戯言

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May I believe you?

2008-07-26 23:34:06 | 書庫(アングラ王国パロ)
side:M

何をどう言われたって、どうしても「外」への恐怖感は消えない。どんな記憶だって消えないのに、幼い頃のあの悲劇が消え去るわけも無くて。
どうしても消えないその記憶に怯えながら「外」へ出てきて、初めて出会った人は黒髪で背の高い男の人。何故か知らないけれど顔の右半分だけ仮面をつけていて、それがとても印象的だった。
国王直属の近衛隊隊長っていうかなり偉い役職に就いている人で、部下の人たちにも信頼を置かれているのは見ていれば分かる。
そして、仕事だからかもしれないけれどその人はとても優しくて。
名前を聞き逃すなんてとても初歩的で致命的な、どうしようもないミスを犯してしまった私をあっさりと許してくれて、もう一度ゆっくりと教えてくれて。
私が快適に過ごせるように心配りをいつもしてくれて、気遣ってくれる。
怪我をしてしまった小鳥を見つけたときも、私は自然の流れに任せてこのまま放っておくのが一番だって知りながらも助けてあげたくて、そうしたら彼が手当てをしてくれた。
本当に、優しい人なんだと思う。
この人の事を、もう少し、知りたい。

「あの・・・お願いがあるんですけど・・・。」
「はい。何ですか?」
「その、嫌だったらいいんですけど・・・。仮面を、外していただけますか?」
「・・・この下には、ご婦人方が嫌がられるような醜い傷跡が残っています。貴方もご不快にさせてしまうかもしれませんので・・・どうぞ、お気になさらず。」
「でも、もっと貴方の事を知りたいんです。これから、まだ首都につくまで時間はあるんでしょうし、お城に着いてからも顔を合わせる機会はあると思いますし・・・。」
「・・・。」
「あ、嫌ならいいんです。・・・ごめんなさい、無理を言って。」
「あぁいえ・・・構いません。では、失礼して。」

side:G
馬車の中でふいに突然話しかけられて、その内容に驚きながらもいつものようにやり過ごそうとする。
最初は緊張していたのもあってか、堅い表情しか見せなかった彼女は一緒に過ごしている内に慣れてきたのか少しずつ表情も解れてきた。それは喜ばしいことだと思うが、このお願いには少しばかり躊躇いを覚える。
右頬に残る火傷の跡。自分自身ではそこまで気にもしないが、他人から見れば痛々しく見えるのだろうこれは、晒しておくと大抵が眉を潜めたり目を逸らされたりと、不快な印象を与えるようだった。
このままではいけないだろう、と仮面をつけるようになってからはそんな反応をされることもなくなり、戦闘や訓練の時以外は特に不便を感じる訳でもないので、大抵はつけたままでいる。
それを外せ、というのは。
俺としては全く構わないわけだが、彼女の側としてはどうなのだろう。
この前彼女の歌を聞いて、本当にクレオールなのだということは確信したのだが、何せどう見ても彼女はまだ少女と言って差し支えない年齢だ。それもクレオールともなれば、こういった争いの跡は嫌うのではないのだろうか。
そう配慮していた訳だが、あまりにまっすぐなそのメッセージに拒否することも出来ず、断りを入れてから仮面に手を伸ばす。
そっと外してみると、予想通りに彼女が目を見開いて息を呑んだ。
それを見て、謝罪と共に再び装着しようとすれば、彼女が慌てて首を振り。

「あっ、いえ、違うんです。その、驚きはしましたけど、嫌とかそういうのではなくて・・・。」
「・・・?」
「・・・ごめんなさい、無神経に見たいなんて言って・・・。」

謝罪する相手に、構いませんと告げながらその言葉にただ驚きが広がる。
今までこの傷を見た相手は、あからさまな程に拒絶の意を示したり、それ程ではなくても嫌がる反応を返してきた。
それなのに、この少女は違う。
多分、今までの人々と同じようにこの傷を拒絶するだろうと思っていたのに、そんな様子は微塵もなく。
むしろ、今まで決してこんなことを言ってくる相手はいなかった。
社交辞令などではないことは、その表情を見ていれば嫌でも分かる。しゅんと眉を垂らして、申し訳無さそうにこちらを見つめていて。

「・・・いえ。そうおっしゃったのは、貴方が初めてです。」
「・・・?」

そう返すと途端にその表情は消えて、代わりに困惑でこちらを見上げてくる彼女に、素顔のまま笑みを返して。
戸惑っているらしい様子に微笑ましさを覚えながら再び仮面をつける。
訳が分からないといった様子を見せていた彼女も、それ以上追及することは止めたのか窓の外を見て、そこから広がる景色をじっと眺め。
その横顔を見ながら、彼女をクレオールだから、としてだけではなく。
一人の人間として、素直に好感を持ち、この国で危険な目に合わせないようにしようと、改めて誓った。

+++
女優。王国パロ。
ちょっとずつ、歩み寄り。
これにてお題完了!
哀悼花様から「英文で5つのお題」をお借りしました。

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