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軽井沢学園を応援する会誌、ストリートパズルよりー園の庭をはきながらー 29号

先日私が原稿を寄せた回の本編です。
たかねっち副園長の次に原稿掲載していただきました

彼らの日常生活が手に取るようにわかるこの話が私は大好きです!


‐園の庭をはきながら‐

ここから、これから

たかねっち☆
 
  1月13日佐久市花園区でどんど焼きが行われました。補足になりますが、どんど焼きとは小正月に竹・藁・木材などで櫓を組み、そこで各家庭から持ち寄った正月飾りや達磨、お札(地域によって異なる)を燃やし、その火にあたったり、餅を焼いて食べるとその年は無病息災に過ごせるという伝統行事で、呼び名も「とんど焼」「左義長」「三九郎」など地域によって様々だそうです。

花園区のどんど焼き会場は、断崖に鎮座する鼻顔(はなづら)稲荷神社の直ぐ脇を流れる湯川の河川敷です。この場所は、毎年区民総出により草刈りやゴミ拾い野焼きなどの環境整備を行い、どんど焼きをはじめ、5月には子どもたちが大人と協力して大量の鯉のぼりを湯川の両端まで渡したりと区民にとって大切な場所です。
河川敷には、高さ5m程の櫓が組まれており、私はグループホームから持参した達磨やお札を櫓の中に納めました。地元小学校の6年生のお兄さんたちが区長の合図により松明で着火、火は一瞬で燃え上がり、竹の大きくはじける音とともに火柱が真っ青な初晴れの空に向かっていきます。櫓が燃え尽きて炭となり、地元消防団員による安全確認「よし、もう大丈夫」の声で子どもたちが一斉に焼跡を取り囲み口々に「あちっ、あちっ」と言いながらネコヤナギの枝に刺したピンク、水色、黄緑の色とりどりの繭玉を焼き始めます。私も連れてきた7歳と5歳のこどもと共にやけどに気を付けながら3個ずつ食べました。平成最後の年、これで今年も健康に過ごせそうです。

 平成27年4月、満を持してオープンさせたグループホーム「Casa(カーサ)佐久花園」はおかげ様で今年5年目に入ります。この4年間無事に過ごせたこと、地域の方はじめ支えてくださった多くの方々に感謝です。Casaは13世帯で構成される自治会の5組に所属し、今年度私はその5組組長に任命されました。花園区入居当初、役員決めの際に前区長さんが「高根さんのところは普通の家じゃなくて大変だから組長は免除するよ」と言って下さったのですが、やはり他の世帯と同じ立場で末永くこの地で暮らしていくために甘えてはいけないと思い、その配慮に感謝しながらも謹んで引き受けました。
組長の仕事は、回覧板、区費の集金、草刈り作業などの出欠席、祇園祭や敬老会など地区行事や公民館活動の手伝いがあります。私は主に作業や行事の手伝いに参加し、日常的な回覧板などは現地で勤務する保育士や指導員にお願いしました。花園区は何かと行事の多い地区で大変ではありましたが、組長になったことによりご近所のこと、役員の顔ぶれ、習わしや年中行事など様々なことを知ることが出来たので引き受けて本当に良かったと思っています。
また、近所の方からは季節の野菜やコメのおすそ分け、夏は花火セット、冬にはクリスマスケーキなど様々なものを頂きました。作業に参加すれば「高根さんのとこの子どもは今何人いるだい?」「おえ、あの大きい息子はもう高校卒業しただかい?」(佐久の方言です)と私たちのことを知ってくださる方も少しずつ増えてきて嬉しく思います。

大きな児童養護施設が各地域に出て行き、民家を活用しながら一般家庭同様に子育てすることを「施設の地域分散化」といいます。子どもたちを地域の中で育てることの重要性を認識し、県下に先駆けて地域分散化したグループホームがこのCasaです。
Casaの良いところは、スーパーへ食材の買い出し、ご近所付き合い、日々あたりまえの暮らしを送る中で自然と身に付く生活力。職員と一緒に台所に立ってくれる小学生や幼児さん。高校生のお姉さんは小さな子どもたちの面倒をよく見てくれます。昨年退所し一人暮らしを始めた社会人のお姉さんは、毎週末里帰りして食事作りや子守をしてくれます。一人きりの勤務だからこそ子どもと共に助け合って生活を回すことができるのかもしれません。
とはいえ、ここは暴力体験などによって心に傷を持った子や、重度の愛着障害、他者との関係が上手に築けない子どもたちを大勢抱える児童養護施設です。そんな中、職員が一人きりで勤務しなければならない時間にひとたび問題が起こってしまったら単独での対処には限界があり、助けを呼ぶ以外にすべはありません。精神的な不安感、負担感は大きくなります。

また、このような心配もあります。これは実際に経験したことですが、私たちは当初別の地域でのオープンを希望していました。ところが事前の住民説明会を行った際、予想外の反対に合ったのです。悪さするに違いないとの決めつけによる治安悪化心配の声、監視カメラを設置しろ、家の周りに柵を張れなど、子どもたちには決して話せない内容の言葉を次々に浴びせられ、結局説明すらさせてもらえませんでした。最近報道でもブランドイメージが悪くなるなどと言って青山の児童相談所建設に対する住民の反対意見が取りざたされましたが、社会的養護に対する誤解や偏見・差別が根強く残っている。残念ながらこれが我が国の現実です。そのため、受け入れ側の理解を得るための努力も不可欠となってきます。

このように支援の難しい児童の増加、職員配置の問題、本体施設との連携や応援体制、地域の理解などの課題も残されており、地域分散化の実現には相当な勇気と覚悟が必要となるのです。

少々堅い話になりますが、平成28年の改正児童福祉法や、それに伴う厚労省有識者会議で示された将来像の中で、子どもは家庭で養育することが原則とされました。我が国で今も大半を占める施設養育はあくまで一時的な解決方法にすぎず、実家庭や養子縁組など一生続く親子関係のような永続的解決(パーマネンシー保障)こそが本来あるべき姿とされ、それにより今後選択される養育の優先順位は①家庭復帰②親族③特別養子縁組④普通養子縁組⑤養育里親またはファミリーホーム⑥小規模化された施設となります。この順番でいくとCasaが唯一該当し、軽井沢学園本園のような大舎制施設はじめ、定員20名以下の中舎、12名以下の小舎制施設ですら選択肢に含まれておりません。
また、昨年の暮れに厚労省から関連する通知が出されました。内容を簡潔に述べると、今後施設は小規模化され且つ地域に分散されたものでなければならず『小規模かつ地域分散化の原則』そのような形態にしなければ交付金採択の対象としない(一部省略)。これを10年以内に実行するための計画を立てよというものです。
以前この場でもお伝えしましたが、老朽化の進む軽井沢学園も数年後には建て替えを控え、新園舎の青写真はほぼ完成しています。ところが、今後Casaの様なグループホームしか認められないのであれば計画を変更せざるを得ません。従ってこれまでの計画は一旦保留とし、今後どのように小規模化・分散化すべきか、残された本体施設をどのように機能転換させていくべきかを描き直さなければならなくなりました。実に悩むところです・・・

4年前、Casa開所当時、私はまだ歩行もおぼつかない3歳になったばかりの男児女児2人の手を引いて一軒一軒引っ越しの挨拶にまわりました。「初めまして、今度こちらに越してきました。どうぞよろしくお願いします」そう言って粗品のタオルを手渡します。
(以下、あるお宅でのやり取り)
「あら可愛いねー、ボクたちいくつだい?」
おばあさんの問いかけに二人とも恥ずかしそうに3本指を立てて応えます。
「そおか~3つか~」
「この子たちの他に、うちには高校生2人と中学生がいまして、騒がしくてすみません」
「そりゃあ旦那さん頑張ったね~」
「いえいえ、私の子ではなくてカクカクしかじかで、、、」
「そうかい、5人も育ててお父さん若いのに大変だ~」
「いえ、そうではなくて、、、あっ、はい、、、。」
初めての地、果たして地域住民に受け入れてもらえるだろうか、私は募る不安から、何よりも挨拶!挨拶こそが大事!!電柱にも挨拶しなさい!!!位のことを子どもたちに言い聞かせていました。さすがに電柱には挨拶しませんでしたが、入居後半年ほど経ったある日、毎日犬の散歩をしている三軒隣のおばちゃんから「毎朝挨拶してくれるあの女の子偉いねー」と褒めてもらったことがありました。大げさかもしれませんが、ようやく地域の一員となれたような安堵のひと言でした。

2020年オリンピックイヤーに建て替え工事を計画してきましたが「家庭養育の原則」によって施設の在り方が大きく見直されることとなった昨年、理事者はじめ職員1人ひとりの意見を聴き、総意によって計画の延期を決めました。地域へ出るか、とどまるか。地域へ出ていく意義はCasaの実践によって立証済みではありますが、今のところ第2、第3のCasaが誕生するかは未定です。
しかし、どのような形となろうとも児童養護施設が立場の弱い子どもたちにとっての最後の砦であることに変わりなく、目の前にいる子どもたちとしっかり向き合うこと、養育技術の向上に努めることも現場で働く者として忘れてはなりません。    おわり
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