文藝春秋デラックス昭和54年5月号「バレエへの招待」に、日本のバレエ指揮者の第一人者・福田一雄氏(1931年生まれ)による注目すべき記述がありました。絶対音感ならぬ「絶対テンポ感」。
以下福田氏の文章です。
〈「絶対テンポ」で振るバレエ〉
「私は、全く同じテンポでピアノを弾いているつもりなのに、踊り手に『いつもより速い』とか『おそい』と云われることがあり、その際、曲の時間を計ってみると、ほとんどちがっていないことが多かった。これは、踊り手も生身の人間で、その日のコンディションや、相手の出方、ステージの広さ等で、同じ音楽でも、ほんの少し速く、または、おそく感じるのである。
私は、五歳の時に絶対音感早教育を受け、絶対音感に関しては、自信をもっていたのであるが、さらに”絶対テンポ”といったものを身につけようと努力した。最初は、メトロノームを併用したが、(プロコフィエフの)『シンデレラ』の稽古ピアノを約一年間弾いている間に、完全にこれを身につけることができた。
メトロノーム120(四分音符=120)、これが大体の標準となるが、これは、ごく普通のマーチのテンポである。これを倍にすれば四分音符=60で、この60は、ごく普通のウィンナワルツの一小節のテンポと思って頂けばよい。
これを標準として、少し速めのマーチが四分音符=132、ギャロップのテンポとして四分音符=168、二拍子のガボットのテンポとして四分音符=80、などを記憶すると、あとはもう、メトロノームなしで、完全に、40、50、60、72、80、96、100、110、120、132、144、160、168等のテンポを作ることが出来、現在、バレエを指揮する上に大変役に立っている。」
。。。絶対音感に加えて絶対テンポ感を持ってたら特にバレエ指揮者として無敵ですね!
さらには、福田氏は同じ記事の中で「劇場オーケストラこそが一流だ」とおっしゃっています。
「現在では、放送局のオーケストラや、ステージでも演奏会専門のオーケストラが、世界各国に確立し、また、それらが一流の楽団として、一流の交響曲指揮者による演奏によって華を競っているが、一昔前迄は、オーケストラの主体は、ほとんどすべて、劇場オーケストラであった。
現在でも、ウィーン・フィルは、ウィーン国立歌劇場オーケストラの別働隊で、オペラやバレエの間をぬって演奏しているため、このウィーン・フィルの演奏会は、常にマチネーである。
(中略)いつもピットの中にいるオーケストラが、ステージの上で、『こんどは主役』とばかり張り切って、歌のないオペラ、踊りのないバレエの精神で、交響曲をうたい、かつ、ダイナミックなリズム感で演奏する.....それがオーケストラの真の姿ではないだろうか。
日本では、どうも、交響曲や協奏曲を演奏するのが、オーケストラの主たる役目で、オーケストラのピットの中で、オペラやバレエを演奏するのは、第二義的な役目という考えがあるようだが、これはとんでもない間違いで、一流の劇場オーケストラは、一流の交響楽団になり得るが、その逆には、なり得ないのである。」
。。。うーん、妙に納得!