マルチチャネルとは、マーケティングで最近頻繁に使われる用語です。「マルチ」は「複数の」、「チャネル」は「集客のための流通経路」という意味になります。簡単に言うとすれば、「複数の流通経路を使って、顧客に情報発信して集客するための戦略」のことが、この「マルチチャネル」ということになります。
たとえば、チャネルには実際の店舗、ECショップ、各種広告、SNSなどさまざまなものがあります。このような複数のチャネルを使って、顧客にアプローチしていくのが「マルチチャネル」の手法になります。
「マルチチャネル」のメリットは何でしょう。代表的なものは3点あります。
1つ目は顧客とのコミュニケーションが多岐になるため、接触機会が増えるということがあります。実店舗での対面販売では、商品のよさを店員が直接説明することによって販売することができます。マルチチャネルの場合だと、雑誌の広告やCM、SNSなど、不特定多数の人たちへの宣伝活動も並行して行うことができます。この場合、対面でのコミュニケーションにとどまらず、電話でのコミュニケーション、web上でのコミュニケーションなど、接触機会は確実に増えます。また、その形態もさまざまなものになります。この場合、単純な対面販売のケースと比較しても、顧客へ多角的にアプローチ可能になるということになります。単一の経路をとるマーケティングよりも明らかに優位です。
2つ目は経路ごとに消費者の購買行動の傾向などを分析できるという点です。マルチチャネルの場合、複数の経路がありますが、それぞれが独立した経路です。ということは、各手段ごとの傾向分析などが可能になることを意味しています。複数の販売手段の中で解くに優位なものに特化するなど、選択と集中という販売促進の戦略立ても可能になる点で優れたマーケティング手段と言えます。
3つ目は、それぞれの手段ごとに特化した訴求ができるという点です。たとえば、実店舗の強みは実際の物を目にした販売が可能です。SNSは、割引クーポンやセールの情報の提供によって顧客の来店促進の役割を担います。そういう意味では、販売経路ごとの特性を生かしたマーケティング上の訴求が可能になります。複数の手段が存在していますから、さまざまなアプローチによって顧客への訴求ができます。これは単一のものに比べ、新規顧客獲得、売上アップに寄与することは確かです。
「マルチチャネル」に考えられるデメリットは何でしょう。以下に3点挙げてみます。
1点目は、それぞれの手段ごとの情報共有が難しいということです。それぞれの販促手段が独立しているということは、顧客がそれぞれの方法ごとに情報の登録が必要になります。そういう意味では、顧客の観点からすると非常に煩わしくなってしまいます。そして、企業側からすると情報の管理や共有が複雑になってしまいます。これは明らかにデメリットになります。
2点目は在庫管理が難しいという点です。情報の共有と同様に企業の在庫情報の共有も複雑になってしまうデメリットがあります。よくあるのが、共有システムができていないために、実店舗の在庫とECショップの在庫のズレです。場合によっては販売の機会を逸してしまったり、在庫があると思って注文した顧客に対して販売できなくなるなど、信頼関係を損ねてしまう場合が出てきます。
3点目はかかるコストの問題です。販売促進の方法が複数に渡るとすると、どうしても集客方法ごとに広告費がかかってしまいます。そういった販売促進の方法を増やせば増やすほど販売の機会は増えますが、それは同時にコストが増えることも意味します。そういう意味では、やみくもにマルチチャネルを活用しようとするとコストがかさんでしまう場合が考えられます。集客していく上でバランスを考えないといけない事案になります。当然ながら、これは注意しなければなりません。以上、「マルチチャネル」という用語について見てきましたが、この用語と似ているものが2つあります。「クロスチャネル」と「オムニチャネル」です。まずは「クロスチャネル」についてです。
「クロスチャネル」と「オムニチャネル」の大きな違いは、「クロスチャネル」がそれぞれの方法同士が連携しているという点です。そのため、販促方法ごとの在庫の管理や顧客の情報を一括で管理することができます。これは、さきほど指摘したように、クロスチャネルと違いマルチチャネルの場合は連携がされませんから、その部分が大きなメリットになると言えます。
次に、「オムニチャネル」です。「オムニチャネル」も「マルチチャネル」と似ています。「オムニチャネル」の場合、複数の販売促進の手段を使いながらも、それが何の手段なのかを意識したり、区別しないで一貫したサービスを受けることができます。たとえば、SNSのアカウントを使って購入することができたり、実店舗で支払いをしてから、在庫を保持する別店舗からの商品の取り寄せが可能になるなど、より複雑な購買が可能になります。オムニチャネルと違い、「マルチチャネル」では当然このような複雑な購買行動はできません。