🙌寂しい🙌
多くの方の終末期に関わってきて、「寂しい」という感情の大切さに気付かされたことがありました。
1人の患者さんが朝、ナースコールをされました。
「私は寝返りがしたいんです」
とか
「お茶を飲ませてください」
とか、そういうことを言われるのだろうと思って、お部屋に行きました。
「どうなさいましたか?」
と聞いても、彼は目をつぶったまま何もおっしゃらないんです。
すると、
「座ってください」
と言われました。
何か、お叱りを受けるのかなぁと思っていると、
その78歳の男性は、心から搾り出すような声で、
「寂しいんですよね」
とおっしゃったのです。
私は呆然としました。
これまで「寂しい」という言葉に関わったことがなかったので、
何をどうしたらいいのか分かりませんでした。
そして、やっとの思いで、
「どなたに側にいてほしいですか?」
と聞くと、即座に、
「家内です」
と言われました。
その方の奥さんは朝の9時半ぐらいから夕方の5時半ぐらいまで毎日病室に来て、
夜はいつも帰っていました。
でもその日は、まだ奥さんは来られていなかったのです。
私が
「次はどなたですか?」
と尋ねると、また即座に
「子供です」
と言われました。
しばらくして、奥様がお見えになりました。
私は
「奥さんか、お子供さんに、ずっとそばにいてほしいそうです」
と言いました。
すると奥さんは、笑いながら
「お父さん、なんで早く言わんかったとね。
けんちゃんと相談して今日から考えるわね」
と言っておられました。
その晩から息子さんと娘さんが交互に病室に泊まり、
朝1番に来た奥さんと入れ替わってくださるようになりました。
すると彼は、とても穏やかな精神状態になりました。
そしてご自分の年金のことやお通夜のこと、葬儀のことまで相談して、
最後はやすらかに逝かれました。
患者さんにとって、1番側にいて欲しい人は、
男性ならば奥さん、女性ならばご主人です。
でも、そうでないご夫婦もいます。
「結婚した時から苦労をかけられてきました」
という結婚して43年間、恨みつらみでいっぱいの奥さんもいらっしゃいました。
でも、ご主人は、あと2週間の命かもしれない。
私はご主人に、
「奥さんに、『私の側にいてほしい』と言ってみませんか?」
と言いました。
彼は奥さんにそう2伝えました。
すると奥さんは、ご主人がなくなるまでの2週間、毎日お弁当持ってくるようになりました。
その間に、ご主人の誕生日が来たので、「夫婦茶碗」をプレゼントしました。
ご主人が亡くなった後、
奥さんは
「これは、私の宝物になりました」
と言っておられました。
私たち看護師の役割というのは、
「側にいてほしい人」が側にいられるような環境作りをすることだと思っています。
それは医療者ではなく、家族なんなんですね。
ですから、私たちは家族がいらっしゃるときは処置も回診も後回しにします。
中には家族がいないという方もいます。
そんな「寂しい」という患者さんには、
昼間はボランティアの方の協力を得ますし、
看護師もその方の部屋になるべく長い時間いてあげるようにします。
その努力が必要だと思います。
「何を1番大切にしてるのですか?」
と問われれば、私たちは、
「患者さんが今してほしいことをすることです」
と答える以外にはないと思っています。
(「みやざき中央新聞」2000.12.12 看護師 泉キリ江さんより)