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【独自記事】エマニュエル・トッド 人類学の新展開とは?

2017-01-06 12:46:08 | 独自取材


早稲田大学現代フランス研究所は2016年11月18日、早稲田大学キャンパス26号館にて講演「第16回ORIS Seminar エマニュエル・トッド 人類学の新展開」を行った。【山下雄太郎】


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エマニュエル・トッド氏はフランスの歴史人口学者・家族人類学者で著作『帝国以後―アメリカ・システムの崩壊』など、世界的なベストセラーで注目の人物だ。

講演者の石崎晴己氏は、青山学院大学名誉教授であり、エマニュエル・トッド氏の著作の翻訳を多数手がけている。石崎氏の講演趣旨は以下のとおり。(冒頭写真は講演する石崎氏)

米国が帝国であることをやめる
トッドは家族人類学と人口統計学(デモグラフィー)の2つを本来、専門にしている。そこから発展して、現代世界を読み解くコメンテーターの役割も果たしている。

トランプ氏が大統領に当選したことに対して発言もしている。石崎氏によれば、今回の当選は、『帝国以後』の予言の第2段階にあたる。第1段階の実現は2008年9月のリーマンショック。

今回の米国の大統領選挙は、フランスの選挙制度だったら逆の結果、すなわちヒラリー氏の勝利となっていたはずだ。しかし米国は「合州国」なのでトランプの勝利ということになった。

『帝国以後』の予言の第2段階とは、「米国が帝国であることをやめる」ということだ。これは20世紀末のイラク戦争あたりから徐々に進行している。

帝国である力を失っていることを、米国人自身が自覚している。そして「これではいけない」「帝国をやめよう」という世論が民衆レベルで顕在化したのがトランプ氏の勝利だ。

4つの家族システム

本日はトッドについて、第一段階、第二段階、そして「二つのフランス」論の三つをお話ししたい。家族人類学については、トッドが『新ヨーロッパ大全』で提示した家族システム(制度)の類型は、以下の4つ、すなわち、絶対核家族、平等主義核家族、直系家族、共同体家族だ。(写真は石崎氏のスライド)



『第三惑星』では、8つの類型を提示しているが、その後撤回されたものもあり、基本的にはこの4つに整理される。ただし、共同体家族に外婚制と内婚制の区別を立てるのは、有意的である。内婚制というのはいとこ同士が結婚するもので、内婚制共同体家族は、アラブ・イスラム圏の家族システム。

絶対核家族では親と成人した子は別居となり、遺産相続の面で兄弟間の不平等が容認される。一方、平等主義核家族では、遺産相続において兄弟間の平等が確保される。

日本は直系家族に分類

一方、直系家族では親と成人した子供のうち一人が同居し、残りは家を出る。遺産相続では兄弟間で不平等となる。さらに外婚制共同体家族では、親と成人した子全員が同居。遺産相続で兄弟関係は平等となる。

日本や韓国は直系家族地帯。ヨーロッパでも、ドイツなどは直系家族地帯。また、ロシア、中国を含むユーラシアの大部分は、共同体家族地帯。

家族システムは特有の価値を産み出し、それがそれぞれの地域のメンタリティをつくり出す。ひいては宗教やイデオロギーもつくり出す。


『新ヨーロッパ大全』において、トッドは最近500年の家族システムは変化せず、安定している、とする仮説を立てている。その不動の「共時態」の上に、ヨーロッパ近現代500年の歴史が展開する。

この共時態の設定は、『第三惑星』では無限定で、まるで太古の昔から家族システムが不動であるかのような印象を与える。例えば、7, 8世紀のイスラムの勃興が、内婚制共同体家族地帯を席巻したのに、エチオピアのような小さなキリスト教国を征服できなかったという事例。


識字化が民主化の要因に

人口統計学において、トッドは識字率を重視する。人間の歴史の中で、長い間、文字が読めるのは一部の限られた人間に過ぎなかったが、大衆識字化が始まり、一般民衆も文字が読めるようになる。それが近代化・民主化の要因となる。

革命的な大変動というのは、男性の識字率があるパーセンテージに達したときに起きる。イギリスのピューリタン革命、フランス大革命だけでなく、ドイツのナチズム、日本軍国主義などにも、この原則があてはまる。

もう一つ、トッドが注目したのが、出生率だ。男性の識字化の次に女性の識字化がおきると出生率は低下する。文字を知った女性は自我に目覚め、単なる「子供を産む機械」であることを拒むようになる。そこで、産む子供の数が劇的に減る。

識字率の向上によって、大衆が読み書きを習得してビラが読めるようになると、高学歴のリーダーたちが打ち出した思想に賛同して、イデオロギー的運動が発展する。また、平等な市民から成る同質的なNationが成立する。これが民主主義の順調なプロセスだ。

しかし、識字率がさらに上昇して、全員が識字化された識字ユートピア(石崎氏の造語)になると、高等教育が発展し教育ピラミッドが逆転する。階級脱落への恐怖がまん延し、大衆の保守化が起こる。

家族システムの変遷

以上がトッドの第一段階だ。その後トッドは、家族システムの変動の問題に取り組み、共同体家族が最も新しいシステムであり、これがユーラシアの大部分に伝播拡散したという仮説から出発して、家族システムの変遷の歴史を企てる。その成果が、今回和訳出版された『家族システムの起源』である。

そして、核家族こそが最も古い家族(起源的家族)形態であると結論する。ただし、幅広い親族集団の中に統合された核家族であり、絶対核家族ではない。これは、親族集団による保護のシステムが、国家や現地共同体(小教区)によって保証される条件が整うことで、初めて可能になった。

本書では、家族とそれを包含する親族集団の双方に目配りし、結婚したばかりの若い夫婦が、父親の家に同居する(父方居住)か、母親の家に同居する(母方居住)か、そのどちらもありうる(双所居住)のかを問題にしている。

当初は父方にも母方にも偏らない「双方的」親族集団であったが、最終的に父系共同体家族が生まれ、拡大したのは、軍事的適性があったからだ。一方、それに反発して、母系制を採用する民族も出現した。

だから、父系制が先にあったのであり、母系制が先にあったのではない。アマゾネス神話に代表される母系制先行論は、父系制の古代ギリシャ人が、「双方」的民族での女性のステータスの高さを見て、母系制だと誤解したことから始まっている。(写真は石崎氏のスライド)



フランスの家族システムの違い
最後に、トッドの最新作『シャルリーとは誰か』の理解を助けるために、その議論の拠って立つ「二つのフランス」理論について概観する。それは『不均衡という病』に詳述されている。

フランスは、パリを中心とする中心部が平等主義核家族地帯で、その価値は自由と平等であり、脱キリスト教化、啓蒙主義、フランス革命、共和国、ライシテ(世俗主義)、共産主義が、ここから生まれた。(写真は石崎氏のスライド)



まさに近代史そのものであるこのフランスに対して、フランス周縁部は、権威と不平等を価値とする直系家族地帯で、カトリック教が強かった。しかし、共産党の崩壊によって、平等主義核家族のフランス中心部が衰弱したのに対して、フランス周縁部の勢力が強まっている。

「私はシャルリー」デモの中心勢力は、自由と平等のフランスではなく、かつてカトリックが強かった、権威と不平等のフランスである。そこに不均衡とねじれがある。(終)


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