「そう…ですか。」
今や日本女性の10数人に一人はこの病気になるという話を聞いているので、まあ、珍しい話ではない。検診で引っかかって、調べると初期の乳がんだったという。
しばらく検査や入院で仕事を抜けるため、上司にこの話をしたところ、「手術できるぐらいで見つかって、良かったと思わなくちゃ。」と慰めて、彼自身も妻を同じ病気で亡くしたことを、思いもかけず打ち明けられたという。
病気が見つかったときに末の子供はまだ2歳、転移もあって手術はできない、余命宣告4か月という厳しい状況だった。それでも、いい先生に巡り合い、4か月と言われた命を5年生きた。残された子供3人を夢中で育て、2歳だった子は今では高校生だとか。
はり灸の治療を終えて帰り際、「お大事に。頑張って…と言っていいのかどうか…。」と、伝えるにふさわしい言葉が見つからないまま思わず口ごもると、彼女は笑顔で「はい、頑張りま~す。」と言って帰っていった。
頑張らなくてはいけないことを、彼女自身が一番知っている。本当は、もっと何か別のことを言いたかったのだが。
空は晴れ、風は吹きやまず、ますます激しい。
鶴岡公園や内川端から飛んでくるのか、桜の花びらが治療室の周りに舞い散ってやまない。
まるで吹雪のように。