囲いのことなど

　秋深まり、いよいよ私は元気であり、母殿父殿をいささか辟易させるほどの活躍ぶりである。居間にいるとあらゆるものに手を出し、卓上から叩き落し、床にあるゴミを食ってしまい、お茶碗もひっくり返し放題、という有り様なので、いよいよ手を焼いた二人が私に買ってきたのが1.6メートル四方のベビーサークルという囲いである。丁度私が立ち上がったくらいの高さで、つかまり立ちの稽古をするのもよろしく、内側に様々な玩具も程よくあしらわれていて、まずまずこの中で一人で楽しめる仕掛けになっている。これとは別に、台所の入口にはゲートが設けられ私の侵入を完全に防ぐ形となっており、後日玄関にも同様のものが設置される予定。まだ立って歩くには至らぬまでも、私の運動能力はそこまで脅威とみなされるに至っている。

　これと合わせて、寝室ではこれまでかなりの面積を占めていた母殿のベッドを解体して運び出し、広くなった床に三人並んで寝るようになった。動き回れるスペースが格段に増えたことで、私としては家にいるときも運動の欲求がかなり満たされることとなり、大いに満足である。やはり赤ん坊にとって、活動の場は広ければ広いほどよろしい。先日父殿母殿と図書館に赴いたとき、児童用の読書スペースがたまたま無人であったので、そこで思う存分運動をさせていただいたが、ついつい興奮して大声を上げては父殿に制止されるくらい、のびのびと動けるのは快いものであった。

　先日10ヶ月健診を迎え、体重はついに10キロの大台に乗り、発育はいよいよ順調である。歯の数も増えつつあり、近頃は従来のようなペースト状のものばかりでなく段々と大きな切れの野菜なども食するようになっている。１歳を迎えるまでに余日もあとわずか、立って歩き回る日をめざし大奮闘を続けている。

　言葉を話すことはまだ無理だが、最近の私は大いにおしゃべりである。「タッタッタッタ」「ウーウー」「タータン」といったレベルであるが、様々な発見、感動にともなって何らかの形で表したく、とにかく声を出してみることにしている。時には人の多いところでご迷惑もおかけしがちだが、こうして次第に自在に言葉を操るようになっていくまでの準備を整えている。その他近頃は、バイバイや拍手の動作などすっかり板について、保育園で父殿をお見送りするときは「バイバイ」、何か誉められたりすると「パチパチ」と手を叩き、欲しいものがあったり、珍しいものを見つけると指差して示すなどボディ・ランゲージも活発である。

　時折人様には意味のわからない行動も取る。先日父殿と戯れていたところ、父殿の太ももに口を押し当て、思い切り息を吐くとブブブブブ、と盛んな音が鳴って大いに面白かった。味をしめて父殿の隙を見てはこれを何度も繰返していたのだが、くすぐったがって大いに閉口しておられた。あるいは母殿に負ぶわれていたり抱かれたりしている時、その髪の毛を見るとついつい引っ張ってしまう。駄目、と制止されても何となく容易に止められず、思わず毛を引き抜いてしまったりした。

　ティッシュペーパーや電気コードをいじるのが好きなのは相変わらず、また眼鏡をかけた人に抱かれると必ず奪い取ろうとするのもなかなか止められぬ。いろいろと人様には引き続きご厄介をかける。