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2016年6月2日、早稲田大学にて開催されたフォーラム「パナマ文書はこうして取材・報道した」。朝日新聞編集委員を務める奥山俊宏氏が講演を行った。【山下雄太郎】
◆第1回はこちら。
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奥山氏がはじめてICIJ(国際ジャーナリスト調査報道連合)とコンタクトをとったのは2008年だった。当時の朝日新聞の上司から奥山氏に電話があり、米国に非営利の調査報道をやる団体ができたという。この「プロパブリカ」について、リサーチしてほしいということだった。
当時の朝日新聞の追うテーマの1つが「内部告発者と報道機関や政府機関や非営利組織はどう、協力し合っているのか」「社会をよくするために、米国の社会はどう内部告発を生かしているか」だった。これについて調べてきてほしいという。
米調査報道組織に「日本に詳しい記者」
プロパブリカは2007年の10月に発足したばかりだった。プロパブリカは当時、ニューヨークのマンハッタンの南にある、ビルの上のフロアを借りて運営していた。奥山氏は、当時のプロパブリカの編集局長にあたる人に会っている。
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プロパブリカはその後、2010年、11年と、2年連続でピュリッツァー賞を獲得するメディアに育っていく。予算も潤沢で、腕の良い記者を多く採用し、ニュースバリューのある記事を多く出す非営利組織となっていく。
奥山氏が当時、プロパブリカのあるニューヨークに続いて訪問したのがワシントンだった。センター・フォー・パブリック・インテグリティ(The Center for Public Integrity:CPI)。非営利の調査報道組織だ。
ここの事務所へ行くと、日本のことに詳しい記者がいたという。ICIJはCPIのプロジェクトの1つだ。そこで引き合わせられたのが、デービッド・キャプラン氏だった。同氏は、当時、日本のやくざについて、著書をもっている記者だった。そのキャプラン氏はICIJの事務局長を担っていた。
現地で「議員名を、5日間検索し続けた」
これが奥山氏とICIJの出会いだった。さらに奥山氏は上司に2009年に米国に半年間、留学の許可を得る。そこでCPIをつくったチャールズ・ルイス氏のもとに行くこととなった。
ルイス氏はCPIからアメリカン大学の教授に転身していた。CPIのプロジェクトの1つであるICIJの、国際的なネットワークを広げていきたいという背景も、奥山氏の留学を後押ししたという。
奥山氏は非営利の調査報道について学び、アメリカン大学を拠点にして調査報道を行っている。その後、2011年の暮れにICIJからメンバーにならないかという誘いが来た。チャールズ・ルイスからも推薦があり、2012年の6月にメンバーになっている。
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さて、今回パナマ文書の報道を行う際、今回のファイルを検索するのになぜ、わざわざ米国までいかなければいけないのか、当初奥山氏はわからなかったという。「そのファイルを送ってもらえればいいのに」と。
しかし実際行ってみると、奥山氏は納得した。あまりにも大量にデータがあり、ハードディスクにコピーして、日本に持ち帰っても、検索できないという難点があったからだ。
日本から持って行った国会議員の名前や、渋谷など日本の地名を持って行き、5日間検索し続けた。キーワードで検索し、日本に結果を持ち帰り、分析をして記事を書いたという。
「日本人はタックスヘイブンに関心がない」と考えていた
2016年4月4日のパナマ文書の報道以前にも、奥山氏は関連記事を掲載している。日本の商社が複雑なスキームを使ってオーストラリアに投資していることについてなどだ。その際、ICIJの記者の名前もクレジットで出している。
これは、ICIJにとってのアピールになるからだ。金銭的にICIJと契約しているわけではない。純粋にジャーナリスト同志の信頼関係で仕事をする、お互いの判断で仕事をしていく。
そのため世界各国の既存のマスメディアに、ICIJのクレジットは出てくる。ICIJのクレジットを入れて、朝日新聞に記事を出すというのは「この話はニュースバリューがあっておもしろい、だからこそ載せる」という意味の現れだという。
2016年4月4日の掲載当初、パナマ文書は大きな反響を日本国内で得ることはできなかった。奥山氏は、日本人は、タックスヘイブンには関心がないと感じていたという。「内容は、非常に複雑だし、わかりづらいし、実感の乏しい話になっている」と当初思ったからだ。
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実際に記事を2016年4月4日に出しても、反響はなかった。日本の読者にどこまで関心を持って読んでもらえるかわからなかったと、奥山氏は話している。
記者モラルとしての「責任」
しかし、オバマ大統領の言及で流れが変わる。「パナマから流れてきた大量のデータ、この租税回避に関する話題が非常に重要である」とオバマ氏は指摘した。実際に4日の記事が出て2日もたたないうちに、アイルランドの首相が退陣するに至っている。
パナマ文書が公表され、記事にする際、奥山氏は「パナマ文書が注目を浴びるとすると、政治家のような公職者ならば、それは記事にするべきではないか」と考えたという。
パナマ文書の中身や文書そのものについては限られた人しかアクセスできない。「関わった記者はその文書にアクセスできる以上、モラルとしての責任がある。こんな名前があると問い合わせがあった場合、それに対応する責任がある」と奥山氏は語った。(終)
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