辿り着き、御者に礼を告げて金を払う。馬車から降り、花屋から花束を購入する。
ティキはその間ずっと黙ったままだった。いつもと同じ沈黙――けれど今のは私にとっては少し息苦しい。だが、彼女に話題を要求したところで特に何も返ってこないだろう事は、安易に想像出来た為、話しかけるのはやめておいた。
時計を見ると、10時30分を指している。確か楊家の人々がやってくるのは午後からだとユーリーが言っていた。これなら充分に間に合うだろう。
そう考えながら進んで行くと、彼女の墓の前に人影があった。
誰だろうか、と思いながら慎重に進んでいく。すると相手も気付いたのか顔を上げて、こちらを見た。
ユンと少し似たすっきりとした顔立ちの、黒髪の少女。確か、彼女は。

「エドワード、義兄様・・・。」
「小鈴・・・。」

喪服で佇んでいた彼女が改めてまじまじと私を見やり、信じられないといった表情をする。当然だろう、ここに私が来るなど思ってもみなかったに違いない。
私はもう、死んだも同然の身なのだから。

「・・・姉様の、墓参りに・・・?」
「・・・えぇ。随分早い墓参り、ですね・・・。」
「家族で来る前に、一人で考えることがありましたので・・・。その子は・・・?」

私の問いに彼女は一度目を伏せてから再び顔を上げ、それからふとティキに気付いたのか首を傾げて尋ねてくる。少し見下ろしてティキの様子を伺うが、いつもと同じく表情を全く崩さないまま真っ直ぐ立っていた。

「・・・ティキ、といいます。今、一緒に暮らしている子ですよ。」
「一緒に・・・?」
「えぇ。」
「・・・。」

小鈴は目を丸くしてティキを見て、それから黙って目を伏せた。彼女なら下卑た想像はしないと思うが、ここで弁解したら余計疑われかねないので敢えて黙っておく。
それからそっと近付いて、彼女の隣に立ち墓前に先程買った花束を添えた。
ユンの最期を思い出して目を伏せる。きっと、私を怨んではいないだろうが、申し訳なさと、郷愁にも似た愛しさが胸を占める。

「・・・義兄様。」
「はい。何ですか?」

そのまま立っていると、小鈴から呼びかけられた。小鈴はまっすぐ私を見て、意志の強い瞳で、彼女と似た瞳で私を見る。

「・・・私、姉様が亡くなったのは義兄様の所為だと思っています。あの時、指輪なんか買いに行かなければ姉さまは亡くなることはなかった。・・・勿論、今更言ったって意味のない事ですし、義兄様に謝罪なんて求めてはいませんけれど。」
「小鈴・・・。」

その瞳に射抜かれながら、その言葉を噛み締める。
どうか、彼女が亡くなったのは私の所為だと責めて欲しい。何をどうしたって彼女の死に報いることなど出来ないけれど、でもその死の原因は私なのだと。
どんな苦しみにも耐えうるから、世界中の人に責め立てて欲しい。許さないで、欲しい。

「義兄様の所為で姉様は亡くなった。・・・だから。」

そこで彼女は一度言葉を切る。うっすらと、彼女の瞳に涙が浮かぶ。

「こうして、毎年ここに来て下さって・・・、姉様を、忘れないでいてくださって・・・。ありがとう、ございます。」

それだけ告げると、彼女は顔を伏せて決して私を見ようとせずに脇を通り抜け走って去っていってしまった。足音が少しずつ遠のいていき、私とティキだけが残される。
ティキは何も言わず、黙って墓石を見ていた。

「・・・ティキ。」
「はい。」
「これは、墓というものです。人それぞれやり方は違いますが、死んだ方を弔い、その骨や遺体を埋めておくための場所で・・・時折墓に来て、亡くなった方を懐かしみます。」
「知っています。随分前に、ウリエルが作っていました。・・・大切な人の、墓だと。」
「そうですか・・・。この墓の下にも、埋まっているんです。私の、大切な人が。」

そこでティキからす、と墓に目を移す。そこにあるのは彼女の名前と、生きた年月。
あまりに早い、死。

「・・・誰の。」

珍しくティキが自分から口を開く。

「・・・誰の、墓ですか。」

その問いに少し躊躇う。面影を残す、ティキの顔。

「・・・私の、婚約者の墓ですよ。天羽・・・ユン、と呼んでいましたけれど。お互い、家に決められた婚約者同士ではありましたけれど、愛しく思うようになっていって・・・。そして、ある日指輪を買いにいったんです。けれど、そこで彼女は運悪く強盗にあって、殺されてしまった。・・・私はその時、何も出来なかった。目の前にいたのに、です。」

あの日の事は、まるで昨日の事のように鮮明に思い出せる。幸せそうに笑っていて、そして無残に殺された、彼女。
誰も私を責めなかった。その事が、とても痛かった。
ティキは黙って墓を見下ろしている。その表情はいつもと同じで、何も映していなくて、何もない。
しばらくしてからティキが顔を上げて、私を見た。

「・・・雪は、愛していたんですか。」

思わずその問いに――というより、ティキの口から『愛』という単語が出てきたことに対して驚く。
けれど、一度目を閉じて瞼の裏に彼女を描く。
今でも、私は。

「・・・愛して、いますよ・・・。とても。」

嘘ではない。もう彼女が死んでしまって6年経っているけれど、今でも私は彼女を愛している。こうして年に一度墓参りに来るだけで、写真などもおいてはいないけれど。
ゆっくりと瞳を開けて、ティキを見ると再び彼女の墓に目線を落としていた。
きっといつか、彼女も誰かを愛するときが来るのだろう。その時は、きっと彼女を手にかけるときなのだろうけれど。
風が髪を揺らす。穏やかに木々がざわめき始めた。

「風が出てきましたね・・・。帰りましょうか。」

いつも通り素直に、ティキは頷く。それ以上何も言わず、いつものように手を繋いで、ティキを伴って墓を後にした。

+++
雪+ティキ+小鈴。
本編の一部、な筈。
しかし私は墓参りばっか書いてる気がするなぁ。

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初めて、世界に触れた日。

2008-06-16 23:17:48 | 書庫(アングラ本編)
最近ずーっとぐるぐるしている。
一番。好き。ベスト。ひとつ。ひとり。こわい。さびしい。50ワールド。人間。
単語ばかりがぐるぐると頭を回る。
どれが正解でどれが間違いで俺は何を信じればいい?
誰か、教えてくれ。



静か、だ。
この店を表わす形容動詞は本当にその一言に尽きると思う。決して繁盛はしていない。訪れる人も大体決まっている。何でこんなに静かかって、それは店主の雪兄のおかげと言って過言じゃない。
その雪兄は今しがた紅茶を淹れてくれているところ。今日は久しぶりに仕事の話しで呼ばれて、その後お茶でも如何ですか、って勧められたから素直に申し出を受けることにした。
ちなみにティッキーはラフィー姉とお出掛け中。雪兄が着いていこうとしたら、二人だけでと断られたらしい。
店内はこぽこぽと紅茶が注がれる音くらいしかなくって、ここがアングラの一角だと言うことを忘れてしまえるくらい静かだった。

「どうぞ?」
「ん、あんがとー雪兄。」

ソーサーごと紅茶を差し出されて礼を言いながら受け取る。雪兄は緩く首を振って微笑むだけで、自分の分も淹れてから向かいのソファに座った。
雪兄が紅茶を飲むのを何となく見つめながら、優雅だなぁなんて改めて思う。
もともと雪兄はこんな街に来るような人じゃなくって、貴族(それも超一流の)の御曹司で、本当なら大きい屋敷で綺麗なドレスを着た貴婦人や紳士達とティータイムを楽しむような人なのに。
でも今はここにいて、その原因は恋人を亡くしたから、で。やっぱり、『一番』をなくしたら、人はどうしてもショックを受けるもの、で。でも、今は雪兄は、ティッキーを、好き、って。好き。一番。

(・・・また、ぐるぐる、する・・・。)

数日間、数週間囚われてることにまた捕まえられて、頭痛さえしてくる。
ジオに、クリストに言われたことがぐるぐると頭を回る。そっとカップをソーサーにおいて、目を堅く閉じた。
考えるな。今、この場で、考えちゃ駄目だ。

「・・・ミシェル?」
「何?雪兄。」
「いえ・・・どうか、しました?」

その問いにそっと目を開けて雪兄を見やる。雪兄は心配そうにこちらを見ていて、それに困ったように苦笑する。
雪兄に、そんな顔させたい訳じゃないんだ。

「・・・雪兄。一つ、聞いていい?」
「はい。何ですか?」
「『好き』・・・って、何?」
「・・・。」

雪兄が俺の問いに目を丸くする。聞く相手を間違えただろうか。でも、もう誰でもいい。縋れるものが欲しい。一つの何かはっきりした軸が欲しい。
このぐるぐるをどうにかしたい。早くすっきりして、解決したい。
もう、疲れたんだ。

『化け物。』『近寄らないで。』『ベストが一つだけとは限らないだろう?』『人間の価値は50ワールドだ。』『あっちに行って。』『50ワールドに思い入れをする。』『君は誰にも愛されない。』『この街に似合わない。』『出て行って。』

ぐるぐると回るのは、向けられた言葉、掛けられた言葉。その時の相手の表情も何も、全て全て覚えている。でも、全部違うんだ。
頼むから、楽にしてくれ。それならいっそ殺されたっていいんだ。
もう、止めて欲しい。教えて欲しい。
当たり前のようにみんなが分かることが、俺にはどうしても分からないんだ。

「・・・ミシェル。」
「ん、何?」
「その問いは・・・凄く難しくて、凄くシンプルで・・・私には答えられません。」
「・・・そっか。」
「でも、これだけははっきりと言えます。」
「何・・・?」

珍しく強い口調の雪兄に疑問を覚えながらそっと見上げる。雪兄はいつものように穏やかに微笑みながら俺を見て、ソーサーを置いて口を開く。

「私は、ミシェルが好きですよ。」
「・・・。」

その答えに息を呑む。
どうしよう。そんな、そんな答えは、予想外だ。卑怯だ。
それでも、何故か、心がざわめく。でもそれは、さっきみたいなぐるぐるとするものじゃなくって、ざわざわと、どこか嬉しい。
勿論、雪兄がティッキーを大事なのは知ってる。けど、この言葉は嘘じゃないって分かる。
嬉しい。
どうしよう。
心臓がばくばくして、まるでこんなの女の子みたいだ。告白をされた訳でもないのに。
雪兄は相変わらず微笑んでいて、優雅で、柔らかくて、余裕しゃくしゃくだ。
ずるいなあ、と思うけど、決してそれが嫌じゃない。

「・・・あんがと、雪兄・・・。」
「いいえ。本当の事ですから。」

駄目だしするように重ねられて、今度こそ顔が真っ赤になる。それでも、雪兄を非難する気にはなれない。
ぐるぐるしているのは決して解消されてないけど、今は、この嬉しさに浸っていたかった。

+++
ユージン+雪。
時系列大分戻って一番問題とかそんな辺り。
多分「夜ごと臥しどに~」と「懺悔」の間くらい。
この頃のユージンくんって本当ふらふらしてるよなぁ。

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