まえがき 日記と学級通信を連動させる
少ない年で四百号余り、多い年では七百号余りの学級通信を書き散らしてきた。学級通信の発行は私の学級経営の大黒柱である。
通信には学級生活の描写や授業の記録の他、子どもたちの文章も多く掲載している。子どもたちの文章とは、主に日記の文章である。
子どもたちは日々感じること、考えることを日記に綴る。授業の感想から始まり、部活動の悩み、友人への励まし、誰々のように頑張るという決意、全員参加で学級をつくっていこうという呼びかけ等である。
それらを通信に載せる。すると翌日の日記には感想がズラリと綴られている。それを通信に載せる。その翌日はまた……。
一人ひとりが「考え」を学級通信上で交流するのである。
その中には無論、担任である私も含まれる。また、保護者も含まれる。
子どもだけでなく、大人たちが真剣に綴った文章もまた、通信には多々掲載されるのである。
それぞれの人間の、その時々の真剣な思考が記録されている。時には学級や、個人の問題点までもが赤裸々に語られる。だからこそ読む価値がある。
毎日帰りの会で集配当番が通信を配付する。直後、教室は静けさの中紙をめくる音だけが聞こえる空間と化す。
翌朝提出される日記には、通信の記事への共感、励まし、質問、異議等が綴られる。
このサイクルで、一年間、個を伸ばし、学級集団をつくっていくのである。
「一生の宝物」と評される通信をつくる
私がまだ二十代前半だったある年の十一月。入学当初から欠席がちであった女子が学級委員に立候補した。「自分を変えたい」とスピーチして、である。
彼女が学級委員に決まった瞬間、級友から大きな拍手がわいた。勇気を出して一歩を踏み出した彼女へのエールだった。その日の日記には、彼女への励ましと助言が山と綴られた。
彼女は二学期末にこう書いた。
◆明日の「学年集会」での「二学期をふりかえって」を書こうと思ったので、「挑」を読みなおした。たくさんのことがあって、ありすぎてとても一枚の、たった四百字づめの紙には書けない気がした。
読み終わったあと、涙がでそうになった。
それは、思い出し泣きとか、文に感動したりとか、この学級にいることの喜びとか、あと二カ月ちょいぐらいしかこのクラスにいられないさびしさ、悲しさとか全部がまざったものだと思う。
「挑」はクラスの良いところ、悪いところすべてを映す鏡みたいだ。しかもみんなの意見が、色々な面から見た形でのっているから、まるで文面の中でクラスについての話し合いをしているようで、見ているだけですごく考えることができる。
毎日「挑」を出している先生はすごいと思う。他の先生も言っていた。
そして、毎日日記を書いているみんなもすごい。
こんなすごいことをやってのけてる人達のクラスにいて私はとても幸せだ。だけど、「私だけ何やってんだ……」って気持ちにもなる。
冬休みにいっぱい、いっぱい勉強して三学期はクラスに恥じないような人間になっているよう今からでも自分を高めていきたい。
彼女の欠席は、ほとんどなくなっていた。
彼らが学級で過ごす時間も残り三カ月となっていた当時、日記上でよく見る言葉があった。
通信は一生の宝物
「先生、息子は通信を大切にしまっていて、時々出してきて見ているんですよ」。やんちゃな男子の母親は言った。
「娘が嫁に行く時に持って行ってしまうから、私たち親の分ももう一セットください!」と訴えてきた保護者もいた。
その反応は、三十代になった今も変わらない。学校が変わり、子どもが変わっても、反応は同様なのである。
行事連絡や持ち物連絡、イラスト、時候の挨拶、当たり障りのない言葉。そんなとおりいっぺんの学級通信ならば、こうはならないはずだ。
子どもたちが支え合い励まし合い、時には本気で議論した日々の事実と、教師の隠し立てのない本音と、そして互いの真剣な心の交流とが刻まれているから、「宝物」となるのだ。
製本された通信をひとたびめくれば、当時のことが鮮明に思い出される。教師にとってもまた、通信は自らの実践を顧みて課題を自覚するための「宝物」となるのである。
本書には日記指導と学級通信の発行(これもまた指導)によって生まれた子どもの事実を収録した。
生徒の思考力と書く力とを伸ばす日記指導のポイントと、読まれる学級通信の書き方についても具体的に論じた。
サークルのメンバーもまた、私の学級通信(二〇〇六年、二〇〇七年、二〇〇八年度版)を読み込み、自ら実践して得た事実と実感とを綴っている。
子どもの事実と、教師の腹の底からの実感
この二点のみに依拠して教育実践を磨いていく。それがTOSSの流儀である。
本書を読んで共感した部分が一つでもあれば、ぜひ実践してみてほしい。あなたの新たな一歩を、子どもたちが待っている。
/長谷川 博之
ここをお読みいただき、
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