鎌倉で唯一五大明王を祀る明王院では、毎月28日、不動明王の縁日に護摩法要を行っている。
護摩法要とは、専用炉で火を焚き、その炎に供物を捧げて祈願する法要である。
明王院は元々鎌倉幕府の祈願所であったため、創建当初から数多の法会を行ってきたという。
現在本堂で行われている護摩法会は、事前申し込みの必要なく、一般人も参加できる。
どんなものか、是非一度参列してみようと、行ってきた。
ちなみに境内での写真撮影は禁止である。
残念。
護摩法会は午後1時から。
10分少し前に到着したのだが、すでに本堂は40人前後の人が座っていた。
土曜だから平日開催よりは参列者は多いだろうと思っていたが、予想を上回る人数だ。
年齢層は50代以上が主流だが、30歳前後と見られる若者もいる。
地元民が8割くらい占めていそうだ。
市外からの参加者ももちろんいるだろうが、ガイドブック片手のあからさまな観光客はいない。
そうだろう。
金沢街道を下る観光客は、竹林の報国寺・鎌倉五山第5位の浄妙寺に集中する。
おかけで十二所周辺の静謐が保たれている。
本堂は普段閉じているが、護摩法要の日は公開されている。
中央に護摩炉含む祭壇が設置され、その両脇から壁に沿って椅子席が20弱ずつ、
本堂入口前にも椅子席が用意され、間は座布団が5枚×6列敷かれている。
本堂の奥には木造の五大明王像がそびえ立つ。
遠目にも歴史を経てきたのが良く分かる。
さて、護摩法要では観音経を読経する。
前方に積んである山の中から一冊拝借。
また塗香(ずこう)という複数の香木を粉末にして混ぜたものを住職から少しずついただき、
両手を擦り合わせて清める。
いよいよ護摩法会が開始。
住職の先導に合わせて、読経が進められていく。
始まって分かったのだが、常連の参列者が少なくない。
常連でなくとも、観音経を読み慣れていると分かる声があちこちから聞こえる。
どの声に合わせればいいのか、始まって少しの間戸惑った。
実は今回が生まれて初めての読経である。
大祓詞を何度か唱えた経験があったから、読経のリズムにはすぐに馴染めた。
そうでなくとも、仏式葬儀などで僧侶があげるお経を聞いたことがあれば、
節回しにはすぐに馴染めるだろう。
むしろ久方ぶりの正座でしびれる足をどうするかの方が問題だった。
足腰の悪い高齢者が椅子席に座っているのを見ると、
好む好まないに関わらず、座布団を選ばざるを得ない。
どうせならヨガのアーサナの練習をしようと、
途中で瞑想用のアーサナのひとつヴィラーサナに変えた。
最後は正座に戻したが、法要が終わった後、一気に血流がよくなって足が楽になった(笑)
もちろん正座で通せるのが望ましいが、足を崩している人は何人かおり、
それを咎める人も特になく、つまりは辛くないのが大事ということか。
そんなこんなもありながら、読経を進めていくのだが、
次第に読経の声の響きに包まれ、心地好さを感じるようになる。
時々響く祭具の音、燃えさかる炎の音も、お経の響きと一体となって体に染みわたる。
本来僧侶のお勤めのはずなのだが、浄化作用があるのだろうか。
拝借した観音経に載っているのは般若心経まで。
三遍般若心経を繰り返した後に唱えたのは、「ナウマクサンマンダ」で始まる真言。
本尊である不動明王の真言か。
何を見ずとも唱えられる人が10人以上いたのでまたもや驚かされた。
大した予習もせずに参列したのを、申し訳なく思った。
読経に要した時間は40分ほど。
最後に住職のお話と、読経終盤に回された添護摩をひとり一本ずつ炉にくべ、
五大明王像にお参りして終了となる。
五大明王像のうち、不動明王像は国の重要文化財に指定されている。
東日本大震災後の混乱した世にみ仏が進んで出ていくことで人々の心の安寧につながるのではと
某所の依頼に応じて展示品として出したところ、
たまたま来場した文化庁関係者が目を止め、調査した結果、
鎌倉時代に造られた木造の不動明王に間違いないと鑑定され、
2012年9月6日に国の重要文化財に指定されたという。
重文指定に当たっては、これまでどおり仏像の前で護摩法要を公開してもよいか、
それが出来ないなら指定を返上するつもりでいたそうだが、
あっさり文化庁の許可が下りたので、変わることなく一般公開を続けていると
住職がお話してくださった。
そんな重要な仏像を間近で拝顔させていただけるありがたみも然ることながら、
いかにこの護摩法会を明王院が重視してきたかがわかるエピソードだ。
この日の参列者は80人近くだったろうか。
毎年5月の護摩法会では、お供え物のスイカを初物としていただける。
こじんまりした境内で、住職のご家族が切ってくださったスイカを
参列者がいただいている穏やかな風景。
壊してはいけない、大切なものだと感じた。