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百万の手/畠中恵(小説)

2008-12-08 00:33:19 | 読書
今回の記事は『百万の手』(畠中恵、創元推理文庫)です。
あの《しゃばけ》シリーズの畠中恵さん初の現代小説。
おっさん、ナイスだよ!

■内容紹介 ※裏表紙より
両親を助けるために、目の前で燃えさかる自宅の中へ飛び込んでいった親友の正哉。
夏貴の手に残ったのは彼の携帯電話だけ。
嘆き悲しむ夏貴だが、死んだはずの正哉がその携帯電話から語りかけてきた。
「どう考えてもおかしいんだよ」
彼が巻き込まれたのは不審火だったという。
その真相を探ってほしいと。
何故正哉と彼の両親は死ななければならなかったのか。
正哉と共に探り出した、不審火の驚愕の真相とは……!

畠中恵初の現代小説、待望の文庫化。ファンタスティック・ミステリ。

■感想
畠中恵さんというと《しゃばけ》シリーズで有名…らしい。
ぶっちゃけると、僕は《しゃばけ》シリーズを知らないし、この本を買った理由もそこじゃない。
(見識狭くてごめんなさい)
本の内容紹介を少し読んで、面白そうだと思ったから買いました。

表紙を見ると女性が買いそうな雰囲気がありありと出てますが、男が買っても問題はないです。
性別問わず、絶対に楽しめる内容だと思います。

物語の主人公は音村夏貴、14歳。
繊細なお年頃ですね。
読み始めてすぐに、彼の母親が、夏貴にプレゼントを渡した女の子に嫉妬心を抱いています。
これはもしや禁断の…と思ったけれど、そんなことはありません。
そこには複雑な事情が絡んでいます。

精神的に不安定になると、喘息の発作を起こしてしまう夏貴を支えているのが、親友の正哉です。
お互いのことは何でも知っている仲の良い親友どうし。
そんな正哉は燃えさかる家の中へ飛び込んで死んでしまう。
親友の夏貴の目の前で。
悲しみに暮れる夏貴ですが、正哉は再び夏貴の前に姿を現します。
携帯電話の中にのみ残った存在として。
そして二人で不審火の真相を探っていくのですが、この二人の関係がとてもほほ笑ましい。
ちょっと気持ち悪いぐらいです。(悪い意味じゃないですよ)
けれどやっぱり正哉は死んでいるわけで、悲しいんだ。

僕にとってはこれだけで切なさ募ってたまらない作品なのですが、畠中恵さんはそこにもうひとり、夏貴を取り巻く重要な人物を登場させています。
この人こそが夏貴との絆が描かれる人としてはメインの登場人物なのだと思います。
夏貴の母の新しい再婚相手の東です。通称おっさん。
(夏貴にとっては新しい父親に当たる人なのですが、夏貴は東のことをおっさんと呼んでいる)
この東がとっても魅力的です。
二人は仲悪そうなんですが、東が夏貴のことを大切に思っていることは、読んでいてすごくよく分かる。
そしてこの東の言葉がどれだけ夏貴を救っていることか。
東が夏貴に語る言葉は全てがきれいごとではないし、難しいことでもない。

夏貴がある理由から「君は生きているべきではない」と言われた時、
これは一生消えない傷を夏貴は負ってしまったんだと思った。
もうどんな言葉をかけられても夏貴は一生引きずるだろうと思った。
けれど、ここで東がかけた言葉が夏貴の傷を、不安を、見事に消している。
よくよく考えれば当たり前のことなのだ。
けれど東のような言葉がすぐに出てくると言う人は意外に少ないのかもしれない。
すごい人だと思った。

『百万の手』の展開はかなりファンタスティックです。その真相はまさに驚愕!
また、思春期の少年の描き方が実に女性的だと思いました。
男の作家さんはこういう描き方はしないでしょう。

親友の死を乗り越え、新しい父を大切な家族だと思えるようになった時、夏貴は少し大人になったのだと思います。

繊細な少年の心の成長と人の絆を描いた『百万の手』は素敵な青春小説です。


書名:百万の手
著者:畠中恵
ジャンル:小説(青春/ミステリ/SF)
メモ:特になし
おすすめ度★★★★



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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
藍色さんへ (ichi-ka)
2009-07-10 00:18:21
コメント、TBありがとうございます。
確かにこの本は面白くて一気に読めました。
血の繫がりはないかもしれないけど、家族の大切な在り方というものを知った気がします。東がかっこいい。
返信する
Unknown (藍色)
2009-07-09 04:41:43
結構厚い本だったけど一気に読めました。
続きが気になって、おもしろかったです。

トラックバックさせていただきました。
返信する
コメントありがとうございます (ichi-ka)
2008-12-14 01:39:56
リコメ遅れまくりです…。ごめんなさい。

>Matthewさん
百万の手はミステリーより青春小説っぽいで間違いはありません。この小説、王道ミステリーでは絶対ないですよ。設定も不思議だし。でもすごく素敵な小説だったと思います。

>ますびさん
流石です! というか、普通はしゃばけを知ってて、そこから入っていくのが普通なのかもしれない。
宮部みゆきさんの小説は未だ読んだことありません。大変有名な作家さんなのでいつかは読んでみないな。
返信する
逆に (萩 ますび)
2008-12-10 23:56:58
こんばんは
私は逆に「しゃばけ」シリーズを
知っていたので
現代ものを書いていらしたのは
知りませんでした

宮部みゆきさんの
「ブレイブ・ストーリー」や
「今夜は眠れない」「夢にも思わない 」を
連想しました
いずれも少年が主人公で
ファンタスティックではないけれど
(下2作品は)
少年期の繊細でもろい雰囲気が
よく出ている作品です
返信する
手に取ったけど・・・ (Matthew)
2008-12-08 03:14:04
ichi-kaさん、こんばんは。
私もこの本、手に取りましたが、購入にいたらず・・・
ミステリーよりも、青春小説っぽいと思ったためだった気がします。
読むと、そんなに素敵なお話だったのですね。
畠中恵さんが、“しゃばけ”シリーズを書かれている方だったのは、私も知りませんでした。
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