白血病闘病記は(1)で一旦終了します。

白血病闘病記(2)「再発編」は、後日掲載予定です。
少しの間、撮り溜めた写真をアップしていきます。

壮絶な1週間のはじまり…

2021-07-28 17:15:02 | 日記
 2017.05.07

  ゴールデンウイークも終盤に差し掛かる頃、ついにそれは来た。

  今でも忘れられない、また忘れては決していけない、およそ人生の中で

  これ以上ない苦しみ、辛さ、本当の孤独、本当の意味での自分との闘いが

  始まった。

  最初の朝、いつも通りに朝食を済ませ、いつも通り歯磨きをし、一通り

  の作業を終え、それまでと変わらない穏やかな時間が流れた。

  午前中、少し寒気が走ったが、さほど気にはせずに横になったり、例の

  スマホをイジリ倒したり、課金されるテレビを見たり、タブレットで

  YouTubeを見たりしていた。

  その頃のテレビは、ワイドショーでは、小林麻央さんの闘病生活を報道

  していた。

  ちょうど自分と重なる部分もあり、複雑な気持ちで見ていたのを覚えて

  いる。

  YouTubeでは、恐らくそのあたりから、芸能人がYouTubeに参画して

  来だした頃である。

  昼前からその寒気がやけに強くなり、昼食を済ませてからもそれは

  続いた。

  次第に体の震えが増し、ついには全身でガタガタと震えはじめた。

  これはと思い、すぐにナースコールを押す。

  看護師さんが入ってきて、様子を見るなり体温計を脇に挟んだ。

  39度を記録していた。

  震えが来ると一気に体温が上昇するのである。

  すぐに点滴を開始する。

  解熱剤と抗生剤だ。

  意識が朦朧としていく中、自分はいまどういう状況なのだろう。

  39度の熱は、過去そんなには無いが、一度だけインフルエンザに似た

  症状で通院したことがある。

  その時は、解熱剤として筋肉注射をし、帰り道に筋肉のわなわな感で

  倒れそうになりながら帰宅したのを覚えている。

  そんな事を考えながらも、時間の経過によりだんだんと熱はおさまって

  来た。

  いつの間にか寝てしまっていたのか、気が付けば看護師さんもいない、

  いつもの静かな部屋だった。

  体全体が異様に冷たい。

  手足は動かせる。

  頭、首はどうか。

  動かせる。

  ん?

  次の瞬間その疑問は解けた。

  急激に上がった熱が、急激に下がったため、体中の水分という水分が

  汗となって吹き出ていたのである。

  寝まきはもちろん、枕、下着、ベッドに至るまで、びしょびしょに

  なっていた。

  この不快感に耐えられず、すぐにナースコールを押す。

  点滴の確認もあったのかすぐに来てくれた。

  解熱剤を外し、抗生剤を取り換えてくれた。

  体中の汗は持参してきたタオルで拭き、寝まきは着替えた。

  それでもすこし横になっていると、じわっとにじみ出てくる。

  峠は越えたようである。

  39度。

  すごく久しぶりに経験した高熱だったなとしみじみ思い、これが主治医の

  言っていた事かと、自分に言い聞かせる。

  白血球がほぼ”0”に近い状態になると、あらゆるものに対する抵抗力が

  無くなり、すぐに高熱となって体が防御態勢に入るのだ。

  ふと、こういうのがあと何回か続くのだろうか。

  そう思いつつも、体に対するダメージが大きくいつの間にか寝て

  しまっていた。

  そう、この事がこれから起こる、想像を大きく超える体験の序章

  であった。

病室でスマホデビュー…

2021-07-28 10:13:52 | 日記
 2017.05

  病室でゴールデンウイークを過ごすのは初めてだ。

  この頃まだ世間的には、一般サラリーマンは普通に暦通りに連休を

  過ごす。

  昨今のように、緊急事態宣言は当然なく、いわゆるテレワークと言う

  のも概念すら無い。

  ただその時の自分は、社会から少し離れたところで、何か取り残されて

  いく様な不安感が常に付きまとっていた。

  ひとり孤独な病室の中で、その不安感と闘っていた。

  そんな中、そのゴールデンウイークを利用して、友人が病室に見舞に

  来てくれた。

  同級生だが、およそ年齢を感じさせない、この時期特に日差しも強い

  せいか浅黒く日焼けしており、おそらく普段合っていた時も同じ感じの

  はずなのだがやけに若々しく躍動感あふれる様相に見えた。

  そこでも自分がいかに世間からずれているのかを痛感した。

  色々と気を使ってくれて、食べ物の制限があるのと、部屋に持ち込んでは

  いけないものなど、普通でも買っていくもので頭が混乱するのに、厳選

  して自分に食べれそうなものを持って来てくれた。

  もちろん美味しかったが、なによりも自分のためにいろいろ考えてくれた

  事が、一番嬉しい。

  母親はリュウマチを患っており、その割にはすごく元気なのだが、やはり

  すこし遠出をすると疲れやすくなり翌日に持ち越してしまうため、

  なかなか見舞には来れないが、父親といっしょに来てくれた。

  母曰く、

  「入院した時は元気そうやったのに、見舞いにくるたびにだんだん

   悪くなってるようや。体を悪くするために入院したようなものやな」

  と。

  強力な抗がん剤で体にダメージ与え続け、白血病細胞を叩くと同時に、

  通常細胞にもダメージを与えてしまい、結果免疫がどんどん落ちていき

  体中の至る所に障害が出るという意味では確かにそうである。

  外見からは体の中まではわからないが、

  髪の毛が、この時点では全体の9割ほど抜けていた。

  枕に付いた毛をコロコロで毎日掃除することから始まって、部屋の床が

  黒くなるぐらい、歩くたびに抜け落ち、とどめはある日の看護師さんの

  洗髪である。

  「脱毛、進んできましたね~」

  「洗髪しときましょうかね。」

  病院での洗髪は初めてではないが、部屋でするのは初めてだった。

  いつもの感じで洗面台にうつ伏せ、シャワーからシャンプーに移る。

  おかしい。

  何か違和感がある。

  不安に思いながらも看護師さんに身をゆだねる。

  シャンプーが目に入るので目をつぶる。

  洗っている感じは何となくわかるので、泡が切れ、そろそろ目を開け

  ようとしたタイミングで、看護師さんの手が髪の毛を洗っている動きと

  は明らかに違う動きに変わった。

  手はそれを掴み取るように何回も動いた。

  ん?

  何をしているのか?

  恐る恐る目を開いた。

  そこには、一面真っ黒になった洗面台があった。

  え?

  これって…

  そう、大量に抜け落ちた自分自身の髪の毛が、山盛りに積もっていた。

  頭皮は全く痛くはなく、強いて言えば痒みがずっと続いていた。

  指で摘まむと10本ほどまとめて抜けていた。

  髪の毛以外の外見では、入院時より体重が20kgは落ちていたので、

  パッと見の容姿はかなり変わっていた。

  抗がん剤治療の点滴がはずれ、この週は数値の経過を見るのだが、

  特にしんどくもなく平穏に過ごせていた為、気持ちにも余裕があった。

  初めてガラケーを卒業し、スマホデビューした。

  在庫はあってすぐに手に入った。

  娯楽も何もないこの部屋にスマホである。

  わくわくした。

  さあこれからイジリ倒すぞと、封を開け箱を開け、中身を取り出す。

  この時の高揚感は忘れられない。

  スマホに限らず、ほしいと思ったものが手に入り最初に開封する喜びは、

  万人共通である。

  そんな中、血液検査結果の数値の、白血球はほぼ底の状態であった。