《女性の認知症》最新研究でわかった!
脳の若返りに必要な2大成分「赤身肉がおすすめです」
厚生労働省の推計では、認知症患者は2020年の600万人から、
2025年には700万人に増えて、高齢者の5人に1人の割合になるといわれている。
物忘れ外来で行われた研究にヒント
日本神経学会発表の資料によると、認知症の有病率(その病気を持つ人の割合)を
年齢層別では、70代後半は約10%、80代前半で約22%、80代後半は約44%と、
加齢に伴って増加していることがわかる(出典:認知症疾患診療ガイドライン2017)。
認知症の人を診断する診療科として、全国の病院に増えているのが「物忘れ外来」。
昭和大学病院附属東病院の物忘れ外来もその一つだ。
「当院を受診する人は、物忘れや短期記憶の障害、日付がわかりにくい、
今までできていたことができなくなったなどの症状がある人です。
認知症の前段階である軽度認知障害の人が、約半数を占めています。
患者さんの年齢は70~80代の人が多いです」 と話すのは、
昭和大学助教で認知症を研究する医師の三木綾子先生。
認知症予防は、多くの人が関心のあるところ。
三木先生は物忘れ外来を初診で受診した188人に、
認知機能検査と血液検査を実施し、認知機能検査の得点と、
血中のビタミン濃度との間に相関があるかどうかを調べたという。
血中のビタミン濃度は正常な人がほとんどだったが、
その濃度別に3つのグループに分け、認知機能障害の罹患率を比較し、解析した。
「結果として、男性はビタミン濃度と認知機能との関連性は認められませんでした。
一方、女性はビタミン濃度が低いグループは高いグループに比べて、
認知機能障害が多いことがわかりました。
これがビタミンB1とB12のどちらにも見られたのです」(三木先生、以下同)
つまり女性の場合、ビタミンB1やB12が認知症の予防に役立つ可能性があるのだ。
食事内容や生活習慣の改善が予防に
“認知症は遺伝するのか”という点も、多くの人が気になるテーマ。
三木先生は、認知症の中で最も多い「アルツハイマー型認知症」の発症に、
遺伝的な要因が関与している場合があるという。
「発症に影響があると考えられている遺伝的な要因の1つに、
アポリポタンパクE(APOE)があります。
このAPOEはε(イプシロン)2、ε3、ε4という3つの型に分かれていて、
その中でε4を持っている人はアルツハイマー型認知症を発症する確率が高く、
特に女性は発症リスクが10倍になるといわれています」
とはいえ、決して悲観することはない。物忘れ外来の受診者の多くは、
初期症状が現れたときに家族が症状に気がつき、早めに受診を促しているケースが多いそう。
「初期の段階で受診をすれば、その後、症状が表面化したときに、
治療やサポートをすぐに受けられます。今後、どういった経過をたどりやすいか、
という予想もつきます。周囲の人が少しでも“おかしい”と思ったら、
早めに受診することが大事です」
また、今までの生活習慣を見直すことも予防につながると、三木先生は語る。
「最近の現象として、コロナ禍で趣味の活動に参加しなくなったり、
予定を早めて早期退職をした受診者が増えています。
社会活動への参加が減ったことがきっかけで、物忘れが現れたり、
認知症が進行したケースが多くなっている印象を持っています」
社会活動に積極的に参加することが、認知症の発症を遅らせるとの研究データも出ている。
特に高齢男性は、孤立しがちなので会社を退職したら地域活動への参加や、
趣味を生かした分野の活動を意識的に行うことが大切だ。
食事内容については、研究結果から、ビタミンB1とB12が、
女性の認知症と関わりがあることがわかった。
「ビタミンB1とB12を含む食品を食事に積極的に取り入れることをおすすめします」
アルツハイマーになりやすい人が判明!
アルツハイマー型認知症の発症に影響を及ぼす遺伝子の「アポリポタンパクE」。
このタンパク質には3つの型があり、誰もが両親から1つずつ受け継いで2つ持っている。
そのうち「ε3」を持つ人を標準とすると、
「ε4」を持つ人は認知症を発症しやすい傾向がある
ビタミンB1、B12は医師が注目する成分
認知機能に大きく関わるこの2つのビタミンが、どのような働きをするのか知っておこう。
ビタミンB1には、身体の中枢神経や末梢神経などを保護する作用がある。
「この成分が足らないと、認知機能障害を引き起こしたり、
記憶力が低下して物忘れが生じる『ウェルニッケ脳症』を発症するおそれがあります」
ビタミンB1はブロッコリー、玄米、かぶなどに含まれているので積極的にとるようにしよう。
また、欠乏によって脳だけでなく身体に起きる症状もある。
「さらに悪化すれば末梢神経が侵されて、『脚気(かっけ)』を発症することがあります。
手足に力が入らなくなって、動きが鈍くなるのです」
一方のビタミンB12も神経を保護するビタミンだが、
血液中の「ホモシステイン」というアミノ酸を減らす働きがある。
このビタミンが脳の血流を良くして、認知機能障害を起きにくくしてくれるのだ。
「不足すると、ホモシステインが増えて、動脈硬化が進行します。
脳の細動脈に動脈硬化が起きれば、脳の血流が悪化し、脳血管性認知症を発症するおそれも。
しかし、ビタミンB12にはホモシステインを分解する作用があります。
積極的に摂取したい成分です」
ビタミンB12は肉類や魚介類に多く含まれている。 「偏食で肉が嫌いだったり、
完全菜食主義者の人は、ビタミンB12が不足しやすい。
また、高齢者も人によって、肉や魚などの動物性食品を避ける傾向があります」
肉類のビタミンB12は、レバーなどの内臓系の部位に多い。
ただ、中高年以上になるとコレステロール値が上昇しやすいので、
気になるなら“赤身肉”がおすすめだ。
認知症予防に役立つ2大成分
1. ビタミンB1
神経の保護作用があり、不足すると物忘れなどの記憶力障害や、
手足に力が入らない脚気などが起こる。
《多く含む食材》
・ブロッコリー さまざまな栄養素が豊富でビタミンB1の含有量も多い
・玄米 ぬかの部分に白米の約8倍ものビタミンB1を含む
・かぶ 冬から春が旬。実にも葉にもビタミンB1を含む
2. ビタミンB12
動脈硬化を防ぎ、神経を保護する。
不足すると脳の細動脈に動脈硬化が起きて認知機能障害が生じる。
《多く含む食材》
・肉類 牛肉や豚肉、鶏肉などに含まれ、特にレバーに多く含まれる
・魚介類 さんまやさば、煮干し、貝類のしじみ、あさりなどに含まれている
認知症予防のためには筋肉を減らさないこと
認知症予防のため、ほかにも摂取したい成分には、
ビタミンB12とよく似た働きをする「葉酸(ビタミンB9)」がある。
葉酸が不足すれば、やはり認知機能障害が起きやすくなるという。
「葉酸にも、血液中のホモシステインを分解する作用があります。
ホモシステインを減らすことで動脈硬化の進行を抑え、
認知機能障害を防ぐ働きが期待できます」
葉酸は水溶性のビタミンで、緑黄色野菜や大豆製品、青汁などに含まれている。
通常の食事をしていれば、それほど不足する成分ではない。
さらに、とりすぎたとしても排泄される。
食生活で心配なのは、加齢とともに食事の量や活動量が徐々に減ってくることだ。
日々、栄養不足に陥らないように、とる食品に気を配らなくてはならない。
「タンパク質の摂取が減ると筋肉量も減少して、歩行がおぼつかなくなります。
そうなれば、転倒から寝たきりになる可能性が高まります。
さらに、寝たきりから認知症を発症するリスクもあるのです」
食事にタンパク質を多く含む赤身肉や魚、卵などの食材を取り入れながら、
散歩などで定期的に身体を動かして、筋肉の衰えを防ぎたい。
「認知機能や筋肉を維持する栄養素を摂取し、
適度な運動を心がけることが、認知症の予防につながります」
教えてくれたのは……三木綾子先生
●昭和大学 医学部内科学講座脳神経内科学部門・助教。昭和大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医。専門分野は脳卒中診療や認知症の研究。
(取材・文/松澤ゆかり イラスト/やまだやすこ)
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