続:重症患者の7割にせん妄が出ている…
新型コロナの「脳感染」が引き起こす
肺炎より恐ろしい症状
■中枢神経への感染が強ければ、死亡リスクが高まる
新型コロナウイルス感染で亡くなった33人の脳でRT-PCR(DNAではなく
RNAを検出するPCR検査)によりウイルスRNA量を評価したところ、
11人から中枢神経、特に嗅覚神経と脳幹でウイルスRNAが多く検出されました。
ここで注目すべきは、中枢神経におけるウイルスRNAの量は
亡くなるまでの罹病(りびょう)期間と逆相関していたことです。
罹病時間の短さは高いRNA量と関連し、
罹病期間の長さは低いRNA量と関連していました。
つまり、中枢神経への感染が強いことは死亡リスクを高めることになります。
新型コロナウイルス感染は肺炎で死亡するイメージがありましたが
中枢神経、特に脳幹への感染は致命的と考えられます。
このように、新型コロナウイルスによる脳感染の実態が徐々にわかってきました。
ここで新型コロナウイルス感染患者における
呼吸症状と脳病変との関連についての総説を紹介します(*9)。
2021年2月までの新型コロナウイルス感染患者の脳に関する27の報告によると、
神経病理学的変化は134人の患者のうち78人の脳幹で観察されました。
実に亡くなった方の半数以上で脳幹病変が存在したことになります。
新型コロナウイルスについては、脳幹の血管障害または低酸素病変をもつ患者と比較して、
脳幹にグリア細胞浸潤(グリオーシス)とリンパ球浸潤を示した患者のほうが
はるかに高く検出されました。これは重要な所見です。
新型コロナウイルス感染症の脳幹病変は重症肺炎に伴う低酸素による
非特異的かつ間接的な所見との見解もありますが、
脳幹病変を示した患者でウイルス検出が多かったことは、
感染の脳幹への直接的な影響を示唆しています。
(*9)Tan BH, Suo JL, Li YC. Neurological involvement in the respiratory manifestations of COVID-19 patients. Aging(Albany NY). 2021 14; 13(3): 4713–4730.
■肺炎ではなく脳感染が急死の原因だった可能性がある
これらの報告から現在のところ、神経系への新型コロナウイルスの侵入経路として
次の二つが考えられます。まず神経経路ですが、
一般的にウイルスは末梢神経に沿って逆行性に神経組織に入ることができます。
新型コロナウイルスの場合、嗅覚神経からのルートで脳に侵入する可能性が最も有力ですが、
他の脳神経である、視神経や三叉神経などを介して脳に侵入することも想定されます。
脳幹の心呼吸中枢にウイルス感染が起こると肺炎の重症度にかかわらず、
呼吸不全を引き起こす可能性があるとも指摘されています。
次に血液循環経路ですが、ウイルスは血行性で中枢神経系に入る可能性もあり、
その場合はまず、脳室にある脈絡叢における血液脳脊髄液関門の上皮細胞に感染します。
脈絡叢は脳脊髄液を産生する部位ですが、血管が豊富な部位でもあります。
そこから神経細胞やグリア細胞に感染していくのです。
新型コロナウイルスに脳が直接感染してダメージを与え、
それには炎症だけでなく血管障害も関わっているようです。
脳への侵襲、特に脳幹にある呼吸や心拍・血圧を制御する
生命中枢へのダメージは発生する割合としては少ないのですが、
致命的で恐ろしいものです。病院に向かっている途中に急変し、
到着時には心肺停止に陥るという報道もありました。
いくら肺炎が急速に進行したとしても、
肺炎が原因で数十分単位で死に至ることは通常は考えられないことです。
数分から数十分で死に至る可能性のある疾患のほとんどは、
脳出血や心筋梗塞など脳あるいは心臓の急性病変に由来するものです。
したがって新型コロナウイルス感染での急死には、
脳幹の生命中枢への直接的ダメージが関与していたと考えると納得がいくのです。
飯塚 友道(いいづか・ともみち) 複十字病院 認知症疾患医療センター長
1988年群馬大学医学部卒業。認知症専門医・脳神経内科専門医・核医学専門医。
長年にわたり認知症の画像診断の研究と地域での認知症対策に携わってきた。
論文に「深層学習による認知症脳血流画像の分類(英文)」などがある。
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