JEWEL BOX KDC!!

軽井沢学園を応援する会 会報 ストリートパズル13号より

遅くなりました!
軽井沢学園を応援する会の会報からたかねっち主任の原稿を頂きました!
しばし間があいてしまいすみません
社会全体で解決すべき問題、これをみんなで考えよう、そのためにはまず知ること。
そんなつもりで応援しています
KDCは軽井沢学園を応援する会の会員です(^^)

園の庭をはきながら‐

               笑えない話

たかねっち☆

 数ヶ月前の話です。私は、数年前高校を卒業してここを退所したユミちゃん(仮名)と、いつも私たちを支援して下さる応援する会の会員さんと3人で佐久平駅周辺のお店へ焼き肉を食べに行きました。私がユミちゃんと会うのはおよそ1年ぶりで、久しぶりに会った彼女は、私に会うなり「たかねっち~ひさしぶり~」と笑顔で迎えてくれ、相も変らぬおしゃべりで人懐っこい娘さんでした。ただ、以前と違うところは言葉遣いがとても丁寧になっていたところで、社会の一員として頑張っている様子が会話の端々から伺えました。

 ユミちゃんは、私が軽井沢学園に就職するひと月前に入所してきたこどもです。言ってみればユミと私は同期であり10数年の長きに渡り共に過ごしてきたわけです。彼女は4歳の頃に母親の失踪によってここへやって来ました。きっと何もわからぬままここへ連れて来られ、物心ついた頃よりここで育った彼女にとって軽井沢学園は我が家そのものであり、一般家庭とは遠くかけ離れた集団生活であっても彼女にとってはそれが普通の暮らしでした。

 長い歳月を軽井沢学園で過ごしてきた彼女が今どのように生きているのか、アパートでの暮らしぶりや仕事ぶり、休日の過ごし方など、私は職員として、また、同期として気になっていたことを根掘り葉掘りと聞き出します。ユミちゃんにとってはまさにプライバシーの侵害。しかし、ある話題によって私の箸がぴたりと止まります。ユミは言いました。
「あたし、デッキブラシ買っちゃったんですよ~(笑)」
えっデッキブラシ?そうです。宮崎駿監督作品“魔女の宅急便”で主人公のキキが空を飛ぶ時に乗っていた長い柄のあれです。何故ユミがデッキブラシを買ったのか。その理由に私は愕然としました。
 軽井沢学園には昔から分担清掃という習慣があります。それは、みんなの家だからみんなで掃除しようというきまりに添って、休日は図書室、廊下、浴室などの園内各所を大人こどもで分担して掃除するのですが、当然そこにトイレも含まれます。学園のトイレは学校と同じような広い造りであり、掃除の時はホースで大量に水をまきながらデッキブラシで床をごしごしこすります。そのため、幼いころから施設と学校の行き来の中で、共にトイレの掃除にデッキブラシを使ってきたユミにとってはそれが普通のことと思い込み、アパート暮らしが始まってもなお“それ”を買ってしまったというのです。わずか畳半分のトイレであるにもかかわらず…

 そんな話をユミは面白おかしく話してくれました。確かに笑い話のようにも聞こえるこの話ですが、施設で育ったこどもたちの一般家庭での生活体験不足を象徴するようなエピソードに正直私は苦笑いするしかありませんでした。しかし話は続きます。
 生ごみの捨て方がわからないから毎回職場にこっそり持ち込んで捨てていること、具合が悪いため病院へ行こうとしたが、医療費の支払方法がわからないから受診しなかったなど、出てくる話は彼女の入所中に私たちが教えてこなければいけなかったことばかりです。もはや全く笑えない話でした。
私たちは当然のことながら自立間際のこどもたちに対し、銀行、病院、役所などの公共機関の活用法や金銭管理、炊事家事全般など今後一人暮らしを始める上で必要と思われる知識や技術を教えてきていたつもりでしたが、結果的には不十分だったのです。
生まれた時から親元で育った私が当たり前に思っていることや出来る事であっても、施設という集団の中では見えづらくて身に付けにくいが故にすっぽりと抜け落ちてしまう普通の暮らし。そのことをしっかりと理解していなかった自分の未熟さに反省しながら最後の上カルビをユミのお皿に置いてあげました。
 
 そんな話をしているうちに時間はあっという間に過ぎました。笑えぬ話を幾つも聞き複雑な心境でしたが、帰り際にユミから出た独り言に私は救われました。
「やっぱさあ学園っていいよね。もう一度戻りたいな...」
ユミとの久しぶりの再会はわずかな時間でしたが、社会人となって成長してゆく姿や、最後のひと言によって、私にとってこの時間は安堵と嬉しさにあふれた時間となりました。とても大きな課題に気付かされはしましたが・・・

自分の意志とは無関係に施設生活を強いられるこどもであっても、一般家庭のこどもと同じスタートラインに立たせてあげたい。そう願って皆さんから様々な支援を呼び掛けてきた私ですが、その前に私自身の足元を正さなければなりません。同じスタートラインに立たせるためにも、私たち職員はこどもたちが集団生活で陥りがちな経験不足を補うための取り組みを更に充実させなければならないと強く感じた一場面でした。

 ちなみに、ユミちゃんのデッキブラシは今も日の目を見ることなくトイレの片隅にそっと立てかけられているそうです(笑)                          おわり
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